オリンピックから、射撃競技が大幅に削減されてしまうのではないかという話は、もうずっと長いこと、現実的な心配事として存在していました。特に2020東京オリンピックでは、男子種目のほうが女子種目よりも多い射撃は「男女平等」の大義名分のもとに種目削減圧力の矢面に立たされている状況になっています。そのことは、今年の5月にUPしたエントリーでも書いたことがあります。
50mピストル競技が無くなるって、どのくらいマジな話なの?【海外の反応】
先月、11月24日にISSF(国際射撃連盟)に衝撃的な記事――いや、ある程度は予想されていましたからそれほど衝撃というわけでもないのですが、それでもやっぱりガックリ来てしまう記事が掲載されました。
東京2020:ISSF特別委員会が射撃プログラムの提案を発表
Tokyo 2020: ISSF Ad-Hoc Committee releases Shooting program recommendations
簡単に書くと、ISSFの特別委員会は「男女の種目数を同じにしろ」というIOCの要求に応えるために、既存の種目をいくつか入れ替えるという方向性での提案をする、というものです。具体的には下記のような形になっています。
ダブルトラップ男子→トラップ男女混合
50mライフルプローン男子→10mエアライフル男女混合
50mピストル男子→10mエアピストル男女混合
「種目数は減らさない」という目標をなんとかして達成するために考え出された苦肉の策だというのはわかります。しかし、これで一番割りを食ってしまったのが50mピストル競技です。削除されたのは50mピストルの他にも、50mライフル伏射とダブルトラップがありますが、50m伏射自体は「3姿勢競技の一部として残る」という考え方もできますし、ダブルトラップは撃つ数が違うだけでトラップ競技の派生みたいなもんだという考え方もできます……ちょっと強引ですが。
しかし50mピストルは違います。他に代替は効きません。その銃を使う、その競技そのものがオリンピック競技から削除されてしまうのです。「火薬で撃つ弾を使うピストル競技」という分野がオリンピックから消滅してしまうわけです。これは大きな問題です。
「やってる人はそんなにいないんだからいいじゃん」「難易度が高すぎて一般的じゃないスポーツなんだし」みたいな意見もあるかもしれません。そういうことを言う人を実際に見たことや耳にしたこともあります。しかしその一方で、「そんな理由で、伝統ある競技をなくしてしまって良いのか?」という意見もあります。50mピストル――昔はフリーピストル、つまりルールでの制限なし(フリー)なピストルと呼ばれていました――は、第一回近代オリンピックからほとんどルールの変更なしに、ずっと続いている唯一の競技である、という話も今年の5月にUPしたエントリーで書いたことがあります。
まだあくまで「ISSF特別委員会の提案」という段階であり、決定ではありません。しかしこのまま何もしなければ、この提案はそのまま決定となってしまう可能性が非常に高いのも事実です。そんなことはさせるかと行動を始めた人もいます。一人ひとりの意思をまとめて政府や企業に意見を届ける(請願する)ための仕組みとして作られた「change.org」にも、ある人が50mピストル競技を守ろうという請願キャンペーンを立ち上げ、賛同者を募っています。
今回はそのページと、それに賛同した人が書き込んだコメントから抜粋して簡単に意訳してみたいと思います。
オリンピックの50mピストル競技を守れ
引用元:SAVE 50M PISTOL SHOOTING AT THE OLYMPICS(change.org)
50mライフル競技と50mピストル競技を、オリンピックのプログラムから削除する――この、ISSFによる提案を聞いたら、ピエール・ド・クーベルタン(近代オリンピックの父)は墓穴から飛び出してくるのではないでしょうか。
ISSFは、その持てる力全てを使ってオリンピックから射撃競技を滅ぼそうとしているかのように見えます。50mピストルとライフルを男女混合競技にするとか、25m男女混合競技を追加するとか、そういった要求には屈しなかった点においてはISSFは「強さ」を発揮しましたが、我々の関わっているスポーツの根幹に関わる種目を破壊するという暴挙だけは絶対に見過ごすわけにはいきません。
オリンピック射撃競技
ISSFが、オリンピックの射撃プログラムを破壊しようとしている可能性があります。
「不賛成である」というメッセージをISSFや、自らが所属している地域・州・国の射撃団体に対して送りましょう。私自身、そして国の代表選手や連邦クラスでの代表選手、そしてベテランの選手、私がコンタクトした全ての50mピストル射手がこの決定に憤慨しています。
ISSFに対して持てる全てのコネクションを使い、持てる最強の表現を使って非難の意思を伝えましょう。もし、ISSFに対して異議を申し立てる射撃協会が一つもなければ、ISSFは自らが行おうとしている「破壊活動」が広範に受け入れられていると判断してしまいかねません。
少なくても現時点で明らかなことは、装薬銃を使用する競技がオリンピックからゆっくりと、しかし確実に取り除かれようとしつつあるという事実です。
我々はもう座して待っていることなどできません。仲間内で愚痴をこぼし合うだけでは何も起こせません。ISSFのこの腰砕けの提案は、「アンチガン連中」をおごり高ぶらせるだけです。それは、なんて悲しい結果でしょうか。
【賛同者のコメント】
- フリーピストルは残して欲しいです。射撃競技の王様ですから。(イタリア)
- ISSFに抗議の意志を送ろうという請願に賛同します。なぜなら、私もこの射撃スポーツから伝統を大きく損なわせるISSFの提案には、大きな喪失感を感じたからです。我々は50mピストル競技を失うわけにはいきません。これは1896年(近代オリンピックが始まった年)から絶える事なく続いている歴史の一部だからです!(セルビア)
- フリーピストルは、ピストル射撃における「フォーミュラ1」であり、「ブルーリボン」です(訳者注:つまりは最高レベルにある特別な競技だってことを、言葉を尽くして説明しようとしているんですね)。オリンピックから削除するなんてとんでもないことです。(スウェーデン)
- ピストル競技というとパワフルなものばかりに思われていますが、フリーピストル競技は精度を競うという点ではオンリーワンであり最高峰です。(ロシア)
- 親愛なるISSF、そしてIOCの皆さんへ。なぜ純粋なピストル競技であり、片手で行う究極の精密射撃へのチャレンジである、射撃競技の女王を排除しようとするのですか? オリンピックというのは、人類のそういったチャレンジそのものではなかったのですか?
男女平等のためですか? ならば、女性にも門戸を開けば良いではないですか。もっと言えば、全ての競技を女性に対しても開放すれば良いのです。しかしあなた方は、男女の競技は別々でなければならない(そうでなければスポーツとして成り立たない)と言います。すでにエアピストルでは男女混合競技が開催されているというのに!
私たちのスポーツは、「チャレンジ」です。ビジネスではなありません。今、あなたがたが行うべきチャレンジは、この素晴らしいイベントを維持し改善することです。 「伝統」と「平等」は、ただ衝突させるのではなく、手を取り合い両立させることができるはずです。(コスタリカ) - 一体どこの誰が、このクソのようなアイデアを思いついたのだ。50mピストルは、全ての射撃スポーツの中でも、最も長い「歴史」というバックボーンを持ったものなのに、このクソ連中はシットアスな男女混合競技とトレードしようと企んでいるのか?(スウェーデン)
- オリンピックから、ピストル射撃競技の王様を削除しようなんて、馬鹿げているとしかいいようがない。(インド)
- 「伝統」は「男女平等」よりも重要視されるべきです。そもそも、全てのスポーツで男女平等を完全に実施することなど不可能です。(スイス)
- 女性もフリーピストルに参加できるようにするべきです。1896年以来、ずっと続いてきた男子競技を削除するなんてことはせずに。(アメリカ)
- 50mピストルは、オリンピック射撃競技の中でも最も古くから行われているものだ。それが失われるなんて、とても悲惨なことだ。次にやり玉に上がるのはどの競技だろう。水泳だろうか? 「人間が水に濡れるなんてとんでもないことだ」とかいう理由で。(オーストラリア)
- 私は女性ですが、この請願にサインしました。なぜなら、私も50mピストルを撃っているからです。3つの競技を男女混合にするという選択がなぜできないのか、その理由が理解できません。(オーストラリア)
- オリンピックからの射撃イベントの除去は、アンチガンロビーのもう一つの勝利に過ぎない。 射撃は、世界中の何百万人もの人々が楽しんでいる正当なスポーツである。ISSFによるこのスポーツの漸進的なダウングレードは、連盟の存在理由、すなわちスポーツとしての射撃を促進することに反するものに他ならない。(オーストラリア)
- 50mフリーピストル競技は残すべきだ!(ロシア)
- 射撃スポーツ、特定の一つではなくその全ては、私にとって重要なものだ。もしそのうち一つでも排除されてしまったら、他の種目も雪崩式に同じ運命をたどるのではないかと不安でならない。(アメリカ)
- 50mのピストルとライフルは、射撃競技の中でも最も厳しいイベントです。それらを失うことは悲劇です。(オーストラリア)
- 射撃スポーツは、体格や性別に関わりなく誰でもできます。参加したい、練習することを望んでいる全ての人に開かれています。オリンピックでこのイベントを開催し続けられるようにして下さい!(アメリカ)
- 「男女平等」は崇高な理念であり、目指すべきものだというのは理解できます。しかし50mフリーピストル競技と25mラピッドファイアピストル競技は、最も初期から行われている私達のスポーツの原則を支えるものであり、国際レベルの競技大会では「ポリティカル・インフルエンス(政治的影響)」からは保護されなければならない2大イベントです。(オーストラリア)
- 私はピストル射手です。射撃スポーツは、他のスポーツと同じ価値があると思います。(イギリス)
- 伝統的な競技を廃止してしまう合理的な理由など、どこにもありません。(アメリカ)
- 世間の理解に乏しいという点では、異常なほどです。(アメリカ)
- 50mピストルは、基本となる競技です。なくすべきではありません。(オーストラリア)
- 「射撃競技の削減」というこの決定は多分に政治的なものです。射撃イベント廃止を目論むアンチガンによるものです。(チェコ共和国)
- 私は射撃選手であり、フリーピストルが好きです。 それは最も難しい射撃種目です。
「難しい」「あまり普及していない」という理由だけで種目を削減してしまうなんてのは、ばかげた考えです (例えば、世界の何人がスケルトン競技をやっていますか?)。なんといっても、50mピストルは近代オリンピックが始まって以来、ずっと続けられているもっとも古い種目の1つです。(チェコ共和国) - 50mピストルは、射撃スポーツの中で最も古く、最も純粋なものです。(アメリカ)
- 競技射撃は、オリンピックの歴史の中ではとても大きな存在感を持っています。それがなくなってしまったりしたら、私はとても残念です!(アメリカ)
- 始まって以来変わらない最古の射撃スポーツ! オリンピックでプレーするには最も難しいゲームです!(アメリカ)
- 射撃スポーツは私たちのヘリテージ(遺産)の一部であり、将来の世代のためにその誇り高い伝統を守ることは私たちの責任です!(アメリカ)
コメントにはフランス語やロシア語のものもありましたが、さすがに全然読めないので省略しました。
この請願への「賛同」は、ページにアクセスしてボタン押すだけでできます(Facebookのアカウントが必要かも)。この記事を書いている時点では、「5,000人まで残り1,166人の賛同者が必要です!」となっています。
賛同者のコメント見てるとわかりますが、「こうするべきだ」という主張は必ずしも一枚岩ではありません。男女混合競技を新設するという考え方自体をナンセンスなものだとする意見もあれば、男女混合はもっと推し進めたほうがいい、むしろ50mピストルを男女混合競技として残すべきだという意見もあったりします。共通しているのは、「50mピストルは、いろんな意味で特別な競技であり、オリンピック種目として残しておく価値のあるものだ」という意見ですね。これは、私もそう思います。
実際の競技進行上の問題ってのもあるとは思います。しかし50mピストルに限って言えば、少なくとも「競技場の建設費用」といった方面での問題(それこそ、いまボートとかバレーとかで揉めに揉めてる問題)はあんまりないはずです。なんといっても、競技場は50mライフルと同じものが使えます。ターゲットまでの距離だけでなく、使用する弾も同じものですから。さすがにターゲットのサイズは違いますが、競技場を建設するお金に比べればターゲットを揃えるお金なんて無いようなものです。
そういえば……。韓国語のコメントや韓国の人の投稿がぜんぜん見当たりませんでした(あっても韓国語は全く読めませんけれど)。50mピストル競技で「世界一の選手」は、以前にも書きましたが韓国のJin Jong-ohです。なんといってもオリンピックでは前人未到の三連覇中です。2020東京オリンピックでも金メダルとったりしたら脅威の四連覇です。なにかといったら「世界一」にこだわる韓国の人にとっては、そりゃもう誇らしいことのはずです。英雄扱いされてたりするはずです……してますよね? その四連覇が、わけのわからない政治的理由によって阻まれようとしてるんです。怒りなさいよ! いつもみたいに!