ピストル射撃は、「銃を構えて」「狙いを付けて」「トリガーを引く」という大きく分けて3段階のプロセスがあります。この3つを重要度でランキング付けすると、最後の「トリガーを引く」が最も重要で、「狙いを付ける」「銃を構える」というのはその次に来ます。というより、トリガーの重要度があまりにも大きすぎて、狙いだとか構えだとかは「どうでもいい」に近いレベルで重要度が低い、といっても過言ではありません。
なんでそこまでトリガーが重要なのかというと、取りも直さずそこで失敗すると全部が台無しになるからです。どれだけ綺麗なフォームで、どれだけ正確な照準をしていても、トリガーで失敗して弾を撃つ直前に銃が動いてしまったら、弾着はとんでもないところに飛んでしまいます。けれどもトリガーさえちゃんとしていれば、フォームが汚かろうが狙いを付けた場所が少々中心からズレていようが、弾が当たるのはその「少々ズレた場所」で済みます。ピストル射撃ではターゲットが大きめなこともあって、「少々ズレた」を60発繰り返してもそこそこ高得点になるのです。
重要だということは、難しいということでもあります。どんなに練習を積み重ねても、トリガーを引く瞬間に銃が動いてしまうクセを完全に消し去るというのは難しいものがあります。それこそオリンピックレベルの人ですら、毎日の地道な練習の積み重ねによりトリガー技術を研鑽しつづけなければ、あっという間に「初心者レベル」に戻ってしまいます。
海外の競技射撃専門BBSである「TargetTalk」に、トリガーを引く瞬間に手首が動き、銃が上に跳ね上がってしまう「ツイッチ」と呼ばれる現象に悩まされている人が助言を求めて投稿したところ、大勢の方がツイッチとの果てしなき戦いの過程で編み出した「効果的な方法」についてたくさんのアドバイスを投稿しました。結論から言うと「効果的な対処方法は、人によって異なる」というものになってしまいますが、たくさんのアドバイスのどれかはきっと誰かの役に立つのではないかと思ったので、役に立ちそうなものを抜粋して(あ、こりゃダメだと思ったのは省いて)翻訳して掲載します。
10mエアピストルのツイッチ
Twitch Shot in 10 Meter Air Pistol (TargetTalk)
- 皆さんに質問があります。私は60発のうち2発くらいの割合で、手が「ツイッチ」してしまうのです。動くのは手首で、トリガーフィンガーではありません。毎回、同じようにトリガーを絞っているつもりなのですが…。ツイッチが発生するのは決まって手首です。
私はドライファイア(空撃ち)練習と実射練習あわせてだいたい週に750発くらいを撃ちます。空撃ち練習のときも手首はツイッチを起こします。
私の平均得点は518点(600点中)です。ツイッチさえ起こさなければ確実に黒丸には入りますが、ツイッチを起こすと一気に5から2くらいまで吹っ飛びます。
なんとか手首や腕が無駄な動きをしないように頑張ってみました。ツイッチがいつ、どういう状況で起こるかは全く予測できませんが、起こった時はすぐにわかります。ダイエットしてみたり、カフェインや砂糖の摂取を辞めたりとか試みてみましたが、成功することはありませんでした。
成績の記録はきちんと残しているのですが、それを読み返してもパターンや原因は見つかりません。
グリップが私の手に完璧に合っていないせいだとは思えません。ツイッチは早い時期に来ることもあれば、真ん中あたりや終わり頃に来ることもあります。なにか助言をいただけないでしょうか?(アメリカ・ウィスコンシン州)
- ツイッチによって弾着が飛ぶのはどの方向ですか? 12時(真上)か2時(少し右上)方向なら、原因には見当がつきます。私はそれは、「予感」がもたらす「ごくわずかな姿勢変化」だと思います。
治療方法はただひとつ、射撃のタイミングを早くして、「サプライズ・ショット」を体得することです。私も時々はツイッチを起こすことがありますが、手首が痙攣したときにはすでに弾は黒丸に向けて発射された後です。また、比較的リラックスしたグリップを使用することで、筋肉を緩くし、ツイッチを抑えるのに役立ちます。
別のやりかたもあります。「弾を発射する」ことを意識するのではなく、トリガーアクションに集中するというものです。トリガーを後ろに動かす、あるいは圧力をかけることを常に考えてください。どちらも結果的には「弾を発射する」ことにつながりますが、潜在意識を「弾の発射」から逸らすことで、ツイッチの発生源の活性化を抑制することができます。
こういった方法で空撃ち練習を続けてください。目標はツイッチが完全に消えるまでです。私はまだ取り組んでいる途中ですが、数年前よりもはるかに良くなりました。(アメリカ・マサチューセッツ州)
- それはあなたが生きていて呼吸している人間だということの証拠です。ときにはいつもよりもツイッチを起こしやすくなるものです。
「トリガーを絞り込むことに集中してみては」というアドバイスに賛成します。撃発がサプライズになるように心がけることで、私は頻発するフライヤー(唐突に現れるとんでもない弾着)を減らすことに成功しました。射撃前のコーヒーやクッキーは、明らかに悪影響があります。(新たにグローバルとなったイギリス)
- 私も同じ問題に悩まされています。飛ぶのは常に12時方向です。一番良い状態のときでも、10~11発に1発くらい「やらかし」をやってしまい、同じ方向で最悪白いところまで飛んでしまいます。
トリガーフィンガーを操作する前腕の腱と筋肉に集中してみましたが、何かを解決したり解明したりすることはできませんでした。(Pacific NorthWet)
- >週に750発くらい撃ちます
思うに、あなたに必要なのは休息だと思います。(ニュージーランド)
- 皆さん、ありがとう。私は同じ悩みを持っているのが私一人ではないことを知ってうれしいです。私は61歳ですが、私はブルズアイを5年間撃ってきました。22口径で90発、センターファイアーで90発、45ACP(1911)で90ラウンドという競技でした。だから、ツイッチの原因が疲労だとは思えません。
私は「サプライズ・ショット」が嫌いですが、トリガーにもっと集中してみます。600点のうち約15点のロスがそこで生じていると思うので、なんとかしなければなりません。(ウィスコンシン州)
- 私もツイッチを経験したことがありますが、そんなに頻繁ではありません。
それは、射撃をしているとき以外にも発生しますか?たとえば運転をしていたり、電話機を手に持っていたりするときにです。
もしそういうときにもツイッチが起きるのなら、それは「ピンチ・ナーヴ」じゃないでしょうか?
グリップの角度によっては、手が小さなピンチを引き起こす可能性があるポジションに来てしまうことがあります。(ノーフォークバージニア州)
- >射撃をしているとき以外にも発生しますか?
いいえ、射撃時にのみ発生します。 (ウィスコンシン州)
- >ツイッチの原因が疲労だとは思えません。
すいません、疲労が原因なのだろうと決めつけたつもりはありませんでした…。ただ、それだけ練習しているのに518平均(しか撃てていない)ということは、何かが上手く働いていないのではないかと思います。
疲労は確実に筋肉のツイッチを引き起こします。少し練習量を減らしてみてみて、同じようになるかどうか試してみてください。(ニュージーランド)
- あなたの方が真実に近いと思います。私は射撃のレッスンを受けたことがありませんし、おそらく何か間違ったことをしている可能性が高いです。「Pistol Shooting The Olympic Disciplines」を読んだり、エアピストルのYouTubeのビデオを見たりしました。私のエアピストル射撃歴は約1年です。2016年のナショナルズのキャンプペリーがきっかけで夢中になりました。現在、私は手袋のように私に合ったRink製グリップ付きのEvoを持っています。 パテを追加したり、磨く必要はありませんでした。 私は、100%が自分自身が問題だと確信しています。(ウィスコンシン州)
- >私は「サプライズ・ショット」が嫌いです
あなたは、「サプライズ・ショット大好き」への道を見つけなければなりません。それは、完璧なサイト・アライメントとフォロースルーが織りなすハイスコアの秘訣だからです。
ツイッチの原因についてですが、グリップを握る力が軽すぎるのかもしれません。ほとんどの射手は、「グリップを握るのに必要な圧力はどれくらいか?」なんて疑問を持つことはありませんが、大まかに言うと、動きを許さないようにしっかりと保持し、トリガーの指の柔軟性に対してある程度のコントロールを失わないよう程度の圧力が適切です。間違っても、木製グリップの樹液を絞り出すかのような力で握り込んではいけません。
この助言はあなたが求めている回答ではないかもしれませんが、試してみる価値はあると思います。(オーストラリア)
- 私の場合、ツイッチが起きるのは確実にグリップを強く握りすぎている時です。そのことに気づいてしまえば解決は早かったです。エアピストルのグリップを握るのに必要な力は、一般に思われてるよりもずっと軽いものです…あくまで、トリガーコントロールの技術をきちんと身につけていることが前提ですが。既に指摘されているとおり、グリップを握る力を軽めにすることにより、トリガーフィンガーの細かい筋肉制御が可能になります。(マサチューセッツ州)
- 私のコーチが言うところによりますと、グリップにかける圧力は「友人と握手するときのような感じ」が良いとのことです。きつくはなく、かといってゆるくもなく、穏やかな圧力であるべきだとのことです。
私が思うに、あなたはこれまで厳しい練習をしてきたことが、悪い技術に対するこだわりを発生させ、そのことにつながっているのではないかと思います。あなたが今必要としているのは、あなたが撃つところを実際に見て、あなたが作り上げてきた習慣を打破する助けとなる助言ができるコーチなのではないかと思います。(国籍不明)
- >グリップにかける圧力は「友人と握手するときのような感じ」が良い
.22口径ならば「握手」する感じでのグリップはOKですが、エアピストルにはあまりに強すぎると思います。「しっかりとした握手」と言われて多くの人が思い浮かべるであろうものは、エアピストルのグリップとして決して良いものとは言えません。ピストルを握って、トリガーフィンガーをゆっくりと動かしてみてください。もしトリガーフィンガーに何らかの影響を感じるようならば、グリップを強く握りすぎている証拠です。(マサチューセッツ州)
- きちんと調整されたグリップとパームレストならば、手の中指とヒール部分だけでピストルをバランスさせて、グリップを全く握り込まなくてもトリガーを引くことができます。指(親指を含む)はグリップの上で休めている(レストしている)だけの状態でなければなりません。このやり方を試してください。トリガーを引いたときにサイトが動いてしまうようなら、パームレストを調整してください。大抵の場合、これでぐらつきやツイッチは軽減します。反動が大きい装薬銃では使えない方法です。(新しいグローバル英国)
- 私の意見ですが、グリップを握る強さは、「重いが非常に壊れやすい卵を持つような感じ」でなければなりません。(スタッフォードシャー、イギリス)
- 何人かの年老いた射手や、時には私自身とツイッチ現象について話をしてきました。私の意見では、それは「集中する対象を間違えた」状態から、「目を覚ます」ことによって引き起こされるものです。いわば、それは一種の「脳のおなら」です(訳者注:想像するにこれは「溜め込んだものをブワーッと吹き出す」というようなニュアンスを表現しようとして使ったフレーズなんじゃないかと思います)。おそらく、ツイッチやそれに類する現象は、恐れによる凍りつきが解除されたときに発生するのです。
対処方法ですが、確実にこれをすればOKというやり方はわかりません。こうすればいいんじゃないかと思える方法をいくつか試しているところです。フロントサイトを後ろに移動し、スタビライザー・バーをSAM M10に追加しました。練習では「多分、良い感じ」という結果になりましたが…。
このサイトにあるアーカイブのうちいくつかを読むと、右へ左へとフラフラ移動する黒点をフロントサイトの上に釘付けにしようとしている間に行なってしまうトリガージャークとグリップクラッチによって引き起こされる多くの問題があることがわかります。
この問題に解決策があるかどうかは分かりません。「スパズボーイ」の取り組みを続けてください。
がんばろう!(アリゾナ州スコッツデール)
- 私も、似たような問題を抱えています。手首のツイッチによって弾着が2時方向に飛んでしまいます。
その日の早朝にジョギングすると、ツイッチの発生回数がずっと少なくなります。運動をしないと、とたんにたくさんのツイッチに悩まされます。推測するに、身体が酸素を使い果たしたときの筋振戦と関係があるのではないかと思います。
来週、ヨガ教室に行くのですが、もし1ヶ月以内に大きな変化が見られたらぜひ紹介したいと思います。(国籍不明)
- 私の場合、ツイッチは「トリガー・シャイ」の一種として発生します。
トリガーを引き絞っても撃発に踏み切れない時がありますが、そういうとき自分で自分自身の意識がサイトピクチャーではなく何か別のことにドリフトしてしまっていることが分かります。
もし自分の集中がそういう状態にあることを意識したら、射撃をいったん打ち切ることにしています。(エジプト)
- >意識がサイトピクチャーではなく何か別のことにドリフトしてしまっている
私も同じ問題に悩まされています。空撃ち練習は問題の解決に大いに役立ちます。サイトに意識を集中するために、トリガーの自動化(トリガーフィンガーが自動的にトリガーを引き絞るようにすること)の訓練が必要です。トリガーを引いたことによる「結果」が存在する場合(つまりそれは空撃ちではなく実射ということです)、意識の中に「躊躇」が芽生えてしまい、それは全てを良くない方向へ導きはじめてしまいます。弾を撃たなくても、電子トレーナーを使うだけでも駄目です。ターゲットを置いて空撃ちをするだけに専念してください。その状態で、スムースで、安定していて、クイックなトリガーリリースを、照準を乱すことなく行えるように練習するのです。
トリガーに圧力をどのようにかけるか、とても微妙で繊細な部分ですが、射撃全体の中では重要な一要素になります。「あらかじめトリガーに圧をある程度かけておいた状態からさらに引き始める」という引き方をしていて、射撃プロセスの中でトリガーにかける圧の上昇がストップするようなポイントがどこかにあるようでしたら、それは「チキン・フィンガー」への第一歩です(※訳者注:ここで言う「チキン」ってのは「臆病者」の意味ですね。怖くてトリガーを引くに引けない状態を言い表したものだと思います)。そういうポイントは、トリガーを引き絞ろうとする屈筋(指を曲げる筋肉)と、それを止めようとする伸筋(指を伸ばす筋肉)が戦いを始めることによって発生します。トリガーがまるで数kgもあるかのように唐突に重くなります。そんな状態になったら、強制的にでも射撃を中断して撃ち直しをする必要があります。私の場合、無理に撃てばジャークして7時方向(右下)に、あるいはツイッチして2時方向(右上)に飛ばしてしまいます。撃ち直しをすれば確実に10に入ります(調子が良い日に限りますけれどね!)。
指の筋肉をリラックスさせ、屈筋「だけ」を使用することができればトリガーは非常に軽く感じられます。ターゲットを置かずに、適切な筋肉を使用することだけに集中する練習をすることも役に立ちます。屈筋を使ってトリガーフィンガーを後方に動かし、伸筋は完全にリラックスさせて一切の力をトリガーフィンガーに及ぼさないようにするのです。2つの筋肉をバランスさせることで指を細かくコントロールできるのは確かですが、それは彼らが議論を始めて指をロックさせてしまう原因となります。
練習を重ねるにつれて、「弾を撃つこと」そのものではなく、「撃発に繋がる行動」について意識を集中できるようになります。このことは、脳を細々とした作業手順から開放し、「予期せぬサプライズ・ショット」という良い結果を生み出す助けとなります。エアピストルやスタンダードピストル、ブルズアイ競技などで使うトリガープルが重めの「ブレーキング・トリガー(2ndステージのストロークがほとんどないトリガーのこと)」では、圧力を安定して増加させることに集中します。フリーピストルの極めて軽いトリガーでは、「自分の指を、スムースに後方に動かす」ことに意識を集中することで良い結果を得ることができます。リリース前にトリガーが滑らかに動く「ローリング・トリガー」でも同様にうまくいきます。(マサチューセッツ州)
- トリガーに加える圧力を一定して増加させていくというやりかたは、心理学的なエラーを解決する秘訣の一つです。
もう一つの秘訣は、「完璧を目指さない」というものです。すべてのショットを「10」にしようとすることをやめるのです。自分の技術を信じて、サイコロを振ってみましょう。(オーストラリア)
- おおおお……! なんと多くの素晴らしい考え、そして提案なのでしょう!
すべての回答者に感謝します。(ウィスコンシン州)
大まかな方向性としては、まず「グリップを強く握りすぎているようなら、それをやめる」「パームレストの高さなどを調整する」「空撃ち練習を繰り返して、トリガーの引き方を身につける」というような順番が、ツイッチ撲滅のための王道ルートになるようですね。
カフェインや砂糖の摂取を控えるだとか、朝にジョギングすると発生回数が減るだとか、かなり異色な方向性のアドバイスもありました。けれど少なくても食事については、国による食文化の差を考慮する必要があるんじゃないかと思います、ぶっちゃけて言うと、もともとの摂取量がとんでもないんじゃないかと思うんですよ!