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ワインについて語ってみる⑤

ワインツーリズムに力を入れている山梨

日本におけるブドウの一大産地である山梨の勝沼地区は、東京から近い。「大月よりは遠いが、甲府よりは近い」って書くと距離的な感覚も掴みやすくなる。とにかく安く簡単に日帰りできる距離ということだ。その勝沼には物凄い数のワイナリーが集まっている。密集しているといってもいいくらいだ。鉄道の駅、あるいは高速バスの停留所から歩いていける範囲だけでも、10軒や20軒じゃきかないワイナリーが、大規模なものから小規模なところまでよりどりみどり。ワイナリーを訪れるならやっぱり試飲をしたいので、クルマを使うわけにはいかない。そこで「歩いていける範囲」になるわけだ。お金がうなるほどあればタクシーを使うのだが、残念ながら自分はそれほど金持ちってわけじゃない。

けれどワインツーリズムに参加するのなら、「どうやって移動しようか」という心配をする必要がなくなる。バスでの移動もツーリズム参加料金のうちだからだ。山梨では毎年11月の頭に大規模イベントとしてのワインツーリズムを開催しており、それ以外にも月イチペースで小規模な「ワインツーリズムを体感する旅」というのをやっている。移動に使われるバスは面白いことに「山梨交通」のバス。普段は普通に路線バスに使われているそのバスのフロントに「ワインツーリズム」という大きな垂れ幕を掲げて走る。運転するのも、その路線バスのドライバーだ。地域活性化という一つの目的の元で、公共交通機関も役所も民間の醸造会社も、力を合わせているわけだ。地域全体が一丸となって「我々のワインを楽しんで貰おう」という意気込みが感じられる。

年に一度の大規模な「ワインツーリズム」と、小規模な「ワインツーリズムを体感する旅」とでは、性格を大きく異にする。大規模イベントには数千人もの人が訪れ、街中を循環するバスに自由に乗っては下りて、そこらじゅうにあるワイナリーを参加者が自由に回るという形になる。だが「ワインツーリズムを体感する旅」の方では、参加者は10~20人程度。一台のバスを貸し切って予定通りに事前に約束していたワイナリーを訪れ、生産者の方に畑や醸造所を案内して貰いながら詳しい話を聞き、試飲をして、移動の合間にはその土地の地形的な特徴や歴史について講義を受けて…というような、より突っ込んだ、マニアックなツアーになる。

「ワインツーリズムを体感する旅」でガイド役をしてくれるのは、勝沼の地元老舗酒屋「新田商店」の新田正明さん。軽妙な語り口で、深い知識に基づいたあふれ出るようなウンチクの嵐を聞かせてくれる。ワインそのものについてはもちろん、土地の歴史や土壌の違い、品種について、その年の気候がブドウの出来にどういう影響を与えたか、ワイナリーによる製法の違いや、なぜそういう製法をしているのかといった内容など…。ワイナリーの人が説明し終わった後でも、そういった観点から「○○さん、そこについてもうちょっと詳しく説明お願いします」とか「そこでそういう手法を使う意味について語ってくれますか」といった形で、「より深い話」を導き出してくれるのも有り難い。

写真:バスの中でも語りが止まらない新田さん。自分自身で全てを説明するというわけではなく、あくまで参加者が醸造家の人達の話を理解するのに必要な基礎知識を事前にレクチャーする、というようなスタンスでお話しをしてくれるのだが、それが簡単に説明しきれるような内容だったら誰も苦労しないわけで。

その1から読むツーリズムの覚え書き「その1」へ

池上ヒロシ

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