ワイン

なぜ、ワイン解禁日がお祭りになるのか

投稿日:2010年12月26日 更新日:

11月も半ばとなると盛り上がってくる、というか正確にはマスコミが必死になって盛り上げようとし始めるのがボジョレー・ヌーボーの解禁日の話題。日付変更線が太平洋にある関係で、ほとんど一番乗りに近い形で「解禁日」を迎える日本において、世界に先駆けて「今年のワイン」を呑めるってのは、ちょっと嬉しいのは確かだ。

お祭り騒ぎと同時に現れるのが、「アンチボジョレー・ヌーボー」みたいな人達だ。曰く、アレは早く仕上げるために特別な醸造方法で作られたモノで本当のボジョレーワインじゃないとか、今年のブドウの出来をワイン業界の人達や投資家が見るためのもので普段からブルゴーニュワインを呑んでるわけでもない日本人が喜んで呑んでるのは滑稽でしかないとか。まあ、言ってることは間違いじゃないんだが、といってもそう目くじら立てるほどのもんでもないとは思う。

そもそも今年のブドウの出来をどうこう言ったって、ブドウの出来が少々違ったって醸造家が知恵と工夫を駆使してその年の出来に合わせて良いワインに仕立てようとするわけで、その「知恵と工夫」が反映されてないボジョレー・ヌーボーで「今年のワインの出来」なんかわかるわけがない。結局のところ、これは「お祭り」であってそれ以上のものでもそれ以下のものでもないのだから。今年も無事ブドウが収穫できて、こうやってワインになりました。良かったーっ! そうやって喜ぶためのものだ。

今でこそ、衛星やらなんやらを使った長期気象予測や、栽培技術や病気への対策のノウハウ、そしてハイテクを駆使して安定した醸造を行う技術の発達などで、「まるでワインが作れませんでした。今年は全然ダメでした」なんてことはまず起こらなくなってるけれども、ほんの半世紀ほど前まではそれは当たり前のように起こることだった。「今年は全然ダメだった」ということが十何年か一度はある、そういうリスクを覚悟したうえでワイナリーはブドウを育てワインを作っていた。人々もそれを知っているからこそ、「今年もワインが作れました」というだけでお祭り騒ぎをするのに十分な喜びを感じることができたわけだ。

ただ、ひとつどうしてもぬぐいきれない疑問は残る。なんで日本人である我々が、縁もゆかりもない遠く離れたフランスの一地方にすぎないボジョレー地区のブドウ収穫をここまで大騒ぎして祝ってあげないとならないのか? どうせ祝うなら、もっと縁もゆかりもある身近なところの収穫を祝ってあげたいじゃないか? そういうのはやってないのか、日本のワインには、ボジョレー・ヌーボーみたいな「解禁日」って無いのか?

実は、ある。山梨県の勝沼地区で多く生産されている甲州種ワインは、世界的にも認められ始めている日本が誇る白ワイン用品種の傑作だが、その解禁日が毎年11月3日(文化の日)に決められている。といっても、それほど歴史のある話ではない。正式に決められたのは、一昨年(2008年)の話。ボジョレー・ヌーボーに比べたら新参どころのさわぎじゃない、ムチャクチャ歴史は浅い。もっとも、正式に解禁日が決められたのが2008年というだけのことで、それ以前からもそれぞれのワイナリーが独自に決めた解禁日というものは存在していたのだが。

甲州種ワインの解禁日より一ヶ月ほど早い10月最初の土曜には、勝沼ぶどうまつりが開催されている。こちらは昭和9年が始まりだというからずっと歴史は長い。イベント会場には数多くのワイナリーがテントを並べて試飲ワインを振る舞い、街ではパレードが行われ、夜になれば山の斜面で巨大な鳥居焼き(大文字焼きの鳥居型バージョンみたいなもの)が焚かれる。試飲ワインには、甲州ワインの解禁日よりは前なので甲州の新酒を飲むことはできないが、その縛りがない「甲州種以外のぶどうで作られたワイン」ならいくらでも飲める(※試飲には1000円出して試飲用のワイングラスを購入する必要がある)。

せっかくの勝沼でのワインイベントなのに甲州の新酒は飲めないとか、ワイナリーによっては試飲に出すワインは一部の安いものに限られていたりとか、ワインを目当てに行くとなるといろいろと「残念」なところもあるイベントではあるのだけれど、何千人もの人たちがワイングラス片手に千鳥足になりながらそこらじゅうを闊歩しているという「ワイン好き酔っ払い空間」の一部になってみるという体験をしてみるためだけでも、一度は訪れてみる価値のあるイベントだと思う。

当日朝の勝沼駅。土日祝日のみ運行する直通の快速電車「ホリデー快速ビューやまなし」が到着した直後、電車から降りてきた乗客でホームがあふれかえってしまい、しばらく電車が出発できなくなる騒ぎとなった。いつもは同じ電車を降りても数人程度しか降りる客がいないのだからイベント効果おそるべしだ

 

イベント会場となる中央公園広場。けっこう広い土地なのだが、到着したときには既にラッシュ時のような賑わいだった。ワイナリーが出しているテントの他、いわゆる「お祭り」らしいたこ焼きとか焼きそばのような屋台とか、キャラクターショー(今年はゴセイジャー)とか、無料でのブドウ配布などがある

 

勝沼中央公園の横には、「百果園」というぶどう園がある。これだけの大規模イベントが開催されている場所のすぐ横という絶好のロケーションなのだが商売っけが薄く、せいぜい豚汁とかきのこの試食販売と、「豚汁買ってくれた人は自由に座れるベンチ」の設置程度のことしかしてない。知り合いか身内と思われる若い方がパーカッションの演奏をしていた

 

いろいろな屋台が出ているが一番人気なのは中央にある一番大きなテント(勝沼市?)での牛ステーキ。長い行列に対応するためにものすごい勢いで次から次へとステーキが焼かれていく

 

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