スポーツ用だとけっこう多い。軍や警察用の銃は左右兼用が今のトレンド。あと、写真の裏焼きには注意!
私自身は右利きなのであまり良くわからないのだけれど、左利きの人の日常生活における苦労というのはなみなみならぬものがあるそうだ。自動販売機の小銭投入口から駅の自動改札、ホワイトボードに何かを書く、ハサミを使う、とまあ色々な場面で不便を強いられているとのこと。
銃を撃つ時はどうだろう? グリップを握ってトリガーを引く、それだけならほとんど左右対象だし対して不便なこともないだろうが、問題はそれ以外の色んな部分にある。操作するレバー類やボタンなどの配置や、自動銃の場合は排莢する方向など、ありとあらゆるものが右利きであることを前提とした設計になっていて、左利きでは扱いづらいことこの上ない。
わかりやすいのがボルトアクションライフルだろう。ライフルをしっかり構えた状態では、利き腕ではない方の手でフォアエンドを支え、バットプレートは肩に当てて、頬をしっかりチークピースに押し当てる。この3点支持で銃を固定する。トリガーを引くための利き手は基本的に銃にストレスは与えず、トリガーを引いたら次の弾を撃つためにボルト操作に移るというやり方になる。
だから、普通はボルトアクションライフルのボルトハンドルは右側に付いているわけだが、それを使うのが左利きの射手だったら? 銃を支えている手(この場合は右手)を銃から離すわけには行かないから、トリガーを引く側の手(左手)を大きく銃の上に回し、反対側にあるボルトに手を伸ばして引っ張り上げるという、実に大変な操作になる。映画「プライベート・ライアン」に登場した「ジャクソン」が、左利きの凄腕スナイパーという設定で、劇中でもその「やりづらい」撃ち方で敵ドイツ兵を次々に屠っていくシーンが印象的だった。
もちろん、左利きでも扱いやすいようにボルトハンドルが通常とは反対側に付いているライフルもある。平和な社会でスポーツ射撃や狩猟用として自分専用の銃をお金を出して購入するのなら、当たり前だけれど右利き用の銃を使って奇妙で大変な撃ち方をするより、楽に撃てる左利き用の特別仕立てのライフルを買うことになる。もっとも、買おうとする銃に左利き用があればの話だが。仮にあったとしても値段が右利き用よりも高くなってしまうのは、まあ、しょうがないことと諦めるしかない。
軍用・あるいは警察用の銃は、最近では「左右どちらでも使える」というのが一つのトレンドになっている。部品を入れ替えるなどして左利きの射手にも対応できるようなしくみになっているものも多いが、そんなことをするまでもなく最初から「どっちの手でも同じように使える」ようにデザインされたものも増えてきている。右利きだから右だけ、左利きだから左だけというのではなく、状況に応じて左右を持ち替えてどちらでも撃てるようにするという訓練方法(スイッチングとか呼ぶそうな)がメジャーになってきて、それに対応するためのものなのだとか。
ここまでは、現実に存在する「左利き用の銃」について書いてきたが、ときおりそういう理由ではとても説明が付かない不思議な銃を目にすることがある。映画やTVのポスター、漫画やイラスト、時には報道写真でも、本来なら右側についているはずのエジェクションポートが左側にあったり、時にはマグキャッチやボルトリリースなどのレバー類も含めて全て左右がそっくり入れ替わっている銃が時々登場する。
左利き用の射手のために、まるっきり左右を全部入れ替えた特別仕様の銃なんてものが存在するのだろうか?
もしかしたらごく稀にそういうケースもあるのかもしれないが、ほとんどの場合はそうではなく、写真が左右反転している、いわゆる「裏焼き」になっているために起こる現象だ。
「デザイン上の都合で、写真を左右反転させて使う」ってのは、どうやら「デザイナー」という職種の人たちってのはけっこう気軽に行なってしまうようだ。もちろん、一見してすぐに左右非対称だということが分かるもの、例えば文字だとか、有名な建築物や山岳の写真などについては行なわないが、「これは左右対称だから反転させてもOK」とデザイナー自身が判断したものについては躊躇なく行なってしまう。銃も、それに詳しくない人にとっては「ほとんど左右対称なもの」にしか見えないようで、「反転させてもOKなもの」扱いされることが多い。
実際に自分でも何度か経験している。あるとき、銃の各部パーツや部位の説明を書くという仕事を請けた。真横のキリヌキ写真をベースにそこから線を引っ張って「トリガー」だとか「ハンマー」だとか「セーフティーレバー」だとか、あちこちの部品の名前と、どういう役割をしているものなのかという説明を書き込んだ。デザイナーに渡してしばらく経ち、確認のためということで送られてきたPDFを開いて目を疑った。「デザイン的に収まりが悪いから」という理由で多くの銃の写真が勝手に左右反転されていたのである。
写真の中の人物が持っている銃が左右反転しているくらいだったら「一部のマニア」くらいしか気にも留めないかもしれないけれど、銃単体が写っている大きな写真が左右反転していればさすがに違和感バリバリだ。
だが、その違和感をどうやったら伝えることができるだろう? 「これ裏焼きです。元に戻してください」って書くだけで通じる人だったらいいけれど、自分のデザインに自信を持っていて、「これは理由があって(そのほうがデザイン的に美しいから)反転させているのだ。物書きの言うことなど聞く必要はない」と判断するような人だったらどうしよう。できあがったものを見た人の中に、銃のことをある程度以上にちゃんと知ってる人がいれば、ひと目見ただけで「あ、この写真裏焼きだ」とわかってしまうはずだ。その場合、「こんな単純なミスにも気づかない無能」だと思われるのは、多分文章を書いた私になってしまう。それだけは避けたい!
幸いにして、その時は「銃のレバー類は左右非対称で、それぞれ意味があってその配置になっているので、左右反転すると銃のことを分かっている人にとっては違和感を覚えるものになってしまいます」ってことを切々と訴えてなんとか元に戻してもらえた。しかし、今後似たようなことがあったときに、なにか簡単にその違和感を伝える方法というものはないだろうか。
「一見すると左右対称だが、実は細かい部分に違いがあり、その違いには重要な意味があるので、左右反転させると分かっている人にとっては物凄く違和感を覚える写真になってしまう例」
ずっと考えているが良い例が思いつかない。何かないだろうか。