Q.なんで広島がビームライフルの聖地なの?
A.でかい射撃場があるからです。
広島にあるつつが射撃場は、1994年の広島アジア大会のために作られた、日本初の国際規格対応の本格的なライフル射撃場です。10m射場が50射座、50m射場は70射座、しかも全てが電子標的。常設のビームライフル射撃場も20射座という大規模なものです。全国高等学校選手権は、毎年ここで開催されています。
高校野球における甲子園、ラグビーでの花園みたいな存在ですが、それらと違うのは「ここ以外で開催するのは物理的に難しい」という切実な理由があります。ビームだけで男女合わせて300人を超える人数が一度に試合に出るなんてのはこの大会だけですし、サポートや補欠や顧問やコーチなんかを入れると余裕でその倍にはなる人数を複数の宿泊施設に割り振ったり、その人員を時間どおりに現地まで運んだりといったノウハウの積み重ねなんかを考えると、もう広島以外で高校選手権を開催するのは無理なんじゃないかと思います。
さてそのつつが射撃場ですが、ど田舎です。マンガ「ライフル・イズ・ビューティフル」でも「Googleストリートビューを見たら、延々と左右になにもない山道が続くので唖然とする」って描写があります。みなさん試していただければ実感できると思いますが、そのとおりです。一番近い「そこそこ人がいる施設」となると、10kmは離れた場所にある高速IC近くの道の駅になるんじゃないでしょうか。
私は社会人になってから射撃を始めたので高校選手権に行ったことはありません。けれども、つつが射撃場には何度か行ったことがあります。初つつがは2001年の全日本選抜だったと思います。現地につくまでの時間を読み間違えまくってしまい、銃検を終えて射座に駆け込んだのはプレパも試射も終わって本射が始まった頃という大遅刻をやらかしました。GoogleストリートビューどころかGoogleマップも存在しない時代です。かろうじてGoogleは存在していましたが。
当日の朝、広島駅近くでレンタカーを借りて射撃場に向かう予定で、本当なら十分に間に合うはずだったのです。しかし借りたクルマのナビにつつが射場の地図が登録されていなかったので、インターネットで場所を確認しなければならなくなり、しかし当時はネットに無線でつなげるなんてことは無理で、街角にあるISDN対応の電話ボックスに駆け込んで持参したノートPCをモジュラーケーブルでつなぎ、広島にあるNifty-Serveのアクセスポイントに接続し、広島県ライフル射撃協会のホームページをGoogleで検索して開き、そこに掲載されている地図をノートPCにセーブして……といような手続きが必要だったのです。それだけで30分くらい要したので遅刻してしまうのも仕方のないことだったのです。
2回目、2002年に行った時はもっと凄い状況になりました。翌年に廃線になるという可部線に乗って最寄り駅である筒賀駅(今はもうありません)までたどり着いたのですが、駅というからには駅前になにかあるのだろうと思ってたら、自転車置場があるくらいで何もない! 駅しかない! 今なら事前にGoogleストリートビューで駅の周辺がどんな感じなのか調べておくこともできますが、当時はそんなものありません! 今ならスマホでGoogleマップを開いて現在位置を調べたりできますが、当時の携帯電話にはそんな機能はありません! 同じ電車に乗ってた高校生達が自転車置場にある自分の自転車に乗って走り去った後は、もう自分の手のひらも見えないような真っ暗闇です。そんな状況で、紙にプリントアウトした地図を頼りに宿泊場所に向けて必死になって歩き続けました。いや本当、あの時はどうなるかと思いましたマジで。
あの頃と比べれば、今は事前にネットで周囲の様子を確認できますし、場所がわからなくなっても手元のスマホですぐに地図や現在位置が確認できますし、本当に便利になったものです。ネット環境の進歩は素晴らしいものがあります。
しかし、どんなに進歩しても変わらないものがあります。広島県ライフル射撃協会のホームページです。あちこちでいろんなものがキラキラ輝いていたり、「Welcome」の文字がくるくる回転したり、「あなたはこのページの○○番目の訪問者です」と誇らしげにカウンターが一番目立つ場所に表示されてたり、文字が左から右へと流れていったり。もうこれは文化遺産に登録してもいいんじゃないかってくらいの、古色蒼然たる「ホームページ」です。私が広島にあるISDN公衆電話にノートパソコンを接続して射撃場の地図を確認するために表示したのは、まちがいなくこのページです。懐かしいなあ。