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TOKYO2020 10mエアピストル男子ファイナル

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TOKYO2020オリンピック大会が始まりました。招致が決まったときにはまさか世界がこんなことになるなんて誰一人想像すらしてなかったはずで、結果的には日本が「ババ引かされた」形になってしまったわけですが、こりゃもう誰がミスをしたわけでも誰かが悪意を持ってしかけたものでもなく、ただただ不運だったとしか言いようがありません。

本当ならば観戦やら取材やらで間近に見ることも可能だったはずのピストル競技もインターネットでやってるライブ中継映像を見ることができるだけです。まあ、これでも「とりあえず決勝だけは映像をライブで見れる」というのは昔に比べれば恵まれてると言えないこともないかもしれません。

ただ日本語での解説が全く入らない(会場アナウンスは媒体にもよりますが入っているところもあります)ので、一般の視聴者さんには「これはどういうスポーツなのか」「どういう人がやっているのか」「どうなると勝ちで、どうなると負けなのか」「いまは誰が有利で誰がピンチなのか」みたいなことが皆目わからないというのが実情だったんじゃないかと思います。

まさかこんな中継しかされないってことがわかってれば、事前に誰かしらに声をかけて、ライブ中継と同時にYoutubeで勝手解説をライブで配信するみたいなこともできたろうになーとか思います。あ、これ面白いかもしれない。次回は本気で考えてみよう。

ライブでの解説は無理でしたが、終わってから録画映像を見ながら解説することならできます。というわけで、10mAP男子ファイナルを振り返り、どこらへんが盛り上がりポイントだったのかを解説してみたいと思います。

動画は、現時点ではNHKの見逃し配信で見ることができます。いつまで公開し続けてくれるかはわかりませんが、とりあえず五輪期間中は何度でも見れるんじゃないかと思います。ちょいと画質が荒いのが残念。なお、この記事にはこの動画からキャプチャした画像をいくつか使っています。
射撃 ライフル男子エアピストル決勝(NHK見逃し配信)


まずは当ブログにてファイナルを解説する際にお約束の、10.0をプラスマイナスゼロとした場合の、一発ずつの増加分および減少分の累積を折れ線グラフにしたものです。ゴルフでいうところの「パー」が10.0で、それより良い点を撃つ(バーディーを決める)と折れ線が上向きに、悪い点を撃つ(ボギーを叩く)と折れ線が下向きになると考えるとわかりやすいかもしれません。

一人、完全に別世界のように高いところにいる人がいます。もちろんこれが金メダルとなったイランのジャバド・フォルギです。1979年生まれの41才。職業は看護兵ってことですのでれっきとした軍人ですね、表彰式でも敬礼してましたし。あまりに終始ダントツな成績をキープし続けてましたので、この人に関してはあんまりドラマはありません。

なにせ最終弾を撃つときなんか5.6点差もありましたので、もう「撃つ前から勝負は決まってる」に近い状況でした。たとえ相手が10.9を撃ったとしてもこちらが5.4点以上を撃てば勝ち確定なわけですから。最終弾撃つ前にピストルをおもむろに左手で構え始めたときには、「まさか余裕カマして左手で撃つつもりか!?」とか思ったものです(上のNHK見逃し動画でいうと37:50あたり)。おそらくは「ターゲットに対してのめり込み過ぎてる状態になったので、あえてバランスを取りにくいウィークハンドで銃を持つことで、『今日初めて撃つ一発』に近い感覚に戻した」みたいなのが真相なんじゃないかとは思いますが、左手で構えてたときもえらく安定してましたんで、もしあのまま撃ったとしても間違いなく5.4点以上には入っていたんじゃないかと。

ドラマは、圧倒的なスコアで優勝したイラン人よりはむしろ、そのほかの皆さんのほうにたくさん見ることができます。特に今のファイナルは脱落形式(12発目から、最下位の人が脱落、次から2発撃つたびに同じように最下位が脱落する方式)になっているので、「有終の美」というのを飾るのがなかなかに難しくなっています。なにせ、「悪い点数を撃った人から抜けていく」ルールだから、最後に良い点数を撃って終わるというのが事実上不可能に近いのです。

グラフを見ても、誰も彼もが一番最後が情けなくだらんと垂れ下がる感じになっているのがわかると思います。これは「最終弾だから情けない点数を撃っちゃった」というよりは、「最後に悪い点数を撃ってしまった人から脱落していく」という試合形式そのものに理由があるわけです。

しかしその中で例外があります。第2シリーズの6発目(グラフでは2s-6と書いてあるところ)で、中国の張博文とドイツのクリスティアン・ライツが、2人ともグラフをものすごい勢いで上向きにして(つまり良い点を撃って)、完全に線が重なった状態になっています。

盛り上がりというなら、ここが最初の盛り上がりでした。「ここで負けたら脱落決定」という状況で、2人ともほぼ満点に近い10.8/10.7を撃ち、小数点までピッタリと揃うという譲らない形になったわけです。動画でいうと26:00あたりです。

ルールではこういう場合「シュートオフ」といって、この2人だけで一発を撃ち、脱落する者を決めます。「ほぼど真ん中に近い会心のショットを撃てたのに、相手も同じようにど真ん中近くを撃ってきたため、決着がつかなかった」というのは、さぞかし精神力を持っていかれる出来事に違いありません。シュートオフは、ドイツのクリスティアン・ライツが10.4、中国の張博文が10.0でドイツの勝ちとなりましたが、クリスティアン・ライツはその後の2発が2発とも明らかなミスショットになってしまい、メダルには遠く手が届かないところでファイナルから脱落することになってしまいました。シュートオフ(とその前の勝敗がかかった一発)で集中力を使い果たしてしまったのでしょうか。

このファイナルで注目すべき射手をもうひとりだけ挙げるとするなら、それはもうウクライナのパブロ・コロスチノフでしょう。なぜか当ブログでは以前から妙に縁があるというか、なにかを説明するために引き合いに出す画像や動画を持ってくると、決まってこの人がいるので、なんかもうすっかりおなじみな感じになってる選手です。

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TOKYO2020・10mAPファイナルでのパブロ・コロスチノフ。肩の中に顔の下半分を埋めこむような独特の射撃フォームは、ひと目見たらもう忘れることができないでしょう。


グラフで彼の得点推移を見ると、相当にドラマチックです(ユニフォームの色に合わせた水色の線がそうです)。第1ステージ前半でけっこう大きなミスをして一時期は最下位にまで落ちますが、第1ステージ後半に入ると高得点を鬼のように連発、第2ステージに入るないなや2位にまで浮上します。その後は中国の龐偉とリンクするかのように高得点を出し続け、コンマ以下の得点差しかない超デットヒートで2位争いを終盤まで続けるのですが、第2ステージの8発目から龐偉がミスショットを連発することで差をつけ、ほぼメダル(3位内)を確定とします。

「メダリストになれるか、なれないか」の分かれ目となるのが第2ステージの10発目です。オリンピックのファイナルに残る人たちにとっては最も重要となる一発でしょう。この時点で3位争いをしていたのは、ミスショットを連発して順位を落としていた中国の龐偉と、セルビアのダミル・ミケッツです。中継カメラもこの2人を画面に映して、「果たしてどちらがメダリストとして残り、どちらが脱落するでしょうか!?」と固唾を飲んで見守るモードに入っていたのですが……。※動画の32:40あたりです。

2人とも「そこそこ悪くない」ショットを撃った後、画面を覗き込んで、「あれ?」って表情になります。実はこの2人とは全然関係のない、コンマ数点ですが普通なら一発じゃ逆転なんか難しい差をつけて2位に入っていたパブロ・コロスチノフが、まさかの8.4、大ポカをやらかしまして、2人抜きならず2人「抜かされ」で脱落が決定してしまったのです。

パブロ・コロスチノフはヨーロッパ選手権やワールドカップでは金メダルを取ってますが、オリンピックは前回のリオが初出場です(ファイナル進出ならず)。今回は堂々たる成績でファイナルに残り、ファイナルでも序盤こそミスしたものの高得点を連発することで順調に順位を上げていき、「初めての五輪のメダル」にあと一歩、指先までメダルの紐が引っかかった、そのくらいまで近づいたのに、土壇場も土壇場になって指先からメダルがころりと転がり落ちてしまったようなものです。その悔しさといったらどれほどのものがあるでしょうか。想像もつきません。

まだ23才と若いですから、次のオリンピックも、もしかしたらそのまた次のオリンピックにも出場してくることと思います。まだまだチャンスはあります。何年か十何年か後にオリンピックのメダルを手にした時、当ブログを読んでたみんなで良かったね、良かったねって言ってあげましょうね!

さて、ここからはファイナル参加者の使用銃について見ていきます。NHK見逃し配信は画質があんまりよくないので、どうにもはっきりと判別がつかない銃も多いのですが、アヤシゲな部分についてはもっと鮮明な画像を見た方や、もっと詳しい方のツッコミ待ちです。

8位から見ていきます。韓国のキム・ホセが使うのはモリーニCM162E。同じモリーニでも新型のCM200Eを使う人が多いんじゃないかと思ったら不思議なことにぜんぜん見かけません。モリーニ使いがいてもみんなCM162Eです。バレルにウエイトを足している人が多いようで、この人もウエイトを一個、可能な限り前方になる場所に固定しています。


7位はインドのチョードリー・ソーラブ。カメラの切り替えが早かったりとタイミングが合わず、銃だけが大写しになるカットを見つけることができませんでしたが、見る限りではこれもモリーニに見えます。さすがにCM162EかCM200かの区別までは、この写真ではできません(もともと、ほとんど間違い探しなくらいしか違いがない銃ですし)。


6位は中国の張博文。この人も銃だけが大写しになるカットが見つけられなかったのですが、写真からみるにステイヤーのEvo10Eで間違いないと思われます。


5位はドイツのクリスティアン・ライツ。大写しになっていなくてもこれはひと目で見分けが付きますね、パルディーニのK12に間違いありません。電子トリガー全盛となった競技エアピストルの世界ですが、パルディーニK12のメカニカルトリガーについては、「シンプルで出来が良くて調整がしやすい」と銀座銃砲店さんも太鼓判を押していました。


4位がウクライナのパブロ・コロスチノフです。一番綺麗に写っていたのがこのカットなのですがどうにもよく分かりません。LP10かEvo10か? 電子トリガーかメカニカルトリガーか? グリップが銃検シールで埋め尽くされていて電池蓋があるのかないのかわからん状況ですが、なんとなく電池蓋の形に合わせて境目が見えるような気がしますので、おそらくはEvo10Eではないかと思うのですが。


銅メダルは中国の龐偉。モリーニなのは間違いありません。グリップ側面に貼られまくった銃検シールに電池蓋らしき形が見え隠れするような気がするので、CM200Eなんじゃないかと思います。バレルにはウエイトが2つ、一番前方と、真ん中から少し前方の2箇所に取り付けられています。


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GettyImagesにて銃だけ大写しになった写真が提供されていました。間違いなくCM200Eですね。
銀メダルはセルビアのダミル・ミケッツ。この銃、「たしかにこんな形のエアピストルあったよなあ……!?」って必死で思い出しながら資料をひっくり返してようやく確実にコレって言えるの見つけました。ワルサーのLP300です! モリーニCM162Eも骨董品だの化石だの言われますが、LP300も負けず劣らずな「大昔の銃」です。電子トリガーなんかついてませんしアブソーバーも無しです。それにしてもこの銃、原型をとどめてません。フロントサイト周りは純正から大幅に変えてありますし、経年劣化でだめになりやすいと言われるシリンダー基部なんか、見た感じまるまる新しいものを作り直して交換してあるようにしか見えないんですが!?


[0729追記]この人のLP300については、以前TargetTalkの記事を紹介した際にも少し話題になっていたのを思い出しました。なんでもただのLP300ではなく、LP300XT(クラブ用の廉価版に相当するモデル?)だという指摘があります。こんなんで銀メダル取られたら最新型の銃使ってる他の射手の立場が……。
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金メダルはイランのジャバド・フォルギ。他の皆さんに比べるとグリップの銃検シールの数が少ないんでわかりやすいですが、これはステイヤーのEvo10ですね。電子トリガーではなくメカニカルトリガーのものだということが、グリップ側面に電池蓋がないことと、シリンダーの刻印という2つの証拠が指し示しています。


というわけで、ファイナル8名の使用銃の内訳はモリーニ3、ステイヤー3、パルディーニ1、ワルサー1という形になりました。国内だとステイヤー一強、たまにモリーニって感じですが、世界戦を見るとモリーニの使用者は多いですね~。まさかワルサーLP300を使い続けてる人(ほぼ原型とどめてませんでしたが)までいるとは思いませんでした。注目株はパルディーニでしょう。なんでもエアライフルの方でも目立ってたそうですし、もしかしたら一気にパルディーニ使用者が増えたりするかもしれませんね。

池上ヒロシ

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