世界戦で優勝したりオリンピックでメダルとったりするようなトップシューターの方々が使用している銃は、普通に銃砲店で購入したものではなくメーカーによって提供されたスペシャルなものだというのは、ほぼ常識だと思います。トップシューターが使っている銃は一般の射手にとっても「まず最初に購入を検討する銃」になるため、トップシューターはわざわざ自分のお金で銃を買わずとも、競技銃を作っているメーカーから「うちの銃を使ってくれ」とアプローチがあり、市販品にはない特別塗装などを施したスペシャルな銃を手に入れることができます。
どこのメーカーの銃を使うかという選択肢は、競技者自身にあります。日本のトップシューターである松田知幸選手が、最新式であり圧倒的シェアを誇るステイヤーLP10Eから、「化石時代の銃」とまで揶揄されることすらあるモリーニCM162EIに持ち替えたことは、我々みたいなシモジモのシューターにとっても驚きでした。3D方向に動かせるグリップ調整や反動軽減装置など、今のエアピストルには当たり前となってる最新装備を何一つ備えておらず、良いところといったら抜群に安定しているトリガーとグリップのデザインだけ。どんな銃を使おうがよりどりみどりだというのに、なぜわざわざ旧型の銃に持ち替えたのか?
と思っていたら、前回のエントリーで紹介した韓国の秦鍾午も、ステイヤーLP10EからモリーニCM162EIに持ち替えているらしいという情報が入ってきました。記事内のインタビューでは「50mピストルはモリーニ、10mピストルはステイヤーから提供を受けている」と話していましたが、よっぽどモリーニの特別仕立ての銃が気に入ったのか、エアピストルのほうもモリーニに統一したらしいというのです。50mピストルをメインでやってる人にとっては(反動軽減装置のない)モリーニのビシッとダイレクトに来る手応えなんかどうってことないのでしょうか? それともメーカーお抱えスペシャリストによってフィッティングされたグリップがよっぽど素晴らしいのでしょうか……?
その秦鍾午の「スペシャル・ガン」について、海外射撃競技専門BBSの「TargetTalk」で盛り上がっていましたので、抜粋して翻訳してみたいと思います。
引用元:Jong Oh Jin’s new heater.(TargetTalk)
→ピストルの側面に書いてある文字って彼のサインですよね? これはモリーニから贈られたニューバージョンのピストルってことでしょうか?(国籍不明)
→1つめの写真に写ってるAPですが、これってポーテッドバレル(※)でしょうか? 以前はこんな穴はあいてなかったと思うんですが。(国籍不明)
→すべてではありませんが、ほとんどの競技用エアピストルは銃身内エアの排気口をいくつか持っています。(ポルトガル・リスボン)
→>ほとんどの競技用エアピストルは…
モリーニCM162EIは、銃身内の排気口を持っていません。ですが、私の所属するクラブには特注の「ポーテッドバレル付きCM162EI」を使っているシューターがいます。
借りて撃たせてもらいましたが、確かに銃口の跳ね上がりがほとんどありません。アブソーバー付きAPと同等です。
ただ、スコアにどれだけプラスになるのかは…?(ドイツ)
→>以前はこんな穴はあいてなかった
銃身上部にある白っぽいマークのことなら、これはウエイトを取り付けるときに付いたネジの跡だと思います。(オーストラリア)
→>銃身上部の穴
銃身にスライド式のウエイトを装着して固定するための小さいくぼみのように見えます。2枚めの写真ではそれ(バレルウエイト)を装着してますよね。(アメリカ・ニュージャージー州)
そんなことより私が気になるのはですね、この銃が「The East is Red(※)」って呼ばれてるんじゃないかってことです。(アメリカ・アリゾナ州スコッツデール)
→>優れた道具でポイントを得ることは、努力によって得られるポイントの輝きを鈍らせる
その意見には賛成できません。
誰でも使用可能な「優れた道具」は、彼の天性の才能や、修練によって取得した技術や、たゆまぬ努力をなんら損なうものではありません。
彼を勝利に導く銃の設計には「魔法のウィジェット」は使われていません。一般に販売されているのと同じ工場で、同じ技術を使って作られたものです。そのことに私は疑いを持っていません。ただ、「彼の好みに合わせて」あるだけです。(イギリス・ライスリップ)
「なぜ、こんな旧式の銃を?」という疑問を持った人は特に書き込んでないようです。真っ先にそれが気になると思ったら、意外と「バレルの穴は?」とか細かい部分が先に話題になっててちょっと拍子抜けでした。