実銃射撃 射撃のコツ 海外の反応シリーズ

集中するということは、余計なことを思考から排除するということ【海外の反応】

投稿日:2017年4月15日 更新日:

「射撃は90%がメンタルである」という、USAシューティングの記事紹介。物凄い長いテキストなのでやってもやっても終わらない感じですが、ようやく終わりが見えてきました。この回とその次の回、もしかするとあともう一つくらいで最後が見えるんじゃないかと思います。

前回は、かつては「一度形成されたらあとは減っていくばかりで新しく作られることはない」と考えられていた脳のニューロンは、実は訓練によって再形成されることがあるという脳神経科学の研究結果があるということ、それにより本能がもたらす「射撃にとって、好ましくない身体的反応」を、そうではない反応に置き換えることができる可能性があることを述べた部分を紹介しました。

理屈ではそうなのかもしれないけれど、じゃあ実際にはどうすればそれを実現できるのかって部分については「スルー」に近い状態でしたが……。まず理屈が先行して実践はその後ってのは、特にこういう長いテキスト読んでる時はもどかしいものです。ただ、理屈だけで終わりで実践が伴わないテキスト(現実、そういうのって良くありますけれどね)ではない点は救いです。

今回から、少しずつ「実践」に近い内容が記されてきます。今回は、最初の方のテキストで「説明は後回し」にされていた、「古い脳が発生するネガティブなシグナルは新しい脳が発生するポジティブなシグナルよりもずっと早い」という点についての説明と、集中力についての説明の2本立てです。
 

videogame_boy特に「集中力」について書かれた部分はちょっとおもしろいですよ。何かに対してハイレベルに集中しているときの脳の状態は、リラックスしている状態に極めて近い……ってのは以前「ゲーム脳」なんて言葉が流行った時に良く聞いたフレーズですね。



「射撃は90%はメンタルである」の翻訳一覧
マッチ・プレッシャーに科学で対抗する
「古い脳」からの悪い信号を「新しい脳」からの良い信号で上書きする
マッチ・プレッシャーを拡散させるための、ある一つの簡単な方法
訓練によって自分の脳を作り変えることができる
集中するということは、余計なことを思考から排除するということ←いま表示してる記事
自分で自分の記憶を作り変える方法
その瞬間、世界はスローモーションになる
 

射撃は90%はメンタルである

引用元:SHOOTING SPORTS USA
Chip Lohman著 - 2015年8月5日


●脳スピード

・観察

あまりいろいろと物事を考えずに、自分の眼を「撃つこと」だけに向ければ、結果はずっと良くなります。

・研究

前頭葉(脳の中でも新しい領域)は、脳の深いところ(古い領域)が発する時速300マイル(約480km/h)で伝わるシグナルには追いつけないと言われています。射手にとっては、これは「行ったれ」で撃つ時に該当します(熟考のあげくに撃つときではなく)。Tim Conradがマズルフリップ(トリガーを引く直前に銃口がクイッと動いてしまう現象)に関する記事(2013年1月)で語っていますが、「今、まさに撃つべき」と思えるサイトピクチャーが得られてからトリガー・フィンガーを動かすための「意識的なシグナル」が発せられるまでには0.3秒を要し、それは完璧なショットを望むにはあまりに長すぎる時間であるとされます。しかし、シグナルが小脳から自発的に発せられるようになると反応速度ははるかに早くなります。小脳は、「反復による保存」が行われる領域です。そのシグナルは「深いところの脳」によって処理され、その速度は前頭葉による問題解決に比べおよそ2倍のスピードです。

Tant博士によるコメント
まず基本的なこととして、「意識的なシグナル(左脳、前頭葉)」は、最善ではないショットを生み出しがちということを認識する必要があります。電子的なトレーニングシステム(例えばSCATTなど)を使って、そのことを具体的に説明することが可能です。自分自身の射撃結果を解析した結果、撃発する瞬間の0.3秒前が最高のスコアであることがしばしばあることが判明しました。これはつまり、私は「今、撃たなければと意識する」ことによってスコアを下げているということです。

前頭葉からの直接的な制御なしに「深いところの脳」にパターンを埋め込む方法の例として、経験豊かなアマチュア無線通信事業者(ハム)がモールス信号を学ぶ過程を挙げることができます。アマチュア無線のトップレベルライセンスを取得するためには、モールス信号を毎分20ワードでコピーする必要がありますが、非常に経験豊富なハムは新聞を読む片手間に1分あたり100ワードをコピーすることができます。何年もの繰り返しを経て、彼らのようなラジオ・オペレータの「深いところにある脳」は、表層意識を司る脳が新聞を読んでいる間にモールス符号のトンツー音を文字や記号に直接変換する能力を習得したのです。Lones Wiggerがインタビューでこう答えています。「撃つ方法を身につけるには3~4年、射撃で勝つ方法を身につけるにはそれに加えてさらに3~4年かかります。そして、それを他人に数えるために実際にやってみせることができるようになるまでには、さらに数年がかかるのです」

●集中

・観測

私が「ゾーン」にいるとき、私はベストな射撃ができます。しかし、求めてそこに到達するのは難しいことです。

・研究

「ゾーンに入っている」と呼ばれる、極めて高いパフォーマンスを発揮できる状態があります。これは神経科学の分野では、専門家が自分の専門分野あるいは高いレベルで作業している時に脳が示す働きの一つとされています。David Rockは「働くあなたの頭脳」という本で、「良い集中を維持するために重要なことは、間違った物事に集中してしまわないようにすることです」と述べています。自然と沸き起こってきてしまうことを排除する、射撃ではフリンチ癖の矯正といったような良く聞く内容が、ここでもまた繰り返されます。Brock氏は次のように続けています。

「スキャン技術を使用して、神経科学者は自然な反応を抑制することができる人々を観察することで、それが発生したときに活性化する脳ネットワークがどこにあるのかを突き止めました。前頭前野の皮質内にある特定の領域が、あらゆるタイプの抑制の中心となっているのです。これは、左右の前頭前野皮質と呼ばれています」

良い練習を積み重ねた射手は、練習をしていない射手よりも、この「望ましくない活動を阻害する脳の領域」が発達しているのです。我々はこれまで、「良いアスリートは、集中する方法を良く知っているのだ」と言ってきましたが、「『脳のジム』に多くの時間をかけているのだ」と言うほうが、より正確なのかもしれません。

Tant博士によるコメント
自分自身に対して「なにかをやめろ」と語りかけるのではなく、むしろその逆で、もっと鍛えて増やすことが重要だとしているところが大きな違いです。集中による副産物として、非必須領域や干渉領域での射撃を減らすように脳を調整するための、より多くのプロセスが生み出されます。

 

※ここのフレーズに使われている非必須領域(nonessential area)とか干渉領域(interfering area)って言葉、英和辞典にかけてもどうも良く分かりません。単に「失敗したショット」のことを、専門用語めいたやたらと難しい単語を使って表現してるだけなのか、それとも何か脳科学に関係する専門用語だったりするのか?

Brock氏の著書から、最後に「ゾーン」について少し違ったコンセプトを引用しましょう。
「覚えておかなければならない、重要な要素が一つあります。何に集中するのかをしっかりとマネージメントしなさい。何に注意を払うのかということについて注意を払い、間違った思考に乗ろうとするのを速やかに中止しましょう。これは『マインドレス(頭を使わない状態)』になることの逆、つまり『マインドフル(忘れずに注意すること)』になるということです。」

マインドレスになるよう試みる(心を無にしようとする)のではなく、マインドフルになるよう練習する。

Keyes博士によるコメント
集中力については様々な研究がありますが、一般的には人間の集中力というのは遺伝的要素が大きいとされています。私は以前、偶然ですがアメリカ代表のピストル選手にバイオフィードバック・デバイスについての質問を受け、実験を行ったことがあります。

 

※バイオフィードバック・デバイスって何だろうと思ったら、心拍数とか血圧とか皮膚の温度とか汗のかき具合とかをセンサーで調べ、そのデータをスマートホンやPCなどに送って統計を取ることで「今、リラックスしているかどうか」を数値化し、そこから「どうすればリラックスできるのか」を類推するための機械があるみたいですね。Amazonで検索してみると、並行輸入品などがいくつかヒットしますが、見た目……というかやってることそのものが、少し前にやたらと話題になったカルト宗教を連想させてちょっと。下記はAmazonへのリンクです。

 
41isjRMyPRL._SX425_バイオフィードバック・センサー

21Fx7i6WqhLストレスリムーバー

41C8jERFtsLアイリラックス

51hp707LFkLツーブリーズ

最初は、私は彼らに(機械を使っての)リラクゼーション方法を教えようとしたのですが、すぐに彼らは機械に頼らずとも「リラックスした状態を示す数値」を導きだせるようになりました。それどころか、どれだけ早くその数値を出すかで彼らの間で競争を始めるほどでした。リラクゼーション方法について何かを教える必要など全くありませんでした。なぜなら彼らは誰かに教えられるまでもなく、才能としてそれを既に持っていたからです。世界選手権やオリンピックでは、バイオフィードバック・デバイスの出番は全くありませんでした。

彼らは強烈な集中力を持っていましたが、その能力を自らの利点として使うことはできませんでした。集中するという技術は学ぶことが可能ですが、多くの射手は最初から生まれ持った才能としてそれを持っています。ただし、ここで一つの罠があります。その能力を高ストレスの状況で発揮するためには、多くのトレーニングと正しいコーチングが必要なのだということです。SEALの研究において、非常に高いレベルの訓練による脳の変化は、厳しい選抜試験をクリアした男達だけでなく、例えばクラシック演奏者や、数多くのアスリートにも見受けられたという最終報告がなされたことは、決して驚くべきことではありません。

付け加えて言うならば、学校の教師やトレーナーが生徒の学習能力について記述する際、「集中力の持続」に言及することがしばしばあります。経験不足の人がストレス環境下にあるとき、その心の中では多くの考えが渦巻いています。例えば、「私は勝てるだろうか? チームメートは私より上手くやるのではないか? 両親や友人はどう考えるだろうか? 私は恥ずかしいと思うだろうか?」といったことです。

経験と成熟によって、重要なものは何なのかをハッキリとさせ、そうでないものを排除することができるようになります。これが、「集中を学ぶ」ということです。

 


「どれだけ早く集中状態に入れるかでレースを始めるオリンピック代表選手たち」って、なんか情景が目に浮かぶような……。

今回のテキスト、要点をまとめると下記のようになるんじゃないかと思います。

  1. 集中とは、余計なことを考えないようにすることである
  2. 心を無にするのではなく、考えるべき対象のことで心をいっぱいにすることで「余計なこと」を心の中から排除する
  3. 集中力の強さは生まれ持った才能が占める割合が大きいが、訓練によって身につけることもできる
  4. 才能があろうがなかろうが、高ストレス環境下で正しい集中を行うためには訓練が必要なのは同じ

「集中とは何か」ってことについて書かれている部分、禅とか瞑想とかの世界で言われる内容によく似ていますね。対象のことだけに集中するように努力を行うことによって(第1段階:集中)、特に意識せずともその集中が絶え間なく続くようになり(第2段階:瞑想)、最終的には心の中でその対象と自分自身が一つになる(第3段階:三昧)ってヤツです。

次回は、「自分自身で、自分が信じていること(確信)を作り変える」という話です。なにそれ怖い。


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