製品レビュー 射撃のコツ

ビームピストルはスペーサーを外して使いましょう

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日本でエアピストル射撃をやりたいってなったときに、現時点では最も手軽なルートとなるのが、ビームピストルで初段を取ってエアピストル所持に必要な推薦を受けるというやり方です。他にはエアライフルとかハンドライフルを所持して同じように初段を取って推薦を受けるというのもありますが、「ピストル所持のためにまずはエアライフルを何十万も出して買って警察に行って所持許可を取ってきてください」ってのは、いくらなんでもハードルが高すぎで、とてもじゃないですが手軽なルートとは言い難いものがあります。

ではこのビームピストル、つまりはレーザーを使ったピストル射撃のシミュレーターなわけですが、これってエアピストル所持を目指すための練習グッズとして最適か?理想のピストルシミュレーターか?って言われると、視線をそらして口ごもってしまいそうになります。いろいろと文句を付けたいところ(値段の高さとか、トリガーの形とか引き味とか、サイトの形とか耐久性とか)が出てきそうになります。値段の高さ以外は、自分の銃であればいろいろと工夫をこらして改善を図ることもできますが……。

とはいえ、まあ、致命的な欠陥ってほどじゃありません。ビームピストルで練習してすげー上手くなった人が、そのままエアピストルに持ち替えて練習を始めれば、たぶんそんなに時間かからずに同じようにすげー上手く撃てるようになると思います。その点では、ビームライフルとエアライフルの差よりも、ビームピストルとエアピストルの差のほうが小さいといって構わないんじゃないかと思います(ライフルの世界で、ビームで実績のある高校生がエアに持ち替えたときに、それまでの技術や経験が全く役に立たなくて死ぬほど苦労するって話は、すごく良く聞きます)。

なにより、ピストル射撃に興味を持って始めたいと思ったときに、本当に弾を撃つそれなりに危ないエアピストルではなく、レーザーを使った安全なシミュレーターが用意されていて、(偏りはあるものの)全国どこでも射撃場に行けば貸してもらえて実際に撃って体験できるし、なんならそのままそこで練習を重ねて大会にもその銃で出場して実績を残せばエアピストル所持の足がかりにできる、なんてのは世界的に見れば「ものすごく、恵まれた環境」と言ってもいいんじゃないかと思います。足りない部分だけを見て文句ばかり言ってても何も先に進みません。恵まれた部分もあることをちゃんと認めて感謝することも大事なことのはずです。

とはいえ! ヘンなところはヘンだってちゃんと言わなきゃ駄目です! というわけで今回は、「興東電子のビームピストル、ここだけはヘンだからちゃんと直しておきましょう(自分でできるので)」というお話です。

エアピストルやってる人が初めてビームピストルを持ったとき、高い率で「なんか、サイトの位置がやけに高い?」って感じると思います。サイトの位置が高い、というよりは「銃そのものがグリップに対して全体的に高い=グリップが銃から下方向に離れた位置で固定されている」のです。

興東電子のビームピストル。グリップとサイトの間が大きく離れています。
比較用にデジタルピストル(ステイヤーLP10ベース)。サイトとグリップの隙間がほとんどないのがわかります。

なぜこんなことになっているのか? ここから先は私個人の完全な想像ですが、ビームピストルの設計時ないし設計者への発注時に何らかの行き違いがあって、結果的に誤った仕様の状態で納品されてしまい、しかしそれに誰も気づかないまま購入者の元に完成品として届けられてしまっているからではないか? 私はこの説にはかなりの確度があると思っています。

順を追って説明しましょう。エアピストルの本体とグリップの間には、金属性のL時型プレートと、プラスチック製のスペーサーが挟まっています。ビームピストルにも同じようにL字プレートとスペーサーが入っています。

デジタルピストル(ステイヤーLP10)のグリップを外したところ。金属プレートとスペーサーが入っています。
わかりやすいように線画にしてみました。赤線が本体、青線がグリップ、緑線がスペーサーです。
ビームピストルのグリップを外したところ。LP10と同じように金属プレートとスペーサーが入っています。
こちらも同じように線画にしてみました。赤線が本体、青線がグリップ、緑線がスペーサーです。

グリップを外して本体だけにして見比べると顕著ですが、ビームピストルの本体ってやけに上下に間延びしている感じがします。エアピストルの、本体とスペーサーを足したくらいの上下幅があります。

試しに重ね合わせてみましょう。

LP10とビームピストルの本体を重ね合わせたところです。LP10が黄色、ビームピストルが青色で描かれています。ビームピストルも、エアピストルと同じようにスペーサーを入れる(底面を揃える)と、明らかに①サイトの位置が高い、②トリガーの位置も高い、③グリップとの固定に使うロングナットの付け根の位置が後ろにズレている、とあちこちがおかしなことになってしまうのがわかります。
そこで、スペーサーの厚みの分だけLP10の本体位置を上げる(ビームピストルの本体位置を下げる)とどうなるかを図示してみました。サイトの位置は、前後位置は異なりますが上下位置はだいぶマシになりました。トリガーも、上端の位置がLP10とほぼ同じ位置に揃いました(全長がヤケに長いので下端はだいぶはみ出してますが)。グリップとの固定に使うロングナットも、ほぼ同じ位置に揃っていることがわかります。

以上のことからわかることがあります。

ビームピストルは、グリップとの間のスペーサーを外した状態で組み立てるのが、本来想定されていた使用方法である。

ということです。

実際にスペーサーを外した状態で組み立ててみたものがこちらです。トリガーがやたらと長いために下に少しはみ出してることを除けば、だいたい上にあるデジタルピストル(LP10)と同一のレイアウトになる、はっきり言えば「ちゃんとエアピストルっぽい形になってる」ことがわかります。

ところが、ビームピストルは出荷時にスペーサーが入った状態になっています。そのため、「それが正しい状態なのだ」と思われていて、実際に体験会で使われるものや、大会の貸し出し用のビームピストルはスペーサーが入った状態で置かれていることがほとんどです。

なぜそんなことになっているのでしょう? 以下は完全な私の妄想ストーリーですが、仮にこういう流れだったとすれば、こんな感じの製品が完成品として納入されたことにツジツマが合います。

①発注者:設計者に「このグリップに合う形で競技ピストルを作れ」と言って、スペーサーの入っていない木製品部分だけのグリップを渡す(LP10本体を渡すわけにはいかないため)。

②設計者:木製部分だけのグリップに合うように本体を設計する。当然、それは元になったLP10の本体よりもスペーサーの分だけ上下幅が大きいものになる。

③発注者:完成した本体をグリップに装着。その時は、実銃と同じようにスペーサーとL字金具を間に挟む。当然、やたらと高い位置にマウントされるが、ピストル射手ではないのでそんなことには気づかない。しかし「トリガーが短すぎて指が届かない」ことには気づいたので、トリガーをもっと長くするように設計者に仕様変更を発注。

④設計者:言われたとおりにトリガーを長くして完成。

この過程のどこかで、「エアピストルは、グリップと本体の間にスペーサーを挟むものなのだ」ってことが設計者に伝わっていれば、あるいは「このビームピストル本体をスペーサーを入れた状態でグリップにマウントすると、位置が高くなりすぎてしまう」ということに誰かが気づけば、おかしな形でビームピストルが納入されるようなことにはならなかったはずです。しかし不幸にも誰もそのことに気づかないまま最後まで行ってしまった、それが真相なのではないか……。

「本当に気づかないものなの? 設計の途中でエアピストル射手にもテストしてもらったりするハズじゃないの?」

それが、気付かないらしいのです。日ラ主催のビーム体験会に何度かスタッフ参加していますが、その際にゲストとして呼ばれるオリンピック出場経験者のみなさん(堀水さんとか木田先生とか)に聞いてみたのですが、「なんかサイト位置が高いなーとは思ってたけれど、ビームピストルってのはこういうものなんだって思ってた」というのが回答でした。上手い人ってのは何を撃たせても上手いんです。道具に少々おかしなところがあっても自分の技術でなんとかしてしまうため、それが不具合であるって感想がなかなか出てこないんです。

逆に言えば、私みたいに根本的なところがヘタクソで、道具がどうだ、技術ノウハウがどうだとやたら頭でっかちになってて、理屈と理論で技術の致命的な足りなさをなんとかごまかして競技生活を送ってるような人間でなければ、こんなことを気にしていちいち文句つけたりしない、ってのがホントのところなのかもしれません……。

それはともかく!

これからエアピストル所持を目指してビームピストルを始めようという方には、以下のアドバイスをお送りしたいと思います。

手にしたビームピストルが、もしサイトとグリップの間が大きく開いてしまっている(スペーサーが入りっぱなしになってる)状態でしたら、六角レンチを使ってグリップを外し、スペーサーを取り除いて再び組み立て直してから使いましょう。

……ちょっとハードルが高いかもしれません。できれば初心者射手がそんな苦労をしないで済むように、ビームピストル備え付けの射場管理者の皆様には、備品のビームピストルから今すぐスペーサーを取り外してくださるようにお願い申し上げます。

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