いくらなんでも長く狙いすぎじゃないかベトナムの人【海外の反応】

息詰まる10mピストル決勝を最後まで勝ち残り、ベトナムに初のオリンピック金メダルをもたらしたホアン選手。

そろそろリオ五輪も終わりに差し掛かっています。射撃では、日本勢にはあまり嬉しいニュースがありませんでした。残念。ただNHK地上波で中継された10mピストル(エアピストル)決勝は、そのドラマチックな展開から、日本人が出ていなかったにも関わらず多くの方の印象に残ったようで、身の回りやネットでも時折話題に出てきます。

「2016リオ五輪で最も印象に残ったシーン」をランキングにするとしたら、この10mピストル決勝の最後の逆転、そして再逆転は、けっこうな上位に来るのではないでしょうか。ベトナムのホアン・スアン・ビン(Hoang Xuan Vinh)選手の最後の1発は、見ているこっちが酸欠でぶっ倒れそうになるくらいの長い時間のエイミングもハラハラさせられましたが、ほぼ満点に近い10.7を撃って大逆転は思わず声が出る凄さでした。

舞台は4年に一度のオリンピック決勝。他の全員が全てを撃ち終わり、残るは今、この時この場所で、自分が構えて狙っているそのショットただひとつ。自分がトリガーを引いたその瞬間に、誰が金で誰が銀になるのか決まる……。およそ「射撃というスポーツ」において、この地球上のありとあらゆるシチュエーションの中で人類が体験できる、もっとも最大規模のプレッシャーがかかる瞬間だったに違いありません。

もちろん世界中の射撃フリークが集まる掲示板「TargetTalk」でも、この10mファイナルは話題になっていました。もっともみなさん住んでいる国がぜんぜん違うので、映像を見ようと思ってもリンクはその国内でしか再生できなかったり、既に削除されてしまった後だったりと、「まず動画を見る」段階で紆余曲折があったりもしたようですが。

そういう「どうやったら動画が見れるんだーっ」っていう嘆きみたいなのはざっくりカットして、ベトナムのホワン選手の「極限プレッシャーの中での、最高のショット」についての話題を抜粋して翻訳してみます。

マッチ・プレッシャーはどうやって対処するのですか?

引用元:How do you deal with pressure in a match? (TargetTalk)


  • 10mピストルのファイナル、ホワン選手の最後の1発ですが……ちょっと長く構えすぎじゃないすか? 制限時間50秒のうち、22から25秒くらいはずっと構えっぱなしでした。結果としてえらく深いところに入って10.7、0.4ポイント差で1位になりましたが。(アメリカ・ジョージア州)

 

  • 「プレッシャーへの対処方法」について――昨日放送していたアーチェリーの決勝で、ちょうどマッチ・プレッシャーについてコメンテーターがいろいろと話をしてました。
    一人のコメンテーターは、私達も良く聞く話をしていました。つまり、「数千のラウンドを数十回も行い、すべての動作を機械的に繰り返せるようになるまで身につけて、何も考えないようにする」といったものです。まあ、口で言うのは簡単ですが。
    私は、ずいぶんと年もとりましたし視力も衰えていますが、こんな経験をすることが時折あります――。数ヶ月、ヘタすると数年くらいのブランクが開いた後、CO2式のLP1Pを引っ張り出してきて、10m先のターゲットに狙いを付けて撃つと、一発目がいきなり10点に入るのです。必ずそうなります。けれど、2発目以降はどうなるかというと……。私は、「1発撃って10点に入ったなら、そこで撃つのを止めるのがベストだ。最初の1発が成功したショックなどがあるから、次の10点を撃つのは不可能なくらいに難しくなるから」ということを学びました。
    もちろん、それはプレッシャーによるものでしょう。長いブランクの後に撃つ一発目についてのプレッシャーは高くないので、自然に動作を行うことができます。しかし1発目を成功してしまうことで、期待(そしてプレッシャー)が頭をもたげてくるのです。「おお、また1発目が10に入ったぞ! よっしゃ、もう10以外は撃つ気がしないね!」
    よく言われる格言があります。「60発勝負ではない。1発勝負が60回なのだ」(国籍不明)

 

  • それは、よく知られた現象です。「禅とアーチェリーによる芸術」という本(※)を読んで下さい(いや、マジでそういう本があるんですよ)。
    私が初めて(そして唯一)、ラピッドファイア用のターゲットでパーフェクトスコアを出したのは、弾倉のテストをしているときでした。その時、私はスコアのことは全く気にしていませんでした。ピストルを箱から出して、5ショットを2回行いました。なんのエゴもなく、何も余計なことを考えず、まさに「筋肉の記憶」をそのままに、ただ正確に照準をラインに合わせトリガーを絞る、それしか考えていませんでした。
    それは、例えば靴紐を結ぶ動作に喩えることができます。あなたがその技術を身につけたのはいつでしたか? 指をどのように動かし、紐をどこに通しと、頭で考えながら靴紐を結んでいた最後の時間はいつのことでしたか? もし、靴がなく、真っ暗な部屋の中で、携帯電話を使って靴紐の結び方を誰かに教えなければならなくなったとしたら、あなたはそれができると思いますか? 実のところ、それは両手を使って時間経過と共に互いに連動して動かすという、けっこう複雑なプロセスです。射撃で10を撃つときほどに正確さは求められませんが、もし片手だけでそれ(靴紐を結ぶこと)をしろと言われたらどうでしょう? できると思いますか?
    靴紐を、一つ一つの手順を確認しながらゆっくりと結んでいこうとしたら、高い確率で失敗するはずです。(アメリカ・マサチューセッツ州)
※訳者注:「弓と禅」という名前で日本語訳もされています。Amazon販売ページへのリンク


 

  • すいませんが、スレッドを立てた人が、何を言いたくて何を聞きたいのかがいまいち良くわからないのですが……。(ドイツ・ビルマゼンス)

 

  • >何を言いたいのかがわからない
    申し訳ない、確かによくわからない書き方でした。
    ホアン選手は非常に長い時間構えていて、そして非常に良い射撃をしました。もし私があんな長時間銃を構えてから撃ったりしたら、間違いなく白いところ撃っちゃうでしょう。あの瞬間におけるホアン選手の集中力は素晴らしいです。恐ろしいコンセントレーションとコントロールです。(アメリカ・ジョージア州)

 

  • ベトナムでの放送の録画がYoutubeにUPされていました!(アメリカ・ジョージア州)


  • ベトナム人解説の歓喜っぷりが伝わってくる最高の動画ですね! 最終弾の一つ前で2位に沈んだところで彼らはほぼ諦めの状態になってしまっていて、さらに最後のショットでブラジル選手が10.1を撃った時点ではほとんど絶望に近い状態になっていました。ホアン選手が10.7を撃った時の彼らの爆発するような喜びっぷりったら!
    オリンピックにおいて、初めてベトナムの国歌を聞くことができた(つまり、ベトナム初の金メダル)なのだという彼らのコメントを聞いて幸せな気持ちになりました。(アメリカ・ミネソタ州)

 

  • >ホワン選手の最後の1発ですが……ちょっと長く構えすぎじゃないすか?
    私は時々、期限を定めずに構えて(だいたい1分くらい)、そして撃って当てるということがあります。……大きく揺れてしまって当てられない時もありますが。日によってどんな感じなのかは変わりますが、長時間ホールドができるときは調子が良い時で、射撃も上手く行きます。
    ただしこれは、長く保持して撃つ方が良いという意味ではありません。「まるで永遠に構え続けていられるかのような感覚」があるときは、良い感じで撃てるということです。
    上手く銃を構えられない時は、15秒も経つとサイトが激しく動きまわるようになってしまいます。それがどういった理由によるものなのか、メンタルか、血糖値か、睡眠不足によるものなのか、分かりません。
    ベトナム選手が長時間ホールドをしているときは、見るからに良いフォームで構え続けていました(そうでなければ勝っていなかったでしょう)。
    「良い日」をどうやれば作り出せるのかさえ分かっていれば、私はナショナルチームメンバーになることもできるでしょう。時々は570超を撃てますから。けれど、時々はとてつもなく悪い状況になってしまい引き金を引くことができなくなる日もあるのです。今日の試合で私は560を撃ちました。今月に入って最悪の結果です。全く止まってくれない銃に対して私は何もできませんでした。ドーピングに手を染めようかと本気で思いました。(国籍不明)

やっぱり、みんな思ったんですね……「いくらなんでも長く構えすぎだろ」と。10.7に入ったのはもちろん実力もあるのでしょうが、半分くらいは結果オーライなところもあったんじゃないかなあ……。

それはそれとして、この優勝したホアン・スアン・ビン選手、事前情報ではそれほど注目選手というわけではありませんでした。射撃歴はそれなりにあるらしいのですがオリンピックへの出場は前回のロンドンが初で、結果は9位。ワールドカップでは2014と2013で金メダルを取っているのみ(ただ、その両方でファイナル世界新を出してます。今回もファイナル五輪新です。根っからのファイナル男なのかもしれません)。

ISSFの選手紹介ページを見ても性別と年齢と競技の欄しか埋まっておらず、ほとんどのデータが空欄のままです。Wikipediaも「何も書いてない」に等しい状態です。

ただ、今回の10mピストル金メダルと50mピストル銀メダルの結果から、ベトナムのメディアでは大きく取り上げられているようです。中には英語で書かれていてなんとか読めるものもあるので、次回からは「ベトナムにおける、『本邦初メダル』の反応」をいくつかお送りしたいと思います。

池上ヒロシ

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