ノーベルアームズから、「ACOGサイトの形をした製品」がいくつか発売されている。ホンモノのACOGサイトと同じように4倍のスコープになっているもの、似ているのは形だけで実は等倍のドットサイトだったりするものなど何種類かある。特に、だいたい今から2年ほど前に発売になった「432FR」は、発売と同時にどこのショップでも瞬殺になるくらいの大人気になったそうな。
ちゃんと製品レビューを書いてみたいとは前から思っていたのだけれどなかなか機会がなくて果たせなかったが、ようやく念願が果たせた。実物のACOGとの比較やドットサイトとスコープの比較など、盛りだくさんでお届けする。
実物のACOGサイトについて
トリジコン社のACOGサイトは、軍用として使われることを主眼において作られたスコープだ。倍率は製品によっていくつかバリエーションがあるが、主なものは4倍。スコープとしては低倍率である。倍率を変化させるズーム機能みたいなものは付いていない。
見た目は、一般的に「スコープ」と言われた時に想像する円筒形のものとはかなり異なったものになっている。マウント一体型で、先端が斜めに切断されたラッパのような、一種異様な形状をしている。後ろ半分は4本のネジでガッチリと接続されており、全体的に極めて頑丈だ。メーカーによるアピール文なんかには、「基本的に、壊れることはありえない」とまで自信満々に書かれている。実際、これを壊そうと思ったら大型のハンマーで何度も叩きつけるとかプレス機で挟むとか溶鉱炉に放り込むとか、よっぽどのムチャをしなければ不可能だろう。
最大の特徴は、「電池が入っていないのにレティクルが光る」という点だ。明るい場所ではサイトの上部に這わせてあるファイバーから光を取り込んで内部のレティクルが発光する。そして暗いところでは、サイトに内蔵されている放射性物質であるトリチウムの力によりレティクルが発光する。スイッチのオン・オフを全く考えなくても、電池がどのくらい残っているかを気にすることもなく、いつでサイトを覗けば発光するレティクルによりどんな環境でも簡単に狙いをつけることができるのだ。
この「スイッチとか電池とか気にしないでいい」というのは、実際に体験してみると予想以上に有り難いものだ。これまで両手両足を縛っていた枷から一気に解き放たれたような開放的な気分になれる。実際、米軍によって提供されている広報写真を見ると、ここ数年兵士達がM4やM16シリーズに取り付けている光学照準器は、そのほとんどがACOGサイトになっている。時間が決まっていてよーいスタートで始まる競技と違い、いつなんどき戦闘状態に入るかわからない戦場では「戦闘が始まった、まずスイッチを入れてから……」なんてことを考えなくてもよいACOGサイトに人気が集まるのは、考えてみれば当然のことかもしれない。
Trijicon ACOG TA31-CH
倍率:4倍
全長:150mm
重量:415g
価格:155,400円
取り扱い:OTS(http://www.ots-japan.com/)
実際の見え方
次にノーベルアームズのシュアヒット130。等倍のドットサイトなのでターゲットが大きく見えるわけではない。ドットの明るさは7段階に調節できる。左が中間の「4」、右が最も明るい「7」に合わせたものだ。最大光度だとレンズ内での乱反射が少し目立つ。
初めてトリジコンACOGを見た時は、そりゃもう衝撃的だった。やたらとゴツくて重いくせにフロントフォーカスどころか視度調整用のディオプターすら付いていないし、スコープの前後は4本のボルトでガッチリと固定されてるし。倍率はたった4倍しかなく、肉眼よりほんのちょっと大きく見えるだけ。レンジファインダーっぽい複数の横棒があるにはあるけれど、中心部分にちっちゃく描かれているだけでレティクル自体は実にシンプルなもの。「これで十数万円もするの……?」というのが、言っちゃ悪いが正直な感想だった。
だが、実際にライフル(エアガンだが)に装着して、移動したり構えたりしてみるとその良さがはっきりと分かってくる。最初からM16系ライフルに付けて使用することを前提としたサイトだけあって高さもポジションもバッチリ。「スイッチはどうなっている、電池はどうなっている」ということに気を使う必要がない。倍率の小ささも、肉眼で見ているときとの差が大きくないのでむしろ目標を見失いにくいメリットが大きい。このサイトは、精密に狙って必中の射撃をするためのスコープではなく、いわばオープンサイトの上位互換のようなサイトなのだということに気づけば、ACOGサイトがどれだけ優れたサイトなのかが実感できるようになる。
レティクルの発光に使われているトリチウムは放射性物質とはいってもその発する放射線は極めて微弱なものなので、人体に対する影響なんてものはゼロに等しい。封入されているカプセルを割って取り出した中身を大量に飲み込むとかすれば話は別だが……。以前はトリチウム発光カプセルを使った携帯ストラップなんかが堂々と販売されていたこともあったが、実は販売にはけっこう面倒な許可だとかなんとかが必要だということで業者が逮捕されたりとかいろいろあり、今は少なくてもおおっぴらには売られていない。
今回紹介するノーベルアームズのシュアヒット130と432FRは、両方ともACOGサイトの形は真似てはいるものの、トリチウムを使った発光システムは持っていない。これは他にも数多く存在しているACOGタイプのサイトと同じ。
130は機能としては等倍のドットサイトだが、上の写真を見ればわかるがドットサイトとしての出来はそれほど良いわけではない。まあ、安価に販売されているドットサイトの中にはほんとうにどうしようもない出来のものがあって、そういうのに比べればずいぶんと「ちゃんとした」サイトではあるのだけれど、ノーベルアームズ製の他のドットサイト、たとえばCOMBAT Mk3だとかCOMBAT M4だとかに比べると、「うーん?」みたいなドットのにじみ方があったり、鏡銅内での乱反射があったりする。まあ、もともとドットサイトとして作られたわけじゃない形の中に無理やりドットサイトとしての機能を組み込んでいるわけで、少し性能的に妥協しているところもあるのかもしれない。
一方、432FRは見事なものだ。映像もレティクルもクリアだし、どこにもスイッチなんかないのにレティクルの中心にある小さいドットは常に点灯している。スコープ本体の上部にある集光ファイバーを使って、レティクルの中心点だけが点灯しているのだ。これは使いやすい。実際にスコープをサバイバルゲームなどで使用している人なら分かると思うが、ターゲットやその背景というのは明るい色ばかりではなく、むしろ暗い色をしていることの方が多い。黒っぽいものにスコープを向けると十字線が背景に紛れ込んでしまって見えなくなることがあるのだが、そんなときに中心点が光っていると、ほんの小さい点だけでも物凄く照準の手助けになってくれる。もちろん、スコープとしての出来も十分に水準以上だ。スコープを通して見える像はクリアで明るく、変な色の変化もない。レティクルもクッキリ鮮やかに見える。
SURE HIT 130の細部
前ページでボロクソに書いちゃった130だけれど、とりあえず細かい部分を見ていこう。本来ならドットサイトではないモノの形の中に、電池だとか発光メカニズムだとかを収納して、なおかつちゃんと機能するように作るのだから設計する側も大変だとは思う。
上下左右の調節方法は、一般的なスコープやドットサイトと同じだ。下に当たる時は「UP」、上に当たるときはその逆。左に当たるときは「R」で右に当たる時はその逆方向にダイヤルを回せば、弾が当たる場所は狙った場所に近づいていく。
SURE HIT 432FRの細部
次に、ホンモノのACOGサイトと同じように集光ファイバーによる自己発光式のレティクルを備えた4倍スコープである432FRの細部を見ていこう。
買うならやっぱり432FRかなあ
ACOGサイトはもともとのデザインからして、「オープンサイトの延長として使うスコープサイト」として非常によく考えられたデザインになっていて、とにかく使いやすい。その形状をモチーフとしているシュアヒット130と432FRの2機種も、もちろん両方とも使いやすいサイトではあるのだが、やはり後から発売された432FRの方は抜群に使いやすい。
ホンモノのACOGサイトとはレティクルのデザインや発光する箇所が若干異なる。実物ACOGサイトが「M16系ライフルを使って5.56mm弾を撃つ」ことに特化したデザインになっているのだから、それをそのままコピーするより多種多様なエアガンに取り付けられることを前提としたデザインにするほうが使い勝手が良くなると考えたのだろう。
実際、レティクルの中心にあるドットだけが光るというのは予想以上に使い勝手がいい。薄暗がりではドットサイトのような感じでドットだけを頼りに照準することができるし、対象が十分に明るければクロスヘアの部分を主に使用して精密な照準を瞬時に行える。
それに、なんといっても、何回目の繰り返しになるかわからなくて申し訳ないが、とにかく「スイッチは入ってるかどうか、電池はどうか」という心配を一切しないでいいというのが、こんなにも気を楽にしてくれるとは思いもよらなかった! この安心感は、どれだけ信頼性が高いとされているドットサイトでも味わえないだろう。