「私は今◯◯歳なんですが、射撃なら今から始めてもオリンピックに出れますか?」
みたいな質問は4年に1度のこの時期になるとたくさん見るようになります。正直言うとちょっとうんざりです。なんの配慮もなしに本音で回答を書いていいなら「そんなんやってみなきゃわからんだろ、質問なんか書き込むヒマあったら近場の射撃場でビーム撃たせてもらって現実を思い知れ」みたいな感じになっちゃいますが、これじゃあ典型的な「新参にむやみに厳しく当たる老害ムーブ」以外のなにものでもありません。ぜったいやっちゃいけないやつです。
最近のQ&Aサイトだとその手の質問には、適切で当たり障りのない回答をAIが自動的に投稿してくれたりする仕組みがあるみたいです。さすがにAIのひとはそこらへん見事です。そのスポーツに詳しい(つまり、ガッツリ関わってる)身からすると感情抜きで回答するのが難しいような質問にも実に冷静に回答してくれます。たいしたもんです。
実際にやってもいない(体験したことすらない)のに、今から始めれば世界トップレベルになれるかもしれないとか本気で思ってる夢見がちな人はともかくとして、実際に始めていて、おそらくは自分の実力を十分に思い知った上で、それでもなお「どこまで行けるだろう」と目標を設定しようとしているような人だと、対応は変わってきます。そりゃもうガラリと変わります。「まだなにもしていない」と「現実に一歩を踏み出した」の間には、とてつもない大きな違いがあります。言い方を変えれば、とにもかくにも実際に「始めた」というただそれだけで、目標までの果てしない道のりの半分は既に踏破したも同然です。
私、年を取りすぎてますかね?
- 私は射撃スポーツを始めたばかりです。私の国にある、大会でも優勝している強豪クラブのウェブサイトを見ると、全般的に見て大人よりも子供のトレーニングに熱心に取り組んでいるようです。
若いうちから始めるのが良いということは当然だと思いますが、ある程度年齢がいってから始めた人が国際大会レベルに到達できる見込みはあるのでしょうか? それとも、若いうちから始めた射手のアドバンテージがあまりにも大きく、ほとんど不可能なのでしょうか?
私は23歳で、射撃を始めて数ヶ月になりますが、できればこのスポーツで非常に高いレベルに到達したいと公言しています。(カメレオンMCP)
- 実際にどうなるか、試してみてください。あなたはとても才能があるかもしれません。
射撃とは、すなわちどう生きるかであり、辛抱する時期を乗り越えた先にしか、自分が何ができるかは見えてきません。
あくまでこれは私の意見ですが、若いうちは自由になる時間が多いのでトレーニングに多くの時間を費やすことができるため、目標を達成しやすい環境にあります。
23歳で射撃ができる手段があり、射撃ができる生活が整っているなら、ぜひやってみてください。(アルパインボード アメリカ・ニューハンプシャー州)
- ジョアン・コスタは40代になっても競技力を維持した非常に成功した射手です。(KDZ)
1964年生まれのポルトガル人ピストル射手。射撃を始めたのは1992年からとのことなので28歳の時ってことになりますね。個人国内チャンピオンを80回以上獲得、世界大会(世界選手権、ヨーロッパ大会、ヨーロッパ選手権、ワールドカップファイナル、ワールドカップなど)でのメダル獲得数はWikiに載ってるだけでも36個! オリンピックにはシドニー、アテネ、北京、ロンドン、リオに5回連続出場。
- ラグナル・スカノーカー。(TT)
1934年生まれのスウェーデン人ピストル射手。1972年ミュンヘン、1976モントリオール、1980モスクワ、1984ロサンゼルス、1988ソウル、1992バルセロナ、1996アトランタの7つのオリンピックに連続出場、そのうち1971で金メダル、1984と1988で銀メダル、1992で銅メダルを獲得している(いずれも50mピストル)。90歳となった現在でも現役選手として競技に出場しているとのこと。
- ドン・ナイゴードは50代で米国のオリンピックチームで射撃をし、55歳でパンアメリカン競技大会で金メダルを獲得した。(Gホワイト アメリカ・マサチューセッツ州)
ピストル射手にとってはバイブル的存在であるネットアーカイブ「Nygord's Notes」で有名な人ですね。なにせ古い文献なので現在主流となっている技術とは少し違うところもあるのですが、それを含めて「Nygord's Notesにはこう書いてあるが、今は少し違ってこうなっていて……」という具合に必ず引き合いに出される、言い換えると「Nygord's Notesはみんな読んでること前提にされてる」文献です。
- 「年を取りすぎた」と言えるのは、自らが横たわった棺の蓋を誰かが閉めるときだけです。(トディンジャックス)
- もちろん、あなたは年を取りすぎている、このよぼよぼのろくでなしめ。老いたバイデンがいかに誇りを持って我が国に奉仕しているかを見てください。しかし、彼は特別なのです!
不快な罵倒はさておき、あなたは大丈夫です。とにかくやってください。(ローバー アメリカ・アイダホ州北部)
- 私が競技射撃を始めたのは、あなたと同じくらいの年齢の頃でした。2年後、私はキャンプ ペリーで1979年の全米大学ピストル タイトルを獲得しました。素晴らしいコーチに恵まれました。(fc60 アメリカ・ワシントン州西部)
- いいえ、あなたは年を取りすぎているわけではありません。私は数か月前に自己ベストの577を記録しました。私はピストル射撃を50年間続けています。身体的なトレーニングもある程度は必要ですが、良いスコアを出すためにもっとも必要なのは、すべてのショットのあらゆる側面に集中することです。(ブレント375hh アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス)
- 私は63歳で、アルゼンチン出身です。約15年前に空気銃で射撃を始めました。思い返す限りでは、私は良い射撃手ではないと思います。高いレベルには到達できないことはわかっていますが、それはたいしたことではありません。射撃のあらゆる瞬間にベストを尽くすようにしています。私はこの射撃競技が好きで、最も重要なことはそれを楽しんでいることであり、練習に満足感を与えてくれます。
挑戦をやめないでください。他の射手の結果と比較してイライラしないでください。試してみて、射撃を楽しんでください。
沈黙よりも言いたいことの方が重要なときは、話しましょう。
明日死ぬかのように今日を生き、永遠に生きるかのように今日を学びましょう。(ケビンジャブ)
- 「年を取りすぎた」と自信を持って自称できるレベルに達するのは、極めて難しいことです。私は最近ようやく、国際レベルで「態度の悪い、目が見えず、体が震える老人」という称号を獲得しました。(アトミックゲイル)
- >私は最近、国際レベルで「態度の悪い、目が見えず、体が震える老人」という称号を獲得しました。
それはまさに、私も大会で獲得できそうな賞です。老眼と、身体がプルプル震えている部分は完璧にクリアできていますが、私の態度はただひどいだけで、まだ「悪い」ところまで達していません。もっと「私の芝生から出て行け!」と叫ぶ練習をする必要があります……。(Gホワイト アメリカ・マサチューセッツ州)
私の芝生から出て行け!(get off my lawn!):「がんこ爺さんが子供を叱り飛ばすときの言葉」としての定番フレーズのようです。「お子様は帰りな」みたいな煽り文句として使われることもあるとか。「ガキはおうち帰ってママのミルクでも飲んでろ」に近いニュアンス? 要するに、相手が自分より年が若いってだけでやたらと上から目線になるというか、「年寄りがやりがちな年齢マウント」というか、そういう感じの態度のことを言ってるんじゃないかなと思います。
- 23歳?(クスクス笑) まったく、まだ「尻の青い青二才」じゃないか。
どのオリンピックでも、最年長の選手を見れば、彼らは決まって射撃選手で、50代半ばかそれ以上だ。
若い射撃選手を優遇するのは、資金提供に対する画一的なアプローチの産物だ。このアプローチはスパンデックススポーツに支配されており、30歳は高齢、35歳は老齢と見なされている。そして、これは米国の射撃スポーツの問題の1つだ。ユース/カレッジプログラム、プロの軍事射撃チーム、そして自腹で支払う競技者もいる。これはかなり高額になる可能性がある。世界マスケット銃選手権に出場する米国の競技者は、1人あたり約4,000ドルを自腹で支払う。
しかし、お金のために参加しているのなら、そもそも射撃を選んでる時点で間違ってる。楽しみのために参加しているのなら、23歳は始めるのに良い年齢だ。(マイク・M)
そうそう、まさにこんな感じ>年寄りによる年齢マウント
- 23歳…まだおむつをしてるんだね。
私は30歳の時に冬のスポーツとしてピストル射撃を始めました(セーリングに行くには寒すぎた)。
6年後に初めて国内大会に出場し、その2年後に初めて国際大会に出場し、47歳で3回のうち最初のオリンピックに出場しました。
私は今70歳ですが、まだ国内大会でトップ10に入っています。で、あなた何歳だっけ?(デビッド・M)
これなんかもいい感じで年齢マウントが酷い! みんなGホワイト氏のフリにノリノリで乗っかってきてるんですねコレ
- オリンピックに出場した人の多くは、そのくらいの年齢か、もっと後から始めました。射撃は、「17歳でピークに達するために6歳で始める」ようなスポーツではありません。(グリッピー)
- 私は46から始めました。今は49歳で、570点を狙っています。国際大会に出場したコーチは、いつか私が580点を取るのは不可能ではないと考えています。
だから、はい、がんばってください。(海賊ジョン)
- 2023年にキャンプペリーで開催されたプレジデントピストルマッチで、46歳の引退した選手が優勝したという噂 (根拠のない) を聞きました。そのマッチの2位はシニアだったという別の噂も聞きました。ISSFピストルではありませんが、アイアン サイトです。たぶん、大丈夫でしょう。(ジョン・ビッカー)
- ジョン、おめでとうございます!
知らない人のために記事のリンク
Bickar Achieves Dual Victories with Late Mother’s Pistol
(Gウェロ ハワイ)
- たくさん回答がありあすが、元質問で聞かれてる内容への回答にはなっていないように思えます。元質問の主旨は、「若いうちに始めることに大きな利点があるかどうか」です。高齢のチャンピオンの例はたくさんありますが、彼らのほとんど (全員?) は若い頃からトレーニングや競技を始めました。これは他のスポーツ (たとえばテニス) でも見られることです。
後年になってからスポーツを始めた精密射撃のチャンピオンはいますか?(KDZ)
- はい、希望はあります。時間をかけて技術を習得することです。いくつか例を挙げましょう。私の友人は27歳くらいで競技用ピストルを始めました。彼はリオオリンピックに出場し、今年初めにはCAT Gamesの決勝に進みました。2人目の友人は25歳で趣味でピストルを始め、27歳になるまで競技射撃を始めませんでした。彼はワールドカップで3回優勝し、東京オリンピックに出場しました。
私は才能よりも忍耐力のほうが重要だと思います。若いうちに始めると、それだけトレーニングして競技経験を積む時間が多くあるので有利です。同時に、若い射撃選手が早い段階で成功を収めても、次のレベルに進めないと感じて諦めてしまうのを多く見てきました。これらは全国レベルの選手でしたが、23歳になる前に諦めてしまいました。スコアを見る前に、どれだけ努力して退屈なことをするかが問題です。射撃はスキルスポーツです。才能は初期には必ず役立ちますが、誰でも停滞期があり、そのイライラする時期をどれだけ辛抱強く乗り越えられるかが問題になります。(ジュリアンL アメリカ・カリフォルニア)
- いいえ、あなたは年を取りすぎているわけではありません。ブルズアイでも、他の国際スポーツでも、射撃したい場所を決めてください。クラブで指導者やコーチを探すか、オンラインコーチを見つけて、自分の希望を伝えてください。
私は72歳で、ブルズアイを9年ほど前に、エアピストルを5年ほど前に始めました。表彰台の一番上を目指すには年を取りすぎていますが、上達するために努力するのはとても楽しいですし、射撃や試合に参加するのはとてもやりがいがあります。(ポークチョップ)
- 私は79歳で、2年前にターゲットピストルを始めました。そうですね、控えめにいって駄目シューターではありますが、撃てば撃つほど上達しています。実際、私よりずっと若いのに私より駄目なシューターよりは上手です。
もっと重要なのは、私はそれが大好きだということです。あなたは私より56歳も若いのです。頑張ってください。(ダグピストル イギリス、サリー州)
- 友よ、私は38歳で始めた。39歳で初めてエアピストルの試合に出て、548点を出した。君の年齢で始めたかったよ。17年でどれだけ上達したかなんて誰にも分からない。
あなたの人生で、何かを始めるのに最も早い時期は今この瞬間だ。長く待つほど、質問は「私は年を取りすぎているだろうか」から「もしあのころ始めていたら」に変わってしまうだろう。(ジェイミラン27)
いやもう、みんな凄いです。
先日、当サイト内でそこそこバズった記事内で「世の中には、オリンピックなんかには出てこない凄い射撃の腕を持った人がいくらでもいる。軍のスナイパーとか。」という世間でなぜか強く信じられてるオハナシに対し、「そんなの幻想です」って切り捨ててたりしましたが、これ「軍のスナイパーとか」の部分を抜けば、あながち間違いでもありません。国際大会にはあまり出てこないけれど、国内のローカル大会とか、国際大会でも自国で開催されるやつだけに参加する「老人(シニアシューター)」の中には、若手の現役代表選手と同等、ヘタするとそれを余裕で凌駕するとんでもないスコアを撃つ人がときどきいます。
なぜそんな「表舞台に出てこない凄い老人」がいるのか? 代表選手となって世界大会に出まくるというのは、資金的な余裕だけでなく、健康であり体力があることが必須条件となります。70歳とか80歳とかになると、せいぜい移動時間が数時間程度で済む自国内で開催される大会ならともかく、何十時間も飛行機に乗って時差もある外国まで行き、何日も慣れない食事を食べながら調整をして試合に参加して結果を残す、となるとさすがに体力が保たないという人がけっこういるようです。
ドイツのズールで開催された世界マスターズ(年寄り大会)でも、元代表だったという地元のピストル射手がでてきて平気で580点台とか撃つんでたまげた、って話を参加した人から聞きました。そういう人が世界にはゴロゴロいるんですね。別の側面から見れば、そういう「ずっと上の方に、容易には越えられない壁が現役でそびえ立ってる」からこそ、若い代表選手の目標も自ずと高くなりレベルも上がるってところもあるのかもしれません。
「第一線はもう無理だから、引退して試合に出るのはスッパリやめて後進の指導に専念」とかじゃなくて、後進の指導はもちろんしていただきたいですけれどそれだけじゃなく、試合にも出続けて現役の強化選手を大差で叩き潰してキャリアの差を見せつける、みたいなのが国内大会では当たり前の風景になれば、きっと日本の射撃界は今よりずっと活発になるでしょうし、もしかしたらレベルも上がったりするかも……?