アンチョビとは、小さいイワシを塩漬けにして発酵させたものだ。一般的にはオリーブオイル漬けにしたものが缶詰になって販売されている。塩漬け魚を発酵させた時の汁を「しょっつる」とか「魚醤」とかいって調味料に使うが、言ってしまえばその汁の底に残っている「具」を食べるものってことになるのかな。
どっちかというと高級食材の部類に入り、30~40gくらいの小さい缶詰が400~500円くらいするのが普通だけれど、ごくまれに100円ショップにおいてあるのを見かけることがある。「え? なんでダイソーにアンチョビが売ってるんだ?」と最初に見たときは目を疑ったものだ。偽キャビアみたいな感じで、「アンチョビっぽい何か」だったりするのかとも思ったが、原材料を見てもちゃんとアンチョビの材料を使ってるし、実際に料理に使ってみてもアンチョビの味はする。もっとも発酵食独特の旨味はあんまり強くなく、「塩漬けの魚」っぽい生臭さがまだ残ってるあたりは値段なりだが。
ダイソーのアンチョビ缶詰は人気なのか品薄なのか、一回見かけたっきり二度と見たことがないのだが、昨日近所のスーパーにおそらく同系統の業者が輸入したものだと思われるアンチョビ缶詰が1個110円で販売されていたのでまとめ買いしてみた。原産国はペルーとのこと。「輸入者」の欄に書かれているトマトコーポレーションというのは、Webサイトをみてみると似たような、いわゆる高級食材と呼ばれてるような食材を極めて安価に輸入販売することで売上を伸ばし、大きくなってきた会社のようだ。そういえばタイカレーの缶詰とか買った記憶がある。
さらにその下にちょっとだけ大きめの少し目立つ文字で書かれてる煽り文句がまた脱力もの。「こだわりの逸品」と来たもんだ。だれがどういう風にこだわったどういう逸品なのかってことが微塵も感じられないパッケージにそんなこと書かれても、安っぽさが増すだけじゃないか。
箱の糊付けされている部分を剥がして解体してみると、どういう理由でこういうミスをしでかすことになったのかがわかりやすい。解体した状態だと、上下が揃って見える。PCの画面でパッケージデザインをするときに、上下の向きを「画面で見て揃ってる形」で作って、そのままのデザインで印刷会社に発注してしまったのだろう。
パッケージデザインを手がけたことがある人だったら、「ああ、やっちまったな」ってすぐ分かると思う。素人丸出しのミスである。
さっそく冷凍ピザの上に、アンチョビを2切れだけ取り出して刻んで振り掛けて焼いてみた。300円足らずの既成のピザがちょっとだけ豪華なアンチョビピザに早変わりである。
「買ってこなくても、自作すれば安いよ?」と言いたい人もいるかもしれない。アンチョビの材料になる小さいイワシ、「カタクチイワシ」とか「セグロイワシ」、「シコイワシ」みたいな名前で売られていることが多いが、値段はそれこそバケツ一杯で数百円とかそういうレベルである。それをまとめて買ってきて、骨と内臓を取り除いて塩漬けにして数ヶ月(まるごと塩漬けにする流派もある)、発酵してきたら汁を捨ててオリーブオイルを注いでまた数ヶ月、それだけで旨味が濃縮されたアンチョビの完成だ。原価ってことで比べたら、いくら缶詰アンチョビが1個110円といってもそっちのほうが安いだろう。
じつは、今まさに仕込中だったりする。昨年の12月に仕込んだので、食べごろになるのは今年の春から夏にかけてってところだろうか。楽しみだ。発酵が待ちきれなくて、お店で安いアンチョビ缶詰を見かけたらつい大量買いしてしまうほどに。