Q.スノボ選手が、大麻が合法な国で大麻を吸ったってことで処分されてました。それが罪なら、銃が合法な国で射撃をしてくるのも罪になるんじゃないですか?
A.海外であっても罪になる行為と、その国で合法なら日本では犯罪であっても罪にならない行為があります。銃の射撃は後者です。
日本では違法だけれど、外国だと合法になる行為ってのはけっこうたくさんあります。未成年の飲酒とか、成年相手の売買春とか、マリファナとか大麻の吸引だとか。極端な例だと、日本だったら発覚すれば懲戒免職一直線のすごく重い犯罪である飲酒運転ですが、オーストラリアではある程度の範囲内だったら合法だったりします。「射撃場で、そこの備え付けの銃を借りて撃つ」というのも、日本だと法律で禁止されていますが海外だとその手の体験射撃場って観光地に行けば山のようにありますよね。
先日、スノボ選手が海外で大麻を吸引した形跡がある(検査で引っかかった)ってことで処分されるというニュースがありました。その国では大麻は合法だったのにも関わらず、アンチ・ドーピングにひっかかったことと、日本の法律には違反しているということで「重大な問題である」と受け止められ実際に処分されるところまでいったわけです。
正直、ちょっと過剰反応しすぎじゃないかなって気もするのですが、そこについては本題じゃないので今回は触れません。「その国では合法だったのに、日本の法律では違反になるのだから、それは問題だ」というのなら、グアムやアメリカやフィリピンや韓国なんかにある実弾射撃場で銃を撃ってきたりしたら、日本に帰ってきてから警察に捕まっちゃったりするんじゃないか? って話にもなりかねません。そこらへんはどうなんだって話をしようと思います。
※画像は公式サイトのTopページより引用
[20191107補足:現在はもう営業されていません]
結論から言えば、海外で実弾射撃をしてきても、日本に帰ってきて捕まるってことはありません。原則として、国家の刑罰権は国内にのみ適用されるものであって、国外での行為に対してどうこう言われることはありません。ただ、一部の犯罪については、それが行われた場所がたとえ国外であっても例外的に処罰の対象となるのです。これを「国外犯」といいます。
国外で行われた行為であっても、日本の法律によって処罰される国外犯となる犯罪は大きく分けて3種類あります。
1.その国にとってはたいしたことがない行為かもしれないが日本にとっては重大な影響がある犯罪。通貨偽造とか公文書偽造といったものですね。
2.日本国民が国外で重大犯罪を犯した場合。殺人とか強盗とか詐欺についてです。もちろんその国でも裁かれるでしょうが、それに加えて日本の法律でも裁かれ処罰されることがあります。
3.日本国民が国外で被害を受けた重大犯罪。たとえば海外旅行中に強盗とか強姦とかの被害にあったのにその国の司法がまともに対応してくれなかったみたいな場合、日本の法律を犯罪者に適用することができるというものです。
こうやってみると、かなり対象が限られた特殊なものだってことが分かります。というか、「言われなくてもそりゃダメでしょう」と誰でも納得出来そうな内容が並んでいますよね。ただ、「大麻の吸引」で処分されたってのがどういった理由によるものなのかは、これだけを見るとよくわかりません。
実はここ、けっこう微妙なんです。大麻の吸引はもちろん日本の法律には違反していますが、国外犯の対象にはなっていません。それが合法な国なら、吸引すること自体はべつに構わないんです。ただ、「所持」は別です。大麻や覚醒剤の「所持」は国外犯の適用となっています。吸引する以上、その前段階で所持を行っていたということになり、そこについての処罰という形になるわけです。
[ここから2019.11.07補足部分]なぜ吸引はOKなのに所持は国外犯とされるほどの「重大な罪」とされるのかというと、日本国内に持ち込んで売りさばいたりするのを防止するためです。日本に禁止薬物を流通させようとする行為は、①薬物の蔓延による使用者への健康被害、②流通の過程で非合法組織に莫大な利益をもたらすこと、この2つの意味で「日本という国そのものに対する攻撃」であるとみなされる極めて重い罪になります。[補足部分ここまで]
射撃場で銃を撃つことについては? もちろん、適用外です。というかそもそもの問題として、日本でも銃を撃つこと全般を例外なしに全部違法としているわけじゃありません。きちんと許可を取って適切な場所で撃つのならば、日本でも銃は撃てます。銃を撃つことそのものは、例えば殺人だとか強盗みたいな、「どんな言い訳も通用しない、絶対的に悪とされる行為」などではありません。悪い使い方をすりゃもちろん犯罪ですが、それは悪い使い方をしたから悪いってだけの話です。
ただ、それが通用しない人たちってのもいます。今でこそ「海外まででかけて銃を撃つなんて、犯罪行為だ」なんてことを言う人はめったに見かけなくなりましたが、ちょっと前までは決して珍しい存在じゃありませんでした。法律とかに全く詳しくない人とか、脳内お花畑な感じのちょっとカルト入った人がそういうこと言い出すのは、まあ珍しいことじゃありませんが、司法に関わるトップに近い人ですらそういうことを平気で発言していた時代があったのです。
出版社:ホビージャパン
発売日:2009年10月31日
ウエスタンアームズ(WA)製品の総合カタログであると同時に、WA社長の国本圭一氏の半生や、友人である所ジョージ氏や藤岡弘、氏との対談などが掲載されている。内容を一言でぶっちゃけて表現してしまうと、「一冊まるごと国本圭一礼賛本」ってことになるのだが、掲載されている「国本圭一拳銃物語」は、本人談の伝記ってことである程度の「盛り」があることを差し引いてもなかなかに凄い内容となっている。一度は読んどくべき。
ウエスタンアームズの創立者である国本圭一氏。若いころから日本のモデルガン業界に関わり、米軍基地にて実弾射撃の経験を積み、映画におけるガンアクション指導としての地位を確立した後、アメリカに渡り拳銃修行に明け暮れると同時に、日本では高級モデルガン販売を行う会社としてウエスタンアームズを創業……とまあ、相当に波乱万丈な人生を送っている方です。
半生を綴った「国本圭一拳銃物語」が掲載されている「マグナブローバックのすべて」という本には、拳銃修行のためにアメリカに渡ろうとする際に受けた様々な反対や妨害についても書かれています。その部分を引用してみましょう。
1972年。母なる母国、日本を離れ、新たな希望を抱いてアメリカへと渡る決意をしたケイであったが、(中略)この話をどこから聞きつけたのか、警視庁の中村警視正から「本当に息子さんを拳銃修行に行かせるんですか?」と問い合わせまで入った。「例えアメリカと言えども、日本人である以上、その気になれば日本の法律を適応できますよ」とプレッシャーまでかけられた。当時の日本は、それだけ銃に対してアレルギー体質になっていたのだろう。(マグナブローバックのすべて「国本圭一拳銃物語」86ページ)
もちろん、そんなこと(アメリカで銃を撃ったからって日本に帰ってきた時に捕まるなんてこと)はなかったわけですが、警視庁の偉い人ですら「その気になれば」という条件付きとはいえ、「海外で銃を撃ってくること」を国外犯の適用対象となりうる重大犯罪であると考えていたフシがあることが、この記述から伺えます。
どんなことが国外犯になるか、それともならないのかということは、いろいろ法律の文面には書かれていますが、結局のところは「国内だろうが外国だろうが、そんなことをするヤツは絶対に許せない」と思えるほどの行為なのかどうかってところに帰結します。つまりは、取り締まる側の価値観というか胸先三寸次第なわけです。
殺人や強盗や強姦については時代がどんなに変わろうとも「国外犯の適用対象となる重大犯罪」であるということは変わらないでしょうが、ものによっては今は国外犯とされる行為であっても、いつかそうではなくなる行為もあるかもしれません。ここ数年、多くの国や地域で合法化されている「大麻の吸引(その前段階での所持)」なんてのは、その一つになる可能性はずいぶんと高いんじゃないでしょうか。