前回は、NAVY SEALの「新兵が恐怖をコントロールできるようにするための訓練方法」についての研究の紹介と、その研究からマッチ・プレッシャーに対抗するための手段を読み取ろうとする部分を紹介しました。
簡単に書くと、人間の脳は「増改築を繰り返した家」のようなもので、恐怖をシグナルとして生み出すのは扁桃体と呼ばれる、脳の中でも特に「古い部屋」である。恐怖信号をオーバーライトすることができるのは前頭葉という、脳の中でも特に「新しい部屋」から送り出されるシグナルである……といった内容ですね。
今回はその部分について、心理療法士をしている学者さんからの所見が述べられています。正直、やたらと面倒で難しくて遠回しな言い方ばかりが目立って「何を言ってるのか良く分からん」って部分が多く、どうしても意味がわからない部分は容赦なく飛ばしちゃったりしていますが、要点はそれほど間違ったことを書いていないと思います。
「射撃は90%はメンタルである」の翻訳一覧
マッチ・プレッシャーに科学で対抗する
「古い脳」からの悪い信号を「新しい脳」からの良い信号で上書きする
マッチ・プレッシャーを拡散させるための、ある一つの簡単な方法←いま表示してる記事
訓練によって自分の脳を作り変えることができる
集中するということは、余計なことを思考から排除するということ
自分で自分の記憶を作り変える方法
その瞬間、世界はスローモーションになる
引用元:SHOOTING SPORTS USA
Chip Lohman著 – 2015年8月5日
「マッチ・プレッシャー」というものに対する概念すら変わる研究と言えます。例えば、50人が射線に並び競技を開始したとき、普通は彼らは全て同じものを目指している(もちろん、それは10リングに違いありません)と考えるのが当然でした。しかし仮に「心理を見通すことができる特殊な機械」を使って彼らの心理の観察を行えば、そこに見えるのは万華鏡のような世界になるでしょう。感情、存在理由、「失敗したらどうしよう」という恐怖と上手く撃つための決意、さらには自分たちが第二次修正条項を持つ自由人である(今のところは)ことに対する喜びと感謝に至るまで、そこには様々な心理状態や感情が渦巻いているはずです。
これはほぼ自明といっていいほど真実に近いと私は思います。しかし人は、「他人は、自分と同じようにものごとを見たり、考えたりしている」と思いがちなものです。
射手にメンタル・マネージメントについて相談されることがありますが、その時に私は彼らの「スポーツに求めるもの」を垣間見ることができます。私はその瞬間が大好きです。
自分自身の試合中のメンタルについては、「ひたすら集中すること」が私自身の能力のキモであることがわかります。Dr.Keyesが提唱する「セルフ・セレクティング(自己選択)」を実践しています。私は職業として、患者の話を聞くことに何千時間も費やすことで、この能力を磨いてきました。それに加えて、自分の心の中で何が起こり、そしてそれが身体にどのような影響を与えているのかを知るために自らの心理状態を客観的に見る能力が私にはあり、それが射撃においてどういう結果として現れるのかを明らかにすることができます。当然のことですが、これは私の心理療法士としての経験が役に立っています。(自分自身の思考や感情の移り変わりを記録する経験は、患者の思考や感情を類推することにも役立ちます。典型的な例としては、診察中に突然眠気に襲われる現象は、患者が意識的にあるいは無意識に何かをブロックしているということの手がかりになります)
こういった精神内面の「データ」を収集することにより、私は自分自身の競技についての「実験」と「調整」を行うための基礎的な情報を継続的に手に入れることができます。例えば、意識が射撃プロセスにきちんと入っていない状態では、脳が「トリガーを引いてはならない」というシグナルを出します。時には、銃を下げて撃つのを諦めた時に始めて、そのとき自分の心がどこかにスリップオフしていた(抜け落ちていた?)ことに気づき、自分が救われたということに気づくこともあります。そのため、私は自分の無意識下において、「私」の意思決定を行う心理を信頼することを学びました。自分で言うのもなんですが、この分析と問題解決のためのプロセスは非常に魅力的なものだと感じています。
もう一つ、重要な要素があります。グループに所属しているということは、競技のパフォーマンスと明確な関連性があるということです。私がこれまで出したベストスコアの多くが、チームのために射撃を行っていたときのものでした。2003年にペリーで開催された全米大会においてミシガン州代表チームの新人選手として参加した際、45ハードボール競技でベストスコアを撃ったことがあります。他には、チーム・スプリングフィールドの一員として参加した2011年ペリー全米大会のセンターファイア競技で上位ランカーになったこともあります。チームの一員になるということがもたらす安心感や支持力は、負の圧力を拡散させ自らのエネルギーを効果的に発揮させる効果があります。これは決して珍しいケースではありません。
最後にもう一つ。フルート奏者としての初期の経験は、ブルズアイ射撃に役立っていると私は確信しています。「決められた精巧な動作を行う運動技能を必要とする」という点だけでなく、「自分の行動の結果を見ながら常に対処しつづける」という要素があるからです。これは、十分な準備のもとでストレスに繰り返し晒されることは、ストレスに対する強靭な対応力を培うのに有効であるという基本的な考え方に繋がります。
「アリバイ」を撃つことや、撃つのが遅くて最後の一人になって皆に注目されてしまうことを恐れる射手の気持ちはわかります。「なぜそれが嫌なのか」と問えば、彼らから帰ってくる答えはどれも、否定的なジャッジをされることに関する心配ばかりです。
私はそういった心配を既に忘れて久しいばかりか、静かな環境で撃てる絶好の機会であると考えるようにまでなりました(たとえそれがアリバイであっても)。競技を見ている人たちが考えていることも手に取るようにわかります。「自分でなくて良かった!」
自慢話めいた部分も多いですが、要点をまとめると下記のようになるかと思います。
この中でも特に注目したいのは、「グループに参加すること」の利点について述べた部分じゃないでしょうか。揃いのユニフォームを作って身に着けたり、試合開始前に円陣を作って掛け声かけたり、一見すると金と時間の無駄にしか思えないようなことですが、そういうのがもたらす「安心感と支持力」が、不安や恐怖といったネガティブなシグナルを上書きする手助けをしてくれるというのは、確かにあると思います。
ただ、当たり前ですがこれでこのテキストが終わりってわけじゃありません。まだ半分くらいです。この後は、脳のそれぞれの領域が射撃競技においてどのような役割を果たしているのか、熟練した射手は脳のどの部位をどう活用してパフォーマンスを向上させているのかといった話が繰り広げられていきます。