前回のLE2017に続いて、今回もLE(限定生産)モデルのレポート記事です。LE2017の先代にあたる2015。ノーマル状態でスチールシアを使っているという意欲的なモデルでした。

APS-3に限らず、エアガンであってもガスガンであっても、「トリガーを引いた瞬間」に銃の中で起こっていることというのはあまり変わりません。バネにテンションをかけた状態で「なんらかのパーツ」をどこかに引っ掛けておいて、その「引っ掛けたもの」をトリガーを引くことによって外して、「なんらかのパーツ」を勢い良く動かすというものです(※電動ガンは例外)。「なんらかのパーツ」というのはハンマーだったりストライカーだったりと銃のメカニズムによって変わりますが、「引っ掛けたもの」のことを「シア」と呼ぶというのはたいていの銃で変わりません。

シアは小さなパーツですが、強いバネの力を受け止めておいて、トリガーを引くだけで一瞬でその引っ掛かりを外さなければならないという、なかなかにハードルが高い役割が求められます。シアは、銃というメカニズムにおいて最も重要とされるパーツの一つです。

通常、エアガンの金属部品というのは亜鉛ダイキャストで作られることが多いものです。そこそこ精度が高い金属部品を、物凄く安価に大量生産できるという点では他の製造方法に比べて桁違いに優れた方法ですが、やっぱりスチール削り出しやステンレスに比べれば「柔らかい、精度が出しにくい」という欠点はありました。

競技銃では、特にシアに求められる精度は高くなります。「あとほんの少し動くだけで外れる」というギリギリの状態と、「それでも絶対に弾はでない」という安全性の両方が求められるからです。亜鉛合金では実現できない高い精度を求めて、シアにスチールパーツを使ったAPS-3・LEモデルがLE2015です。

前回の反動ってわけじゃないんですが、今回はかなり褒めた記事、もう「べた褒め提灯記事」と言われても仕方ないレベルに近いものになってます。実際、分解して各パーツの仕様を確かめながら、「よくまあ市販レベルでここまでやったなあ」と感心するばかりでした。

とはいえ、どれだけこの製品を褒めても、とっくの昔に売り切れてる限定モデルじゃ、「なら、いっちょ買ってみようか」ってわけにはいかないのが辛いところですね。

外観は、色とグリップ以外はORとほぼ同じ

メタリック・レッドのシリンダーに、限定モデルである証の文字が鮮やかにレーザー・マーキングされています。コンプレスト・レバーはピカピカのポリッシュ仕上げです。
コッキング・レバー(アッパーカバー)もポリッシュ仕上げ。この2箇所は頻繁に操作する部分だけに手に優しい仕上げなのは普通にありがたいです。
色とグリップ以外の外観は、ノーマル(OR)モデルとそれほどかわりません。アウターバレルも銀色になっていますがサイズ・形状はORと同じです。
アウターバレル先端にあるフロントサイト・ベースもORと同じ。樹脂に混入してあるファイバーのせいで表面に浮き出るシワシワまでそのままです。ここはもうちょっと高級感を持たせてくれても良かったような気が……。過去にはここがアルミ削り出しパーツになったLEモデルもあったのですが。
シリンダー左側面にはモデル名と、ポエムが一行。LEモデルのお約束なんですね、コレ。
トリガーも、色が違うだけでORモデルのものと同じです。実際、ここについては何か変更したい部分とか不満点とかはありませんし、あえて妙なギミックを入れるよりはこのままのほうが良いと思います。
外観上の一番の特徴は木製グリップです。かなり本格的なもので、表面加工は「細かい穴が大量にビッシリと開けられている」という実銃の競技用ピストルにも見られる本気仕様です。
形状も、妙な独自アレンジはなく「ちゃんとした競技用グリップ」になっています。少し角度を付けて狙う(銃を身体の真横じゃなく、少し斜め前に向けて狙う)スタンスに合わせたセッティングになっているようです。
もっとも、競技用銃である以上、「どんな人にも、何の調整も加工も必要なく、そのままでピッタリと完璧にフィット」というわけにはいきません。手の大きい人小さい人、指の長い人短い人、それぞれに合わせてなんらかの加工は必要になってくると思います。

内部メカニズムは、「総取っ替え」に近い手の入れよう

外観は(木製グリップ以外は)それほどORと変わらないLE2015ですが、中身はかなり手が入っています。そりゃもう「全然違う」といっていいレベルです。限定モデルとはいえ、通常販売ルートに載せる量産品にここまで独自パーツを使うのかと驚きました。

「ノーマル(OR)では軽すぎるファースト・ステージを重くする」「Cシア・Cバネによる擬似的なセカンド・ステージではなく、シアA/Bの噛み合いを少なくすることによるホンモノのセカンド・ステージを実現する」「最終的なトリガープルは500gを少し超えるあたりに設定」という3つの目的を果たすために、できることを全てやったという感じです。
 

サイドプレートを外したところです。いわゆる「Cバネ」は入っていません。シアCはメカニズム的には何の働きもしませんが、これをなくしてしまうとシアBの左右位置がズレてしまうのでとりあえず「隙間埋め」に入れてあるようです。
これがLE2015のキモになるスチールシアです。ステンレスではなくスチールに黒染め加工をしたものです。角ばっているのは、それぞれの面を手作業で表面仕上げをするためでしょう。曲面が多いと手間が増えてしまうのです。
真横から見たところです。ノーマル(OR)はもちろんのこと、LE2017のシアA/Bとくらべても形はかなり違います。
OR、LE2017、そしてLE2015のシアA/Bの形状を比較してみました。シアBのスプリングに接する面の位置が異なるのと、シアBの後部が角ばっている関係でシアAに干渉しないようにシアAの下部がえぐられた形になっているのが大きな違いでしょうか。
組み込んだときの位置関係はこんな感じです。ノーマル(OR)と異なり最初からシアBとシアAがギリギリの噛み合いに近い位置関係になっているのがわかります。また、トリガースプリング、シアBスプリング、シアAスプリングの全てがORよりも遥かに固い(強い)バネに交換してあります。
トリガースプリング。ノーマルの俵型スプリングではなく直線円筒状のものです。見た目は小さいですが指で縮めるのは難しいほどに固いスプリングです。これによりファースト・ステージは何も手を入れない状態で350g前後(ORや他のLEモデルは210g前後)と大幅に重くなっています。
シアBスプリングも、ノーマルに比べて明らかに太くて固いスプリングになっています。これにより、Cバネが存在しない状態でもセカンド・ステージが500~600g程度と、十分な重さが確保されることになっています。
トリガーの重さを変更するだけならトリガースプリング、シアBスプリングの2つを替えるだけで良いのに、なぜシアAスプリングまで強化してあるのでしょうか? これは作動させてみるとその理由が分かります。トリガーを引くことでシアBが時計回りに回転、シアAが下降してストライカーが前進します。
トリガーを戻し(力を抜けば自動で戻る)、コッキングしてストライカーを再び後退させたところです。通常ならシアAはシアAスプリングの力で上昇するのですが、シアBスプリングが強いためにシアA/B間の摩擦(水色の丸で囲ったところ)が大きくなり、シアAが上昇しなくなってしまうのです。

「コッキングしてもシアがかからない、またはシアのかかりが浅くて暴発する」というトラブルが初期のLE2015では発生したという話を聞いたことがあります(あくまで聞いた話であり自分で確認したわけじゃないのですが、メカニズムについてはかなり信頼できる方から聞いた話です)。これはおそらく、シアAスプリングの力が足りず、コッキングしてもシアAが(シアBに引っかかる形になって)十分に上昇せずにストライカーの溝にはまらない、あるいは中途半端に引っかかるような状況が発生してしまったのではないかと思います。

そのトラブルを防ぐためにシアAスプリングがノーマルに比べると極端といっていいレベルで強くなっているのですが、それによる弊害というのもどうしても生じてしまいます。シアAが常に「物凄く強い力」でストライカーを下から上へと押し付けているので、ストライカー下面とシアA、ストライカー上面とレシーバー間の摩擦が物凄いことになるのです。トリガーの引き味には関係のないところで、影響があるとしたらせいぜい「アッパーカバーのコッキングが少し重い」程度で済む話ではあるのですが、パーツへの負担は相当に大きなものになるはずです。
 

LE2015のストライカーはORモデルと同じ亜鉛合金製です。シアAに強く上方向に押し付けられているため、作動時の負担は大きくなります。この裏側(シアAとの接触面)は目に見えて分かるレベルで摩耗・変形をしていました。作動には問題ないレベルですが、数を撃つ際には交換用ストライカーを用意しておいたほうがいいかもしれません。

カスタムというのは、ある一箇所を変更するとそれにつられて別の箇所に不具合が生じ、その不具合を解消するカスタムをするとさらにそれにつられてまた別の箇所に不具合が生じ……といった感じで、「一箇所を変えただけなのに芋づる式に他の部分も変えなければならない」という事態になりがちです。完璧に解消しようとしたら切りがないのでどこかで妥協して割り切らないとならないのですが、LE2015についてはその妥協点が物凄く高いところにあり、「ここまで頑張んなくても良かったのでは……」と思えるレベルになっていました。

1stステージを重くするためにトリガースプリングを重くする。そして2ndステージのストロークを短くする(キレを良くする)ためにシアA/Bのデザインを変更する。ここらへんまでは、まあ高額な限定モデルとしては「よくあるカスタム部分」だと思います。

さらにその先。セカンド・ステージの重さをORとほとんど変えない(500g以上という国際ルールに則ったものにする)ためにシアBスプリングを強いものにする→それによる作動不良を解消するためにシアAスプリングも強いものにする→結果的に3つのスプリングがノーマルよりはるかに固いものに変更となる→シアがスプリングの力に耐えられるように、頑丈な素材(スチール)を使用する、といった感じで、あちらが立てばこちらが立たずを解消するために次から次へと部品の仕様を変更していった結果、レシーバー内のパーツのほとんどが「ORとは全然違う独自部品」に置き換わってしまうという衝撃の結果となったわけです。

「よくまあ、ここまでやったなあ」という感想になった、と冒頭に書いたのがそれです。理想とするトリガープルがあり、それを実現するためにシアの形状、シアの素材、シアの表面処理、シアにまつわる3つのスプリング全てを交換しているわけです。「あきゅらぼトリガーカスタム」ではノーマルのシアを加工して調整式とし、スプリングを強くするためにはノーマルのスプリングにもう一つ大きめのスプリングを被せるという「その場しのぎ」に近い対処方法ですが、LE2015については部品全てを新たに作って交換するという方法を採ったわけです。さすがは本家本元のメーカーです。

とんでもなく、贅沢なモデルと言えるでしょう。
 

機種        /1stステージ / 2ndステージ
 OR(ノーマル)   / 210g前後  / 520g前後
 あきゅらぼカスタム / 210g前後  / 320g前後
 LE2015       / 350g前後  / 650g前後
 LE2015カスタム   / 350g前後  / 480g前後
 LE2017       / 210g前後  / 780g前後(※580g前後の製品も)
 LE2017カスタム   / 210g前後  / 270g前後

トリガープルは上の表のようになります。このLE2015は、例によってVer.2カスタムのご依頼でお借りしたものです(撮影については許可を頂いております)。しかし、もともと入っているトリガースプリングが十分に強いスプリングで、1stステージも「これ以上重くする必要はあるかないか微妙」というレベルに設定されていたため、スプリング追加は行わず2ndステージストローク外部調整機能追加と、ベアリング軸受け加工の2つのみで納品しました。(追加用のスプリングも同梱しましたが)
 

「1stステージを重くするためにトリガースプリングを強化」というのが、あきゅらぼトリガーカスタムVer.2の目的でしたが、カスタムするまでもなく最初から強化スプリングが入っているのがLE2015です。

LE2015の登場当時は、「木製グリップを使った限定モデル!」というウリ文句ばかりが目立っていたため、内部メカニズムにここまで手が入っているとは思ってもいませんでした。メーカーサイトに今も残る特設ページを見るとけっこう詳しく説明してはあるのですが、ノーマル(OR)とシア形状がどういうふうに違っていてそれによって作動時のトリガープルがどういう理屈で変わるのかとか、トリガー&シア関連の3つのスプリングが全て強化型に交換してあることやその理由についてとか、そういった内容については今回始めて詳しく知ったというのが正直なところです(どこかで、誰かが解説してくれていたのかもしれませんが……)。

競技に使おうとする場合、LE2015は何も手を入れずこのままの状態でまず問題ありません(少なくてもトリガーに関しては。グリップを自分に合わせてフィッティングする必要はあるかもしれません)。どうしてもトリガープルが重いという場合は、シアBスプリングとシアAスプリングを両方ともORのものに交換すれば、おそらく何のリスクもなくセカンド・ステージだけが軽くなると思われます。

※ちなみに、LE2017ではシアA/Bのスプリングはノーマルと同じですが、シアBの形状を少し変更してシアBスプリングの初期縮み量を増やすことでセカンド・ステージを重くしてあります。LE2017では、シアBスプリングを1~2巻ほどカットすることでセカンド・ステージをリスクなしで軽くすることが可能だと思われます(自己責任でお願いします)。

「木グリが付いただけか、それに5万円は出せんな~」と見送りを決めてしまった当時の自分を責めたい気持ちでいっぱいです。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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