射撃のコツ

アゴを出すか出さないか

投稿日:2014年12月10日 更新日:

第35回APSラジオにて、視聴者さんからのお手紙ということで「リスキーさんはアゴを引いて安定させるのが良いと言っていて、自分もそれを試したところ安定したのでずっとそうしていたのだが、動画とか見るとアゴを出して構えている人がけっこう多い。試してみても安定するようには思えない。アレにはなにか意味があるのか?」という質問が紹介されていました。リスキーさん、マック堺さん、山中さんともに「分からん、お手上げ! 分かるかたいらっしゃったらお手紙ください」とのことでした。

私も完全に「それはね、こういうことなんですよ」と完全無欠の正解を書けるわけじゃないんですが、これまでの経験とか各方面から節操無く仕入れた知識から、「多分、こういうことなんじゃないかな」という仮説めいたものなら挙げられますので、少しでも助けになればと思い投稿します。

この視聴者さんからのお手紙にある「アゴを前に突き出している」というのは、どちらかというと「極端にアゴを引いていない」というようなニュアンスなんじゃないかと思います。左は日本の松田選手(Photo:issf-sports.org)、右はウクライナのPavlo Korostylov選手(Photo:olympic.org)。ウクライナの選手はかなり極端といっていいレベルでアゴを引いていますが、松田選手はそうではなく、ごくわずかに前方に突き出した感じの姿勢ですね。

ウクライナ選手の撃ち方はアゴを引くとかそういうこと以前の問題として、この人いったいどういう骨格しているんだってレベルで首が真横向いた上に肩の中に沈み込んでます。子供のころからピストル射撃やってる人はこういう姿勢が可能になるそうです。ピストル射撃教本の著者である三野さんによると、「まるでフクロウみたいで驚くよ」とのこと。普通の人にマネできる姿勢ではないのではないかと思います。

日本でのピストル射撃大会でも海外の中継やYoutube動画でも、多いのは松田選手の姿勢に近い、「少しだけアゴを出した姿勢」だと思います。

どちらが正解なのか? 2人とも世界戦の金メダリストな選手ですから、どちらかが間違ってるとかどっちが絶対の正解だとか、そんなことはとても言えません。どちらも、その人にとっての正解です。ただ、一般に(というか、始めたばかりの人に)オススメできるのはどちらか、というのならば松田選手の姿勢に近い形だと思われます。

世界の射撃競技を総括しているISSFのWebサイトに、「ピストル射撃入門」みたいなコーナーがあります。

The ISSF Academy -The Fundamentals of Olympic Pistol Shooting-

いつかまとめて内容の紹介をしてみたいと思ってるのですが、今回はこの中の一部、「Head Position(頭の位置)」の部分にどんなことが書いてあるか見てみましょう。簡単に抜粋すると、

  1. 頭の位置は、身体の他の部分よりも「自然で快適な状態」になるように気を配られるべき重要な部分である。
  2. 頭の中(耳の中)には、「前庭(ぜんてい:vestibular system)」というバランスを取るための器官がある。
  3. 脳、眼、耳など頭部にある器官への血流が滞らないように注意する必要がある。

頭は傾いたり偏ったりしないように標的方向に回すが、その際には下記のことに気をつける。

  1. 眼および「前庭」の機能にとって最適な状態となるように。
  2. 血流にとって最適な状態となるように。
  3. 不必要な緊張を強いることのない、首の筋肉にとって最適な状態となるように。

ここで何度も出てくる前庭って言葉ですが、Wikipediaによると三半規管(プリッツェルみたいな形をした器官)と、蝸牛(カタツムリみたいな器官)の間にある部分のことで、中には砂が入っていて頭を傾けたり揺らしたりするとその砂の動きが神経によって脳に伝えられるのだとか。(画像:Wikipedia)

頭を傾けたりしないように、ってのはピストル射撃にかぎらずライフルでも口うるさく言われることで、その理由は「傾けてると三半規管からの異常信号が発生してしまい、身体全体のバランスを取るのに悪影響があるから」というものです。前ページに抜粋したISSFの射撃入門でも、「頭は傾けるな」ってことは書いてありますが、左右に傾けるのはNGだってことはわかっても、じゃあ前後に、つまりアゴを引くのとアゴを突き出すのと、どちらが正しいのかってことは書かれていません。

バランスをより取りやすい、「前庭の機能にとって最適な状態」になるためには、アゴを引くのと突き出すのとどちらが良いのか?

射撃じゃなくて、古武術とかそっちのほうから引っ張ってきた知識になりますが……いや正直に書きますと、「ツマヌダ格闘街」という格闘漫画にあるウンチクコーナーがネタ元ですが、ボクシングだとかレスリングだとかの格闘技ではアゴへのダメージを防ぐためにアゴはできるだけ引く(上目遣いになる)が、あらゆる状況に素早く対応することを目指す古武術では、「鼻先と耳の穴が水平になるように」構えるのが基本であり、もっとも身体が安定するのだそうです。

やってみるとわかりますが、普通に立っている状態よりも、ほんの僅かだけアゴを前に出したような感じになります。松田選手を始めとするトップ射手や、海外射撃選手の姿勢を見ても、だいたいこのくらいの角度が多いように思われます。

ネタ元が格闘マンガだったので半信半疑でしたが、実際に試してみると確かに、バランスをとろうとすると頭の角度はそんな感じになります。目をつぶって片足を上げてどれだけ立っていられるか、みたいなことをやってみれば分かりますが、自然とアゴは引くのではなく少し前に突き出すような形になってくることが多いと思います。本能的に、そのほうがバランス保持機能が向上することを知っているからでしょう。

アゴを腕の中に埋もらせるようなフクロウめいた射撃フォームも、もちろんそれはそれで利点はあるのでしょう。利点が無いのなら世界トップレベルの射手がそれで撃ってるはずはありません。ただ、それこそ5才とか6才のころから毎日何百発も撃って練習してきたような人でもなければ、そんなポーズを「不必要な緊張を強いることなく」続けられるとは思えません。冒頭のAPSラジオでのリスキーさんも、「無理してアゴを引くのは良くない」という主旨の発言をされています。

筋肉などに無理をさせることなく、血流を十分に確保しつつ、バランスを取るための器官の機能を最大限に発揮できるようにするために、多くのシューターがたどり着くのが「鼻先と耳の穴が水平になる角度」、言い換えると「アゴを少しだけ突き出したような角度」なのではないかと思われます。

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