今月の初め(6日)から、埼玉県和光市で開催されているアジアエアガン選手権大会。広島アジア大会(1994)以来、超久しぶりに日本で開催された射撃の国際大会です。2020東京に向けての「運営面でのリハーサル大会」を兼ねてという名目こそありますが、とにかく銃に関する規制では世界に類を見ないレベルでの「面倒臭さ(厳しさではなく)」がある日本ですから、会場の用意から選手の受け入れ体制から大会中の銃器の管理から、とにかく普通の法律の運用では全く想定されていない状況がてんこ盛りになるこういったイベントを実行するのは並大抵の苦労じゃなかったと聞きます。
国際大会への出場は、ナショナルチーム(NT)メンバーだけの特権ですが、NTではない一般シューターにとっても「世界レベルの射撃を目の前で見ることができる」という千載一遇のチャンスでもあります。というわけでNTではない一般シューターである私も、ピストル射撃が行われる10日限定ではありますが観戦に出かけてきました。
この日の一大ニュースは、なんといっても冒頭に書きました小西ゆかり選手の優勝です。先立って行われた男子APファイナルでは、期待の松田知幸選手が不調で8位に終わってしまいましたが、そのションボリ感が一辺で吹っ飛ぶ物凄いファイナルとなりました。
ファイナルは、まず5発×2の10発を撃って基準となる得点を決め、そこから2発ずつ撃って最下位の人から脱落していくというルールです。基準点の10発をほぼ全部ど真ん中、特に2回目の5発は中心に集まりすぎて5発の弾着が1~2発くらいにしか見えないレベルの超絶タイトグルーピングで圧倒的首位に躍り出たのがモンゴルのOTRYAD Gundegmaa選手でした。
あまりにも得点の差がありすぎたので、最初の10発の時点で多くの人が「金メダルはほぼこの人で確定で、銀・銅メダルの争いになるな」みたいなことを考えたのではないかと思います。実際、その得点差は絶望的といっていいほどのものでした。
日本の小西ゆかり選手は、最初の数発目までは下位グループに沈んでいました。しかし9点を撃っても浅いところは撃たず、10点もできるだけ深いところに入れる射撃を連続し、10発が終わった時点では3位に浮上しています。
気になったのは、他選手に比べて撃つのに明らかに長い時間をかけている点です。撃たずに構え直すのも2回ほど行っていました。基準点の2シリーズ目(6発目~10発目の5発)では、残り時間40秒になっても2発が残っている状態で、最終弾を装填して構え始めたのは残り20秒と少しになってから。ラスト1秒かそこらのほんとうのギリギリになって最終弾を発射するという、観客にとっては物凄く心臓に悪いペースでした(それでもその最終弾は10.7に入ったのですが)。
1人ずつ脱落していくステージに入ると、5発単位ではなく1発50秒という時間制限になり、「構え直し」は事実上不可能になります。そんな中、相変わらず他の全員が撃ち終わってもまだ構え続けて観客をヤキモキさせますが、それでも10点の深い部分(いわゆるX圏)を撃ち続け、トップとの点差をジリジリと縮めていきます。
一方、基準点では他選手を大きく引き離していたモンゴルのOTRYAD選手ですが、かろうじて9点には入るものの10点リングを取り囲むような弾着が続きます。そして17発目、ついに8点台を撃ってしまい、10.6を撃った小西ゆかり選手が逆転してトップに躍り出ることになります。
その後、2人とも「信じられないレベル」の高得点を連続し、差は縮まったり広がったりを繰り返しながら、前人未到のハイレベルまで駆け上がっていきます。そして最終弾。その時点で1.5点差があったので、小西としては9.5以上を撃てば(たとえ相手が10.9を撃ったとしても上回るので)優勝確定という状況でした。先に撃ったのがOTRYAD選手、プレッシャーに負けたのか明らかなミスショットで8.7。この時点で、小西は7.3以下という大ミスさえしなければOKという「楽な状態」になったわけです。ほぼ優勝確定ですが、サイトに集中している本人はおそらくそんな余計なことは考えていないでしょう。
そしてその小西の最終弾は、パーフェクトショットの10.9。文句なしの締めくくりで金メダル、ついでにアジア記録を更新するウルトラハイスコアです。満員の会場に大歓声が轟きました。
表彰式の様子です。大勢の観客や報道陣のカメラに取り囲まれました。
キャプション中にも書きましたが、全般的に見て選手のフォームが、従来良いとされていたいわゆる「教科書的なフォーム」からは外れているものが多いように感じました。足の開き幅は肩幅くらいではなくそれより若干狭く、つま先は開かず閉じ気味に。両足はターゲットと自分を結ぶ線に並行な「スクエアスタンス」で、上半身をオープンにするときは足首と膝で回転させ「腰から上」はひねらない。ターゲットを正面から見るのではなく、横目で見るような形になっても構わない……といった感じです。
また、構えはじめてから撃つまでの時間も、これまでだったら「銃を下ろして構え直しをするべきである」と言われる長時間を過ぎてもまだ撃たず、銃を下ろしもせず、粘りに粘って撃って、そしてそれを高得点に入れるというケースをたくさん見ました。
一緒に観戦していた金沢のY本さんと話をしていて気づいたのですが、もしかしたらこれは「新しいファイナルのルール向けに、新しく生み出された新しいピストルの撃ち方」なのかもしれません。「60発を、1時間半かけてじっくりと撃って、10点リングをかすめるところにできるだけたくさん入れたほうが勝ち」というルールから、「制限時間50秒で、1発だけを、とにかく10.9に少しでも近いところに撃ち続けたほうが勝ち」というルールに変わったわけです。「正しい」とされる射撃フォームに変化があって当然です。
想像するに、「長時間、安定した射撃をするために、身体に負担をかけない」ことを重視したフォームから、「一発勝負で高得点を出すために、少々身体に負担をかけてでも据銃が安定する」ことを重視するフォームへと移り変わってきているんじゃないでしょうか。あくまで想像ですが……。