「トリガーを引く」というのは、ピストル射撃でもっとも重要な操作だ。「ピストル射撃」というスポーツの真髄がそこにある。他の全ての技術が完璧であっても、トリガーの引き方がまずければ全部が無駄になってしまう。
指とトリガーの位置
軍用とか警察用とか、いわゆる「実用拳銃」だとトリガーの重さが数kgもあったりするので話が変わってくるけれど、ここでするのは競技用拳銃の世界の話。重くても500g、軽ければ30gとかそういうレベルまでトリガーを軽くしてある銃を撃つときに、トリガーは指のどこらへんで引いたらよいのか?
「第一関節の中央=指の腹の部分」だ。もっと厳密にいうと、指紋が渦を巻いているその中心部分、山のように盛り上がっている頂上の点をトリガーの中心に当てる。そこが指先で最も敏感な部分だからだ。
トリガーを引くときには、人差し指の第二関節だけを曲げる形で動かす。そこ以外の部分はいっさい動かず、第二関節だけが別の生き物であるかのように独立して動く、その感覚を身につけよう。
トリガーへの圧力のかけかた
銃を完璧な照準状態を保ったまま、ピタリと完全に静止させることなんてのは人間には不可能だ。どうしてもふらふらと動いてしまう。それが当たり前だ。銃をピタッと止めようなんて考えるのは最初から無理な話。
けれども練習を重ねていくにつれ、ごく短い時間なら、ある程度は狭い範囲に銃をとどめておくことができるようになる。その「短い時間」が来たときに弾が撃てればいいわけだ。
競技銃のトリガーは「二段引き」といわれる形になっている。最初は、軽くある程度の距離が引けて(ファーストステージ)、そこでカチッと当たる感じがして、そこから少しでも引く(セカンドステージ)と弾が発射されるという仕組みだ。まず構え始めたらファーストステージを引いて、照準が良い範囲に入ったらセカンドステージを、「積極的に途切れのない形で」圧力をかけて、弾を発射する。撃てるチャンスはせいぜい2秒から4秒といったところ。そこで撃てなければ撃つのをやめてやりなおしだ。
そしてもうひとつ大事なのがフォロースルー。弾を撃ったあと、1秒程度は狙いをつけたままの状態を維持することだ。フォロースルーをせずにすぐに握りを緩めてしまうと、撃発直前にどんな狙いをつけていたのかというイメージを失ってしまう。これはさかのぼって、撃発の瞬間に狙いを正しい状態に保とうとする意思を失わせてしまうことになる。また、フォロースルーをせずにすぐに銃を下ろすクセがつくと、撃発の瞬間に銃を下ろし始めてしまうクセもついてしまうことになりかねない。
ピストル射撃は、トリガーを引く直前までにどれだけ銃を止められたか、ということよりも、トリガーを引く瞬間にどれだけ銃が安定した状態にあるかということと、トリガーを引いた直後に銃を狙いをつけたままの状態で保っていられるかということの方が大事だ。時系列でいうと、「前」よりも「その瞬間」と「後」の方が重要なのだ。
トリガーが原因となるミスショットの例
弾が外れる(ミスショット)原因のほぼ100%は、トリガーのミスによるものだ。ミスといっても一種類ではなく、いくつかの種類がある。ミスの種類によって弾の外れ方は変わってくる。ということは、逆に言えば、弾の外れ方を見れば、トリガーの引き方のどこが悪いのかがある程度は検討が付くということだ。
代表的なトリガーの間違った引き方と、それによって引き起こされがちな弾の外れ方を一覧にしてみた。「なんかときどき、やたらと下の方/上の方に弾が外れる…なんでか分からない…」というような悩みを持っている場合、この一覧が役に立つ場合もあるかもしれない。
※参考文献:オリンピック・ピストル・シューティング(日本ライフル射撃協会編・三野卓哉著)
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