昨年のAPSカップで体験試射を行っていた新型の光線射撃システムである「デジタルカメラピストル」。日本ライフル射撃協会が、現在使っているNEC製の「デジタルスポーツピストル」が生産終了してしまった事態を受けて、新たな新世代射撃システムへの採用を狙って開発されたものです。
日ラに採用され公式競技に使用されることに決まったのは興東電子の新型「ビームピストル」の方となり、マルゼン製の「デジタルカメラピストル」は落選となってしまったわけですが、マルゼンはあきらめず「デジタルピストルより、新ビームピストルより、ずっと安価な射撃入門用のシステム」としての生き残りをかけて開発を継続していたようです。
昨日、所用で押上にあるマルゼン本社を訪問した際、「そういえば、昨年展示されてたデジタルカメラピストル、アレってどうなってるんでしょうか?」と聞いてみたところ、「せっかく来ていただいたんですから」ということで特別に試作品の撮影と試射をさせていただけることとなりました。写真の公開もOKをいただけたのでご紹介したいと思います。
ただ、写真内にもしつこく書いてあるとおり、これはあくまで試作品であり形状も色も「仮」のものです。こんな格好わるい状態で市販されたりカタログに載ったりするってことは100%ありませんので、その点はどうか誤解なされないように。「マルゼンの新型レーザーピストル、クソだせー!」とかコメントつけて写真だけばらまくとかそういうのは無しでお願いしますね。
銃身の下、APS-3だったらシリンダーやコンプレストレバーがある部分に取り付けられているのがカメラユニットです。そして、そのカメラユニットのさらに下に継ぎ足された弁当箱みたいなケースは、衝撃センサーです。これまでのデジタルカメラピストルは前進したストライカーがスイッチを押してカメラが作動する(射撃タイミングを機械に教える)ものだったのですが、現在開発中の新型はストライカーが「カチン」と音を立てるその衝撃でカメラが作動する方式に変更されました。
銃本体部分、つまりグリップやトリガー周りやサイトはAPS-3そのままですから、射撃方法もトリガーの引き味もAPS-3と全く同じです(コンプレストレバーを操作する必要がないだけの違い)。ノーマルのAPS-3に特有の二段引き感もそのままですが、これはノーマルだからそうなのであって、当サイトで紹介しているAPS-3トリガーカスタムを施せば実銃のエアピストルに遜色ないレベルのクリスプなトリガーになることは分かっていますから、何の心配もいりません。
ウッカリ標的の写真を撮り忘れてしまいました。標的ユニットは厚さ3cm程度。標的面には小さい穴が3つ開いていてLEDが仕込まれたものになっています。LEDの光は人間の目には見えません。カメラはその非可視光を感知して「今、銃がどこを狙っているのか」を計算するわけです。必要な電源は単三電池2本だけということもあり、「標的の価格は、興東電子のビームピストルと比べれば格段に安くなる」とのことです。
※実は最新型のSCATTも標的をカメラで撮影した画像を解析するタイプになっています。標的も普通に銃で撃つのと全く同じもので構わないわけで、その点ではLEDが埋め込まれているだけとはいえ「専用の標的」が必要なマルゼン・デジタルカメラピストルより優れているように見えます。ただSCATTは「標的面の明るさ」にかなり高いハードルがあり、専用の照明で標的を煌々と照らさないと作動しないという難点があったりします。普通の明るさの部屋でも標的自身がLEDで発光するマルゼンシステムのほうが手軽さでは上ですね。
着弾位置はPCに表示されます。APSカップのブルズアイ、エアピストルの競技や練習、そして近代五種でのコンバインド競技など多彩なモードがあり、切り替えるだけで画面上に表示される標的も採点方法も変更されます。ただし現実のターゲットは、実際に手動で標的紙を取り替えなければデザインはそのままです。
デジタルカメラピストルとPCは無線(Bluetooth)でデータ交信を行うので、銃と標的をケーブルで接続したりする必要はありません。標的も「電池でLEDが非可視光を出してるだけ」でPCや銃とは何の交信も行わないので、標的までケーブルを伸ばす必要もありません。
Bluetoothの規格から類推するに、10人とか20人くらいの大人数が並んで一度に競技を行うということも、おそらく可能なはずです(実際にできるかどうかはやってみなければわからないけど)。標的とのケーブルの取り回しが必要ないということもあり、仮にこのデジタルカメラピストルで射撃大会を開いたとしたら、射場の設置や撤収はこれまでと比べてずいぶんと楽になるんじゃないでしょうか。
軌跡の表示はできないのか?
日ラでの採用を争うトライアルにおいて、マルゼンのデジタルカメラピストルが興東電子の新ビームピストルに負けてしまった理由の一つが、「撃発前後の、照準点の軌跡の表示」ができないという点があったと言われています。今回、試射させてもらった改良版のマルゼン・デジタルカメラピストルも、軌跡を表示する機能は持っていません。
現在オリンピックの近代五種などで使われているレーザーピストルと異なり、デジタルカメラピストルでは「常に標的を撮影している」わけですから、機能的には軌跡の表示はそれほど難しくないんじゃないかと思うのですが、なぜできないのでしょうか?
「開発費などを加味すると、どうしても価格が跳ね上がってしまう」というのが理由だとのことです。それこそSCATTとかそこらへんに迫る価格を提示しないととても無理、というレベルなのだとか。「だったら、軌跡を表示して本格的な指導とか練習に役立てるのはSCATTの役割と割り切って、こちらはもっと低価格で提供することで射撃の普及と発展に貢献する役割を果たせればそれでいい、と考えました」とのことです。
※これは素人の勝手な想像ですが……。ハード的には可能でもソフトの開発ができなくて無理、ということはいざ市販されてしまえば、それを購入したユーザーが「プロの仕事」を発揮して軌跡表示可能なソフトを独自に開発してしまう、なんてことが起こりうるんじゃないでしょうか?
さて、気になる「価格」と「発売時期」です。価格は、具体的に言えるような数字はないとのことですが、「少なくても、興東電子のビームピストルよりは格段に安くなるのは確実」とのことです。ちなみにビームピストルは「銃本体が89,000円、標的が59,000円(いずれも税抜き価格)」というお値段です。
発売時期について。「来年の頭ごろには、市販を開始したいと思っている」とのことです。