射撃のコツ

わたるさんに優勝してもらい隊

投稿日:2014年8月29日 更新日:

※記事タイトルについて、UPしたときは「優勝させ隊」だったのですが、一晩経って読みなおしてみると妙に上から目線で鼻につく言い方に見えたので、もっと下から目線の表現に変更しました。

いやもうありとあらゆる方面でお世話になりっぱなしのフロンティアさん、そしてヤマナカ社長。APSに関しては物凄い練習量で、そして普段からかなりの高得点を普通に撃ってるのに、公式ではいつもそれらのスコアからは大きく落ちる点数になってしまってタイトルにはなかなか手が届かない状況が続いているのは、APSにあるていど関わってる方なら良くご存知のはずです。

「こんなに頑張ってる人が報われないのはぜったいおかしい」という気持ちになってしまいます。決して、「この人がスネちゃってAPSから興味を失ったりしたら俺たちどうしよう」みたいなエゴを綺麗に言い直しているわけじゃなく、そりゃもう純粋に。

どうやったら、わたるさんをAPSカップ本大会で優勝させることができるのでしょう? 手段を選ばなければ……例えば、同じ射群になった人たち全員が、自分のターゲットには目もくれずヤマナカさんのプレートやシルエットを撃って倒してやるとか! こんなとんでもない手段を思いついてしまう自分が怖いですが、ホントにやったら絶対ジャッジに怒られますし、なによりわたるさん自身が喜ばないでしょう。

今回のAPS参戦記がブログにアップされてますんで、それを見ながら、「どこが悪かったのか、逆にどこは良かったのか」を分析してみたいと思います。いちおう、私もこれでも競技歴は(気づいたら)十年以上、世界レベルの人たちと並んで撃つこともしょっちゅう、たまにはちょっとだけ勝っちゃったりすることもある、そういう「競技シューターのハシクレ」ではあるので、少しくらいはエラソーなこと言っても許されるんじゃないかと。

練習量とメンタル

以前このブログにて、射撃界ではバイブル的に扱われているメンタル・マネージメントの教科書であるラニー・バッシャムの本を紹介しました。自分自身のパフォーマンスを最大限に引き出すには、「やる気」「実力」「自信」の3つがバランスよく成り立っていることが重要である、というのがその内容の主旨でした。

意識
……心に思い浮かべたり、考えたりすること。
下意識
……練習によって身に付けた技術のこと。
セルフ・イメージ
……自分自身が考える「自分らしさ」のこと。
ラニー・バッシャムによれば、この3つがバランスよく成り立っていることが必要なのだという。

練習量でいったら、ヤマナカ社長のそれはAPSカップ参加者全員の中で比べても間違いなくトップか、少なくても上位数名には入る豊富なものだということはみなさん同意していただけると思います。「やる気」という点では、もうこれ以上ないほどに十分ですよね。普段から撃ってる点数も「本戦でコレ出たら確実に優勝だよなあ」ってレベルのものがポンポン出てますから、「実力」という点でも申し分ないハズです。

となると、足りないのは「自信」ってことになります。この「自信」というのは私が勝手に言い換えてしまったもので、本の中では「セルフ・イメージ」と書かれています。自分自身が考える「自分らしさ」のことなのだそうです。

わたるさんも、少し前まではことあるごとに「練習では良い点が出るのだけれど、本番ではダメになっちゃうんだ」とか、良い点数を撃っても「これが本番で出ればいいんですけどね、そうはいかないんですよね」とか、そんなことばっかり口に出してました。私が口うるさく「そういうことを口にすること自体が、自分の自分自身への評価を落とすことになって、それが自信の喪失に繋がるので良くない」「虚勢でもいいから、本番でもこの調子で行くぞとか、本番はこんなもんじゃないぞ見てろとか、そういう発想を無理にでもして口に出していくほうがいい」みたいなことを言ってたのが影響したのかどうか? 今年くらいからは、APS本戦に向けての意気込みをかなり前向きに語るようになりました。ここらへんはtwitterでフォローされてる方なら実感してもらえるかと思います。

じゃあ、何が足りないのか?

メンタル・マネージメントの本にある「3つの要素のバランス」という点では、完璧とは言わないまでもかなり良い方向で実現できているわたるさん。じゃあ、なんで最後の最後のプレートで残念な結果になってしまったのか? 参戦記を時系列を追って最初から見てみましょう。

朝、まず特設レンジで3周ほど回ってから会場入り。これは良いことです。いつもと同じように、いつもどおりの練習をする。大会だからといっていつもと違う特別なことをするのが一番良くないことです。

これ、重要です。大事な大会だから、いつもより念入りにストレッチしましたとか、いつもと違うおろしたてのユニフォームを来てきましたとか、そういう「特別なこと」をすると、結局「いつも違う感覚」で射座に入るようになります。射撃というのは、突き詰めていえば「いつもと同じように撃つ」というただそれだけのことが、どんな環境でも淡々と行えるかどうか、それを競い合うスポーツです。いつもと違う、何か特別なモノを身につけていたり、特別な状況に身体を置いていたりすると、的に向かい合ったときの感覚の違いとして如実にそれが現れてしまいます。その感覚の違いをなんとかしようと無理にその場で修正をかけようとすることで身体は全く思い通りに動かなくなりパニックになる、それが「大会では全然ダメになってしまう」理由としてもっともありがちなものの一つです。

「電車に載ってるときに何度も緊張感が襲ってきて」というのも、それ自体は全然構わない、むしろ好ましいものです。直前まで全く緊張しなかったのに射座に入ったとたんにウワーッと緊張が襲ってくるのに比べれば、程よい緊張感に襲われながら会場入りするというのはずっとマシです。精神も自動車のエンジンと同じで、冷えた状態からフルスロットルにするよりは、ある程度回して温めておいたところからアクセル開けるほうがパフォーマンスを発揮できます。

良くないのは。
>深呼吸、深呼吸、何度も深呼吸で撃退
コレです。

良い深呼吸、悪い深呼吸

射撃において、緊張しているときに深呼吸、特に一般的に「深呼吸」といったときにやりがちな、肩を上げて肺の中に空気をいっぱいに吸い込んで吐き出す深呼吸は逆効果です。そういう深呼吸は心拍数を上げてアドレナリンを分泌し、身体をいわゆる「臨戦態勢」に追い込みます。「これから100mを走ります」とか「重量挙げをします」とかそういう状況ならアリなのかもしれませんが、心拍数を下げて興奮を押さえる必要がある射撃だと、明らかにそれは「逆効果」になってしまうのです。

射撃で心を落ち着けたいときに行う「深呼吸」というのもあります。「腹式呼吸」ってやつです。

腹式呼吸とは、肩を上げ下げするのではなく、胸から上はそのままで、おなかだけをふくらませたり引っ込ませたりすることによって行う呼吸です。鼻からゆっくりと息を吸い込み、おへそあたりに空気を貯めていくイメージでおなかをふくらませていきます。息を吐くときは口からゆっくりと吐き出します。スーハースーハーとせわしなく行うのではなく、吸うのも吐くのもゆっくりと行うのが重要です。特に吐くときは吸うときの数倍は時間をかけるのがコツです。

「丹田に気をためるように」という言い方をします。禅とか気功とかで、へその下にある特別な場所に「気」を集約させることによって、なんかいろいろと凄いパワーが出てくるというアレです。まあ、それだけを聞くとオカルトなんですが、実はけっこう理にかなったものです。腹式呼吸で「吸った空気を集約させる」というイメージを持つのが、まさにその箇所なんですね。

スピリチャルだとかアセンションだとか、あきらかにトンデモというかオカルトめいたフレーズ満載のWebサイトからあえて選んで持ってきた画像。この他にも東洋武術だとかダイエットだとかいろんな分野で、この特定の臓器があるわけでもない場所が、「最も重要な場所」として扱われる。
Illustration:StarHeart

ちょっと分野は異なりますけれど、少しでも射撃の足しになればとバランスボールを使った体幹トレーニングなんてものにも手を出したことがあるんですが、アレを一日やると腰の奥のほうがズーンと重くなる感覚があります。丸一日ピストル撃った時に疲れがどっとくる場所とほとんど同じ場所ですね。身体を支えるインナーマッスルの軸みたいなものがそこらへんにある、あるいは現実にはそこになくても人間の身体感覚としてそこらへんにあるように感じるんじゃないかと思います。

「丹田に意識を集中する」というのは、まさにソレです。人間の身体、不安定な二本足で立ってる身体のバランスを取るまさに「要(かなめ)」になってる部分に「空気を送り込む」というイメージを持つことで意識を集中するわけです。

わたるさんの参戦記でも、「深呼吸」について「ひたすら息を大きく吸い、吸ったものを下に落としていくように」というイメージが書かれています。方向性としてはまさにそのとおり、それ自体は間違っていないのです。ただ、書かれている文章を読む限りでは、スーハースーハーとかなり早いペースで吸って吐いてを繰り返したんじゃないかと思われます。

>そして待ち番でまたもや深呼吸深呼吸深呼吸。
>急いで深呼吸深呼吸。競技終了。
>深呼吸、深呼吸。

これでは、「緊張を下に落とす」よりも、心拍数を上げて身体を興奮させてしまう効果のほうが強く出てしまうのではないかと思われます。いつもはアッサリと満射できてしまうプレートで大幅に点数をダウンしてしまった最大の理由はなにか? この「急ぎすぎた深呼吸」がその元凶なのではないか、という説を私はここに提唱したいと思います。

緊張をリセットする

どれだけ練習したって本番では緊張します。「いつもと同じように」と思っても、大会ともなればアレもコレもがいろいろと「いつもとは違う」状態となります。でも、どんな状態でも、ある特定の動作をしてある特定のものに意識を集中すれば「いつもと同じ状態」に身体と精神を持っていける、そういう「キー」になるものというのを、競技にあるていど慣れた人は何かしら持っています。

上に書いた「丹田に気をためる深呼吸をする」というのも、その手順の一つとしては十分にアリです。「丹田呼吸法」で検索すると、アヤシゲなサイト、それほどアヤシゲでもないサイト、いろいろと詳しく解説したところが見つかりますので試してみてもいいかもしれません。

もちろんそれ以外でも自分のやりやすい「キー」があるのならそれでOKです。人によってはそれはバンダナを頭に巻くことだったり、サイティングしながら射撃眼鏡のアイリスシャッターを決まった手順で開けてから閉めることだったりと、いろいろな方法があるんじゃないかと思います。それを無意識にではなく、意識して行うことで、どんなにパニックになってもその「キー」となる動作を行うことで嘘のように「いつもどおり」の状態に精神と身体が収まってしまう、そういうのが誰にも何かしらあるんじゃないかと思います。

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