「22LRをリローディングすることはできない」という常識を覆す、22LR用のリローディングキット。価格は、工具とプライマー剤(約2000発分)を合わせて、円に換算して1万円程度だ。画像は公式サイトのスクリーンショット。(※この他に鉛を溶かす道具が必要……1万~2万円程度)
http://22lrreloader.com/
リローディングというのは、簡単に言うと空薬莢に新しい弾頭と火薬を詰めて再利用することです。手間はかかるけれども一般的には新品の弾を購入するより安く済むことや、銃弾の細かいスペックを自分自身で変更することができることなどが利点とされています。
銃弾の中に詰める火薬には二種類あります。メインとなるのが弾頭を加速するための火薬、そしてその火薬に点火するための少量の火薬です。後者を「プライマー」と呼びます。プライマーは、強い衝撃が加わると激しい火花を出して燃える性質がありますので、銃を撃つときには銃弾の底部に設置したプライマーを強く打撃することで銃弾内の火薬に一斉に点火するという仕組みになっています。
現在、世界の軍隊や警察、あるいは護身用などで一般的に使われている弾は、ユニット式になったプライマーを銃弾底部の中心にハメこむ形でセットされる「センターファイア」方式の弾です。それとは別に、銃弾底部の縁部分内部にプライマーを塗り広げておき、射撃時には縁を叩き潰す形で打撃を与えてプライマーに点火する「リムファイア」方式の弾もあります。競技射撃で使われるのは、そのほとんどがリムファイアの弾、それも「22LR」と呼ばれる弾です。
銃の世界では、「22LRはリローディングできない」というのが常識となっています。リムファイアはセンターファイアと違って、「プライマーを交換する」ということができないため、リロードしようとするなら自分で薬莢内部にプライマーを塗る必要がありますが、そんな材料はどこにも販売されていません。そもそも、「衝撃が加わると激しく爆発する」ような素材が缶とかに入ってフツーに販売されてるハズがありません。
また、センターファイア弾用の弾頭は、リローディングする人のために様々な種類のものが銃砲店で販売されていますが、22LR用の弾頭はどこにも売っていません。同じ22口径のセンターファイア弾が流用できないかと思っても、例えば.223Remの弾を22LRにセットしようとすると、直径がわずかに大きく薬莢内に入らないという問題があります。
仮にリロードしようとするのなら薬莢内部に残ったプライマーを綺麗に掻きだした上で変形した薬莢の縁部分を元の形に戻し、その上で新しいプライマーを爆発しないように慎重に塗ってやって、少量の火薬を流し込んで、最後に何らかの形で自作した弾頭を取り付けてやる……という、極めて面倒な手順が必要になります。大掛かりで高い機材が必要となり、手間がかかり、その割に利点が少ないため、「22LRはリローディングできない」というのが常識だったわけです。
そんな常識をくつがえす、「お手軽22LRリローディングキット」なるものがアメリカで販売されているのを見つけました。といっても、紹介している記事(NRA Shooting Sports USA)内でも「データがないことなので、このキットを使った結果、何が起こっても知らないぞ」的な警告文が長々と書かれた上でようやく記事が始まるという、かなり「アヤシゲ」な道具であることは確かなようですが、とりあえず実在しているのは確かなようです。
リムファイア弾のリロードについての問題点(上述)はどのように解決したのでしょうか? そしてそもそも、アメリカじゃタダみたいに安い22LR弾をいちいちリロードしようなんて需要があるのでしょうか? そういった疑問点については、次ページ以降で解説していきます。
アメリカじゃ22LRはタダみたいに安いのに?
数ある銃弾の中でも、22LRは極めて安い部類に入ります。銃に関係した用品類はとにかくベラボウに高くなる日本ですら、一番安い弾を選べば1発あたり20円程度で済みます。日本だと22LRは競技用にしか使えない関係で「競技用か、その練習用」の高品質なものだけが輸入されているという事情がありますが、そんなの関係なくお気軽なレジャー射撃で使う安弾も売ってるアメリカだと、日本円に換算すれば1発10円を切るような値段のものもたくさんあります。
22LR用リローディング・キットの販売ページを隅から隅まで読んでも、「お金を節約」とか「より高い命中精度を」とかそういうフレーズはみあたりません。実際に、計算してみるとリロードしても1発あたりの値段は10円くらいはすることになるし、Webサイトに掲載されているターゲット写真を見る限りでは抜群の命中精度が発揮できるわけでもないようです。
なら、なんでわざわざ22LRをリローディングしようなんて思うのか? どうやら、「政治情勢の変化により22LRが手に入らなくなるという不安の軽減」というのが、この製品の最大アピールポイントとなっているようです。
アメリカでは銃規制法の変更が予想されるために爆発的に駆け込み需要が発生する……という自体が頻発しています。「弾が売ってねえ!」ってのは22LRに限らずかなり深刻だったりするようです。「22LRなんてタダみたいな値段で売ってるんだから、チマチマとリローディングするとかやってらんねえ」みたいなことを言ってたアメリカ人でも、手に入らないとなると話は別で、兎にも角にも「いざとなれば弾を自作できる環境を整えておきたい」という需要が生まれてきており、この「22LR用リローディング・キット」も、そういった市場のニーズが産んだ製品ということのようです。
意外に単純なリロード手順
公式サイトによると、22LRのリロードは下記のような手順になるとのことです。
※この項目、写真は全て22lrreloader.comより引用
問題点はどうやって解決したのか
冒頭に、「22LRのリロードが行われない理由」として挙げたいくつかの問題点があります。そこはどうやって解決したのでしょうか?
1)結局、弾頭は自分で作るしかない
市販の弾頭を購入して取り付ける、という選択肢はどうやら選べないようです。まあ、仮にそうしたところで弾頭の値段だけで安い22LR弾が買えてしまうのであんまり意味がないのですが。鉛を溶かす電気炉(1万~2万円くらいで販売されています。日本でも手に入ります)から付属のモールドに鉛を流し込んでキャスト(鋳造)する必要があります。
とはいえ22LRの弾頭は小さいものですし、道具さえそろっていればそれほど厄介な手間というわけでもないようです。「NRA SHOOTING」の記事によると、「弾頭をキャストするのと、出来上がった弾頭を薬莢にプレスするのと、手間としてはそれほど変わらない」みたいなことが書いてあります。
2)一度撃って変形したリム部分は、どうしようもない
22LRは、プライマーが詰め込んであるリム部分を打撃して変形させ押しつぶすことで内部のプライマーを発火させます。その、変形した部分は、リロードしてもそのままです。元の形に戻すのは無理っぽいです。
当然、リムが押しつぶされている部分には新しいプライマーを詰め込むことはできません。なので、そこをもう一度打撃してもプライマーは発火せず、弾は発射されない(不発)ということになります。
再利用した弾を撃つときには、一度撃って変形したリムをもう一度叩くことがないように、角度に気をつけながら装填する必要があります。そのことから考えて、薬莢の使い回しはせいぜい2回、頑張っても3回が限度なんじゃないかと思います。
3)精度は、それほど高いものじゃないらしい
公式サイトの「Accuracy」のコーナーにテストターゲットらしき写真が掲載されています。真ん中付近に着弾が集まっていて実用上は十分な精度だということはわかりますが、競技射撃、それも50mライフル伏射でのターゲットに比べると、「お話にならないレベルで散ってる」としか思えない結果です。
もっとも、これまで「より高い精度」を目指そうとするなら弾の銘柄やロットを変える以外になかった22LRに、弾頭やパウダーの量を少しずつ変えて試行錯誤する余地が、この製品によって生まれたのは確かです。薬莢の中に入れるパウダー量を1グレイン単位で増減させてみたり、キャストした弾を選別したりといった手間をかければ、もしかしたら高額なマッチ弾に迫るような精度を発揮できるのかもしれません。……ここらへんについては、現時点では机上の空論に過ぎませんが。
22LRのリロードに意味はあるのか
結局のところ、「手間のことを考えたら、あんまり意味があるとは思えない」ってのが結論になってしまうんじゃないかと思います。市販弾に比べれば少しは安く済むとはいえ劇的に安上がりになるわけでもありません。なにより市販弾の値段自体が安いので、例えば丸一日頑張って1000発の弾を作ったところで、同じ数の弾を銃砲店で買ってくれば2万円程度。丸一日の労働の対価としては割に合うとは言いづらいものがあります。
この製品を紹介している「NRA SHOOTING」の記事でも、一番最後に少し冗談めかしてこんなことが書いてあります。
「どこの22LR弾を使っていますか?」と聞かれた時に、「まあ、リロード弾を少々」と答えて、相手の困惑する顔を見ることができます。
まあ、その程度のもんだってことですね。