射撃のコツ

はじみつ(6)~銃は止まらない

投稿日:2011年4月17日 更新日:

はじみつ(はじめての精密射撃)もいよいよ第6回。今回は最終回として、構えて狙う~トリガーを引くという一連の動作を「統合化する」という考え方について紹介する。「初心者向け講座」としてはここまでくるとちょっと行き過ぎに近いかもしれない。けれども、「狙いを付けて」・「トリガーを引いて」という技術をそれぞれ別々に練習して両方がそれなりに良いところまで上達したとしても、実際に撃つときにはその二つを同時に並行して行わなければならないことには変わりない。

「同時に並行して行なう」というところが、ここでのキモになる部分だ。構えて狙いをつけてキッチリとサイトが決まった場所に収まって、さあそれではトリガーを引こうか、というような具合に二つの動作を別々に行ってしまうと、時間が足りなくなる。人間の眼が集中してサイトを見ていられる時間にも、身体が安定して銃を構えていられる時間にも限りがあり、その短い時間(せいぜい8秒程度)の間に「狙って、それからトリガーを引く」なんてことをするのは無理だ。必然的にトリガーを引く時間が足りなくなり、「えいやっ」とトリガーを引くような感じになってしまう。

その問題を解決するのが、一連の動作を「統合する」ということだ。

●狙いながら撃ち始める

ピストルで狙いをつけるときには、同時に呼吸を行なう。息を吸いながら銃を上げ、吐きながら下ろす。というより正確に表現すると、「息を吸うことによって銃が上がり、吐くことによって下がる」という感覚だ。腕を横に伸ばして息を吸ってみると、胸が拡張するのに合わせて腕が上がるのがわかる。息を吐いたときはその逆だ。

射撃動作の始まりは、息を吸う所から始まる。射撃の終了まで息を吸う回数によって、「1回呼吸法」と「2回呼吸法」の2種類がある。まずは1回呼吸法から説明していこう。

図のように、息を吸い始めると同時に銃を上げる。標的より上にサイトがある状態まで持って行ってから息を吐いて銃を下ろしていく。そしてちょうどサイトがいい位置に来たところで息を止めて撃ち、フォロースルーをする…という順番になる。

息を止めたところ(サイトがいい位置に来たところ)では、肺の中には普通に息を吸ったときの空気の3割~5割くらいが残っている状態になる。

次に2回呼吸法。息を吸い始めることで射撃動作をスタートするという点は同じ。一度息を吐くことで上げた腕を下ろしていき、正しい照準位置かそれより少し上のところまで下ろす。そこから少しだけ息を吸うことで腕を上げ(この動きはごくわずかでゆっくりとしたものになる)、再び息を吐きながら照準をターゲットの下まで動かしていく。ちょうどいい位置にきたら息を止めて撃発を行い、フォロースルーがそれに続く。

1回呼吸法と2回呼吸法それぞれどういうメリットやデメリットがあるのか、どういう撃ち方をする人はどちらを選べばいいのかということは教本にも書いてない。両方とも射撃にかかる時間はそれほど変わらないので、「2回呼吸法の方が1回呼吸法よりも長い時間をかけてじっくり狙う撃ち方である」というわけではない。

ピストル指導者講習会で聞いた時も「結局のところ、本人の感覚になじむ方が正しい撃ち方ということになる」というような回答だった。ちょっと投げっぱなしというか…。

これだけではあまりにも何なので、両方を自分で試してみた範囲での、両者の違いを記しておこう。2回呼吸法の欠点は、同じ時間内での動作の数(呼吸の回数)が増えるため全体的にせわしなくなること。利点は、一度標的とサイトの左右位置を確認してから精密な照準に入るというやり方なので、サイトの位置が微妙に左右にズレていたとしても、その時点で修正することが可能だ。

一方で1回呼吸法ではそれは無理。サイトに隠れて標的が見えない状態から銃を下ろしてきても、ドンピシャリで左右位置が合っていないとダメだ。射撃動作の最終段階に入ってから左右の微調整なんかしてたら、全部がバラバラになってしまって正確な射撃どころの騒ぎじゃなくなってしまう。銃を構えて狙うたびに銃が少し左右にブレてしまうような初心者~中級者には2回呼吸法が向いていて、サイトの左右位置が眼をつぶっていてもドンピシャリに決まるくらいに身体の感覚がしっかりと確立している中級者~上級者には1回呼吸法が向いているんじゃないかと思う。

●トリガーを引く勇気、引かない勇気

ピストル射撃でやりがちなミスの一つが、トリガーを引くべきところで引くことができなくて、銃が大きくブレはじめてから意識的に「うりゃっ」とトリガーを無理やり引いてしまうことだ。

このミスは、「パーフェクトな射撃」を行おうと意識してしまことによって慎重になりすぎてしまうことが原因だという。ということはこのミスを無くすためには、パーフェクトな射撃をすることを諦めてしまえばいい、ってことになるわけだが…。そんなことはできっこない。まともに狙いもせずどこに弾が当たるかも気にせず、トリガーハッピーでバンバン撃ってりゃそれで満足って人ならともかく、こういう精密射撃をスポーツとしてやってる人ってのは「ターゲットに弾を当てたい」って気持ちが人一倍強いからこそ、狙って撃ってという技術を身につけて頑張って撃ってるわけで、そういう人がいきなり「当てようとする気持ちを捨てろ」なんて言われても、はいそうですかと言われた通りにできるわけがない。

格闘技やってる人に「敵に勝とうとする気持ちを捨てよ」と言ったり、陸上競技やってる人に「速く走ろうという気持ちを捨てよ」と言ったり、なんかスポ根マンガで主人公が行き詰って悩んでいるところに仙人めいた人が現れて言いそうなセリフだが、精密射撃をやってる人に「的に弾を当てようとする気持ちを捨てよ」っていうのも同じような傾向があるセリフだ。結局のところスポーツってのはどれも、ある程度以上に上を目指そうとしたときには同じような壁にぶち当たり、その壁を超えるためには同じような心構えが必要になるのかもしれない。

余談はさておき。

「完璧に撃とう」という気持ちが強くなりすぎることによって、撃つべきタイミングでトリガーを引くことができず、撃たなくてもいいところでトリガーを引いてしまうというクセが頻発してしまう状態――これを「トリガーシャイネス」と呼ぶ――になったときに、どういう対処法が適切なのか? トリガーを軽くしてやれば気楽に引けるんじゃないか?と思いがちだが、驚いたことに王道とされる対処方法はその逆。トリガーを重くしてやるといいのだそうだ。重いトリガーで練習することで「トリガーを引く」ことへの躊躇いや恐れを克服し、もとのトリガーに戻したときに良い射撃ができるようになるという理屈らしい。

練習中ではなく本番中にその状態になったらどうする? 試合中、「引くべき時にトリガーが引けない」という状況になって焦ることはよくある。その時にできることは、無理にトリガーを引くことではなく、トリガーを引かずに銃をおろし、また最初から射撃動作を始める、それしかない。いつもどおりに息を吸って、吐いて、照準を合わせながらトリガーに力を加えて撃発、その「流れ」が大事だ。


※参考文献:オリンピック・ピストル・シューティング(日本ライフル射撃協会編・三野卓哉著)

こちらもお読みください……続・はじめての精密射撃


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