手のひらにピッタリと吸い付くような形をしたグリップが、競技用ピストルの特長の一つです。手の大きさや形は人によって違うので、競技用グリップは大中小のサイズ違い、さらには細かい角度違い、もちろん左右の違いなどいくつかのバリエーションがあるのが普通ですし、取り付けた後も細かい角度などを微調整できる仕組みを備えている銃もあります。
それでも足りない場合は、自分の手に合わせてグリップを削ったり盛ったりすることになります。多くの射手は何らかの形でグリップの改造をしています。もちろん、どのくらい手を入れる下という程度には人によって差があり、ほとんど原型を止めないレベルで手を入れる人もいれば、ちょっと削るか盛るくらいでほぼノーマルのままで使っている人もいます。
しかし、「どういうふうにグリップを盛ったり削ったりすれば良いのか?」ということについては、なかなかコレといった正解が見当たりません。その理由は、まず最初に書いた「手の大きさは形は人によって違う」というのが一つ。そしてもう一つの理由が、グリップを握った時に手のひらと銃との間にどんな圧力が生じるのが「良い」のか、その判断基準が人によって異なるということです。
手の形にピッタリとフィットして隙間なく接しているのが一番良いんじゃないのかと思わえるかもしれませんが、実はそれはほぼ確実に「不正解」なやり方です。単に銃を握って構えて標的の方に向けるだけでいいならそれもアリかもしれませんが、ピストル射撃ってのはそこから「トリガーを引く」という作業が入るのです。トリガーを引くのは、当然の話ですがグリップを握っているその手についている人差し指です。グリップが「手のひらに隙間なくピッタリとフィットしている」と、人差し指に力を入れてトリガーを引く過程で必ず銃が動いてしまいます。さあ撃つぞというその瞬間に銃が動くわけですから狙ったところに弾が当たるはずがありません。
これが競技ピストルのグリップを「どういうふうに作るか」という点において、大きなジレンマになるわけです。
数多くの文献や動画などがオンラインで手に入りますが、今回はごく最近に射撃専門BBSであるTagetTalkに立ったトピック、その名もそのものズバリの「Grip Modifications?」というトピックを簡単に翻訳して紹介してみたいと思います。ピストル射撃競技のなかでも最も悩ましい要素であるグリップについてのトピックだけあって、皆さん物凄い長文で語る語る語る! 日本のネット掲示板だったら「長文ウザッ」って言われそうなくらいの書き込みばかりの、実に濃いトピックになっていました。
グリップの改造について教えてください。
Grip Modifications?
- 私はステイヤーEvo-10を購入してピストル射撃競技を始めたばかりの新参シューターです。私の銃のグリップはミディアムサイズ・右用ですが、とりあえず私の手には正しくフィットしているように思えます。
しかし周りの射手を見るとほぼ全員が自分のグリップに対して何らかの改造を施しています。自分の手に合うようにするために、どこかを伸ばしたり木工パテを盛ったりといったものです。その人達に、そういった改造はどういった効果があるのかと訪ねてみたのですが、「経験を積めばいずれあなたにも分かるよ」と言われるばかりです。
しかし、自分の銃のグリップをヘタに弄って台無しにしてしまう恐怖のことを考えると、グリップへの加工を始めることにはどうしても躊躇してしまいます。
グリップが自分の手にうまくフィットしているかどうかを確認する良い方法というのはあるのでしょうか? 柔らかいパテみたいな素材をグリップに盛った状態でギュッと握って手形を付ける……みたいなやり方がいいんじゃないかと思ったんですが。
練習で15,000発以上も撃ちましたので、そろそろ自分でできる範囲で微調整とか改良をする方法を探し始めてもいいんじゃないかと……。
何か助言をお願いします。 - 私は、ロックタイトFUN-TAKを使っています。ネットで買えますし、近くにウォルマートがあれば置いてあるはずです。硬くなりますがカチコチに固まるわけではないので、必要とあれば形を変えたり取り除いたりすることも可能です。(アリゾナ州フェニックス)
- グリップの改造はやってみる価値はありますが、「やりすぎてはいけない」というのが私のアドバイスです。理由は2つあります。
1:あなたの「握り」は再現可能ですか?(毎回同じようにグリップを握っていますか、という意味)
グリップの形状をよりフィットするように改造することの目的は、自分の手とピストルを毎回同じようにホールドできるようにするということです。これは、手の形(指の関節のシワとか指と指の間の溝とか)を正確に成型するという意味ではありません。なぜなら手の形というものは時間帯とか温度とか水分補給の具合などによって変化するからです。完璧なフィットというのは不可能なのです。
また、銃を側面から押す形になる接触(例えば手のひらなど)は、射撃時に銃を動かす(照準を乱す)原因になりやすいものです。全ての重要なサポートは、銃身のラインに沿ったものでなければなりません。
2:自然狙点は標的方向を向いていますか?
スタンスを整えてから、目をつぶった状態で銃を構えて持ち上げます。「良い感じで構えられた」と思ったところで目を開けます。その時、照準はターゲットと一直線に並んでいますか? ステイヤーをお使いとのことなので、少しくらいのズレならグリップの角度変更機能を使うことで調整できると思います(そういう調整機能を持たない銃の場合でも、パテを使うなどして調整は可能です)。
上下方向のズレは腕の上げ方や筋肉の緊張具合によるものかもしれませんが、あまりに大きくズレているようならグリップを握る角度そのものを変えることを検討してもいいかもしれません。しかしまずは左右のズレが最小限にすることが第一目標です。グリップの角度調整範囲を超えたズレがある場合は、パテを試してみましょう。まだグリップを削ってはいけません。グリップを盛るにせよ削るにせよ、必要とされるのは非常に小さな変化だけです。私は、多くの射手はパテを多く盛りすぎだと思います。
「Nygord's note」など、とても参考になるリファレンスがオンラインで提供されています。どこかを削りたいと思ったときには、まずは逆にその場所にズレが2倍になるまでパテを盛ってみてください。その盛った量が、ズレを解消するために削るべき量になります。(アメリカ・マサチューセッツ州)
- 物凄く参考になりました。素晴らしいヒントに心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。
EVO-10のグリップ角度調整機能は広く、上下も左右もかなりの広範囲に調整することができます。とりあえずはソレでできるところまでやってみたいと思います。
グリップを盛ったり削ったりといったモディファイは、注文した交換用グリップが届くまでお預けにします。そのグリップか今使ってるグリップか、どちらにせよ実際にモディファイを始めるには、「修正が必要だ」ということを強く確信する必要があるんじゃないかと思います。
けれど、グリップのモディファイが必要か否かを判断するための、なにかもっと良い方法があるのではないかとも思うのです。
- 目を閉じてピストルを構えた時に自然にサイトがターゲットにポイントするように、グリップの角度を調整してください。そして、グリップから手を離して握り直すというのを10回行っても完璧に同じグリップができるようにします。その状態でターゲットを毎回正しくポイントできているのならば、それ以上なにかをいじる必要はありません。
ただし、「繰り返し可能なグリップ(毎回、同じようにグリップを握れるということ)」というのは、ハードウェアだけによって実現できるものではないことには注意が必要です。グリップを握るプロセスにおいて、銃を握らない方の手をどう使うか(普通は銃身の下を掴みますね)というのも、とても大事なことです。それを正しく身につける以前に行う細かいグリップの調整は時間とエネルギーの無駄です。グリップがどういう形状であるかに関係なく、射手はピストルを毎回同じように握ろうと試みます。銃を撃つ方の手で銃を掴んで持ち上げて、反対側の手を使わずに片手だけでモゾモゾとやって位置を調整するというのは良くないやり方です。
もう一つ、心に留めて置かなければならないことがあります。今のような素晴らしい競技ピストル用グリップが登場するより以前、粗末な棒のようなグリップしかなかった時代でも人々は素晴らしいスコアを撃っていたということです。「繰り返し可能なグリップ」を手に入れるために十分な練習を積めば、最新型の競技ピストルが備えている数々の調整機能はそれほど重要なものではなくなります。「一貫した照準」ができるように練習を積めば、自然狙点がターゲットのセンターに合っていないということは決して世界の終わりを意味することではなくなるのです。(アメリカ・マサチューセッツ州) - 上の人が書いている「ポイント2」は、まさに「我が意を得たり」です。私は射座で視線を下げて目を閉じているときは、ただひたすら「銃を正しくグリップできているのか」ということだけを考えています。銃を構えて目を開けて、サイトがどこをポイントしているかを見ます。銃を下ろしてグリップをいったん離して握り直し、同じことを繰り返してサイトがポイントしている場所を前回と比べます。理想は何度銃を握り直してもポイントしている場所が同じであることですが、もしそうでない場合は前後サイトが綺麗に同じように並ぶようにグリップについて何かを変更する必要があるということです。
「グリップの変更」には、ある程度の木の除去が必要な場合があります。ヤスリや、粗いサンドペーパーのアタッチメントを付けたドレメルで始めます。削ったり盛ったりしてから空撃ちをしてどういう効果があったのか確かめ、また作業を繰り返してという作業は、地道で根気のいるものになります。私の場合、「これでよし」と思えるグリップを手に入れるのに最初は数ヶ月を要しました。
グリップしている手のどの部分に強い圧力がかかっているか、逆に圧力が十分にかかっていないかを感じることができるようになることが必要です。グリップと手が接している部分全てが均等な圧力になるようにしましょう。私は頻繁に圧力が足りない、サポート不足であると感じる部分を埋める作業をします。まずは粘土を使ってスポットを埋めて射撃を行い、粘土の量を調整することは重要です。正しい量の見当がついたら、「クイックウッド」を使う作業に入ります。これは2剤を混合するタイプのエポキシパテで、固まる前は粘土のように扱うことができます。小さなカタマリを切断し均一ないろになるまでよく練ってからスポットに盛り付けます。多すぎる量を持ってしまった場合でも、ノミやヤスリを使って簡単に除去することができます。私はごく小さなカタマリをチマチマと足していくやり方をしています。
王義夫なんかは、試合の真っ最中にヤスリを取り出してグリップを削ったりしてましたっけ。
上に書いてあることを実行した結果、あなたのグリップの見た目がグチャグチャになってしまったとしても、私を責めないで下さい。私のグリップは、手に接する部分のほとんどは元々あった木ではなく、盛ったパテになってしまっています。「グリップの見た目は気にしない連合」の仲間に入りましょう。(オレゴン)
- >グリップと手が接している部分全てが均等な圧力になるようにしましょう。
ここについては、私は「それは違います」と言わなければなりません。全ての場所を同じ圧力にすることを望んではいけません。求めるべきは、銃身のラインに沿って、グリップのフロントとリアへの圧力を同じにすることです。グリップの側面に圧力を加えることは、不必要な不確定要素を銃に与えてしまうことになります。照準時に銃の角度を不意に変更してしまう可能性のある、ありとあらゆる接触は取り除かれるべきです。構えた状態で銃を強く握ったり力を抜いたりしたときに照準が左右に動いてしまうようなら、そのグリップには何らかの問題があります。
そういうグリップでも、銃を握る圧力を常に一定なものとすることで照準エラーを回避することは可能です。しかし試合で緊張していたりすると、照準はとんでもない方向に動いてしまいます。これは、「手の全体に完璧にフィットするように成型したグリップ」を使うことについての、大きな誤謬です。そういうグリップは、手とグリップの間の圧力が銃口をありとあらゆる方向に動かしてしまうのです。全ての圧力は、銃身線に沿ってグリップの前後にかかるべきなのです。(マサチューセッツ州)
- >全ての場所を同じ圧力にすることを望んではいけません。求めるべきは、銃身のラインに沿って、グリップのフロントとリアへの圧力を同じにすることです。
多分、私は自分の感覚を明確に表現することができなかったようです。グリップの前後への圧力を、そのほかの部分の圧力よりも高めにするべきだというあなたの意見に同意します。
ただ、私の個人的な感覚ですが、それ以外の部分はある程度の圧力で均一に接触している方が好みです。圧力がゼロで隙間が開いてしまうような形というのは好みではありません。私の意見ですが、この方法はグリップを毎回同じように握るために必要な要素だと思います。(オレゴン)
- >圧力がゼロで隙間が開いてしまうような形というのは好みではありません。
私は、「圧力がゼロで隙間が空くような感じ」は好みです。人間が提供できる、最も一貫性がある圧力はゼロです。私のお気に入りのグリップは、手のひらのほとんどの部分がグリップに接触しない形になっています。
要するに、私は自分の銃のグリップの木材のほとんどをチェーンソーを使って除去してしまうことを躊躇しないということです。思うに、「スケルトン(ガイコツのような)」グリップは見た目は地獄のように醜いですが、非常に効果的だと思います。(マサチューセッツ州)
- 私も一つ、意見を述べさせて下さい。
話は、私がジュニアだった1982年まで遡ります。私の所属しているシューティングクラブは、私が使っていたFWB65のグリップをカスタムするためにイタリアからグリップマイスターを招聘しました。カスタムされたグリップは実に良い感じでフィットしました。通常のグリップとはまるで違いました。
しかし、そのグリップはスコアアップには繋がりませんでした。
グリップを削ったり盛ったりするときには、とにかく「ほんのすこしずつ」行うべきだということを私は強く勧めます。(なんとなくドイツっぽい) - 私はエキスパートには程遠いですが、パームシェルフ(競技ピストルのグリップで、手を下から支える上下に可動できるパーツ。ヒールレストとも言う)のエッジが手のひらに食い込むくらいに上げると銃が安定するというのはわかります。(国籍不明)
- >パームシェルフを手のひらに食い込むくらいに上げる
これは、私がこれまで手がけてきた数多くのグリップにおいて、まず最初に手を入れる部分です。かなり強い圧力がかかる場所であると同時に、パームシェルフの後部は鋭角なコーナーになっています。仮にグリップの再現性や安定性に影響を与えていなかったとしても、60発を撃つと怪我の原因になりやすいのです。(マサチューセッツ州)
意見が錯綜していますね。激論一歩手前って感じです。
ただ、共通する点、意見の一致を見ている点もあります。「手のひらをそのまま型どったような、完全にピッタリフィットするようなグリップは良くない」ということと、「グリップと手のひらの間の圧力は、銃身線に沿った前後の圧力を大きく、側面からグリップを押さえ込むような圧力はゼロないし非常に弱くなるように調整する」ということです。
目指す要素は大きく分けて2つ。まず第一に、「目をつぶって銃を構えても前後サイトが一直線に揃う」こと。そして第二の目標として、「グリップを強く握っても弱く握ってもサイトの前後位置が動かない」ことです。この2つの目標を完全にクリアできるグリップを手に入れることができたら、据銃能力に欠けていて銃を構えてもサイトがふーらふら動くようなヘタクソシューターでも10点を面白いように連発できるに違いありません。
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