Q:骨董品店とかで古い火縄銃が売られてるけれど、アレって撃てるの?
A:購入して所持するのは「登録」だけでOKだけど、撃つのには特別な許可が必要。
日本はアジアの中でも、銃器の普及・発展という点では非常に特殊な経歴を持った国だということもあって、骨董品として現存する火縄銃の数が際立って多いという。歴史の中において火縄銃が果たした役割も大きい――少なくても、小学生ですら学校で習って誰でも知ってる程度には大きい。
そのため、「銃アレルギー」が激しい我が国としては例外的に、歴史遺産としての文化的価値が認められたものについては比較的簡単な「登録」だけで合法的に所持することが可能だ。
【ガンマメ】火縄銃は許可なしに持ってもいいというのは本当?
しかし、それを撃とうとすると話は別になってくる。銃を撃つには火薬が必要。そして火薬を購入するのには特別な許可が必要。その許可を取るためには、「火縄銃を撃つ目的」として、公安委員会に許可してもらえるものが必要になるからだ。
その「目的」というのは大きく分けて2つ。「伝統技能の継承」と、「標的射撃」である。お祭りで甲冑を着込んだ人たちが空砲をドッカーンってぶっぱなしているのが「伝統技能の継承」。演武なんて呼び方もする。誰でも勝手にできるわけじゃなく、「○○流砲術」だとか「○○鉄砲隊」だとか「○○保存研究会」だとか、そんな感じの名前の、それなりに歴史や社会的信頼のある団体が、きちんとした形で申請して、それでも許可が出ないこともちらほらある、というくらいには厳しいものだ。
とはいえ、個人としてはその「ちゃんとした団体」に連絡を取って入会して、銃の取り扱いだとか細かい作法なんかを練習して覚えれば、空砲とはいえホンモノの火縄銃を撃てるのだから、「手軽な方法」というのならコレが一番手軽な方法になるのかもしれない。もっとも、撃てる状態の火縄銃を手に入れたり、甲冑を一揃いあつらえたりするのには、それなりにお金もかかるだろうけれど。
参考:火縄銃の団体一覧(日本の武器兵器)
photo : Corpse Reviver(Wikimedia Commons)
火縄銃で実弾を撃とうと思うのならば、演武ではなく標的射撃の方を目指す必要がある。火縄銃で標的射撃をしようとする場合、日本ライフル射撃協会の下部組織である「日本前装銃射撃連盟」に所属する必要がある。
Webサイトにある「入会案内」の項目を見ると、散弾銃またはライフル、つまりは「現代銃」の所持許可を持っていることが入会の前提になっているようだ。前装銃の実弾射撃に、現代銃の所持許可が必要であるというのは、別に法律で決まっているわけではなく、前装銃射撃連盟が設けている独自の規定である。いくら現代銃に比べて連射速度や遠距離での命中精度が落ちるとはいえ、火薬を使って実弾を撃つ以上はそれなりに厳しい身辺調査だとか身元確認が必要だし、火薬類の譲渡には面倒な手続きも必要だが、銃砲所持許可を持ってる人ならそこらへんは最初からクリアされているはずなのだから問題ない……というような考え方なのだろうか。まあ、それなりに合理的な考え方ではあると思う。
photo: ブログ「夏丸シルバーひとりごち」より引用
目的が標的射撃であっても、使えるのは一世紀半以上前に作られた「古式銃」だけだ。新しく作ったレプリカの使用は認められていない。とはいえ、例えば倉庫の奥から出てきたような、全く使われないまま何十年も経ってしまったようなサビサビの銃に火薬と弾を詰め込んでそのまま撃てるわけがないので、ある程度の「修理」は認められている。
どの程度の「修理」まで認めるのか? ここらへんは過去何十年かにわたって、ややこしい議論が繰り広げられているようだ。例えば銃身内を少し大きめに繰り抜いた上で、鋼鉄製のスリーブ(パイプ)を挿入することで、小口径の高精度な火縄銃にしてしまう……なんて方法は、かつては推奨されていたこともあるが、「古式銃の登録制度の目的である文化財の保存という見地から考えて、本来の形からかけはなれた構造・形になる改造は修理とは認められず、登録の対象にはならない」という文部科学省の見解が出されたため今はNGとなっている。
貴重な文化遺産である火縄銃を、単なる趣味のためにバカスカ撃って消耗してしまうなんてことが許されるのか? みたいな批判をする人も出てくるかもしれない。だが、これはちょっと見当はずれな批判だ。銃に限らず大抵の機械製品に共通しているが、なにもせずにほったらかしにして置いておくよりも、ある程度の範囲でちゃんと使用し、適切なメンテナンスを行ったほうが長持ちする。たしかに消耗する部品もある。だが、それは交換すれば元通りになる。ネジやバネなど、ありとあらゆる部品の規格が現代のものと全く異なるため、全ての部品が一品モノの特注品になりコストはかかるが、逆に言えばコストさえかければどんな機械でも「永遠」に使い続けることができる。
このページの上に掲載した写真において前装銃射撃大会が行われている千葉県の射撃場は、前装銃だけのための射撃場ではなく、空気銃や小口径ライフル銃などの標的射撃競技用の「現代銃」を撃つための射撃場としても広く使われている。私自身、この写真と全く同じ場所で小口径ライフルを撃ったことは何度もある。
一世紀半以上も昔の銃に比べれば、最近になって所持した競技用ライフルは段違いに「新しい銃」だと思われるかもしれないが、実は私の銃も相当な骨董品で、おそらく作られてから半世紀は経っていると思われる。一世紀半と半世紀、もちろん大きな違いはあるが、両方とも「かなり古い」という点では、それほど大きな違いはない。だがその両方とも、適切に使用して、適切なメンテナンスをして、壊れた部分は適切な修理を行えば、多分この先100年くらいは問題なく使い続けることができるはずだ。