前回に引き続き、「美しいカスタムライフル」をご紹介します。「真っ赤なシューター」としてAPS系のみならずスチールチャレンジとかでも見かけたことの多いであろうコウくんのライフルです。撮影したのは7月のことなのですが、各部のUP写真ばかり撮っていて全体写真を撮るのをすっかり忘れていたので今まで温存となってしまっていました。これ以上温存してもしょうがないなということで、蔵出しでお届けします。
全体のレイアウトは前回紹介したタケダさんライフルと同様で、APS-2のバレルドアクションを、アルミアングル材と既存パーツの組み合わせで作った自作ストックに乗せたというもの。共通パーツもいくつかありますが、どういった部品をどういう組み合わせで使うかとか、実射性能には関係のない「飾り」をどういうセンスで取り付けているかといった微妙なところには違いというか個性が出ています。そんなところに注目して見ていくと面白いんじゃないかと思います。
全体写真、奥にあるのがコウくんライフル、手前がタケダさんライフル(ブルーバージョン)です。コウくん本人のブログである「コウの気のままトイガンライフ」から拝借してきました。両方ともこの大きさの写真だと、ほとんど「実銃のアルミストックを買ってきて流用したの?」としか思えない出来ですね。本体がアルミアングル材の流用だと聞いた後も、「でも、ほとんどのパーツは実銃の競技射撃用のものを使ってるんでしょ?」と聞き直したくなります。
実際の所、流用しているのはバットプレート(肩に押し当てる部分)と、マイクロサイトくらいなものだったりするんですが。
今回の写真は、7月に開催した赤羽PPSで、競技終了後に撮らせてもらったものです。終わって着替えたあとなので普段着です。競技中は、本人ブログをごらんになれば分かる通り、真っ赤な射撃コートを着込んで撃ってます。
左写真は、数少ない実銃用のパーツであるバットプレート。…といっても半分以上が服の袖に隠れちゃってますが。上下の位置を微調整できるようになっているのが特徴です。で、それをアルミストックに固定するのに使っているパーツですが…。これ、ホームセンターで良く見かける、DIYで棚を作る時のための「棚受け」だったりします。大きさといい頑丈さといい持って来いですね。言われないと棚受けだとは分かりませんし。
ガンケースにしまいやすくするために、簡単に取りはずしができるようになってる…というようなことも聞いたような気がします。なんせ2ヶ月前のことなんで少し記憶が曖昧になっちゃってますが。
マイクロサイト(リアサイト側)です。マイクロサイトというのは、競技用のオープンサイトのこと。いわゆる「ピープサイト」と呼ばれているタイプのもので、リアサイト側が丸い穴、フロントサイト側がドーナツ状のインサートとなっており、「リアサイトの穴―フロントサイトのドーナツ―ターゲットの黒丸」の3つを同心円状に揃えることで精密な射撃を行います。肉眼ではとても見えないような小さいエリアに正確に照準することができるよう、穴の大きさや上下左右の微調整の精度はものすごいレベルで高く仕上げられており、最新の製品を新品で買おうものなら、けっこうとんでもない値段(ちょっと高級なスコープサイト並みの値段)がします。
もっとも、コウくんもタケさんもそんな何万円もするような最新鋭の新品を使ってるわけではなく、銃砲店でたまに出物がある少し旧型の中古品を使っているようです。実銃競技で勝ち負けをしようとすると最新鋭の新品を使いたいところですが、エアガンならばそこまでの精度は必要ないし、ちゃんと機能さえすれば旧型のものでも構わないということですね。
こちらはフロント側です。ドーナツの大きさを無段階で調節できるバリアブルタイプになっています(よね?)。これも新品を買おうとするとけっこう立派な値段ですが、恵比寿にあるライフルショップエニスに行ったらちょうど中古の出物があって、けっこう安価に手に入ったそうです。エニスの中古品というのは「良いものが出たと思ったらすぐに消える」と言われてまして、実銃を所持してなくてもこういった精密射撃競技の世界に興味があるのでしたら、一度と言わず機会があればちょくちょく足を運んでみると、面白いものが見つかるかもしれません。ただ、看板もなにも出てないので初めて行く時には事前にWebサイトの地図を十分に確認しておくことをおすすめします。
フロントサイトベースになっている一部が出っ張った円筒形のパーツですが、これが「アンテナブームの取り付けのための部品」です。内径といい、平らになっているところのサイズといい、まさに「APS-2のバレルに、フロントサイトを取り付けるため」に作られたとしか思えないパーツです。…ただ、現在はホームセンターに行っても品切れになっていたりでなかなか手に入りづらいとか。
グリップはエアガン用のパーツの流用品、フォアエンドレイサー兼トリガーガードは自作品のようです。この写真のみ、銃を持っているのがコウくんではなくシオジャケさんなので、グリップの中に手が入りきらずはみ出してしまってますね。
リアサイトのベースは、アルミ材を削ったり重ねたりして作った…というわけではなく、どうやら汎用の10mm幅ベースをAPS-2のマウントベースにネジ留めしているんじゃないかと思います。アンシュッツのサイト(に限らず競技銃の世界のサイト)は、軍用銃の世界では一般的になってきた20mm幅ではなく、昔からずーっと使われ続けてきた10mm幅ベースが汎用規格になっているんですね。
使われているアルミアングル材は、艶のある鏡面仕上げです。
この角度から見ると、元がアルミアングル材だということがよくわかりますね。ストックの左右にネジ留めされている平行四辺形型の木製の板、これはどうやら実射性能に何か意味があるパーツというわけではなく、全体のスタイルを統一するための、いわば「飾り」のようです。実際のところ、これがないとほんとうに見た目が「アルミの棒のカタマリ」にしか見えなくなってしまうんじゃないかと思います。
バイポッド(射撃時に使うのではなく、銃をそこらへんに置いておくときに横倒しにしないで済むようにするためのもの)は、どうやら実銃の競技射撃用として販売されているものを流用しているようです。
2回にわたってお届けしてきた、APS用のカスタムライフル、いかがでしたでしょうか。こういった各部の調整(バットプレートやチークパットの上下位置、あとできればグリップの角度やフォアエンドレイサーの高さなども)が可能なライフルというのは、エアガンの世界だと市販品ノーマルではほとんど存在していません。唯一の例外がKSCのGR1000、AR2000シリーズになるのでしょうが、「ものすごい値段がするけれど、値段ほどでは…?」というのが実際の所のようで、使用している競技シューターはそれほど多くは見かけません。ホームセンターにある部材を使えば、手軽とは言えませんが安価に同等のものが作れてしまうとなればなおさらです。
もっとも、メーカー品で汎用のアルミアングル材の組み合わせみたいな製品を出されても、どういったコメントをしてよいものやら困ってしまいますし、「ちゃんとした製品」にするために手間をかけてアルミを削りだして専用のストックを作るとなれば10万超になってしまうのは致し方ないところかもしれません。けれど、こうやって汎用の部材を使って比較的安価に本格的な競技用ライフルに負けない機能を持ったストック、それも見た目に美しいストックを自作して公式大会で使用するシューターが増えてくれば、それをみて「なにあれかっこいい」って思って自分でも似たようなものを作ろうと試行錯誤したりする人が増えたりして、こういった形のストックの「便利さ・良さ」というものが広まって、ますます競技射撃の世界が広がっていく…なんてことになれば、エアガンメーカー製のアルミストックも種類が増えて価格も安くなってくれたりするんじゃないか…なんて夢想したりもします。