「射撃は90%がメンタル」の続きです。今回でようやく最後になります。
前回は、自分の記憶や信念(そうであると固く信じていること)を自分自身で書き換えてしまう方法について解説されている部分を紹介しました。この技術、悪用したらえらく恐ろしいことに使えそうな気もしますが、競技者として考えれば過去の良くなかった経験や記憶が足を引っ張って試合で実力が出せない状況を簡単にプラスに転じることができるわけで、こんなありがたい話はありません。
今回は最後の段落ということで、少しまとめっぽい話になっています。
「射撃は90%はメンタルである」の翻訳一覧
マッチ・プレッシャーに科学で対抗する
「古い脳」からの悪い信号を「新しい脳」からの良い信号で上書きする
マッチ・プレッシャーを拡散させるための、ある一つの簡単な方法
訓練によって自分の脳を作り変えることができる
集中するということは、余計なことを思考から排除するということ
自分で自分の記憶を作り変える方法
その瞬間、世界はスローモーションになる←いま表示してる記事
引用元:SHOOTING SPORTS USA
Chip Lohman著 – 2015年8月5日
風による姿勢の乱れ、トリガーを引くための指の動き、さらには銃を支え続けることによる疲労、そういったいろいろな要素が射撃に影響を与えます。そのような影響がある中でも、撃発タイミングをグルーピングが勝利できるレベルまで小さくなるものにすることが、私達のトレーニングの目的です。Begleyの著書で述べられているように、広範囲にわたる訓練は、脳の深部とトリガー・フィンガーとの間にダイレクトで神経科学的な回路を生成することができます。さらには適切な方法を取ることで、筋肉そのものに技術を教育することも可能です。
スローモーション・カメラは、通常のカメラよりも多いフレームレートで撮影することで、通常では見ることができない秘められたディテールを明らかにすることができます。スローモーションでは、ほんの僅かな時間の動きを引き伸ばして見ることが可能です。もし人間の眼にスローモーション機能があり、撃発の直前の1秒を10分割……いやいっそのこと100分割することができれば、撃発する前に正確な「サイトピクチャーのフレーム」を選ぶことが可能になるでしょう。結論から言えば、それは可能です。
危機的な状況に出くわした人が、「その時、まるで時間が止まったかのようだった」と言うことがよくあります。LEオフィサーは、高ストレス環境下では世界がまるで「スローモーション」のように見えることがあると言います。私自身の経験でも、氷結した路面で何フィートも滑った時、身体が転倒に備えるまで1分以上もの時間があるように感じたものです。こういった強烈で瞬間的な危機に対する特殊な対応反応は、脳の「戦うか逃げるか反応」に専念する部分の働きによるものです。
ここまで学んだことから分かることは、トレーニングは不要な思考を排除する能力を向上させることができるということです。Lanny Basshamが既に書いているとおり、適切な「attitude(態度)」は、私達の脳の中にある最も古い「爬虫類の脳」がもたらす「戦うか逃げるか反応」をリキャストすることができるのです。「秒単位での行動」を「毎秒数フレーム」に置き換えることができて、さらに必要なものにだけ集中し不要なデータを意識から排除することができれば、与えられた同じ時間をより限られた部分に専念することに費やすことができます。その結果、世界は「スローモーション」で見えるようになります。
地面に描かれた円の中に何人かがいます。円の中心には像が置いてあります。円の中にいる人達に見えている像の姿は、人によって異なります。角度とか照明とか、そういったものの違いによって。我々のperspective(考え方、見方という意味の他に、透視図という意味もあるそうです)は、彼らを真実へと導き、我々の言っていることが彼らの状況に当てはまるのだと分かってもらう動機づけになります。この記事のどの部分があなたにとって重要なのかを決めることは、成功するためにあなたは何が必要なのかを知るということでもあります。もしあなたがコーチならば、あなたが教えているそれぞれの射手が何を必要としているのかを識別することは、あなたが成功するために必要な最初のステップです。
貢献してくれた編集者:
Judy Tant博士:臨床心理士であると同時に、ナショナルブルズアイピストルのチャンピオン。
Tant博士は2003年以来、女子ナショナルブルズアイピストルチャンピオンを8回獲得しています。ミシガンのインドア・アウトドア、そしてサービスピストルのチャンピオンを多数獲得しているだけでなく、ミシガン州の女子チャンピオンに12回なっています。彼女は現在、ミシガン州で心理療法の練習を行っています。
Michael J.Keyes博士:米国の射撃チームのための精神科医、元医師。
Keyes博士は、散弾銃のスポーツのためのメンタルトレーニングの200件の以上の記事を書いています。「散弾銃のスポーツのためのメンタルトレーニング」のオーサーです。また、テネシー州ピストルチャンピオンでもあり、さらにいくつかのナショナルチャンピオンシップチームのコーチでもあります。彼は現在、Fond du Lac,WIにて医療行為を行っています。
参考図書、ビデオおよび記事(リンクはAmazonの販売ページ):
働くあなたの脳(Your Brain at Work)…David Rock
勝つための心(With Winning in Mind)…Lanny Bassham
「脳」を変える「心」(Train Your MIND Change Your BRAIN)…Sharon Begley
脳をみる心(Mindsight)…by Daniel J. Siegel, M.D.
感情的な脳を解錠する(Unlocking the Emotional Brain)…Bruce Ecker, Robin Tieie & Laurel Hulley, Routledge
批判的思考スキルの科学ガイド(Your Deceptive Mind: A Scientific Guide to Critical Thinking Skills, from The Great Courses)…Professor Steven Novella公共放送&ホームビデオ(リンクはYoutube):
The Brain Fitness Program
Brain Fitness 2, Sight and Sound
The Brain(ヒストリーチャンネル・2008年)
I Deserve to Win
いろいろ小難しい理屈が並べられていましたが、一番のキモというか「作者が言いたいこと」というのはコレでしょう。
「プレッシャーなんてものは、存在しない」
「プレッシャー」と呼ばれているもの、具体的には大きな試合などで足や手が震えたり動悸が激しくなったり余計なことばかり考えてしまって集中できなかったりする現象は、人間の脳の最も古い部分に根ざす「戦いに備えるため」の本能的な反応である「戦うか逃げるか反応」のうち、望ましくない要素が表に出てきてしまっている状況である……ということが、いろいろな実例や研究結果を通して述べられてきました。
このことは言い換えると、「これがプレッシャーの根源だ」みたいなものが存在しているわけではなく、脳が出している信号をどういう形で受け止めて身体反応として表に出すのかというのはその人次第、ラニー・バッシャムが言うところ「attitude(態度)」によって変わってくるのだということです。
集中すべきことに集中し、余計なことを意識から排除する。現在、または過去の嫌なことが悪い影響を与えそうなら、記憶や信念を「リライト」してプラスの影響がある形へと転換する。そういったことにより、「戦うか逃げるか反応」の一つである「際立った集中力」が発揮され、撃発の瞬間がスローモーションになって見えるようになることすらある……ということが最後に述べられて記事が終了、という形です。
試合になるとプレッシャーのせいで実力がぜんぜん発揮できないから、何度も試合に参加して「試合慣れ」することでプレッシャーを感じないで済むようになろう……というのは、プレッシャーに対抗する手段としてこれまで言われてきた王道のやりかただと思います。その方法自体が間違っているわけではないのでしょうが、試合参加回数を増やすことで身につくのは「プレッシャーを感じない心」ではなく、「プレッシャーの元となる脳からの信号を、パフォーマンスを低下しない形で処理する技術」なんだってことですね。
人よりずっと強いプレッシャーを感じるタチで、練習と試合での成績が極端に違ってしまう人というのは、考えようによっては人よりもずっと強い「戦うか逃げるか反応」を脳が示しているということになるわけですから、その信号を適切に処理する技術さえ身につければ、他の人よりもずっと優れた集中力を発揮できるようになるのかもしれません。「緊張はマイナスだけでなくプラスに働くこともある」なんてのは良く聞くフレーズです。具体的にどうやればそれを実現できるのかということが、この記事で書かれていたことなんだと思います。
長いテキストで、それもいつもの「BBSでの気楽な会話」と違って難しい単語や言い回しもでてくる文章を、稚拙な翻訳で延々と垂れ流してしまい、すみませんでした。完璧に意味が取れたわけじゃなく前後関係から「多分、こういうことを言いたいのだろう」と勝手に想像して元文章とは全然別の言い回しに変えてしまった部分もたくさんありますが、大筋の意味からはそんなに離れていないと思います。
このテキストが、大会での緊張に悩む射手の皆さんのお役に少しでも立てれば幸いです。