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ワインツーリズム2010-01 ~奥野田葡萄酒~

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勝沼のワイナリーへ、電車を使って行くとなると降りる駅の定番は「勝沼ぶどう郷」になる。だがその隣、「塩山(えんざん)駅」のまわりにもいくつかのワイナリーがある。ワインツーリズムでは勝沼エリアと塩山エリアは切り離された形となっていて、勝沼ルートは10分間隔で頻繁にバスが走るのだけれど、塩山エリアではバスの本数も少なく、予定をしっかりたてないと待ち時間ばかりが長くなって上手い具合にワイナリーを巡れない。そのため、まず真っ先に勝沼ではなく塩山駅に向かい、塩山エリアにあるワイナリー2カ所を訪れることにした。

まず最初は奥野田葡萄酒。甲州種がメインとなっていることが多い勝沼のワイナリーの中では、シャルドネやカベルネソービニヨンなどのヨーロッパ品種を使い、時には樽も使いながらじっくりと発酵させた辛口の本格派ワインを多く取りそろえている、少し異色な感じのワイナリーなのだが、歩いていくのが少し難しい場所にあったので今まで訪れたことは無かった。

奥野田葡萄酒代表の中村氏はかつては勝沼ワイナリーの老舗である中央葡萄酒で働いていたが、1989年に独立し、自分ならではのワイン造りを始めた人物だ。といってもワイナリーを一から立ち上げたのではない。「奥野田葡萄酒」という会社そのものはずっと以前からある古いワイナリー、いや「葡萄酒醸造所」である。近辺のブドウ農家の人たちが、自分の作ったブドウを持ち寄って仕込んでワインにして自分たちで消費する、いわゆる「ブロックワイナリー」が元になっている。

駅からはちょっと離れていることもあって、普段はちょっと訪れづらい場所にある奥野田葡萄酒。普通の事務所というか作業場みたいな場所にちょっとだけ手を入れてオシャレにしたところ、といった雰囲気か。2Fのテラスみたいになっているところが試飲会場となった。足元のコンクリの下には、実はブロックワイナリー用のワイン貯蔵タンクがあるのだとか。


ブロックワイナリーについては以前書いたが、基本的には「他人に売る」ことはあまり考えてない、自分たちで飲む用のワインを自分たちで作るために作られた会社だ。大昔から勝沼では自分で作ったブドウで自分で飲むワインを作ることが行われていたが、酒税法が改正され、勝手に酒を作ると「違法な密造酒」となってしまうようになった。キチンと会社を作って税を収めないとならないわけだが、年間である程度以上の醸造量がないと醸造所として認められない。その量をクリアするため、複数のブドウ農家で集まって一箇所で酒を作ることで、見かけ上の生産量を確保して醸造所として認めて貰うというものだ。一種の苦肉の策と言えるだろう。

いまでも奥野田葡萄酒の施設の一部では、そういったブロックワイナリー的なワイン造りをしているところがあるが、基本的にはそういったワインはカタログに載ることもなく、店頭で売られることもない。もっとも、直接訪れれば購入することができる場合もあるそうだが。基本的には「奥野田葡萄酒」の名前で販売されるのは、中村氏が手をかけて作った、ある程度値段が高くなるワインのみとなる。

ワインツーリズムで訪れるお客さんにどういう対応をするのかは、各ワイナリーの自由に任されている。いつもどおりに無料で試飲してもらっていつもどおりに購入してもらうという形でもいいし、特別なイベント形式にして試飲会や説明会をタイムスケジュールどおりに進行しても構わない。ここは、1000円での有料試飲と説明会という形で訪れた人達に対応してくれていた。他のところはほとんど無料試飲なのに、ここは有料ってセコくない? いやいや、お金を払っただけの価値がある試飲ワインと、それについての熱心な(醸造家本人による)解説が聞けるのだから、十分に元はとれたと思う。

今回、1000円での有料試飲で振舞われたワイン6本。左から自社農園収穫カベルネ・ソーヴィニヨン種100%の「カベルネ夢郷奥野田」、甲州市収穫甲州種100%の「2009ラ・フロレット ハナミズキ・ブラン」、奥野田地区収穫メルロ100%の「2009ラ・フロレット スミレ・ルージュ」、奥野田地区収穫ミルズ100%の「2009ラ・フロレット ローズ・ロゼ」、自社農園(桜沢圃場)収穫シャルドネ種100%の「ワイン・ヴィーナス2009桜沢シャルドネ」、自社農園収穫メルロ種65% カベルネ・ソービニヨン種35%の「ワイン・ヴィーナス 2007メルロ&カベルネ・ソーヴィニヨン」。


奥野田葡萄酒では、自社畑を持っている。もちろん農家から買いあげたブドウを使ってのワイン作りもしているが、中村氏が熱心に話すのはその自社畑で作るブドウの変化についてだった。自分でブドウを育てて作っているからこそ、土壌の特徴や樹の変化、そして実るブドウについてしっかりと把握できるということだろう。

奥野田葡萄酒の畑は甲府盆地東部にある比較的傾斜のきついところで、すべて垣根栽培をしている。中村氏の年齢はだいたい30台後半といったところだと思うが、彼らよりも上の世代の人たちは、「甲州を世界標準にしよう」という目標をもってやってきた。甲州こそが勝沼が世界に誇れるぶどう品種であり、これを認めさせることがすなわち日本ワインの未来を開くことだという強い誇りと信念を持っていた。中村氏は、「自分たちは、メルローやシャルドネなど、世界の物差しで測れるワインに挑戦している」と語る。実は甲州も一昨年「世界の物差し」の仲間入りをしたのだが、やはり何十年と歴史のあるメルロー、シャルドネといった品種で「優れている」と認められるワインを作りたい、そういう情熱を持ってワイン作りに取り組んでいる。面白いことに、もっと若い世代となるとまた少しワイン作りへの取り組み方が変わってくる。たとえばデラウェアでシュールリーをかけるとか、これまでの常識とはかけ離れた方法で、全く新しいワイン作りをしてみせるのだとか。

奥野田葡萄酒代表の中村氏と、奥さん。試飲として提供された6本のワインについての説明のみならず、勝沼という土地について、ワイン作りについて、日本でワインを作るということの本当の意味について、いろいろと語ってくれた。


奥野田葡萄酒で作っているワインのうち、自社畑のブドウは全体の60%ほどだとのこと。特に力をいれているのがシャルドネで、全て自社畑産だとか。逆に甲州は農家から買ってるのだという。

この自社畑産のシャルドネについて面白い話が聞けた。96~98年ごろか植えたのだが、最初は全然駄目だったところが、2007年に獲れたブドウからは、いかにもシャルドネらしい乾いた石の香りがする良いブドウになった。これが、「徐々によくなっていった」というわけじゃなく、本当に2007年に突然よくなったところに「土壌」の秘密がある。10年経って、土の下の石まで根が達してミネラルを吸い上げるようになったのではないかというのが中村氏の推測だ。

ワインはブドウから作られ、ブドウはブドウの樹が育て、ブドウの樹はその土地の土と水と太陽が育てる。だからワインには、その土地の土と水と太陽の特徴が反映される。中村氏は「野菜とワインをあわせる」ことに特に注目しているという。奥野田葡萄酒のワインは、ゆでた野菜や焼いた野菜に合う。タマネギのかき揚げとかにも合う。日本の野菜は日本の水で育っているのだから、野菜の中には日本の水特有のミネラル分が吸収され、野菜を形作っているはずだ。なら、そういった野菜に合うのは、同じように日本の水で育ったブドウで作られたワインなんじゃないだろうか…というのが中村氏の持論だ。

2Fのテラスのようになっているところに、後から取ってつけたように立っているログハウスがテイスティングルーム。といってもワインツーリズムでは人数の多さから、全員この外(テラス)に出て試飲を行ったのだが。


あともう一つ、面白い話を聞けた。勝沼というと甲州種というイメージがあるが、実は奥野田葡萄酒の自社畑がある場所は日本のデラウェア発祥の地だという。それもあって、中村氏は「甲州以上にデラウェアには誇りを持っている」と語る。「本格的なワイン造り」というには少しイメージが外れる、いわゆるお土産物屋ワインというイメージが強いデラウェアのワインを、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどのいわゆるヨーロッパ品種がメインとなっている奥野田葡萄酒であえて作っている理由がそれだ。試飲したデラウェアワインは、今はまださらっとした甘くてさわやかな口当たりだが、来年(2011年)の夏くらいになると酸味の腰が減ってトロッとした感じになるとのことだ。

甲州種やマスカットベイリーAなどがメインとなりがちな勝沼のワイナリーの中で、「世界の物差しで勝負できる品種」にこだわって自社畑栽培のブドウを原料に本格的なワイン作りに取り組んでいる奥野田葡萄酒。特にここのシャルドネは「これ本当に日本製なのか」と疑ってしまうほどに奥深い味わいを持っている。国産ワインとしてはちょっと高め(3,360円)だが一度呑んでみる価値はあると思う。ワイナリーの場所も駅から離れておりたやすく訪れることができる場所ではないが、「本気で世界を相手にできるワインを作る」ことに取り組んでいる人達の話を聞ける貴重な機会と思えば苦労も吹き飛ぶ。人懐っこいワンコが迎えてくれるだろう。

奥野田葡萄酒醸造株式会社

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