【ガンマメ】実銃とエアガンの境界線

実銃は、エアガンとは全く違うものだ。
エアガンは、実銃とは全く違うものだ。

私は実銃での射撃競技も、エアガン(トイガン・玩具銃)での射撃競技やサバイバルゲームなどにも、両方に関わっています。そのため、実銃射撃競技関係者だけでなく、エアガン射撃やサバイバルゲーム関係者など様々なジャンルの人と接する機会があります。そういった人たちと話をしていて強く感じるのが、上記のような考え方が極めて強いことです。「実銃とエアガンは別ジャンルのものであり、相容れない」というのは、少なくても日本においては「常識」であるといっても言い過ぎじゃないかもしれません。

もちろん、別のモノなのだから違いがあるのは当然です。法的な扱いは大きく異なりますし、値段や使われている素材、購入するひとがその製品に求める性能についても、両者には大きな違いがあるのは確かです。

ですが、本質的なところに目を向けてみたときに、実銃とエアガンにはいったいどれほどの違いがあるのでしょうか? 「見た目が銃の形をしていて、火薬や空気・圧縮ガスなどを使って弾を発射する機能を有する道具」という、銃刀法で定められている銃砲の定義からすれば、両者に違いは全くありません。唯一の違いは、ある程度よりも威力が小さいものについては(空気銃限定で)「銃刀法で取り締まりの対象とする銃ではないもの」となり、特別な手続きとか許可なしに所持したり撃ったりしても違法ではないモノとしてみなされるということだけです。

つまり、実銃とエアガンを区別しているのは、威力だけということです。威力が強いものは、社会的に危険だから厳しい規制があり取り締まりの対象になるが、社会的にほとんど危険なんかないほどに威力が弱いものについては規制や取り締まりの対象外となる。前者が実銃、後者がエアガン(トイガン)というわけです。

威力が強いと実銃、弱いとエアガン。違いはそれだけ。

今でこそ、実銃かそうでないかを区別する明確な境界線となる威力のラインは、法的にキッチリと定められていますが、数年前の銃刀法改正以前はそういった「法的に決められたライン」というものが存在しませんでした。そのことは逆に言えば、威力が高かろうが低かろうが、「空気やガスを使って弾を撃つ銃」は全て取り締まりの対象となりうる危険性をはらんだものだったということでもあります。

もっとも、ヘロヘロと弾が飛んでいってパチンと紙に当たって跳ね返るような、ありとあらゆる意味で「全く危険なんか存在しないオモチャ」までをも、銃刀法で取り締まるなんてのは常識的に考えておかしい話なわけです。法律はあくまで「常識」を文章にしてまとめたものなので、誰がどう見ても非常識な運用はされないようにいろんな歯止めがかけられています。「威力に関係なく、全てのエアガンを取り締まることができかねない法律」については、「人畜を殺傷する能力があるものだけを取り締まりの対象とする」という通達がされることで、無制限な運用がされないように歯止めとなっていました。

もっとも、その「人畜を殺傷する能力」というのが具体的にどの程度のものなのかについては明確な規定がない、つまり「どうとでも取れる」内容になっていたため、「現時点では普通に販売されているエアガンが、ある日突然に違法なモノとして取り締まりの対象とされてしまうかもしれない」という危惧が存在していたことには変わりありませんでした。そういった時代を知っている人にとっては、「エアガン=いつ捕まってもおかしくない法的にグレーな存在」というイメージが非常に強く、そのため「許可を取って実銃を所持したのなら、エアガンみたいなヤバげな製品は全て手放したほうがいい。そしてエアガンの世界とはきっぱり縁を切ったほうがいい。かつて合法な玩具だと信じて購入した製品が、いつなんどき違法なブツになってしまうかわからない。そんなことで苦労して取った許可を失うのはバカらしい」という考え方になりがちなのです。

2007年の銃刀法改正によって、「持っていても問題がないエアガンの威力」の上限がはっきりと数字で定められました。このことにより、今までのようにどこまでがOKで、どこからがNGなのかが曖昧な、全てがグレーな状態が解消され、大丈夫なものは自信を持って大丈夫だと断言できる状態となりました。エアガンは昔のように「実銃の所持許可を失うリスクを冒しながら所持するもの」ではなく、「実銃は実銃、エアガンはエアガンとして、それぞれ合法的に楽しむことができるもの」になってくれたのです。
 

(上)過去の銃刀法は、エアガンと実銃の境界が曖昧だったため、多くのエアガンは「合法なのか、合法ではないのか誰もハッキリとしたことが言えない」というグレーな存在だった。
(下)2007年の改正銃刀法により、(間に「準空気銃」という謎の緩衝地帯が挟まったものの)エアガンと実銃の境界がハッキリと区別され、境界線より威力が低い側にあれば、「合法であり、持っていても問題ない」と確実に断言できるようになった。

パワーソースが火薬か空気なのかは、実銃とエアガンを区別しない

火薬を使って弾を撃つから実銃、空気やガスを使って撃つからエアガンである……という考え方をする人もいますが、それは間違いです。空気やガスを使って弾を撃つ「実銃」も存在するからです。

日本でちゃんと許可を取って所持しようとすると、狩猟用か標的射撃用の「本格的な」空気銃しか選択肢に入りませんが、目を海外に向けてみると「BBガン」と呼ばれる鉛弾を圧縮ガスなどで撃つ安価な空気銃も数多く販売されています。それほど飛距離も命中精度もないので狩猟や本格的な標的射撃にはとても使えません。位置付け的には日本で販売されている高額なエアガンと良く似ています……が、そこそこの威力があるので「人間同士での撃ち合い」なんかには危なくてとても使えません。

「オモチャ(トイ)」というカテゴリーに収めるには危険すぎる、かといって本格的な射撃に使うにはチープすぎる、まさに「トイガンと実銃の境界線」にある存在と言えるでしょう。トイガンか実銃かという区別はそれほどハッキリしたものではなく、実に曖昧なものだということがこのことからもよくわかります。
 

一般に「BBガン」と呼ばれる、金属製の球形弾をCO2などの高圧ガスで発射する空気銃。作りも性能もチープなもので、本格的な狩猟や射撃競技には使えないが、威力はそれなりに強いので人間同士の撃ち合いに使ったりすることはできない。オモチャ(トイ)とは言いづらいが、実銃というカテゴリーに入れてしまうのもどうだろうと躊躇してしまう中間的な存在である(日本では「使いみちのない実銃」となり、所持することはできない)。
Photo : Wikimedia commons

軍用銃の形を模倣しているかどうかも、実銃とエアガンを区別しない

エアガンは、軍用のライフルや拳銃の形を再現した模倣品である。つまり、エアガンは実銃を模倣したものであり、その点で実銃とは全く異なるものだ……という意見も見ましたが、これも認識不足からくる誤りです。「軍用銃を模倣した実銃」というものがいくらでも存在するからです。

M16やM4カービンといった軍用ライフル、あるいはサブマシンガンやPDWなどの「形・大きさ・重さ・操作方法」をそのままそっくり真似て、使用する弾だけを小型の弾(22LR)仕様へと換装したライフルが「トレーナー・ライフル」とか「タクティカル・リムファイア・レプリカ」みたいな名前で販売されています。「トレーナー・ライフル」という名前からは、軍属となってライフルを手にした時の訓練を、より安価な弾を使って行うためのものというニュアンスが感じられますけれど、「タクティカル・レプリカ」となるともう言い訳は効かなくなってきます。単に、軍用ライフルと同じ形、同じ大きさのライフルでの射撃を、より安価に楽しみたいというニーズ――つまりは、日本において大人のミリタリー好きが高価な電動ガンを購入するのとほぼ同じ動機――で購入するものだとしか思えません。
 

Googleで「22LR Tactical Rifle」で画像検索するとこんな感じになる。世界各国のアサルトライフルやサブマシンガンと全く見分けが付かないライフルが並ぶが、撃つのは小さな22LRという弾である。弾の威力も弱い(とはいえ100ジュール以上はある)ので作動方式もハイパワーな弾に対応するための機構は省かれ、単純なストレートブローバックになっているものが多い。

22LR仕様のタクティカル・ライフルは、モデルとなっている実銃のメーカーとは何の関わりもないところが「レプリカ品」として製造して販売しているものもありますが、ColtだとかH&Kといった「モデルとなってる軍用ライフルを作っているメーカー」自身が、軍用弾を撃つライフルとは別に22LRを撃つバリエーションも作って売っている場合もあります。

さらに言えば、日本で販売されているエアガンの中にも、モデルとなった実銃メーカーの認可を受けていたり、あるいはメーカー自身が海外の実銃メーカーと系列企業になっていたりすることで、「実銃の、エアソフト・バージョン」という位置付けで販売されているものもあります。こうなるともう、モデルとなっている軍用銃を「22LR仕様にするか/BB弾仕様にするか」が違うだけで、それぞれが同系列にあるバリエーションにしか過ぎないんじゃないか、という気もしてきます。
 

日本の法律で「銃か、銃ではない別のものか」という区別をしているラインがたまたま「エアソフトとそれ以外」のところにあるというだけの話で、全体を見ればエアガンと実銃は同一線上にある「バリエーション」にしか過ぎない。

どちらが上位・下位ということではない

エアガンをパワーアップしたり、飛距離や命中精度をあげようと改造したりする――ある程度なら、それは趣味として当然のことだと思いますが、それが例えば法律違反するリスクを伴うものともなれば話は別です。そんなことで犯罪者になってしまうくらいなら、ちゃんと許可を取って散弾銃なり空気銃なりを所持すれば、法律違反などせずともエアガンを改造したものなんかよりはるかにパワーも飛距離も命中精度もある銃を合法的に手に入れることができます。狩猟免許を取れば狩猟もできるし、国際的な射撃大会を目指すこともできます――つまり、やれることがずいぶんと増えるわけです。

ただ、エアガンから実銃に「ステップアップ」することでやれることは増えるだけなのか? 逆にやれることが減ったりしないのか? 実は、ずいぶんとやれることが減ります。例えばサバイバルゲームはできなくなりますし、他の人の銃を撃たせてもらって自分の銃と比べたりすることもできなくなります。外観が大幅に変わる改造をすることも許されませんし、IPSCやスティールチャレンジといった、セミオートハンドガンを使ったスピード系の射撃競技も、少なくても日本では実銃を使って行うことはできません。

それぞれにできること、できないことがあるということはつまり、片方がもう片方より上位にあるわけではないということの証拠でもあります(先ほど「ステップアップ」と書きましたが、そうではなく、実際には「シフトチェンジ」だってことですね)。それぞれに利点だけでなく欠点もあり、自分のやりたいことや生活スタイル、自由になるお金や時間などと相談しつつ、より充実した射撃ライフを送れるように双方の都合のよい部分をつまみ食いして楽しんでいけばいい、そういったものなんじゃないでしょうか。
 

練習にも大量の弾を消費するスピードシューティングの世界では、普段の練習用としてガスブローバックのエアガンを使うことはかなり一般的になってきているそうです。エアガンを「弾代が安価で済み危険性も少ない練習用」、そして実弾を使う銃は「気合を入れた練習、あるいは本番用」という区別ですね。実銃の競技だからエアガンは関係ないとか(あるいはその逆を)言わずに、両方の良いところをうまい具合に利用することで、自分の射撃人生をより豊かにすることが可能だという、良い例なんじゃないかと思います。
Photo : IPSC Canada
池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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