ガンマメ~銃の豆知識~ 法律関連

【ガンマメ】銃は、実はすごく簡単な構造だ

投稿日:2014年8月23日 更新日:

金属パイプの片側を塞いで側面に穴を開ければ、それでもう「銃」の出来上がり……?
 

我々みたいな一部のガンマニアを除けば、ごく一般的な普通の日本人にとって「銃」というのは日常とは全くかけ離れた縁のないモノだと思う。そのせいだろう、銃というモノをやたらと特別視するというか、物凄く特殊な構造を持っていて、極めて特殊な材料や工具がなければ作れない複雑な機械だと思い込んでる人が多いような気がする。

だが、実は銃というのは基本的な構造だけを見れば、別に特殊なものでも特別なものでもない。機械的な複雑さで比べるならば、自動車よりははるかに単純、自転車と比べたとしてもずっと単純だ。敢えて同程度に複雑な機械はなにか考えてみたのだが、せいぜい「水道の蛇口」だとか「自転車の空気入れ」だとか、そのくらいがちょうど良い感じで同レベルになるんじゃないだろうか。

大丈夫だとは思うが念のため書いておくと、この記事で「銃なんて簡単に誰でも作れるんだぜ、みんなで作ろう!」とか呼びかけるつもりがあるわけでは決してない。ただ、銃のことをやたらと特別視し、まるでファンタジー作品に登場する魔法の道具であるかのような扱いをするのはやめましょう、それは明らかに間違った認識なのだから……という、当たり前のことを書きたいだけだ。


片側がふさがった筒があれば「銃」になる?

「銃」とはなにかということを一言で説明すると、それは「弾を発射する道具」ということになる。日本の法律だと空気や圧縮ガスを使うものも一緒くたに「銃」という扱いになるが、ここでは火薬で弾を発射する、いわゆる「装薬銃」のみを銃として扱うことにする。

火薬というとドカンと爆発するものってイメージがあるかもしれないが、それはあくまで火薬の中の一種だ。「火をつけると勢い良く燃える粉末」を火薬と呼び、その燃えるスピードが物凄く速いとドカン(小規模な場合は「パン」)と爆発するが、それほど速くない場合はシュワシュワと炎を上げて燃えていくだけになる。

初期の銃は、そのあまり燃えるスピードが速くない火薬を、片方がふさがった筒の中に押し込み、それにフタをするように弾を押しこみ、外部から中の火薬に何らかの方法で火をつけることで弾を発射するものだった。銃口、つまり前方から弾を装填するので「前装銃」と呼ぶ。筒の中の火薬に火をつける「何らかの方法」というのも、ごく初期のものは筒の側面に小さい穴を開けておいて、そこに火が付いた棒を押し込むという極めて単純なものだった。こういう銃を「タッチ・ホール式」という。映画「もののけ姫」に出てきたアレ、といえば思い当たる方も多いのではないだろうか。
 

「世界最古の銃」として知られるタンネンベルク・ガン。右側が銃口、左側に木製の柄を付けて、先がカギ状に曲がった着火棒を使って側面の穴から内部の火薬に点火する。ドイツにあるタンネンベルク城にて発掘されたことからこの呼名がある。14世紀ごろのものだ。(photo:wikimedia commons)

適当な太さの筒があって、その片側が塞がれていて、塞がれている方の側面に小さい穴が開いているモノ。これだけで「銃」になってしまうということだ。歴史上、実際に銃として使われたことがあるというんだから間違いない。けれど、そんなもん身の回りにあるものを使って簡単に作れるんじゃないだろうか? ステンレスパイプを買ってきて、その中にうまい具合にネジ込めるネジを用意して、あとはドリルで側面に穴をあければハイ出来上がりだ。

まあ、実際に上記の加工をして作り上げた「銃」を持っていたからといっていきなり警察に捕まるとかそういうことはないだろうとは思う。法律的にどうこうではなく「常識的に」というレベルでの話だ。中に入れる弾も火薬もないのだから社会的危険もそんなに大きくないし。ただ、例えば本名でブログを書いてる私がこんなことをおおっぴらに書いた上で、そういう加工をしたパイプを自宅に持ってたりしたら銃刀法違反で捕まっても仕方ないかも知れないが……。
 

ホームセンターあたりでステンレスパイプを買ってきて片方を塞いで側面に穴を開ければ、それでもう「銃」の出来上がり……?
 


現代銃はさすがに難しいか?

今の時代、世界で一般的に使われてる銃は、当たり前のことだけれど前装銃ではない。実際に飛んで行く弾と、その弾を加速するために比較的ゆっくり燃える火薬と、その火薬に点火するために激しく燃える小さな火薬、そしてそれらをひとまとめにする真鍮製のケース、それらを全部ひとまとめにした「弾薬」とか「カートリッジ」と呼ばれるモノを筒の後ろから差し込み、その上で筒の後ろを何らかの方法でガッチリと閉鎖する。その閉鎖した状態のまま、銃弾のある特定の箇所を強く打撃することで「火薬に点火するための火薬」が破裂し、その火花が弾薬内にある火薬の間を駆け巡って「弾を加速するための火薬」に点火し、その燃焼ガスの圧力が弾を銃身内で加速して発射するという仕組みだ。
 

銃弾(カートリッジ)を使う今の銃は、タッチ・ホール式のように簡単に作るというわけにはいかない。
 

こうなると、さすがにタッチ・ホール式のように簡単に作るってのは難しい。とはいえ、専門の大掛かりな工作機械がなければ作れないほど精緻で複雑な機械かと言われると……それほどでもない。もちろん、軍隊やら警察やらで実際に使われている銃のように自動連発で撃てるようなものを作れとなるとハードルが跳ね上がるが、たとえば一発撃つたびに何箇所かにある万力やクランプを緩めて大きなフタを開けて、中から薬莢を取り出し、新しい弾薬を入れて、また蓋を締めてから万力やクランプをキコキコと回して閉鎖する……みたいなものだったら、身の回りにあるもので簡単に作れてしまうんじゃないだろうか。旋盤だとかフライス盤といった金属加工をするための道具があれば、より合理的に頑丈で安全なものが作れるだろう。

一番難しいのが「撃発」、つまり弾薬の特定の箇所を強く打撃するという部分だ。しっかりと蓋をして閉鎖して、その状態でその中にある銃弾を叩こうというのだから、工夫が必要だしミスすれば事故にも繋がる危険な部分だ。しかしソレを実現するのに、「誰もが考えつかなかった斬新なメカニズム」なんてものを考え付く必要があるわけではない。だって、すでに存在している多くの銃の構造を参考にすれば良いだけの話だからだ。例えば細い穴を開けて、そこから細い針状の硬い部品を使って銃弾の適切な部分を突くようにするとか、銃弾の後ろにスリットを開けて、そこにちょうど入り込むくらいの薄いハンマーを作って叩くようにするとか。

以前、「ここだけの怖い話」だとかなんだとかそんな感じの「危ない情報を集めたマガジン」みたいな本で見かけたものだが、筒の後ろに銃弾を差し込んだだけの状態で、パチンコ状のものを使ってその底部に金属片を叩きつけることで、撃発と閉鎖を同時に行うというアイデアが掲載されていた。パチンコのゴムが持つ張力と、金属片の質量と慣性力によって、ガス圧により後方に飛びだしてこようとする薬莢を抑えこむというものだ。考え方としてはオープン・ボルトのサブマシンガンに近い。本当にこの方法で撃発できるのなら銃身後部を機械的に閉鎖する必要すらないわけで、極めて簡単に「銃」が作れてしまうことになる。
 

単純な構造の銃といえば、第二次大戦中に作られたサブマシンガンなどはその代表格だ。イギリスで作られたステンガンは、武器不足を補うために徹底的な省力化が図られたこともあって「自転車が作れる設備があれば作れる」と言われるほどに単純な構造をしている。
photo:wikimedia commons
 


そんな銃で戦ったり犯罪したりできるのか

銃弾が手に入ったとして、それを筒の中に入れて撃発するというだけなら、誰でも簡単に……というとさすがに言い過ぎだけれど、それほど特別で特殊なやりかたをせずとも実行できる。それは間違いない。ならば、そうやって作った「銃」を使って、例えば「警察権力に戦いを挑む」だとか、「無差別テロを行って大勢の人間を殺傷する」だとか、そんなことができるのか? 「そんなことは無理だ」ってのが回答になる。

一発撃ったら、次の弾を撃つのに何分もかかったり、撃発しようとしても弾が撃てるか撃てないかは運次第だったりするような銃が犯罪やらテロやらで有効に使えるとは、とても思えない。ましてやライフリングもなければ照準器も、それどころかグリップすらもないような「銃」ではまともに狙いを付けることもできないわけで、すぐ目の前にいる近距離の相手にしか脅威を与えることはできないだろう。それなら、ダッシュで走り寄って殴りつけたほうがずっと早い。

[2022/10/15追記]自作銃でのテロというまさかの事件が起きました。使われた銃はまさにここで書いたような、「一発撃ったら終わりなものを2本束ねた、撃てるか撃てないかは運次第、まともに狙いを付けることもできず目の前にいる近距離の相手にしか脅威を与えることはできない」という、武器として見たら欠陥品もいいところの稚拙なシロモノだったようです。そんなものが犯罪やテロで有効に使えるか?とこの記事を書いた当時に問われたら、ここに書いてあるとおり、「使えるとは思えない」と答えるしかなかったと思います。要警護対象の真後ろ数mまであからさまに怪しい黒い筒を持って近づき、その筒を取り出して対象に向けて2発も撃つ、そんなことを許すほど日本警察は無能じゃないと信じていましたから。

実際に警護にあたっていたスタッフの皆さんは決して無能だったとは思いませんし、仕事に対しても真摯に取り組んでいたと信じます。しかし現実には、できると信じて託されていた仕事を全うすることができず、取り返しのつかない事態を招いてしまった、それが否定しようもない結果です。このテロの原因を特定団体やら犠牲者の行ってきた仕事内容やらに求めようとしたり、あまつさえテロ実行犯を英雄視までするような風潮で今の世間は沸き返っていますが、私は断じてその考え方を否定します。これは、誰でも簡単につくれる稚拙な武器を使った稚拙なテロ行為を、何らかの理由で防ぐことができなかった警察の大失態。それ以上のものでも以下のものでもありません。[追記ここまで]

先日、3Dプリンターを使って拳銃を作った人物が逮捕され大きなニュースになった。銃が、精度だとか信頼性だとかをそれほど求めなければ実は簡単な構造で再現できる単純な機械なんだってことを知っていれば、それは別に驚きのニュースでもなんでもなく、「あー、そういうバカするヤツが出たのか」と溜息を付く程度の話でしかない。公開されている情報を見る限りでは、その人物が作ったという「銃」は、まず銃をほぼ全分解して、中に銃弾を入れた状態で再び組み立てて、ようやく弾が撃てるようになるといった類のものだったようだ。そんなものは、わざわざ3Dプリンターを使わずとも身の回りにあるごく普通の工具を使って再現することはたやすい。
 

これは捕まった人とは別、それに先立って大きく報道されたアメリカで作られた3Dプリンター銃である「LIBERATOR」のパーツ類。撃針に使う小さな釘を除いてバネや銃身に至るまで全て3Dプリンターで作られている。いちおう威力が弱めの拳銃弾くらいなら大きな危険なく発砲できるそうだ。
Photo:Defense Distributed
しかし「銃」というものをやたらと特別で特殊な道具だと勘違いしている大多数の人からするとそうではなかったらしい。3Dプリンターを、まるでなんでも再現できる悪魔の機械であるかのように誤解し、規制するべきだと口泡飛ばして力説する人やら、これから世の中は無法状態になると絶望する人やらがワラワラと現れた。3Dプリンターを作ったり売ったりしてる側の方々にとっては、いい迷惑だったことだろう。

3Dプリンターで銃を作って逮捕された人物が行ったことは、たとえて言うなら「立入禁止ということにはなっているが、門は常に開いていてカギがかかっているわけでもない敷地内に、はしごを使って塀を乗り越えて侵入した」というようなものだ。そんな事件があったからといって、はしごはそういう目的に使われることがあるから規制しろだとか、塀をもっと高くしろだとか言われても、敷地を管理している人からすれば「いや、そんなことしてもフツーにそこ(門)から入れるんだけれど」と言いたくなるんじゃないだろうか。



「ガンマメ~銃の豆知識~」では、銃のメカニズムや歴史などについて、難しい言葉を使わずわかりやすく、けれどいいかげんなことは書かずにできるだけ詳しく書いていきたいと思っています。基本的に週に一回くらいのペースで新しい記事を投稿できればと思っていますので末永くよろしくです。

-ガンマメ~銃の豆知識~, 法律関連

Copyright© あきゅらぼ Accu-Labo , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.