エアガンのカタログ本を作ると、M4およびそのバリエーションだけで数十ページ延々と続く。レシーバー、ハンドガード、ストック、サイト、グリップ、トリガーガード、フラッシュハイダー、それぞれ様々なパーツメーカーがありその組み合わせはまさに無限大。もうほとんど間違い探しのレベル、よほどのマニアでもなければ見分けなんかつきそうもない……と思ったら、誰でもひと目で見分けが付くトンデモデザインのM4カスタムレシーバーが実銃用パーツとして出ているのを見つけた。エアガン用として作ろうとするところがあるのかないのかわからないが、とにかく見た目のインパクトがすごかったので紹介してみたい。
アメリカ・オレゴン州にあるSHARPS BROS.社によるAR-15用ロアレシーバー、「ヘルブレイカー(Hellbraker)」。マガジンハウジングの部分に大きな口とキバ、いわゆる「シャークマウス」がモールドされている。実用上の意味は……いちおう「滑り止めのセレーション」としての役割があるにはあるらしいが、基本的には見た目のインパクト重視の製品だ。Photo : SHARPS BROS.(以下、銃の写真は同じ)
見た目がキバツではない普通のレシーバーもラインナップにあることはあるのだが、やはりメインはこういうタイプのもの。左から「ヘルブレイカー(Hellbraker)」、「ワートホグ(Warthog)」、「ジャック(The jack)」。アメリカのGUN事情を時々送ってきてくれる在米のGUNライターさんの話では、とにかくここんところガンショップでは「猫も杓子も」というべき勢いでAR-15バリエーション(いわゆる「M4カスタム」って言ったほうが通りが良いかも)が増殖しているそうだ。あまりにも数が多く、細々としたパーツを作っているところまで含めると全てのメーカーを把握するのはほとんど不可能に近いとのこと。
日本に入ってきている電動のカスタムM4系も、中華メーカーの元気良さもあいまってかなりのバリエーションになっている。「○○タイプのレシーバーに●●タイプのストックとハンドガードを組み合わせた。サイトは◎◎タイプで、グリップとトリガーガードは●●タイプ。●◎タイプのフラッシュハイダーが良いアクセントになっている……」とか、自分で紹介文を書いててもなにがなんだかわからなくなってくる勢いだ。エアガンを扱ってるショップがみんなそういった分野に詳しいわけでもないこともあって、ショップがつけている説明文が思いっきり嘘八百だったりすることもしばしばだし。
ここまで数が多くなってくると、もう性能や機能や素材の良さや精度の高さとか、そういった要素じゃとても他製品と差別化できなくなってくる。となると残るはデザインだ。「実用に使う銃」と「格好良いデザイン」ってのは、普通ならそんなに相性が良いものじゃない。「銃の格好良さは、奇をてらわない実用本位の設計からくる機能美にある」というのは、けっこう多くの銃好きにとっては共通認識なんじゃないだろうか。これまでにも、「有名デザイナーにデザインを発注した新製品」なんてものが登場したこともあったが、大抵の場合は格好優先のためかやたらと分厚くてレバー類が使いづらいと不評しか聞かない駄作になるのが恒例だったし。
「有名デザイナーによってデザインされた銃」というとコレを思い出す。ジウジアーロデザインのベレッタ9000Sだ。曲線主体の流麗なデザイン、と言いたい所ではあるのだけれど、このデザイン内にメカニズムを収めるためだろう、やたらと横幅が分厚くなってしまった上に、ボタンやレバー類の操作もしづらいという、「褒める人をほとんど見たことがない」銃になってしまった。現在はカタログ落ちしている。Photo : James Case(flickr)
しかし、こういうのは「銃をよく知らない人」にデザインさせたからこんなありさまになってしまったに違いない。「銃をよく知ってる人」がデザインすれば、目を引く真新しいデザインで、なおかつ銃としての機能は損なわれず、それどころか十分に扱いやすいものを作ることはできるんじゃないだろうか?
SHARPS BROS.のロアレシーバーは、「デザイン優先で使いづらい」ものなのか、それとも「見た目以上に使いやすい」ものなのか? どうやら、後者に属するものなんじゃないかと思う。一見するとキバツなだけのデザインに見えるが、実は評価が高いカスタムレシーバーの良いところを取り入れるなど、けっこう考えられた作りになっている。
冒頭でも紹介したヘルブレイカー(Hellbraker)。大きなシャークマウスが目を引くが、ゆるやかにカーブした形のマガジン挿入口は軽くテーパー状に拡げられており、素早いマガジンの着脱に有利に見える。一体型のトリガーガードはノーマルのものよりも大きく頑丈で、待機状態からの素早い射撃がしやすそうだ。材質はアルミ合金の中でも特に高強度、いわゆる「超々ジュラルミン」と呼ばれる7075-T6に、MIL-A8625のハードアノダイズド処理が施されるという本格派だ。
巨大なキバが下から生えたデザインがレリーフされた「ワートホグ(Warthog)」。これもヘルブレイカーと同じく、湾曲し拡げられたマガジン挿入口、一体型のトリガーガードなど実用性もノーマルより向上した製品になっている。
上2つとはデザインの方向性がガラリと変わった「ジャック(The jack)」。ロアレシーバーの前半がガイコツの上半分(下顎以外の部分)になっていて、そのガイコツの上顎の中にマガジンを叩き込むという豪快なデザインである。ガイコツの鼻の部分は実物のガイコツと同様に穴になっており、レシーバーを前から見ると差し込んだマガジンが見える。
SHARPS BROS.のinstagramを見ると、ガイコツやシャークマウスにペイントすることで、より見た目がハデにキバツに押しが強いものになっている作例が山ほどアップされている。「銃のカスタム」って、こういう方向性もアリなんだな……。

