前回アップした、TargetTalkでのシンガポールの人による新規エアピストル購入相談。「何を買ったらよいのでしょうか」みたいな質問自体は、この手の掲示板だと超頻出質問ということもあって当初は「検索しなさい、同種の質問はたくさんあります」みたいな回答しかつかなかったのですが、質問者さんが突っ込んだ内容に踏み込んでくると、それに答えたくなる人が出てきます。
特に、その質問者さんの言うところの「こだわり」というのが微妙に見当外れだったりするところがあり、「黙ってられなくなった」人が続出したらしく、途中からはやけにマニアックな話になってしまい、ものすごい長文が乱れ飛ぶ上級者向きのトピックになりました。
全部をひとまとめにすると、冗談じゃないって感じの長い投稿になってしまうので、今回はまずその「マニアックな話になりかけ」の導入部分だけを抜粋してお届けしたいと思います。
エアピストルのためのベストなトリガーとは?
引用元:Best Triggers for Air Pistol
- 自国の法規制のため、私はこれまでクラブ備え付けのLP10とLP2しか撃ったことがないのですが、新規で自分の銃を購入するにあたり、皆さんのアドバイスをいただきたく投稿しました。
購入相談系のトピックはいくつか読みましたから、「最高のトリガー」というのは人によって好みが異なり、誰もが納得する理想の回答なんてものは存在しないということは理解しています。なので、私個人がどんなトリガーを求めているのかを書いておきたいと思います。
1.シアが切れた時の銃の動きが最小限に抑えられていること(可能な限りクリスプで、シアが切れたときにトリガーのメカニズムが銃を突き動かしたりしないこと)
2.トリガーのオーバートラベルが可能な限りスムースであること
3.オーバートラベルの量を調整できること
4.ファーストとセカンドステージの重さを調節できること
5.オーバートラベルの重さも調節できること
6.ファーストステージからオーバートラベルの終わりまで、可能な限りスムースにトリガーが動くこと
(シンガポール)
- あなたの言う「トリガーの感触へのこだわり」には、あまり意味がありません。今まで2機種しかエアピストルを撃ったことがないというのならなおさらです。
私個人の経験から言わせていただければ、LP10というのは非常に良い選択です。とくに「E」が付いているバリエーションは格別です。ただ、それ以前の問題として、「レバーコッキング式か、CO2か、それともプリチャージ式か」といった選択もまた悩ましいところではあるのですが。(ケベック州モントリオール)
- まあ確かに、2種類のピストルしか撃った経験がないというのは如何ともしがたいことです。ただ、自分の「トリガーの感触へのこだわり」については、クラブにあるLP10のうち私が使っているものと、それと同じトリガー設定をされたもう1丁のものとの違いについて説明できるということで証明はできるのではないかと思います。LP10は間違った選択ではないというのは同意しますが、それでも私は「もっと良いトリガーがあるのではないか」と感じています。まだ自分のピストルを持ってない身で言うのもなんですが、「トリガーフィーリング」というのは私にとってとても重要なものとなっています。シアが切れる瞬間の感触だけでなく、シアが切れた後の感触(フォロースルー)がどのようなものになっているかについても。
3つの動画を見ると、K10とK12の撃発時には動きがありませんが、LP400には大きな動きがあります。K12にかなり心が動いています。(シンガポール)
- ワルサーLP400のトリガー・シアは「コーン・ポイント・グラブ・スクリュー」の右下にあります。そのスクリューを回すことでシア同士の重なり部分が減少し、シアが切れ始めてから切れる(撃発する)までに必要なトリガーの動きが少なくなります。キチンと調整すれば、髪の毛一本分の動きでシアが切れる、いわゆる「ヘア・トリガー」を実現できます。
また、パルディーニのトリガーには、撃発地点(シアが切れたところ)を過ぎるとそこでトリガーの動きを止めるための「バックストップ」というネジが設けられています。
そういった理由で、あなたが挙げている3つのエアピストルのうち、私の好みはワルサーになりますが、実際に私が1999年に購入したエアピストルはファインベルクバウP34でした。ワルサーよりも優れた、「細いガラス棒を折る時のよう」と形容されるトリガー・フィーリングが気に入ったからです。
次に買うとしたら、ファインベルクバウかステイヤーのどちらかになると思います。ですが、いずれにせよ「ゼロ・リリース」というのは機構上不可能です。(イギリス)
- まずハッキリさせておかなければならないことは、「ベスト」なトリガーというものは存在しないということです。あくまで個人の好みによります。ある一人の射手によって「素晴らしい」とされるトリガーは、別の射手にとって「なんだこれは」と思われてしまうものだったりするかもしれません。
あなたが、明示的にある特定のトリガーと、それとは別のトリガーについての好み(たとえばファーストステージが短すぎるとか、ファーストステージが軽すぎるとかいった具合に)を述べることができない場合は、あなたの質問は無意味です。「私はエアピストル○○のほうが好きです」という言葉は助けになりません。98%はセッティング次第です。
また、2つのピストルを「同じトリガー設定」に調整することは、まず不可能です。なぜそんなことを断言できるかというと、私はこれまでに何種類ものピストルで「それ」をしようと試みたことがあるからです。自分のピストル用にスペアのトリガーユニットを用意し、それを同じ感触になるように調整しようとしたこともあります。何年もの間、ベネリやTau-7やIZHやステイヤーやモリーニやパルディーニやファインベルクバウやワルサーやヘンメリーの製品に取り組んできました。
クラブに設置してある銃は、多くの場合だいたい同じような設定(いわゆる、一番良い状態)になっていると思いますが、長く使っている間に少しずつもとの設定からズレてしまっているかもしれません。2丁の銃をとっかえひっかえ撃てば違いには気づくかもしれないが、1つの銃を撃ち続けている場合、もとの設定と大きくかけ離れたものになってしまっていても気づかない場合があります。
内部メカニズムについて勉強し、良質な測定ツールを使用し、六角レンチの細やかな操作に長けているのでなければ、小さな違いを定量的に判断するのはとても難しいことです。「違うように感じる」というのはカウントされません。ちょうど先週末のことですが、時折予期せぬ撃発をしてしまうヘンメリーのシア調整ネジを1/16回転させ、きちんとシアがかかるように調整したばかりです。設定が勝手に変わらないように、調整ネジはしばしばネジロック剤を使って止めてあります。それは「粘着性」を持っているため、正確な調整はさらに困難になることがあります。
ハイエンドのピストルを購入する最大の利点は、トリガーの調節箇所の多さや範囲の広さです。あなたのクラブ所有のステイヤーのうち一つを、あなたの好みに併せて調整することができれば良いのですが。
オーバートラベルは、多くのピストルで調節可能であり、個人的な好みの問題であるため、動画を見くらべてあーだこーだ言うことには意味がありません。できるだけゼロに近いものを設定する人もいれば、可能な限りトリガーを自由に動かすことを好む人もいます。
もしあなたが、シアが切れた直後にストップするタイプが好みならば、ハイエンドのピストルならばどの機種でもそういうセッティングはできるはずです。オーバートラベル量が多いか少ないかということは一般的にはそれほど重要視される違いではありませんが、もしそれがあなたにとっての最大の関心事であるのならば、訪ねてもらえれば詳細なフィードバックをお送りすることができます。私個人は、以前はオーバートラベルは最小設定にするのが好きでしたが、今はそれほど気にしなくなりましたので各モデルごとにどういう具合に設定できるのかを把握していません。(マサチューセッツ州)
- >「ベスト」なトリガーというものは存在しません。あくまで個人の好みによります。98%はセッティング次第です
調整、調整、そしてまた調整。それにより、どんなブランドの銃でも「最高」になるということを皆が知っています。(ニューハンプシャー・アメリカ)
- 非常に詳細なアドバイスをありがとうございます。おっしゃる通り、LP10のオーバートラベルは調整可能ですが、「どのくらいクリスプなのか」とか、「シアが切れた瞬間の動揺はどの程度なのか」といったことについては私には全くの未知数です。その点は調節は無理ですよね?
トリガーのキレについて、Youtube動画を見てもたいして参考にはならない…というのは本当なのでしょう。しかし私の国では「他の銃を試してみる」という方法をとることは不可能なのです。みなさんの助言だけが頼りなんです。皆さんのアドバイスに基く以外、購入する銃を決める手段がないのです。
皆さんの、それぞれの好みで構いません、どの銃が「良い」のかを聞かせてください。それらを参考にして自分の決断をしたいと思っています。(シンガポール)
- メカニカルトリガーは、「ドライ」と「スムース」に大別できます。「ドライ」というのは、「クリスプ」とか「クリーン」といった言葉で形容されます。「スムース」は「マテリアル」とか「ロング」です。(イタリア・ローマ)
- 興味深いトピックですね。似たような質問は過去に何度もあったとは思いますが、正直言ってこのBBSの検索機能ってあまり良くなく、少なくても私は何かを探そうと思ってそれを見つけられることはめったにないので、類似質問が頻出するのは理解できます。
私は、トップエンドに属するエアピストルについては、可能な限りその全てを試してきました。私がエアピストルに求める要件は私が射撃を始めてからこの3年間でいろいろと移り変わってきました。主に気にしてきたのはグリップについてですが、トリガーもまた私にとってはとても重要な要素です。
「スーパークリスプ」なトリガーが好みならば、選択肢はただひとつです。マッチガンズの電子トリガーです。ごく僅かなトリガーの動きが好きなら、信じられないくらいに良い銃があります。モリーニCM152EIです。
「Something in betwee」なのが好きならステイヤーLP10EかEvo。
メカニカルトリガーでクリスプなのが良いならパルディーニK12がベストです。
メカニカルで非常に良いトリガーならファインベルクバウP8Xがあります。
もしどうしようもないクソが良いならPーー[検閲されました](ドイツ)
マサチューセッツ州の人が遠回しに書いてるとおり、競技銃のトリガーで「オーバートラベルの量」というのは、あまり重要視されることがない要素です。撃った弾が当たるか当たらないかということだけが重要視される競技銃の世界において、弾が発射された後のトリガーの引き味を気にする人が少ないというのは、まあ考えてみれば当然の話ではあります。
競技銃においてオーバートラベルが重要視されるのは、上の引用部分にもありますが、トリガーストップを設けるか設けないかといったところに関わってきます。
シアがキレた(撃発した)直後にトリガーがトリガーガード内側に設けられた突起に当たって、それ以上動かないようにするためのパーツをトリガーストップと呼びます。ハンドガンを使っての早撃ち競技(IPSCとか)をするときに、少しでもタイムを縮めることを目的としたカスタムの一環として取り付けられることもありますが、競技用ピストルの世界でも「撃発の瞬間の銃のブレを抑える」という目的でトリガーストップ付きの銃を好む人というのがいます。
私個人の考え、英語での慣用表現を使うと「IMO」ですが…。撃発の瞬間に(反動ではなく、トリガーを引く指の力によって)銃がブレてしまうというのは、それは単にトリガーの引き方があまりよろしくないからであって、トリガーストップを取り付けることによって仮にそれが若干でも抑えられたとしても、それは「良くないトリガーの引き方をしたことによる悪影響を、トリガーの引き方を改善するのではなく別の方法によって少なくしようとする試み」でしかなく、それは射撃をより下手にしかねない間違ったやりかたに思えます。少なくても自分が指導する相手には薦めないし、取り付けてる人がいたら取り外させます。
ただ、競技銃でもトリガーストップが有効になる状況というのはあると思います。ファーストステージが軽く、セカンドステージが重く、セカンドステージが終わる(撃発する)といきなりトリガーが軽くなるタイプの銃です。トリガーを引くことによって銃に対して銃口を下に押し下げる方向に回転させる力をかけていたところが、撃発の瞬間にその力が失われ、銃口がピョコンと上に跳ね上がってしまうという現象の原因になりかねないからです。
トリガーへの力の加え方や、その力を受け止める手のひら側でのグリップへの力の加え方を工夫することによって、この「撃発の瞬間、銃口がピョコンと跳ね上がる」現象は最小限まで抑えることができます。また、メカニカル・トリガーではなくエレクトリック・トリガーでは、撃発前後でトリガーの重さに変化が生じないため、その現象そのものが起こりません。「エレクトリック・トリガーの競技銃にはトリガーストップを設ける必要はない」と言われている理由がそこにあります。
長々と書きましたが、要するにこのシンガポールの人の言うところの「トリガーへのこだわり」ってのは、なんかちょっとズレてるという印象を受けます。たったエアピストル3丁分の経験しかない私がそう感じるわけですから、何十種類ものエアピストルを所持していて撃ち比べてきた経験のあるTargetTalkの常連回答者の皆さんからすると、「どう言えば、このちょっと勘違いした初心者クンに分かってもらえるのだろう」と頭を悩ませることになったのであろうことは想像に固くありません。
このトピックは、ここから先は主にマサチューセッツ州方面から、常軌を逸したレベルの専門的な内容での回答が怒涛のように書き込まれることになります。その中には他の常連回答者さんや、おそらくは読むだけだった世界中の数多くのエアピストル射手(私もその中のひとりですね)にとっても、それまで常識だと思っていたことを根底から覆される衝撃的な内容が含まれていました。
その部分については、次回更新にて。