ライフル射撃やピストル射撃に使う銃には、原則としてスコープの類はついていません。リングとか穴とか板とか棒とかを、視界の中で組み合わせてターゲットを狙います。ターゲットは拡大されませんから、弾着がどこになったのか(穴がどこに開いてるのか)なんか見えません。「ターゲットはぼんやりとしか見えない状態で正確に狙って撃つ」のが競技射撃の世界なのです。
ターゲットに開いた穴は見えませんが、撃った時に感触として「どこらへんに弾が当たったか」はわかります。わかりやすい例で言うと、サイトがど真ん中にピタリと合っておらず少し上にズレてる状態で引き金を引いてしまった場合は「あ、ちょっと上を撃っちゃったな」というのがわかりますね。ど真ん中に合ってる時に引き金を引けたのだけれど、引き方が雑になってしまって銃が上に跳ね上がちゃったりした場合も、「あ、すげー上撃っちゃったヤベ!」みたいな感じに、ターゲットを引き寄せて間近に見る前に「どこらへんに飛んだのか」がわかります。
そういうふうに、「実際にターゲットを確認する前に、自分の感覚ではどこに当たったのかを予測し、できれば口に出して言う」ことを着弾予測、英語だと「コール」って呼びます。外れた場合ばっかり例に出しましたが、そうではなく「よっしゃ、文句無しに理想の感触だった、こりゃ間違いなくど真ん中に当たっただろ!」みたいなのもれっきとした「着弾予測」になります。
着弾予測と、実際に弾が当たった場所とを比較して、どれだけ一致しているか/いないかを確認することは、射撃においてとても重要です。
着弾予測と実際の結果が一致している場合、それは身体の感覚どおりの射撃ができているという証拠になります。「○○が理由で上に外れてしまった」という感触のあるショットが、実際に上に外れたのならば、その外れた理由は高い確率で「○○」です。外れた原因がはっきりしているのですから、次からはそこに気をつければ当たるようになります。上達への道筋が明るく照らされたようなものです。
逆に一致していない場合。「■■をやってしまった、だから思いっきり上に外してしまった!」という感触があったショットが、なぜか上には行かずに真ん中とかそれ以外の場所に当っていた場合、これは一致していたときよりも少し厄介です。外れたけれど、理由がわからないということだからです。
それでも、「外したが、理由がわからない」ということがわかったというだけで大きな収穫です。少なくても、その外れた原因は「■■」ではない可能性が高いということも、上達のために必要な情報としてはとても重要です。「当たらない理由はきっとアレだ、アレさえなんとかすれば当たるようになる」と思い込んで見当違いな方向に努力を積み重ねて、それが見当違いだったってことがわかったときにはもう長い年月が過ぎ去っていた……なんて無駄をしなくて済みます。
着弾予測は、「撃つ」「どこらへんに当たったかを予測する」「ターゲットを確認する」「予測と実際の結果を比較する」というプロセスを経て成り立ちます。予測するだけじゃなく、ターゲットを見て当たった場所を確認する必要があるわけです。
電子標的ならば、撃った直後に弾着位置が小数点の点数まで合わせて手元のモニターに表示されますので話は早いのですが、紙標的を撃っている場合は少し手間が要ります。倍率の高いスコープを三脚とかに固定して脇に置いておき、撃つたびにそれを覗き込んで着弾位置を確認する方法は、50m競技では一般的(というよりほぼ必須)ですが、10m競技でもやってるのを見ることが時々あります。
私の場合は、ターゲットを少しだけ(1~2mほど)手前に引き寄せます。ターゲットの背景を白い壁にすれば開いた穴の位置が一目瞭然になり、正確な点数はともかく「どこらへんに飛んだか」は十分に確認できるからです。
海外の射撃競技専門BBSである「TargetTalk」でも、些細な質問をきっかけとして着弾予測の重要さについて熱く語る人が続出しているスレッドがありました。有用な情報を含む書き込みもちらほらと見受けられますので、抜粋して翻訳してみます。
引用元:TargetTalk (to look or not to look)
「よし、うまく撃てた!」と思えるショットが撃てた時には、いったん撃つのをやめて、どこが良かったのか、どんな感覚だったのか、狙っていたのはどのくらいの時間だったか、トリガーをどのくらいの速さで引いていたか…といったことを思い返しましょう。
逆に失敗ショットをしたときには、いちいち落ち込んだりはしないことが大事です。しかし、そのショットは良いショットとどこらへんが違っていたのかを考え、どういったことをすると悪い結果に繋がるのかという知識・感覚を覚えておくことは大事です。それをすれば、悪い状態になったときに引き金を引くのを中止することができるからです。看的スコープを使わなければ、どっちが「悪い状態」だったのかがわかりませんから、射撃を中止するべきなのがどういう状態なのかを学ぶこともできません。(マサチューセッツ州)
質問者フルボッコ状態です……。
以前UPした「競技中にサイトを動かすか動かさないか」みたいに意見が分かれることもなく、全員が「一発撃つたびにターゲットを確認して着弾予測と比較しなさい。上達のためには絶対にその方が良い」という意見でした。着弾予測、言い換えると「一発ごとにターゲットを確認する」ということはそれだけ大事なことなんですね。
外した方向からその原因を診断できる「診断ターゲット」については、とても役に立つものだってことは確かですが、書いてあることは絶対ってわけじゃありません。上の抜粋では省きましたが、診断ターゲットがUPされた後、8方向の全てに「クソ、むかつく(You Suck)」って書いてあるターゲットがUPされてて、「うん、俺はこっちのほうだな」みたいな肯定レスがいくつかついてたりしました。「理屈ではそうなんだろうけれど、現実が理屈通りに行けば誰も苦労しねーよ」ってニュアンスでしょうか。まあ、それは射撃に限った話じゃなく、人生のありとあらゆること全てに対して言えることなのかもしれません。