実銃射撃 海外の反応シリーズ

射撃用メガネで、正しいレンズの度についての終わりなき議論【海外の反応】

投稿日:2017年9月29日 更新日:

ピストル射撃に使うためのレンズの矯正度には「正解」があるのか、それとも環境や個人によって変わるものなのか?

filter-use1射撃で使うためには、普通に生活するための眼鏡よりも、「近くにピントが合いやすく、遠くがぼやけ気味」になるレンズが適していると言われています。遠くと近くの両方にピントを合わせるために、可変式の絞り(アイリスシャッター)を併用することもあります。


まず、サイトにピントが合っていないと話にならないのが射撃というスポーツです。ターゲットが見えてることよりも、サイトがきちんと見えていることのほうが重要なくらいです。遠くに離れたターゲットに比べれば、ほとんど「手元近く」にあるといってもいいくらいの近距離にあるサイトですが、それが長い競技時間中ずっとクッキリハッキリ見えるようにするというのは、あるていど年齢を重ねた人にとってはけっこうハードルが高いものがあります。――若い方にはなかなか理解していただけないことなんですが。

普通に生活するための眼鏡というのは、視力が「±0ディオプター」になるような矯正度のレンズを入れて作るものだそうです。たとえば近視の人の場合は素の視力がプラス方向にズレてしまっているので、マイナス方向に矯正するために「-3.00ディオプター」のレンズを使う、といった具合です。しかし射撃用の眼鏡では、ピントが合う距離をもう少し近くにしなければならない、具体的には「+0.75ディオプター」という、いわば「ちょっとだけ近視」になるような矯正度のレンズを使う必要があります。前述の「普通に眼鏡を作ると-3.00ディオプターを勧められる」人だったら、「-2.25ディオプター」の矯正度のレンズが射撃には適しているということです。

さて、ここで出てきた「+0.75ディオプター」って数字はどの程度根拠があるものなのでしょうか? 射場の明るさや色合いなんかによって、もうちょっとだけ度数が上、あるいは下のレンズのほうが適しているなんてことがあったりするんじゃないでしょうか? 実際に試合中、確かに「+0.75ディオプター」で作ったハズのレンズを入れた射撃眼鏡でもサイトにピントが合わなくなってきたりすることってあるじゃないですか?

「射撃用の眼鏡には、どういったレンズを入れるのがいいのか?」という質問トピックが海外射撃掲示板「Target Talk」に立てられ、それに対してレンズ設定についての経験談や疑問、さらには専門家による技術的な投稿が書き込まれていました。専門家の人は専門用語も使いつつ理屈を説明するのですが、それに対して(自分の経験から)納得できない他投稿者が疑問を書き込み、さらにそれに対して(なんでわかんねーのかなーって少しイラついた感じで)専門家がレスを返し、といった具合に、後半は少しサツバツめいたやり取りになりかかったところで終了するという、緊張感のあるスレッドに育っていましたので、抜粋して紹介してみたいと思います。

眼鏡レンズについて
Eyeglass lens (引用元:TargetTalk)


  • 10mのエアピストル射撃に使う場合、眼鏡のレンズの度はどういう具合にするべきですか? 通常の処方箋で作ったものか、フロントサイトに焦点を合わせるべきか、それとも何か他の要素があるのでしょうか?(国籍不明)

 

  • 「車輪の再発明」をする必要はありません(訳者注:本来の意味とは違いますが、「既に明らかになってることをわざわざ調べ直す必要はない」というようなニュアンスだと思います)。同様の質問やそれへの回答が、このフォーラムには数え切れないほど掲載されています。「これさえ読んどけば問題ない」のが光学専門家であるNorman Wong博士による文献です。かの有名なピストル導師であるDon Nygordによる記事も非常に読みやすくておすすめです。(アメリカ・ニューハンプシャー)

 

  • あなたが40歳未満の場合は、通常の距離処方に加えて「+0.5ディオプター」の調整をすることがありますが、ほとんどの人にとっては、「+0.75ディオプター」の調整が最もピストル射撃には適しているでしょう。
    普段使っている眼鏡の矯正度数が非常に強い場合(例えば、-6.0ディオプター以上)、目とレンズの間の距離がより重要になります。 射撃用の眼鏡フレームは、普通の眼鏡よりもレンズを目から遠ざけることが多いため、あなたの射撃用眼鏡フレームと銃を良い検眼技師がいるお店に持っていって(訳者注:銃をメガネ屋に持っていって店内で構えてみせるとか日本でやったら即逮捕ですな)、目を正しく検査するように頼んでみてください。(イギリス・ルイスリップ)

 

  • 数値計算によって導かれる答えは常にただ一つで、様々に移り変わるということはありません。ほぼ全ての射手によって適切な矯正度数は+0.75ディオプターです。もし非常に短い腕を持っている場合は+1.00に変わるかもしれませんが、まずめったにあることではありません。
    私は眼科医ではなく、光学を学んだエンジニアです。ですから理論と数学に基づいて解を導き出すという習慣があります。眼科医がしばしば、あれやこれやと様々なアプローチを試すのは、実際に彼らが問題を理解していないのが原因だとしか思えません。
    光学的に実際に必要とされるのは、あなたの眼の被写界深度の中心が、リアサイトとターゲットとの間に来るようにして、その二つが同様のフォーカスで見えるようにすることです。もちろん、フロントサイトがそれなりにクッキリと見えていることが前提です。これを実現するためには、眼のフォーカス機能がリラックスした(無限遠にピントを合わせた)状態でリアサイトが被写界深度内に収まるためには、眼からリアサイトまでの距離の2倍が過焦点距離と等しくなることが必要です。

 

HyperFocalLength-2過焦点距離(ハイパーフォーカル・ディスタンス):無限遠にピントを合わせた時に、どのくらい手前までピントが合っているように見えるか(ピントが合う一番近い距離)のこと。なぜそれが重要になるかというと、その距離にピントを合わせた状態が「もっとも広い範囲にピントが合う」からということです。物凄く詳しく、かつわかりやすく説明してくれてる日本語のサイト(カメラの撮影技術関連ですね)がありました。左の画像はそこからの引用です。(画像引用元:Capture the MOMENT! その一瞬を捉えるために


  • 例えば、私の場合は眼からリアサイトまでの距離は24インチ(61cm)なので過焦点距離は48インチ(1.22m)になります。ディオプターは焦点距離の逆数なので、1.22メートルにピントを合わせるためには、0.82ディオプターのレンズが必要です。レンズの矯正度数は1/4(0.25)刻みなので、最も近い値は「+0.75」になるというわけです。
    ここまでに出てきた数字を、あなた自身の眼とサイトまでの距離に変更し、計算をしてみてください。
    上の方の投稿で非常に良い指摘がありました。矯正度数が強い場合には眼とレンズとの距離が重要になってくるというものです。ですがその場合であっても、眼の処方箋を教えていただければ、私は適切なレンズの移動量を計算で求めて示すことができます。(オハイオ州シンシナティ・www.shootingsight.com)

 

  • 数値計算は真実にたどり着くための方法の一つです。私が知っている全ては「リラックスした状態で、およそ1m先のフロントサイトにフォーカスが合うようにすること」という、それだけです。そのことにより、眼のフォーカスはストレス環境下でも迅速にフロントサイトに合うため、より早く射撃に入れます。0.5~0.75ディオプターの矯正度数を持ったレンズが適していますが、どちらが良いかは日によって異なります。レンジコンディションや明るさ、体調、前夜に行ったことなど、影響を与える要素はさまざまです。
    10mの屋内レンジではなく屋外レンジで競技を行う場合ではカラーフィルターも有効です。暗めのコンディションではイエローやブラウン、明るい時はグレーを使います。(アメリカ)

 

  • >数値計算によって導かれる答えは常にただ一つ
    それはあなたの意見です。あなたが数値計算を好きか否かにかかわらず、現実には適したレンズは個人によって異なる場合があります。似たようなテーマの別スレッドにも書きましたが、「被写界深度と照明の影響」を完全に無視しています。
    また、矯正レンズを装着した場合は補正の度合いは0.25ディオプター刻みになりますから、実際に「+0.75ディオプター」を得るために必要な正確な矯正レンズも人によって異なります。必要な矯正度数が低い側(+0.5ディオプターに近い)にあるならば、「+0.75ディオプター」にするために追加するレンズは半分の視度で十分です。
    (A)「数値計算」、(B)「実験」、(C)「実際にレンズを光学的に計測する」という手間をかけるのは良いことです。あなたが盲目的に「+0.75」という計算結果だけを信じてそうマークされたレンズを買うだけでは、最良の結果が得られないことがあります。(マサチューセッツ州)

 

  • +0.75の数学的解は光学物理学によって導出されるもので、「意見」ではありません。また、焦点は被写界深度とは無関係に計算されるものですから、照明の影響を受けません。
    計算によって導かれた解を現実にあわせて丸める(近似値を出す)必要が現実にはあり、理論的な理想値とは異なる視力矯正を行うことになるのは、確かにそのとおりです。また人間の遠方視力の矯正度数は、水分補給やグルコースレベルのために変化するものです。
    ですが、この10年以上、シューティングレンジにて数百人におよぶシューターのレンズ・フィッティングを行ってきた経験から、90~95%は計算通りに+0.75ディオプターが適していることを見てきました。まず最初に始めるには、その数値が最も堅実なものであるという意見を変えるつもりはありません。(オハイオ州シンシナティ・www.shootingsight.com)

 

  • 私は年寄りですが、「+0.50」のレンズを使っています。
    実際のところ、「フロントサイトにフォーカスが合うように」という条件で検眼師にレンズのセットアップをしてもらうこと、これが行うべきことです。細かい設定は気にする必要はありません。(アメリカ・アリゾナ州スコッツデール)

 

  • 私は眼科用のテスト用レンズ275枚セットを持っています。矯正度は0.125刻みです。
    それを使って試してみると分かるのですが、最適な矯正度は単純に「+0.75」ではありません。もちろんすごく良いのですが、照明の状態、射撃開始30分前に何をしていたか、iPhoneで動画を見て目が疲れてたりしないか、目の乾燥の程度はどのくらいかなど、多くの要素によって変化します。フロントサイトのクリアさの変化は相当に大きなものです。
    「+0.75」はベリーグッドです。しかし、厄介な問題を抱えたある種の射手にとっては十分なものではないのかもしれません。(国籍不明)

 

  • いろいろと話がややこしくなってますが、ここらで明確にしておきましょう。
    「+0.5~+0.75」が必要な場合、普段の矯正度数にそれを加えた度数のレンズが必要になります。
    普段、「+1」のレンズをかけている場合、射撃時に使うレンズは「+1.5~+1.75」が適しています。
    「-0.5」だった場合は、射撃用レンズは「0~+0.25」です。
    乱視の補正も含む必要があります。(アメリカ)

 

  • なんと説明したら良いのか……。私達が使っている言葉の意味そのものについてきちんと議論する必要があるのかもしれません。
    「+0.75」というのは、無限遠フォーカスからのオフセットを表す数値であり、これは目とサイトとの距離に基づいて計算されるものであって、他の要素で変化することはありません。実際には様々な条件により「あなたの目のピントが合う距離」は変化するかもしれませんが、それは照明の違いによるものではなく、調節機能の使い方や、毛様体筋(目のピントを調節するレンズである「水晶体」を引っ張ったり緩めたりして厚さを変化させる筋肉)のけいれん、水分量の変化(目の直径が1/100インチ変化すれば0.50ディオプターの変化が生じます。可能であれば計算してみてください)などによるものです。血糖値の変化ですら、眼球液中のグルコースレベルに影響を与え、屈折率を変化させます。
    そういった理由から、「理想的な射撃用レンズ」の設定は人によってわずかに異なる可能性があります。これは既に書いてきたとおりです。しかし推奨されるオフセット量が変化するわけでなく、遠方の視野がわずかに変化するためです。
    以上述べてきたことから分かると思いますが、射撃用レンズを作る際に自分の銃を医者のオフィスに持っていく必要はありません。きちんと遠方視力矯正量を測定できるだけの技量があるのならば、「+0.75」のオフセットは数学的に決定される定数です。正確に距離の焦点を測定できないくらいに目のコンディションが「オフ」であった場合は、たとえ測定現場に銃があっても正しい測定ができるわけではありません。(オハイオ州シンシナティ・www.shootingsight.com)

「+0.75ディオプターレンズ」が良いのではなく、「+0.75ディオプターになるレンズ」が必要なのだという点を誤解して書き込んでる人もいますが、ちゃんと「+0.75ディオプターになるレンズ」を使っているのに、照明の具合や体調の変化などでそれでは上手く照準できなかった経験のある人が「必ずしもそれが正しいわけじゃない」と書き込んでいるのも混じっていたりで、なかなか意図を読み取るのが難しいスレッドです。日本語訳ではなるだけ簡単な言葉を使うようにしましたが、元スレッドだと辞書引いてもすぐには意味のわからない専門用語が頻出していましたし……。

このやりとりを読んで、「現実を無視したわからずやの自称専門家が、理屈ばっかりこねて実際の射手にフルボッコになっている」と見るのか、「間違ったアプローチで正しくない用品を使っていたり、あるいはたまたま上手く使えているだけで間違った理屈で説明しようとする素人に、原則を教えようとして頑張っている専門家」と見るのか、解釈は人によって様々だと思います。少なくても私には結論を出せません。

ただ一つ言えるのは、射撃スポーツが盛んな国では一般の射手であっても、ここまでいろいろ考えて射撃をしているんだっていうことですね。日本だったら、コーチとか部活動の顧問みたいな立場にいる人でも、こういった知識をちゃんと持っている人ってどれだけいるでしょうか。ましてや一般射手においては……。

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