なんか、海外ニュースにすごくいい記事があったので翻訳してみました。
五輪最後のイベントは、轟音（Roar）によって締めくくられた
オリンピックスタジアムで閉会式の準備が急ピッチで進められていたころ、日本の黒須成実選手（20）は36人中34位で、自身初のオリンピックを終えようとしていた。
馬術とコンバインド（ランニングと射撃の複合競技）が行われたグリニッジ公園に集まっていた熱心なイギリスの観客たちは、ありとあらゆる大きさのユニオンジャックを振り、立ち上がって、まるで地下鉄が通り過ぎるときの音のような大きな声援で黒須のゴールを迎えた。小柄な黒須にとってその轟音は驚き以外のなにものでもなかった。彼女は近くにイギリス選手がいるのではないかと周りを見渡した――自分ではなく、イギリス選手に向けての声援だと思ったからである。
黒須のゴールの瞬間は、数分前にゴールし銀メダルを取ったイギリス選手であろうともその場の中心ではなくなっていた。ロンドンオリンピック最後のイベントの最後の種目の最後の走者となった黒須の背中には多くの声援がかけられた。「それが私への声援だとわかって、とても嬉しかったです。あれは、特別な瞬間でした」と彼女は通訳を通して話した。
黒須が身に着けている馬蹄型のイヤリングは、幸運のお守りとして母からプレゼントされたものだ。近代五種を構成する5つの種目―フェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングの中では、馬術障害種目は彼女の最も得意とするものだ。だが、その種目はこの日曜日に、彼女に最も大きな不幸をもたらしたものでもあった。
近代五種の馬術障害では、乗る馬はくじ引きによって決定される。彼女が引いた「ザフィーラ」という名の馬は、競技を開始するないなや彼女を空中に放り出した。復帰した後にも2回も障害を飛び越えることを拒否し、彼女のスコアを絶望的なものとしてしまった。世界ランク16位のEvdokia Gretchicnikova（ロシア）も同じ馬に乗ったが、総合順位を35位にまで落としている。
振り落とされた後、馬によじ登りながらどんなことを考えていたのか？ 「故郷の人たちのことを考えていました」と黒須は答えた。彼女の故郷は茨城県下妻市。マグニチュード7.4の大地震とそれが引き起こした津波による甚大な被害から立ち直るため、人々はみな必死で「自分を振り落とした馬に再びよじ登ろうと」していた。
黒須は言う。「私のゴールが、みんなに少しでも励みになればと思います」
地震によって、黒須が練習に使っていた施設は全て使えなくなってしまった。2012年オリンピックに出場する夢は絶たれたかに見えたが、韓国のコーチが彼女の苦境を知り、自らが担当する韓国チームとともにトレーニングしないかと申し出てくれた。2週間後、練習場所を韓国に移す。直後に行われたアジア選手権において、彼女はオリンピック出場権を手に入れた。
日本と韓国。この二つの国の間にある歴史的な確執が、この週末に誌面を騒がせた件は記憶に新しい。韓国の男子サッカーチームの選手が、日本戦に勝利した直後に政治的なメッセージとサインを掲示したことによってメダル授与式への出席を禁止された。
黒須は韓国のライバル選手へ、次のような感謝のメッセージを送っている。「最初のころは――当然のことですが――彼らと一緒に練習することにはとても不安がありました。けれど、すぐにそれは私にとって良い刺激になることがわかりました」
彼女の競技力は、世界レベルには遠く及ばなかった。馬術では精神的に大きく消耗し、コンバインドでは体力を大きく奪われた。だが、彼女は自らの目標としていた「オリンピックのゴールライン」にたどり着いた。ゴール後、彼女は同胞である山中詩乃を探しだして抱き合った。女子近代五種がオリンピック正式競技となったのは2000年。彼女たち二人は、日本人初の女子近代五種オリンピック代表である。
「私にとっての勝利は、今、私がここにいること、そのものです。みんなに、決して諦めない心を伝えられたらと思います」
メダル授与式の後、国際近代五種事務総長であるJoel Bouzou氏（五輪への4度の出場経験をもつ）はイベントの成功を宣言した。「素晴らしい光景だった。我々は、もっと多くの人々がこのスポーツに参加してくれることを願う。近代五種は、オリンピック種目であり続けなければならないし、実際にそうなるだろう。今日、私達が見た光景、これこそが批評家（近代五種をオリンピックから外そうと主張する人々）への最高のメッセージだ」
黒須は、表彰台からは遠く離れた場所から、近代五種競技に、そしてロンドンオリンピックというイベントにとって、最も力強いメッセージを提供することとなった。
（文中敬称略）