延期に次ぐ延期となっていた「昨年度の」全日本選手権が、ようやく先日になって開催されました。国内で開催される射撃の大会としては最高峰になるのでしょうか、参加メンバーも警察の特連さんや自衛隊体育学校やサポート企業に就職した人や大学のセレクション組だとかのいわゆるガチ勢の人がほとんどの、相当にレベルが高めの大会になります。
一般の射手でも参加できることはできますがそれなりに条件が厳しく、応募人数によっては足切りされて参加できなくなることもあります。私はかろうじてOKではありましたが、それでも「本来は5段を持ってないと参加不可、そうでない人は当日必ず5段の申請をすること」という条件付きだったりします。
久々の石巻の大会、それもいつもの東日本冬季ピストル大会と違って暖かい季節になってからの開催ということで、寒い時期には穫れない魚とかもスーパーに並んでて美味しいしお土産もはかどるし、ちょい分不相応気味ではありますが参加してきました。超頑張りまして、ここんとこの大会と比べると相当に良い点を撃つことはできた(都の大会だったらもしかしたら優勝、少なくても賞状は確実にもらえる点)のですが、さすがに全日本選手権だけあって、成績表見たら下から数えたほうが早いという……。5段には12点ほど足りませんでした。惜しい。
グレード高めの大会ということでルールの適用も厳格です。「銃を手から離すときは必ずセフティフラグ挿入」というのも、射座から離れるときだけじゃなく、競技中にちょっと椅子に座って休むときでもちゃんと守っていないと注意を受けます。実際に注意されてる人が何人もいました。机の上に置いても良いものとダメなものもきちんとチェックされます。銃を持つ方の腕は手首がちゃんと露出していないと「腕まくりしなさい」って言われます。なあなあでやってる地方大会しか参加経験がないと相当に戸惑うんじゃないでしょうか。
そういった「事前のルール適合チェック」の一つに、机を置く位置がありましたが、ちょっとそこで軽~くひと悶着がありましたので、お気楽エピソードの一つとしてお伝えしたいと思います。
ISSF公式ルールでは、射座に置く机の位置について次のようなルールがあります。
6.4.10
机または台の選手に近い側の端は、10m射撃線の10cm以上前方に位置しなければならない。
射撃線ギリギリに置いたり、近すぎたりするとルール違反ってことになるわけですね。机の位置がこのルールに適合しているかどうか、射場スタッフ(というか良く見たら宮城所属のオリンピック選手!)が幅10cmの板を棒の先に取り付けたものを持って回って、近すぎるようなら前に出していたわけですが……。
「アレ? あれ測り方おかしくね?」って思ってたんですよ。10cmというのは「10m射撃線」から10cmであるハズなのに、測ってるときの基準となっていたのが射撃線(幅5cmの白線)の後端じゃなく前端なんです。「違うよなー? でも自分のところが言われたのならともかく他の人が言われてるところに口出しても意味ないしなー」って思ってたら、来ましたよ私のところにも!
「これ、机が近すぎるのでもうちょっと前に……」
「すいません、この板って幅10cm?」
「え、あ、はい10cmです、ルールで机は10cm前に」
「その場合、射撃線から10cmですよね、となると線の前じゃなくて後ろから測るのでは? 射撃線って線のこっち側ですよね」
「え、え、え?」
その後、ジュリーを呼んで確認したりして私が言ってることが正しいってことになり、机の位置はそのままでいい(というかむしろちょっとだけ近づけてもOKなくらい)だってことになりました。
全日本選手権においてオリンピアンに勝った瞬間です!(言い方!)
その結果。
私の射座の机(手前)だけ、他の皆さんの机より明らかに近い状態で撃つことが許されるという、なかなかにない優遇措置が実現しました。
それまでの指摘がルールを間違えていたことによるものだってことがわかっても、訂正して回ったりはしないんですね。これは怠慢とか手抜きとかじゃなくて、「ルールにないことを強制されたとしても、競技者がその場で根拠を示して『それは違う』と反論できずに言う通りにしてしまい、結果として不利な状態になってしまったのならば、それは競技者の責任である」という明確な考え方があるからなんです。
ここから先は、完全におせっかいというか余計なことというか、いやむしろ「書かんで良いこと」に近い内容になってきますが……。
最初に書いた通り全日本選手権の参加者は(私みたいな例外を除いて)ほとんどプロアスリートに近いような形で競技に取り組んでるトップレベルの人たちばかりです。そんな人たちが揃いも揃って、「ルールを誤って解釈したことによる、やらないでいい変更」を競技開始直前に強制されたというのに、誰一人反論せず言われた通りにしてしまったというのは、「大丈夫なの、それ?」って心配になります。
たかが15cmと10cmの違いくらいどーってことないし、そんな些細なことで言い争いとかするほうがずっと良くない、みたいな判断でその選択をしたのなら何の問題もありません。おそらく、大多数の射手はそんな感じだったんじゃないかと思います。けれど、もし「あれ、おかしいな?」と気がついて、でも言い返せずにもやもやした思いを抱えたまま競技開始になっちゃったなんて人がいたら、そんなのは絶対に良くないですし、そうではなく「おかしいな」と気づくことすらなかったってんならもっと問題です。
世界戦なんかだと、競技開始直前やら真っ最中やら終わった後やらに訳の分からないイチャモンを付けられるなんてことは日常茶飯事なのだとか。その時コーチが助けてくれる状況になく競技者が自分で対処しなきゃならないなんてことは珍しくない、というか「そういうことは、起こりうるもの」として臨まなきゃならないのが世界戦ってやつだと思います。それが国内の大会で言葉も普通に通じる状況で、そんなに複雑でもないルール解釈違いによる不手際があった際に、ちゃんと自分で対処できなかったってのは、「下から数えたほうが早い順位」の底辺シューターが言うのはほんとおこがましいのは重々承知の上で言うんですが、「大丈夫なんですかソレ!?」
友人のライフル撃ちが過去に世界戦に参加したとき、隣の外国射手にクレームを付けられジュリーを呼ばれた際に(射座からはみ出してるとかなんとかそんなことだったと記憶)、ルールブックの該当箇所を示して「これは問題がないはずだ」って反論して黙らせたって話を聞いたことがあります。その人の本業はサッシ屋さんで英語なんか全然喋れないんですが、単語と身振り手振りと勢いで認めさせたとのこと。これはもう武勇伝として誇っていいエピソードですし、私が彼を尊敬してるポイントの一つでもあったりします。