日本ワインの一大生産地にして、狭い範囲に数多くのワイナリーが密集していることでは世界に類を見ないとも言われている山梨県の勝沼。そこを中心地区とする大きなイベントが、毎年11月の最初に開催されている「ワインツーリズムやまなし」です。
このイベント、ちょっと変わっています。それなりに大規模なイベントなのですが、都心からの送迎バスがあるわけでもなく、大企業によるハデな仕掛けだとか飾り付けられたメインステージでのアイドルやお笑い芸人のアピールだとか、そんなのはぜんぜん無し。イベント主催者がやってることは、基本的には2つだけ――「当日、バスを循環させる」「ガイドブックを作り、申し込んだ人宛に事前に送る」という2つだけです。
参加者は事前に郵送されてきたガイドブックを参考にして、当日回るルートを計画します。当日は循環バスに乗って思い思いのワイナリーを訪れることになりますが、その人達ををどう扱うかはそれぞれのワイナリーに任せられています。ここぞとばかりに特別なことをするところもあるのですが、特に何もしないところもあります。それどころか、「忙しいから」ということで閉めてしまい、「ワインツーリズムやまなし」には不参加となるワイナリーすらあるくらいです。
第1回が開催されたのは2008年。その頃はバスルートも勝沼周辺だけの1日イベントだったのですが、回を重ねるごとに塩山地区が追加、甲府が追加、山梨市が追加、甲斐が追加とどんどんエリアが広くなり、バスも増え参加者も増え開催日も土日の2日体勢となり、もちろん参加ワイナリーも増えた大イベントへと成長しました。地方創生の大成功例としてビジネス誌などに特集が組まれることもたびたびです。
私は2010年の第3回からずっと参加してきたのですが、昨年だけはスケジュールが合わずに参加できず悔しい思いをすることになりました。晴れて自由人となった今年は遠慮なくフル参加です。
マルサン葡萄酒
毎年恒例で、「まず最初はここに行く」って決めてるのが、勝沼駅から「歩こうと思えば歩けないこともない」距離にあるマルサン葡萄酒です。イベント時ではなく、通常営業の時に訪れると、販売所の前に「下の畑にいます」なんてまるでどこかの宮沢賢治みたいな札がかけてあって、その札に書いてある携帯電話番号に電話すると、畑の方から若旦那が汗をふきふきやってくるなんていう、ちょっと他のワイナリーでは見られない体裁のところです。立ち位置の基本がワイナリーというよりは「果樹園」なんですね。
ここで作ってる生食用のブドウは、そりゃもう文句なしにおいしいんです。数年前の夏、直接ワインを買いに訪れたことがあるのですが、「せっかく来てくれたのですから」とお土産に二房だけつけてくれたデラウェアが、「なに、デラウェアってこんな美味しいブドウだったの!?」って感動する美味しさで。それで後でスーパーでデラウェアって書いてあるブドウを買って食べてみたら「……あれ?」って思ったり。
そういえばその時、ブドウを2種類だけ試食させてもらえたんですね。確か、種なしのものと種ありのものの2種類だったと思いました。「どっちが美味しいですか?」と聞かれたので、「種なしのほうが確かに食べやすいし、味もすっきりしてて甘いんですが、実をいうと種ありのほうが美味しいです。口に入れて種を含んでプッって吹き出す所まで含めて、甘みだけじゃなくていろんな味わいを感じられるんで」って答えたら、「やっぱりそうですか、そうなんですよ、普通の方は種なしのほうが食べやすい、美味しいっておっしゃるんですが、ワイン好きの方だと全く逆の評価になって、種や皮の旨味が感じられるほうが美味しいっていう人が多いんです」なんて話をしたこともありました。
そのときのやり取りを参考にされたのかされてないのか、今回のワインツーリズムで初めて見ることになったのが、黄色い丸の中に黄色い三本線が書かれただけというユニークなエチケットが貼られた「醸し甲州」です。普通は甲州種のような白ワイン用のブドウは、収穫したら茎を取って砕いて絞って、その絞り汁をタンクなどに入れて発酵させることでワインにするわけですが、この「醸し甲州」はブドウを潰してすぐに絞らず、種も皮も一緒にしたまま2~3日置くことで、旨味や香りを引き出そうとしたものなのだとか。
ちなみにこのマーク、ここの家紋なんだそうです。「マル」に「三」で「マルサン」というわけですね。
マルサン葡萄酒
〒409-1316 山梨県甲州市勝沼町勝沼3111-1