実銃射撃

近代五種の世界レベルすげえ

投稿日:2012年6月28日 更新日:

2011 Modern Pentathlon Women's World Cup Final TV Magazine Showあとひと月ほどでロンドン・オリンピックが始まる。以前からあちこちで書いてるとおり今年のオリンピックでは、男子50mピストル(フリーピストル)の松田知幸選手が「メダル確実、金メダルもかなり期待できる」という、日本の射撃選手としてはここ数十年くらいはありえなかった、というか史上初じゃないかってくらいの圧倒的な実績を残していて超注目である。

ところで、今回のオリンピックの「ピストル射撃」が含まれる競技では、もう一つ「日本初」がある。近代五種に日本女子初の出場を決めた黒須成美選手だ。フェンシング、競泳、馬術、そしてランニングとピストル射撃の複合競技を一日で全部おこなうというめちゃくちゃハードなもので、世界的に見てもそれほど競技人口が多いというわけではない。法律で銃の所持に厳しい制限がかけられてる日本ではなおさらだ。

そんな競技に自衛隊員でも警察官でもない全くの民間人の若い女性が日本代表として出場するってだけでも十分にニュースなのだが、もともと競泳選手だったのが、あるとき父親に無理矢理参加させられた近代五種の魅力にとりつかれ、ピストル射撃については高校生のころからエアガンを使って自宅の庭で練習していた…なんてエピソードを聞くともう俄然応援したくなる。

この黒須選手、射撃のセンスは国内の近代五種選手の中では抜群のものらしく、youtubeにアップされている全日本選手権の密着取材映像をみると、最後のコンバインド(ランニング+ピストル射撃の複合競技)が始まる時点でついていたトップとの49秒の差を、一回の射撃でほぼゼロにしてしまうという圧倒的な腕の差を披露してくれる。

ランニングは1000mを3周の合計3000m、その合間(正確には最初と途中の合計3回)に10m先の黒丸ターゲットを5回ヒットするピストル射撃が挟まる形になる。射撃では5発当てればその時点でランニングを再開して良いが、全く当てられなかったとしても70秒経てばランニングに戻れるというルールだ。射撃の腕が悪くて70秒ギリギリまで使ってしまう、あるいはターゲットに当てられずに70秒経ってしまう場合と、調子よく5発連続で当てて20秒程度でランニングに戻るのとでは、一気に50秒の差がつく(あるいは縮まる)という計算になる。

陸上の世界で「女子3000m」の記録といったら9分とか8分とかそのくらいだ。国内トップレベルになれば、その8分数十秒からたった5秒縮めるだけでも血を吐く思いで練習を積み重ねなければならないのに、50秒ちかくものハンデが付けられたら、普通に考えれば絶望的なタイム差になってしまう。その「絶望的なタイム差」を一気に縮める、あるいは逆に一気に突き放してしまうチャンスが合計で3回もあるのがコンバインドというわけだ。考えてみれば恐ろしい競技である。

当然のことだが、海外のレベルは日本国内よりはるかに高い。同じくyoutubeにアップされているワールドカップの映像を見ると、同じランでも国内の試合とはペースが違う。見てると「これ800mのペースじゃね?」てくらいの全力疾走めいたスピードで走っているし(長距離走の選手と違って身体がたくましいから、ますます見た目が中距離走っぽくなる)、ピストルでターゲットを撃つスピードも正確さも段違いに速い。コンバインドに至るまでの3つの種目(フェンシング、競泳、馬術)でも実力は拮抗しているらしく、トップ8のタイム差は30秒そこそこしかない。ランではほとんどオーバーテイクはないのだけれど、射撃フェーズに入るたびにものすごい勢いで順位が入れ替わる。5発をたった13秒で全部ヒットしてしまうなんていう化け物じみたスピードで撃つ選手までいる。それも全力疾走してきた直後に! 他の選手がもたついてたりすると、一気に5人抜きなんて劇的なシーンですら何度も発生する。

とんでもなくエキサイティングな競技だ。特に今年のロンドン・オリンピックでは、近代五種は100周年記念だかなんだかで特別に日程の一番最後に開催されることが決まっている。男子・女子の順番なので、黒須選手が出場する近代五種女子は文字通り「オリンピックの大トリを務める」ことになる。他の競技も全部終わったあとだから、テレビの注目も独占状態だ。まず間違いなく放送されるはず。これは絶対見なきゃ損だ、とここで強く主張しておきたい。

まあ、近代五種を自分でもやってみたいかって言われたら、「いや、それはちょっと」って答えると思うけれども…。フェンシング、競泳、馬術が抜きでコンバインドだけでの二種競技とかあったら少しは興味が沸くかも。今から長距離を走れる身体を作れなんてのは地獄の毎日になるけれども、これだけ面白そうなら頑張ってみる価値はあるかもと、ちょっとだけだけれど思ってしまう、そのくらい魅力がある競技だ。

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