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ワインツーリズムの覚え書き③ ~シャトレーゼ勝沼ワイナリー~

投稿日:2010年10月11日 更新日:

シャトレーゼ勝沼ワイナリーの工場長、戸澤一幸氏。なんか、凄く有名なお笑いコンビの片割れに似てませんか? 「勝沼のオカムラ」と呼ばれているとかいないとか。



金はあるが、伝統もノウハウも何もないところが、「良いワイン」を作ろうと思い立ったとしたら、真っ先に手に入れるべきものはなんだろうか? それは、腕の良い醸造家だ。畑も木もブドウもワインも、作るのは人だ。「ワインを作る」という行程をトータルで見ることができる醸造家が居て初めて、良い畑を作ることができて、良い木を育てることができて、良いブドウを作ることができて、そしてようやくワインを作ることができる。

お菓子メーカーとして有名なシャトレーゼが勝沼で本格的にワイン作りを始めたのは2000年のこと。何十年もの歴史がある醸造会社が揃っている勝沼では、「つい最近できた新興メーカー」に当たる。ブドウ畑はもっと前から所有していてワイン作りにも関わってはいたのだそうだが、自社で全てワイン作りの行程を行うために「シャトレーゼ勝沼ワイナリー」を設立したのが2000年ということなのだそうだ。

ワイナリーを設立するに当たってシャトレーゼがまず必要としたのが人材だ。山梨大学大学院の化学生物工学研究科(いわゆる醸造学科にあたる存在らしい)を卒業した優秀な若者を雇い入れ、すぐに歴史のあるワイナリーに研修に向かわせ、他にも国税庁の醸造研究所での研修を経て、自社のワイナリー設立にあたり工場長として陣頭指揮を執らせる…。まさに「金と時間をかけて人材を育てる」という、大企業ならではの長期的視野に立ったやりかたである。

その人物が、戸澤一幸氏だ。「どうせ、お菓子メーカーが副業でやってるようなワイナリーなんだろう…」と思われていたシャトレーゼワイナリーを、数年で国産ワインコンクールでの受賞ワインの常連にまで評価を高めた。醸造本数が規定量に足りないためにワインコンクールに出せないワインもあるが、その中には「たった数年でよくここまで…」とワインフリークをうならせる出来のものも出てきている。この「ワインツーリズムを体感する旅」で案内役をしてくれている新田さんは戸澤氏をべた褒めする。「彼は、多分ニュージーランドなどに行けば国際ワインコンクールで金賞を取るようなワインだって作れる腕を持っている」と。

ニュージーランドに行けば…。つまり日本では無理だということだ。なぜ無理なのか? それはブドウの品質が「悪い」からだ。日本はもともとワイン作りには向いてない気候を持った土地だ。どうしても材料となるブドウの時点でハンデが付いてしまう。それは避けられないことだ。「勝沼こそは日本一のブドウ生産地だ」という誇りと自負を持った勝沼の人達ですら、それは認めざるを得ない事実である。そんなことは百も承知のうえで、あえてこの日本でブドウを育ててワインを作ろうとしている。

「何故、勝沼なのか?」

戸澤氏は「地域の産業で、日本を代表できるというところに魅力を感じたんです」と答えた。戸澤氏は確かに山梨の生まれ・育ちではあるのだが、甲府なので勝沼やワインとは何の関わりもなかった。大学でワインと出会い、シャトレーゼに就職してより本格的に学ぶうちに、勝沼でワインを作るということが「日本を代表する存在」となりうることだということが分かり、その魅力に取り憑かれたのだという。

「ニュージーランドのワインをここで作ってもしょうがない。ここの味わいがあるワインを作りたい」

伝統的なやりかたでブドウを作り、大昔から葡萄酒作りを営んできた土地に、大企業が潤沢な資金を背景に良い土地を畑として買い占めて本格的なワイン作りに乗り出してきた…なんていう風に書くと、普通は反発を受けそうな状況に見える。しかし、「地元のブドウ農家・ワイン醸造家」に近しい立場のワインツーリズムのガイドやツアーコーディネーターの方々の話や、また他のワイナリーでの話や口ぶりにはシャトレーゼ勝沼ワイナリーに対する反感などは全く感じとれない。むしろ逆で、応援とか賞賛に近いニュアンスの方を多く感じ取れる。シャトレーゼのワインがコンクールで賞を取ったり、企業CMなどを流してくれたりすることで、「勝沼」というブランド力が強まれば自分たちの利益にもなる、みたいな考えがないわけではないのだろうが、そんなことより大事なのは、戸澤氏が「真面目に本気で」ワイン作りに挑んでいる、その姿勢と実績が評価されていること、それが一番の理由なのではないかと思う。

収穫時期を間近に控えたソービニヨンブラン。「鳥居平」と呼ばれる地域にあるシャトレーゼの畑では、日本のブドウ農家で一般的に行われている棚式栽培ではなく、垣根式栽培を行っている。



シャトレーゼ勝沼ワイナリーWebサイト
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