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【ガンマメ】使用が禁止されているダムダム弾って、どんな弾なの?

投稿日:2015年7月12日 更新日:

エクスパンディング(拡張)弾丸の一種。今でも狩猟などでは似たような仕組みの弾は普通に使われている。

「国際条約で、『残忍であるから』という理由で戦争での使用が禁止されている弾がある。その名もダムダム弾という」

上記のようなフレーズは中二病マインドに働きかける力が強いようで、「ダムダム弾」というのはなにやら物凄い威力を持った特別な弾であるというような誤解が、ずいぶん長い間広まっていた時期があった。……もっとも当時(70~80年代)には「中二病」なんて言葉は無かったけれど。

なんといっても、「ダムダム弾」って名前の響きがいい。ひらがなで書くと「だむだむだん」。濁音が物凄い勢いで3連続もするので、口に出すだけで特別な威力がありそうだ。付け加えるならば、英語ではちょっとありそうにない「ダムダム(Dum-Dum)」という単語の響きがまたいい。ちょっとエキゾチックな雰囲気があり、なにやら呪術っぽいというかオカルトめいた特別な力が宿る弾だって言われても信じてしまいそうだ。
 

40SWダムダム弾は、エクスパンディング(拡張)弾の中でも最も初期に開発されたものの一つ。写真は現在、護身用・警察用として広く使われているエクスパンディング弾の一種「ホローポイント」形状の銃弾(右)と、それがターゲットに当たって変形したもの(左)。

ダムダム弾は、同じ威力の弾であっても、よりその弾を命中させた対象――つまりは敵の兵士――に対して、より重傷を負わせることを目的に工夫された弾だ。確かにえげつなくて残酷な弾ではあるのだが、銃、特に戦場や狩猟において使われる銃の目的は何なのかってことを考えれば、それはむしろ正当な性能向上のための改良の一環とも言える。

そういった場における銃の使用目的を一言で言えば、相手を倒すためということになる。私が普段やっている競技射撃では、弾が狙った場所に当たるかどうかだけが重要であり、当たった後にどれだけ対象を破壊するかなんてことには全く興味がない。極論すれば銃弾の威力なんかどーでもいいわけだが、戦場や狩猟においてはそういうわけにもいかない。銃弾が持つ運動エネルギーを利用して、相手の身体組織を破壊することにより、その行動ないしは生命維持を難しくすることが目的ということになる。ならば銃弾に求められる性能は、まずなにより運動エネルギー(威力)が高いこと。そして命中した時には、その運動エネルギーが効率よく身体組織の破壊に使われることの2つだ。

威力の強さは、銃という道具が人間が手に持って使用するものである以上、上には限界がある。あまりにも高い威力の弾を撃つ銃は、反動が大きすぎるなどいろいろな問題が生じてしまい、実用性が損なわれる。ならばできることは、「できるだけ効率よく、弾の運動エネルギーを対象の身体組織に伝達する」ことになる。

エクスパンディング弾というのは、その一環として考えだされたものだ。細長い弾が、命中すると変形して平べったく広がり、貫通せずに体内に留まって広い範囲で身体組織を破壊するように、弾の構造や材質などに工夫が凝らされている。


ダムダム弾は、別にエクスパンディング弾の元祖というわけではない。というかそもそも、初期の銃(前装銃)で使われる弾丸といったら球形をした鉛の固まりのことであり、それは対象にあたれば大きく平らに変形し、大きな傷を負わせるという特徴があった。後装銃の時代になりライフリングが実用化され、弾が細長い形になってからも、しばらくの間は銃弾といえば剥き出しの鉛の固まりであり、命中時に大きく変形するという点では何の変わりもなかった。

もっともこれらは、結果として大きく変形する弾であったというだけの話で、積極的に命中時に変形して大きな傷を負わせようという工夫がされていたというわけではないので、「エクスパンディング弾の元祖」というにはちょっと苦しい。

19世紀半ばごろに、イギリスで狩猟用ライフルのための弾として「エクスプレス弾」というのが使われ始める。銃弾の先端に窪み……というより「穴」を開けることで、獲物に命中したときに大きく変形し、一発で致命傷を与えることができるようにするためのものだ。エクスパンディング弾の元祖的存在といったら、基本的にはこの弾を挙げるのが教科書的には「正解」になるんじゃないかと思う。
 

Express_bullets_1870エクスプレス弾の構造と、獲物に当たった後の変形の様子。1870年にイギリスで発行されたハンティングの本に載っているものとのこと。当時の銃は今とは違い黒色火薬が使われており、弾速もそれほど高くなかった。威力の弱さを、弾頭の変形によって補おうとしたのだ。

無煙火薬が発明されて銃弾の速度が飛躍的に上がった。大口径で大きな鉛の弾を飛ばすより、小口径の弾を高速度で飛ばすほうがより遠距離まで正確に狙うことができるし、弾も軽くなってたくさん持ち運ぶことができる。しかし、弾丸が鉛剥き出しのままだとすぐに銃身内部に多くの鉛がこびりついてしまい性能が落ちることが分かり、鉛の周囲を銅で覆った「フルメタルジャケット弾」が実用化され、主流となっていく。

だが、小口径のフルメタルジャケット弾は、かつての大口径の鉛剥き出し弾に比べ、対象に当たった時の殺傷能力が劣ることがすぐにわかってきた。それをなんとかしようとして開発されたのがダムダム弾だ。イギリスの制式銃であるエンフィールド・ライフルに使用する「.303British」をベースに、銃弾の先端部分だけ銅の被覆(ジャケット)を取り去ることで、対象に当たった時に大きく変形するようにしたものである。

イギリス植民地時代にインド・カルカッタ近郊にあったダムダム兵器工廠で作られたライフル弾ということで、ダムダム弾と呼ばれている。最初に「なんかエキゾチックな響きがある」と書いたが、英語圏ではなくインドの地名が元だったのだ。案の定というか腑に落ちたというか。

良いアイデアではあったのだが、先端の被覆だけが取り去られているため、射撃時に銅のジャケット部分だけが銃身内に残されてしまい、中身の鉛だけが飛んで行くという問題があった。弾は飛んで行くのだから良いと思うかもしれないが、問題は残されたジャケット部分で、それに気づかずに次の弾を撃つと銃身内に残った異物となり銃身破裂などの事故につながりかねない。そのため、最初にダムダム兵器工廠で作られたエクスパンディング.303British弾、イギリス人らしくきちんとナンバリングされて「Mk.II .303British」なんて名前が付けられているが、これはイギリス軍制式弾とはなっていない。

その後、改良されたMk.IIIがイギリス軍制式となり、さらにMk.IV、Mk.Vと改良が続けられる。ジャケットだけが取り残される問題を解決するための工夫や、より大きく変形して相手に重傷を与えるようにするための改良などだ。そのころはもうインドのダムダム兵器工廠ではなくイギリスで作られるようになっていたが、「ダムダム弾」という名前は既にエクスパンディング弾の代名詞的な存在となっており、その手の弾を指す言葉として広く使われていたそうな。イギリス人的にも「Dum-Dum Bullett」と濁音が三連続する名前は、いかにも特別な威力を持ちそうな響きに感じたのかもしれない。

歴代の.303British弾を並べた写真を掲載しているサイトがありましたので引用します。左から2つめのMkII Specialが、先端の被覆だけを取り去った、いわば「ダムダム弾の元祖」になります。被覆だけが銃身内に取り残される問題を解決するため、先端に穴を明けてその内側まで被覆を回り込ませる工夫がされたのがMkIV、さらに拡張度合いが大きくなるように改良されたのがMkVという進化が伺えます。
引用元:Where did the term "dum dum" for bullets originate?[Quota]


そんな、イギリス紳士に大人気――だったのかどうかはわからないが――のダムダム弾が、どういう経緯で「使ってはいけない残虐な弾」になっていったのか? 簡単に言うと、大国同士の牽制のしあいというか、ぶっちゃけて書くと「嫌がらせ合戦」の結果といった性格が強い。

時系列でいうと第一次大戦が始まるちょっと前。イギリスとドイツの関係がずんずんと悪くなっていってる時期のこと。ドイツが、「イギリス軍が採用している、このダムダム弾と呼ばれている弾、これはずいぶんと非人道的で残虐なものである。こんな弾を国家の軍隊が使用するというのはいかがなものか」というプロパガンダを始めた。とはいえ、当時まだ使われていた銅で被覆されていない鉛剥き出しの弾だって当たった時の変形具合はダムダム弾に負けず劣らず大きく、運悪くその弾にあたってしまった人の怪我の度合いだって無残なものだった。
 

Dum-Dum-Geschosse_ca._1916第一次大戦当時、ドイツがプロパガンダ目的で配布していたポストカード。「非道なフランス軍が残虐なダムダム弾を使用している」と訴えるものらしい。1914~1918年にかけて出版されたものとのことだ。

ダムダム弾だけをやり玉に上げて「あれは酷い」なんてのは、言ってしまえばイチャモンみたいなものではあったのだが、そのイチャモンが通った。1899年、オランダのハーグで開かれた会議において、各国が話し合って「戦争をする際、守るべきルール」が決められた。ハーグ陸戦条約という。毒ガスの使用禁止だとか、捕虜の取り扱いだとか、戦闘員・非戦闘員の定義といった今でも基本的なルールとされている数多くのルールの中に、「拡張する性質を持った弾の使用禁止」が盛り込まれたのである。イギリスもなんやかやと理由を付けて反対はしたそうだが、決まってしまったルールは守らないとならないわけで、天塩にかけて育ててきたダムダム弾を諦め、軍の制式弾を現在使われているのと同じような先端まで銅で被覆された「フルメタルジャケット弾」に切り替えた。

とはいえ、「対象の身体組織をより効率的に破壊する能力を持った弾」というのは、軍用弾にはどうしても求められる性能の一つなわけで、フルメタルジャケット弾が義務付けられた後も、その制約の中でどうやってその性能を上げていくかという研究は、イギリスのみならず他の国でも行われていた。現在、世界で使われている小口径のアサルトライフル弾の多くが、弾頭の内部の材質を前部と後部で別のものを使用し、敢えて後部に重心を置くことで、命中後にタンブリング(転倒・横転)を起こすことで対象の身体組織を広い範囲で破壊しようとする性質を持っている。

命中後に拡張するような機能を意図的に持たせているわけではないが、それと同等以上の効果を発揮するように工夫されているわけで、結局のところ「ダムダム弾の禁止」なんてものに何か意味があったのかどうか、今となっては疑問でしかない。まあ、国同士が話し合って決めるルールなんてものは基本的にそんな感じなのかもしれない。
 

M16A2_M855_5.56X45mm_NATO_wound_ballisticsM16A2で、NATO制式弾となっている5.56mm弾(SS109/M855)を、人体を模したゼラチンに撃ち込んだ時にどういう具合に破壊されるか実験した結果を米軍の資料より引用。ダムダム弾のように大きく変形こそしないが、10cmほど入り込んだところで弾が横向きになりゼラチンを広い範囲で破壊、その後は逆さになって奥まで入り込むという形になっているのが分かる。

ところで、ハーグ陸戦条約でダムダム弾の使用が禁止されたのは、「国家同士の戦争」に限られた話である。それ以外の目的、例えば警察が使用する場合、個人が護身用として使用する場合などは特に禁止されていない。現実に、ダムダム弾と同様の構造を持ったエクスパンディング弾は、世界中で警察用として使われている(ちなみに、日本のおまわりさんが腰に下げている拳銃には、フルメタルジャケット弾しか装填されていないそうな)。

なにより、狩猟用としてはむしろ主流だ。狩猟は戦争とは違い、無用な苦しみを与えず確実に獲物を殺せるだけの能力が銃弾に求められるからだ。銃弾の先端に穴が開いたタイプの「ホローポイント弾」は、分厚い毛皮を持った獲物相手だと毛皮が穴の中に詰まってうまい具合にエクスパンションしてくれない場合があるとのことで、その穴の部分に樹脂製のチップを埋め込んだものだとか、命中後に銃弾が変形しやすいように先端近くにボールが埋め込まれているタイプのものだとか、いろんなアイデアが狩猟用弾には見受けられる。
 

winchester-silvertipWinchesterのカタログより、狩猟用のエクスパンディング弾の紹介ページを抜粋。このページの前にも後ろにも、殺傷能力を高めるためにいろいろと趣向を凝らした弾がずらっと並んでいる。狩猟において「殺傷能力を高める=一発で確実に死に至らしめる」というのは、獲物に対して無用な苦しみを与えないために必要なこととされている、という前提を知らないと「なにこの残酷極まりない商品カタログ」とドン引きしてしまうかも……。

おそらく、「銃弾の運動エネルギーを、対象の身体組織の破壊に効率よく変換する」という能力においては、かつてイギリス軍が開発したダムダム弾よりもずっと優れた弾が、普通にそこらへんの銃砲店で売ってるんじゃないだろうか。かつて中二病時代に、「条約で禁止されている物凄い威力の弾」だと思い込んで夢中になっていたダムダム弾は、実は性能的には今のものと比べれば大したことのない、歴史の中に埋もれた弾でしかなかった。

子供の頃の憧れというものは、往々にしてこういうふうに裏切られるものなのだなあ。


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