トリガーの切れ味は、さすがにモリーニに比べると劣る。こればっかりは比べる対象の分が悪すぎる。モリーニのエレクトリック・トリガーは、値段だけ比べてもトリガー周りの部品単体だけでAPS-3が2丁買える金額だし、そもそも機構の根本からして反則に近い構造をしており、これ以上のキレの良さは物理的にあり得ないと言って良いシロモノだからだ。
ではそれ以外の機械式のトリガーを持った競技銃と比べるとどうだろうか。私の乏しい経験だと他に知っているトリガーは、ファインベルクバウの古いエアピストル(ハンドライフルに改造されたもの)と、同じくファインベルクバウの300S(昔、歌舞伎町にあったエアライフル射撃場にあったもの)の2種類しかない。それらと比べると……同等である、といって構わないと思う。若干だけ粘りがあり、「ぐいっ、バキン」という感触を覚えるが、シアが切れかかったところでハンパに止まるようなことはなく、切れ始めたら一気に切れる。もちろん、玩具銃としては抜群に良いといっていいだろう。グランドマスターのトリガーでの苦労を経験している人は、「ああ、これでもう苦労しなくて済む」と胸をなで下ろすかもしれない。シアの切れ味を向上するパーツ類は、お約束的にいくつかのメーカーから発売になったりするかもしれないが、「とりあえず必要はない」とここに書いておこう。
調整範囲は、前後位置とファースト・ステージのストロークの2点のみとなっている。グランドマスターではトリガーの位置は前後の他に鉛直を軸とした回転の調整が可能だったのに比べれば退化に感じるかも知れない。だが、トリガーを左右に回転させるなんていうのは「やってはいけないこと」の最右翼のようなもの。トリガーは「真っ直ぐ後ろに引く」ことが競技射撃の基本中の基本であり、斜め方向に力を加えるというミスを助長してしまうような調整が出来てしまうこと自体が欠陥といっても良いほどだった。
なぜ、グランドマスターはトリガーを回転させる機構を持っていたのか? 実は、トリガー位置が前過ぎた(遠すぎた)ことが理由になっている。女性や若年者など、手が小さい人だと適切な位置までトリガーに指が届かない。しかたないので、右に回して(右利きの場合)、なんとか指に届かせる……というような対症療法として作られたものだった。もちろん良いことではない。悪い状況をさらに悪化させてるようなものだ。私は他の方々よりずいぶんと指は長い方だと思うが、それでもグランドマスターのトリガーは遠すぎた。部品を削ったりして限界まで近づけ、それでも足りなくてブレードを取り払って軸を直接トリガー・フィンガーで引くようにして、ようやくしっくりくる位置になったほどだ。
APS-3のトリガー位置は申し分ない。上写真が私にとって最もしっくりくる位置だが、まだ後ろに随分と余裕がある。もちろん、前にも余裕がある。グリップに1サイズしかないあたりが玩具銃の限界を見るようだが、それでもこれだけ余裕があれば多くのユーザーが正しい位置でトリガーを引くことが出来るだろう。