レンズの位置や角度を自由に調節できる射撃用眼鏡は、少なくても私にとってはピストル撃つ上ではほぼ必須装備の一つになっています。ですが、他の人にとってどうかはわかりません――例えば中韓の選手は、それこそ世界大会で金メダル取るような人でも射撃眼鏡を使わず、裸眼で撃ってたりするのを見ると、「射撃をする上で、射撃眼鏡は絶対に必要なもの」というわけでもないことがわかります。
確かに、無くても撃てることは撃てるアイテムではあります。射撃専用ではない普通のメガネのままでも、練習すればスコアは伸びます。相当に高いレベルまで行くことも可能です。でも、普通のメガネを使っていることで「しなくても良い余計な苦労」をしている可能性もあるわけです。実際に、レンズ部分がやたらと細い流行りのメガネをかけてライフルを撃ってる子のフォームを見ているコーチが、レンズの端っこギリギリのところで照準しているのを見かねて「もしお金に全く余裕がないというのなら別だけれど、買えるのなら射撃眼鏡買っちゃったほうがいいよ、絶対そのほうがスコア伸びるし」ってアドバイスしている様子を見ることも珍しくありません。
レンズの端っこギリギリで照準すると何がいけないのか? 像が歪んでしまうのです。普通のメガネを通して格子状の模様を見たところですが、普通に真っ直ぐ見た時は格子もそのままの形で見える(上)のに対し、銃を構えた時と同様に眼鏡を斜めにしてレンズの端を通して見ると格子が歪む(下)のがわかります。
射撃眼鏡にはどういう選択肢があるのか? 日本においては、「チャンピオン」と「クノブロッホ」の二つのうちのどちらか、これで全てです。お金に余裕があるなら調整箇所が多く調整もしやすいチャンピオン、それほど余裕がないなら調整はしにくいが一度調整してそのままなら関係ないと割りきってクノブロッホ。この2つのメーカー以外の選択肢は存在しないというのが現実です。
また、銃砲店で売ってるのはフレーム部分だけで、レンズは行きつけの眼鏡屋に行って入れてもらう、というのが定番の方法となっています。レンズの中心部分だけを使うのだから、レンズ周辺の歪みの少なさとか、レンズの薄さをウリにした高いレンズなんか使わず、一番安いガラスレンズでOKだよ……このくらいが銃砲店から受けるアドバイスになるでしょうか。
射撃に使う場合、レンズの矯正度合いは普段使っている眼鏡と変えたほうがいいのかそうでないのか、変えるとしたらどんな具合にどのくらい変えるといいのか、そういったノウハウはいくつかレンズを作って実際に射撃をしながら、射手自身が試行錯誤して「ちょうどいい感じ」を探していくしかありません。
果たして射撃が盛んな国ではどんな感じなのか? 海外射撃掲示板「TargetTalk」で射撃眼鏡の選び方についてのスレッドが立っていたので読んでみましたのですが……。完全に予想外でした。選択肢となりうるメーカーの数がまず大違いなこと。「レンズを作る」という、日本だと銃砲店はノータッチになる部分についても、射撃に詳しい人による専門的な処方を必要とするという考え方が主流なこと……。
彼らに、前ページに書いたような「日本での射撃眼鏡の作り方」を話したら、「そんなんじゃダメだよ! 本気でスコア上げる気があるならちゃんとしないと!」って怒られてしまうんじゃないかと怖くなるくらい、本気度が全然違いました。
光学や医学に関する専門用語も続出するので完全に理解しきれていない部分もありますが、簡単に抜粋して翻訳してみました。
オススメのシューティンググラス
引用元:TargetTalk(Shooting glasses recommendation?)
- 現在、私は射撃専用ではない普通のメガネを使っています。射撃専用メガネを新しく購入するにあたり、みなさんの意見をお聞きしたくて投稿しました。80ドルのレンズホルダーから500ドル以上の高級品まで全て候補に入れた上で、おすすめを教えて下さい。(アメリカ・テキサスの真ん中)
→そりゃもう断然クノブロッホです! センタリングデバイス(※1)をちゃんと使うこと、アスティグマティズム(※2)をちゃんと矯正してフロントサイトがハッキリ見えるように専門家に処方してもらったレンズを使うことが大事です。ブルズアイシューティング用の視力矯正についての専門家であるノーマン・ウォンの記事(※3)を読んだ上で、あなたの検眼医にもこの記事を読んでもらうことを強くお薦めします。(アメリカ・ロードアイランド)
※1-a:普通のメガネをかけた状態で射撃姿勢を取ると、斜めになったメガネのレンズの、それも端の方を使ってターゲットを見ることになります。それだといろいろと不都合があります。射撃メガネはそれを避けるために、レンズの位置や向きを細かく調整して、目とターゲットの間に垂直にレンズが位置したうえで、レンズの中心を使ってターゲットを見ることができるようになっています。
※1-b:その調整を正確に行うのがセンタリングデバイスです。モノ自体は、「レンズに取り付けられる、細い穴が開いた漏斗みたいな形をしたプラ部品」でしかないのですが、購入するとけっこうな値段がします。(写真は
ライフルショップエニスのカタログより引用)
※2:「astigmatism」日本語訳は「非点収差」というそうです。医学・光学の世界で使う専門用語ですね、日本語訳を見ても全く意味がわかりません。Wikipediaの解説を読む限りではいくつかの意味があり、「レンズの端の方でものを見た時に、形が変わって見える現象」のことを指すのがメインの意味、医学の世界では転じて「乱視」を指す用語としても使われるのだとか。
※3:このリンク先の記事、ざっとななめ読みした限りでも「日本で射撃メガネを作る人で、ここまで気にしてる人なんて多分ただの一人も存在しない」ってくらいの、今まで全く知らなかった情報の宝庫なんですが、辞書を引いても全く意味がわからない専門用語がこれでもかこれでもかと連続して出てくるので、私では翻訳はちょっと無理です……。英語が分かる眼科の専門の人がいるといいんですが。(
写真はNorman Wong氏の記事より引用)
- チャンピオンか、クノブロッホのどちらかです。予算に余裕があるのならチャンピオンのオリンピック・フレームをおすすめします。
- 私はチャンピオンの古いフレームを持っていますが、ちょっと匂いがします。プラスティックが分解したときの匂いなんじゃないかと思いますが、とりあえず「しゃんと」してますんでちゃんと手入れをすれば、少なくても私が銃を撃てなくなるまでは保つんじゃないかと思います。
「Varga」は価格の安さが魅力ですが、クオリティは明らかに落ちますし、調整も面倒です。(ニュージーランド)
Varga:日本では売ってないっぽいです。検索対象を海外に広げたところ、この掲示板(TargetTalk)が設置してあるPilkgunsという射撃専門サイトがあるのですが、
そこで販売しているのが見つかりました。写真を見る限り、クノブロッホとほぼ同等っぽい形をしたグラスフレームが150ドルで販売されています。(写真は販売サイトより引用)
- アメリカ在住ならば、「Varga」がベストでしょう。私はVargaの2000年モデルを2つ、3年間使用していましたが、ブルズアイ射撃用に「Zenni Optical」のラウンドレンズ仕様のものを購入しました。上にもリンクがあった記事にあるドットサイトやアイアンサイトを使用するためのレンズ処方箋を試すために、私はこれらの低価格製品に属するシューティンググラスを購入してみました。私にとってのベストは「RX」でした、それはウォン博士が推奨するものよりちょっと高価ですが、私は大勢の人が彼の推奨スクリプトを使用することで、私より優れた結果を得ていることを知っています。
チャンピオンかクノブロッホを買っておけば間違いない、ってのは否定できません。間違いなくそれらは高品質です。しかし「Varga」や「Zenni」のような安価な中国製シューティンググラスにも、それなりに使いみちがあります。(国籍不明だけど、内容から察するに多分アメリカ)
Zenni Optical:Webサイトを見る限りでは、普通のオシャレ系メガネ量販店(日本でいうところのJINSとかZoffみたいな)ところのようですね。スポーツサングラスも作ってはいますが、特に射撃専用というわけじゃなさそうです。(写真は公式サイトのスクリーンショット)
- 私は「Bob Jones」メガネを使用しています。非常に満足しています。100ドルでお釣りが来る値段なのに完璧な「ニ焦点処方」は他製品では見られません。「ハリーポッターかよ!」という感想を他の人から受けまくるでしょうけれど、射撃のスコアを魅せつけてやれば黙ります。(アメリカ・ウィスコンシン州)
BJONES GLASSES:超チープな作りのWebサイトにビビりますが、いちおう射撃専用メガネの専門メーカーのようです。確かにハリーポッターめいた丸眼鏡ですが、鼻当てやツルの部分を曲げることで「構えた時に、レンズを標的に対して正対させた上で視点をレンズの中央に持ってくる」ことができるようになっているようです。ネジで微調整するのではなく眼鏡ごと変形させて対応ってところが特長ですね。(写真は公式サイトより引用)
- 現時点では私はオリンピック選抜チームに入れるような腕ではないので、チャンピオンのフレームはちょっと私には分不相応な気がします。クノブロッホはちょうどいい感じです。Vargaと実際に比較して決めたいと思います。(アメリカ・テキサスの真ん中あたり)
→私は「Vargas」を使用しています。私には、高額なチャンピオン・フレームと安価なフレームの違いがわかりません。細かい調整がやりやすくなるといっても、そんなの最初にセットアップしてしまえばもう弄る必要なんかないわけで、そのことだけであれほどの値段の差を許容する気にはとてもなれません。(オーストラリア・ビクトリア)
→テキサス在住なら、ISS(International Student Services)の「Neal Stepp」さんに連絡してみてください。射撃に必要な眼科知識が非常に豊富な彼なら、あなたにとって有用なアドバイスができるはずです。
それほど強い視力矯正が必要なく、またライフルを撃っているのなら、彼の「Junker frames」がおすすめです。私はライフル射撃でそれを使っていますが、実に良いです。(国籍不明ですが、内容から察するにアメリカ・テキサス在住なんでしょう)
→私はこのシューティンググラスを使っています。ピストル用の37mm、ライフル用の23mmの両方を持っていますが、安くていいです。(イギリス・ランカシャー州)
→私は、ライフル・ピストルの両方で23mmを使ってます。(オーストラリア・ビクトリア州)
- みなさん、素晴らしいコメントをたくさんありがとうございます。私は「Varga」のシューティンググラスを購入することにします。(アメリカ・テキサスの真ん中あたり)
→>私は「Varga」を買います
アルミ製のヤツを選びましょう。青プラスチック製のやつより長く保つはずです。(ポルトガル・リスボン)
- チャンピオン:ワールドチャンピオン4
私にOK
目隠しホルダーなどのプラスチックパーツはちょっと柔らかい
全体的に背が高く、着用したままベースボールキャップを被るのは難しい
耳の後ろにくるりと周るツルは少しキツく、耳が痛くなることがある
側面の目隱し板は厄介で、私は結局それを使っていない
(オーストラリア)
- 普段から眼鏡を使用している方が射撃眼鏡を作る場合、照準に使用しない方の目にも普段と同じ度数のレンズを装着した「第2のレンズホルダー」を取り付けることは、とても有効です。クノブロッホ(私も使っています)からは、「スペシャル・アジャスティング・スライド(パーツNo.3071)」という便利なパーツが提供されています。これは、照準に使用しない側に設置する目隱し板の手前にレンズを配置してロックするためのパーツです。目隠し板をフリップアップ(前に跳ね上げる)すると、いつもと同じように両方の目でものを見ることができるようになり、銃に弾を込めたり遠くにあるスコア表を見たりターゲットを確認したりすることができるようになります。唯一の欠点は、このパーツを使うと付属してくるキャリングケースの中に入らなくなってしまうことです(まあ、このケースのデザインは、正直言ってあんまり良くないんですが)。私は小さいプラスチック製のフードコンテナ(訳者注:俗に言う「タッパー」ですね)に薄い発泡ゴムを入れたものを使っています。(ニュージーランド)
調べたら確かにありました、目隠し板の手前に第2のレンズを配置するためのパーツ。知らない、こんなの知らない、銃砲店でも見たことないし薦められたこともない……。
- ちょうど昨日、シューティンググラスを眼科医に行って作ってきたところです。チャンピオン、Jaggi、クノブロッホ、Vargaといろいろ比較検討した結果、大事なのは「正しく調整するために必要なのは、調整のしやすさである」という結論に達しました。
微調整のしやすさという点では、チャンピオンは明らかに他製品より優れていました。クノブロッホは僅差で2位です。これは、競技中にそれを行う必要がある場合には重要な点になるでしょう。「一度調節してしまえば、基本的にはもう動かす必要はないのだから、そこらへんはどうでもいい」というのも、また一つの考え方かもしれませんが。JaggiとVargaはレンズの位置を調整するのが少し大変になりますが、そのことは逆に壊れにくさ(故障箇所の少なさ)という利点にも繋がります。
私はJaggi Novaを選びました。私にとって、それは「価格」と「性能」の間での最良の妥協点でした。スペアパーツと、朝の光を和らげるためのイエローフィルターも一緒に購入しました。
なお、チャンピオン製あるいはその互換の目隠し板は、Jaggiには適合しません。(スイス&ドイツ)
Jaggi NOVA:検索したところ、アンシュッツのサイトに製品情報が載っていました。これもまた日本じゃ……少なくても私はこれまでに見たことも聞いたこともないメーカーです。(写真は公式サイトより引用)
- フレームの選択よりも、正しく合致したレンズを手に入れることのほうがずっと重要です。
あなたがピストルのための過焦点距離を決定するために光学計算を行い、レンズの度数を導き出すとき、「ピストルレンズは+0.75ディオプターでなければならない」という回答になるはずです。(オハイオ州シンシナティ)
(訳者注:専門用語ばかりでわけわかりません。海外のピストル撃ちってこんなことまで考えて射撃眼鏡のレンズ作ってるのか……)
全く知らないメーカー名がポコポコ出てくることの衝撃もさることながら、光学・医学関連と思われる専門用語が当然のように頻発してきて、さらに「それを知っててちゃんと理解できてて初めてまともに射撃用レンズを発注できる」とでも言いたげなレスが連続するという、正直言ってかなり衝撃的な内容でした。
これが海外の一般的な「射撃を楽しんでる人たち」のレベルなのだとしたら、こと射撃眼鏡に関しては、日本の射撃界のレベルは「ずっと遅れている」と言わざるを得ないでしょう。この記事をUPすることで少しでもレベル差を縮めることができればと思ったのですが、肝心の私自身の知識がまるで追いつかないので、元記事に盛り込まれている情報のうち、ほんの一部しか日本語にすることができませんでした。力不足です!