「当てたい」という気持ちが強ければ強いほど、当たらなくなるのが射撃ってスポーツです。
つまり、「当てたいと思うのなら、まずその当てたいという気持ちを捨てなさい」というのが射撃の真髄ってことになります。なんかほとんど禅問答みたいというか、アニメとか映画とかで師匠キャラとして登場したヒゲはやした老人が渋い声で言いそうなセリフです。
関係ないけど、ああいった「一見すると強そうに見えないけれど実は強い老人」として師匠キャラを描くってのは何が元祖なんでしょうね? まず思いつくのが「ドラゴンボール」の亀仙人ですけれど、元祖というと何になるんでしょう。「酔拳」にでてきたジジイ(名前が出てこない)とか、「スターウォーズ」のヨーダとか、「ベスト・キッド」のミヤギ老人とか。って調べてみたらこの3作品、ほぼ同時期なんですね! 「ドランクモンキー酔拳」が1978年、スターウォーズはヨーダのいない1作目(Ep.4)は1977年(これはこれでオビワン・ケノービが師匠キャラではありました)だけどヨーダが出てきた2作目(E.5 帝国の逆襲)は1980年、「ベスト・キッド」が1984年。この時期に「一見すると強そうに見えないけれど実はすごく強い老人が師匠として登場する」という概念が唐突に生まれた理由がなにかあったりするんでしょうか。
関係ない話はおいといて。
射撃場に来て練習する人って、わざわざ数あるスポーツのなかから射撃なんてマイナーなスポーツやろうってキトクな人なんですから、当然のこと人一倍「当てたい」って気持ちは強いわけです。的を狙ってトリガーを引けば、当然点数が出ます(紙的でも電子標的でもビームでも)。点数が良ければ嬉しいですし、悪ければなにくそ次こそはってなります。そういう気持ちを「捨てろ」って言われても、そう簡単にはいそうですかこうですねって行くわけありません。
そういうときに役に立つのがSCATTです。SCATTを使って撃つ場合も点数はもちろん表示されますが、けっこう小さく色も見えにくく、分かりづらいようにしか表示されません。バージョンが新しくなればなるほどその傾向が強くなります。ここらへん、SCATTは開発者が射撃スポーツってものを深く理解しているからこそなんだろうなって思います。
点数よりもむしろこちらを見ろとばかりにしっかりと表示されるのが、まずは照準の軌跡です。狙い始めてからが緑、撃った瞬間を基準としてその1秒前からが黄色、0.25秒前からが青色、そして撃ったあとの動きが赤色です。その動きの記録を見るだけで、「どういう射撃だったのか」が一目瞭然です。同じ「真ん中にあたった」という結果であっても、照準が真ん中周辺で揺れ動いている状態のまま照準を動揺させることなくトリガーを引けてその結果真ん中に当たったのか、トリガーを引こうとした瞬間に銃が激しく動揺したけれどたまたま良いところで撃発できたので結果オーライで真ん中に当たったのか。点数とは別の観点から、今撃った射撃が良かったのか、それとも悪かったのかを判断できるのです。
軌跡と着弾位置の関係だけに注目しながら練習すると、「当たれという気持ち」を頭から追い出して「良い射撃」をすることに集中するという、なかなかに難しかったことを超カンタンに実現できます。撃発直前の照準の軌跡をできるだけ小さくまとめ、それと同時にその小さくまとめた軌跡のカタマリの中(できれば中心あたり)で撃発をする、そこにだけ集中しての練習というのは、ものすごく有益な練習になります。
実は、軌跡のカタマリ具合と弾着位置を見るだけなら、ほぼ同じことはビームピストルでもできます。0.25秒前からの青色はありませんが、撃つ直前(概ね1秒前)からは明るい緑色になるので、その明るい緑を小さくまとめ、そのゴチャッとした緑のカタマリの中で撃てるようにする、そこに集中して練習することは、ただ無闇矢鱈と撃ちまくって10点に当たったーっ、当たらなかったーっって繰り返すよりはるかに上達への近道になります。
ビームピストルにはないSCATTならではの機能というか、世界の射撃トップチームでほぼ必須とされるほどのシェアを獲得したその真骨頂は、ただ軌跡を表示するだけじゃなく、それを分析して出てくる様々なデータを数値として表示し、記録してくれるところにあります。しかしそのデータの意味や評価方法などについて完全に理解できてる人となると、ほとんどいないんじゃないかと思います。マニュアルにもほとんど何も書いてないに等しいですし、わかりやすくまとめて解説してくれてる書籍も存在せず、SCATTユーザーの多くは自分の経験とかカンとかで「多分、こういうことなんだろう」と見当をつけながら数字を見て判断してるのが現状です。
そんなSCATTが示してくれるデータの解釈方法や練習方法について、ちょうど始めたばかりの初心者が質問し、それに詳しい人が回答している記事をTargetTalkで見つけました。完全解説には程遠く、鬼のように豊富にある機能のうち、ごく一部のさわりだけ解説してるようなものですが、それでも十分に有益な内容でしたので、抜粋して翻訳してみたいと思います。
SCATTトレーニングと、トリガーコントロール
引用元:TargetTalk "Scatt training and trigger control"
- ついに念願のScattを手に入れました。素晴らしいガジェットです! 自分の射撃の問題点が次々に浮き彫りになっています(私がデータを正しく理解できているとすればですが)。
「おおまかにどこらへんを照準しているのか」は、十字マークで示されていますが、通常は10付近を彷徨っている状況です。概ね良好です。しかし、実際に撃発が起きる場所は十字マークからは大きく外れた9の前半か8のリング内になってしまうことがしばしばです。これは、私のトリガーの引き方が悪いのが原因なのだと思います。
質問したいことは2つあります。上に書いたことはSCATTが示すデータの解釈方法として正しいものなのか、そして十字マークと射撃が重なるようにトリガーの引き方を改善するためには、どのような練習を行えばよいかということです。
教本に書かれているとおり、白い壁に向かって空撃ち練習をしてみました。空撃ち練習ではすごく安定しているように見えるのですが、弾を入れて撃ってみると全然違う感じになってしまいます。標的を裏返して撃つ練習もやってみましたが、標的に開いた穴がどうにも気になってしまいます。(ブレットP)
- 右利きの射手の場合、着弾が7時方向に飛んでしまうのは、たいていの場合、無理やり弾を発射したことが原因です。「撃つ」ことを考えた瞬間から、既に危険な状況に陥っています。トリガーへの圧力を徐々に増加させていくことに集中してください。常に圧力を上げ続けていれば、弾はいずれ発射します。しかし、いつ発射されるかは射手には正確には分かりません。この撃ち方はスムーズなリリースを実現するだけでなく、発射を予期してグリップを緊張させてしまう(これもまた弾が下がってしまう原因となります)という問題も解消できます。
あなたの投稿を読むかぎり、SCATTはあなたのホールド状態が良好であることを示しています。重要なのは、ピストルを発射させる際に、この状態を崩したり、安定性を損なわないようにすることです。
トリガー圧力の上昇は遅くする必要はありません。理想的には、サイトアライメントを崩さない範囲でできるだけ速くすることです。空撃ち練習を行うことで、コントロールしやすい最速の速度を見つけることができ、SCATTのタイミングプロットは、ホールド状態において「最小のブレ」期間にあるタイミングを示します。
白票撃ちをしていて標的に開いた着弾の穴が気になってしまう場合は、標的に大きな穴を開けましょう。9点以上を撃てば紙に当たらないくらいの大きさの穴です。これで細かいスコアを気にする必要も、気を散らす穴もなくなります。その状態で何発撃っても紙に当たらない(8点が出ない)ようになったら、穴を小さくして同じ練習をしましょう。(Gホワイト/マサチューセッツ州)
- ありがとうございます。
すぐに始めます。(ブレットP)
- Scattはすばらしいトレーニングツールで、あなたの可能性を広げてくれます。Gホワイト氏のアドバイスは「まさにその通り」としか言いようのない素晴らしいものです。
付け加えるとするなら、フォロースルーをしっかり集中して行うことも重要です。そうすれば、コントロール不能になりそうになっても抑えることができます。
スリムなトリガーブレードを使用すると、指とトリガーブレードの間の圧力の高まり方を感じやすくなります。トリガーへ加える力を一定のペースで高め続けることができているか、高めるペースを停止していなかということがわかるようになります。トリガーへ加える力を増やし始めたら、そのペースを止めてはいけません。もし、加える力を増やすのを止めなければ「すべてがうまくいかない」という状況になったのならば、撃つのをやめて銃をおろし、リセットしてやり直してください。
私はいつも古いUSB Scattを使用してきましたが、先週はコーチングセッション中に、スポーツQuantumターゲットでメンバーカメラベースのScattを使用しました。これは興味深いもので、コンピューターにScatt画面が表示されていただけでなく、フィードバックを得るためにQuantum画面に実際のショットの配置も表示されていました。私はUSBスキャットを空撃ち練習でしか使用していないので、射撃時のエネルギーが結果にどう影響するかを見るのは楽しかったです。トリガーの引き方が乱暴になってしまったときなど、既に大きな動きがある場合はそのエネルギーが乱れをさらに増幅しますし、逆にリリースが適切であれば影響は最小限に抑えられるようです。学ぶことは尽きません!
特に興味深かったのは、様々なピストルのフォロースルーを観察したことです。K12の反動吸収装置はステイヤーに対して非常に効果的で、吸収装置のないピストルの反応も見受けられました。ジャンプがないため、意味のあるフォロースルーをはるかに容易に生み出すことができます。(サードホイール/イギリス)
- 「空白のターゲット」と「気を散らす穴」の問題について、私も同じ問題を抱えていたので、こんな工夫をしてみました。紙のマスクを改造して(白い紙を貼り付けて)、白い感熱紙を使用しました。これで、白い空白の電子ターゲットの上に、常に白い紙が貼れるようになりました。(アズモダン/ルーマニア)
- 素晴らしい理想的なアイデアです。そのやり方なら確実に「悩ませている穴」を回避できます。SQETには使用できる空白のターゲットがありますが、自宅のフリーターゲットであなたのアイデアを試してみます。(サードホイール/イギリス)
- いろいろと勉強になります:-)
トリガーへのプレッシャーを「ランプ(一定のペースで増やすこと)」にするやり方は今練習中です。でも、力を増やすペースが速くなる時もあれば、中程度に速くなる時もあれば、遅くなる時もあり、トリガーがスタックしてしまう時もありました。この違いは何が原因でしょうか? グリップのせいでしょうか?(lwy.todd.lu/オーストラリア)
- トリガーがスタックするような症状をどうやって改善するか? 空撃ち練習が本当に役立つのはまさにその状況です。これは通常、脳が「まだ完璧ではない」と認識し、射撃に抵抗していることを意味します。指は「屈筋」の筋肉/腱を使って引き、「伸筋」の筋肉/腱を使って伸ばします。トリガープルは屈筋のみを使うようにしてください。射撃に完全に集中していないと、無意識のうちに伸筋系を緊張させてしまうことがあります。トリガープルで感じる力は屈筋系がどれだけ強く引いているかを表していますが、伸筋が関与するとその強さは大きく変化します。そのため、トリガーがいきなりとんでもなく重くなったように感じることがあります。
これを改善するには、いくつか方法があります。
1.指に圧力をかけ始める前に、意識的に指のすべての筋肉を完全にリラックスさせます。何も抵抗していない時のトリガープルの軽さに驚くかもしれません。
2.圧力をスムーズに速くかけられるほど、脳が働き出して混乱する時間が少なくなります。アメリカ屈指の「ブルズアイ」シューター(ブライアン・ジンズ)のコーチは、彼によくこう言っていました。「くだらない考えはやめろ」
3.精神的にポジティブで断固とした姿勢で射撃に臨みましょう。ためらうことなく、全力で射撃に取り組みましょう。ヨーダの言葉を借りれば、「『撃つ』か『撃たないか』だ。『試す』などはない」のです。
4.ためらったり、トリガーが「スタックしてる」と感じたら、射撃を中止しましょう。伸筋が使われてトリガープルが損なわれるような「練習」は、百害あって一利なしです。(Gホワイト/マサチューセッツ州)
- 素晴らしい説明ですね!
ありがとうございます!(サードホイール/イギリス)
- >指に圧力をかけ始める前に、意識的に指のすべての筋肉を完全にリラックスさせます。何も抵抗していない時のトリガープルの軽さに驚くかもしれません。
ああ! 確かに私も時々そういう経験があります。グリップに最低限の力しか入れられない時は、トリガープルがすごく軽くなるんです。時には軽すぎて、狙った場所に着弾する前に発砲してしまうこともありました(笑)。
マスター、いつもありがとう~(lwy.todd.lu/オーストラリア)
- >ためらったり、トリガーが「スタックしてる」と感じたら、射撃を中止しましょう。
これは確かにとても良いアドバイスですが、「少しためらってしまう瞬間」を乗り越え、なんとかしてそのまま発射する方法も学ぶ必要があるのでは? 75分をかけて60発を撃つ、あるいは4分10秒で5発を撃つ場合はならばショットをキャンセルするのは良いアイデアですが、ファイナルでは50秒1発となり、キャンセルは1回がせいぜい、2回のキャンセルはもう不可能です。(ロカダ)
- ファイナルに進出できる人なら、きっとこの問題は克服できてるはずです。そうなれば、あとは「メンタルマネジメント」がすべてです。とはいえ、簡単ではありません……。(Gホワイト/マサチューセッツ州)
- アドバイスありがとうございます。SCATTでの練習も順調に進んでいますが、表示されてる数字の中にいくつかよくわからないものがあります。一番は「S1」です。例えば、スコア10.1でS1は「221.9」、S2は「353.8」と表示されました。
これがどういう意味か分かる方はいますか? どこか、SCATTの表示データについて詳しく説明しているウェブサイトはありますか? Scattの公式サイトを見に行ったのですが、あまり役に立ちません……。(ブレットP)
- S1、S2は「照準が標的上を動くスピード」を表す数字です。撃発直前の1秒間、照準は標的上を平均速度221.9mm/秒(合計221.9mm)で移動していた、ということをS1の数字が表しています。そして発砲直前の0.25秒間、照準は平均速度353.8mm/秒(合計88.45mm)で移動していた、ということをS2の数字が表しています。
最後の0.25秒間の平均トレース速度が著しく高いことから、そのショットではトリガーワークが比較的雑だった(撃発の直前になって銃が激しく揺れた)可能性が示唆されます。(10ショットフライヤー)
- ありがとうございます。
はい、まさに今、その点が自分の課題だということを思い知らされまして、改善に取り組んでいます。練習の甲斐あって、照準エリアに入るとトリガーが少し自然にリリースされるようになってきました。
ありがとうございます。その辺りの練習を続け、S1・S2の数字が小さくなるように頑張ってみます。(ブレットP)
SCATTには何種類かあって、軌跡と得点くらいしか表示されないBASICという廉価版もありますが、多くの射手が使っているMX-02や、最新型のワイヤレス仕様であるMX-W2などは、それはもう大量の解析データを表示します。一発撃つたびに、点数以外の数字が5~6個も表示され(オプションで増やすこともできたはず)、それが表になって画面左に表示され続けます。そのデータを解析したグラフなどを表示するモードもあったりします。
あまりにたくさんのデータなので、それぞれがなにを計測したどういうデータなのか、そしてそれが大きかったり小さかったりすることをどう解釈したらいいのか、そして自分の練習にどう活かしたらいいのか、なかなかに難易度が高いものがあります。全部を完璧に理解して使いこなそうというのは、まあちょっと無理な話になってきます。
ピストル射撃の場合、「まずは(点数よりも)この数字を気にしよう」とイチオシされるのは「10a0(テンエーゼロ)」ですね。撃発の1秒前から撃発までの間の照準のブレの範囲に対して、10点圏がどの割合の大きさなのかを%で表したものです(照準していた場所がど真ん中であったのか10点から離れていたのかは関係ありません)。照準の揺れが10点圏の大きさと同じならば100%、10点圏の2倍の大きさになっているようなら50%と表示されます。ざっくりと表現するなら、「あなたの実力で、ちゃんと撃てたときに10点に当たる確率」が10a0である、って考えるとだいたい合ってると思います。
初心者だと10%とか20%だった10a0が、練習を重ねていくうちに少しずつ数字が大きくなり、30%とか40%平均くらいで撃てるようになってきます。50~60%平均くらいで撃てるようになればかなりの上級者です。代表レベルになると70%とか80%みたいな数字を出すそうです。「10a0の数値を上げようと頑張る練習」というのは、10点に当てよう(当たれば嬉しい)という練習とはまるで異なるものになり、身体の力みを抜いて銃を安定させた状態のまま正しくトリガーを引く(シアを落とす)という、ピストル射撃に必要な要素を詰め込んだ、とても有意義なものになります。
このトピックで「要注目」とされているデータはもう一つ(正確には2つ)、S1とS2があります。銃口の動きの平均速度(1秒間で動く距離)であるということは知っていましたが、S1とS2がそれぞれいつの数値なのかというのは、正直あんまり気にしていませんでした。
S1が撃発1秒前以降、S2が0.25秒前以降のスピードであり、その2つを比べることで「撃発直前に照準の動きが収束した(良い撃ち方)だったのか、逆に激しく動いた(悪い撃ち方)なのか」を簡単に判別できるということです。うん、これは確実に有意義なデータです。
試しにちょこっと撃ってみたところ、すごくわかりやすい結果がいくつか出ましたので恥ずかしながらお見せしたいと思います。
なおSCATTの公式サイトにあるBBSに投稿されていた有識者のコメントにはこんなことが書かれていました。
S1に普遍的に完璧な値はありませんが、一般的に参考になる数値は次のとおりです。
50mライフル立射:50mm以下、膝射:45mm以下、伏射:40mm以下
10mエアライフル:10mm以下
エアピストル:100mm以下
目標ははるか果てしないところにありますね……。









