よっぽど百戦錬磨な人でもなければ、「初めて撃つ射場でも、全くいつもどおりに撃てる」なんてことはないんじゃないかと思います。射場の雰囲気、具体的には壁や床の色合いとか風の通り具合とか匂いとか騒がしさなんてものが、けっこう大きな影響となって現れます。
中でも大きな影響があるのが照明です。射座が明るい/暗い、ターゲットが明るい/暗いということは、それこそサイトのクリックを幾つか動かさなければならないレベルでの影響が出てきます。それ以外にも射座の後ろが真っ暗なのか窓から光が入ってくるのかとか、射場が全体的に明るいか暗いかとか、そういった細かいことがいちいちコンディションの差となって現れてきます。
少しでも外部の光の影響を減らそうと、サイトに日除けカバーを付けるというのはアリかナシか?という質問がTargetTalkに掲載されていました。結論から言うと「ルールで禁止されているので、ナシです」ということになってしまうのですが、ならルールに違反しない範囲内で射手ができることにはどんなことがあるんだろう、という話題に発展して、けっこう興味深いやり取りが行われていましたので、抜粋して翻訳してみました。
引用元:TargetTalk(question about rules…)
→>サンシェードはルールで許可されますか?
8.4.1.3-c
照星、照門の保護カバーは許可されない。
申し訳ありませんが、答えはノーです。(コロラド州)
→サイトを、カーボンブラックや、アセチレンランプの炎(煤)や、他に市販されているスプレーの類を使って黒染めすることは許されていますか?(南カリフォルニア)
→>サイトを黒染めする
ルールの範囲内ならOKです。許可されない例としては、例えばドイツのシューティングレンジでは射座に「火を発生するもの」を持ち込んで使用することが許可されません。(イギリス・ライスリップ)
→>サイトを黒染めする
競技が始まる「前」に行えば問題ありません。
6.12.4 選手の責務
・指定時刻に指定射座に承認済みの用具を携えて出頭し射撃の準備をする。
・指定された射座で隣接の射座の選手の邪魔をしないように射撃姿勢をとる。
・他の選手の動作の邪魔をしたり、不利な影響を与えないようにふるまう。その行為や行動が他の選手の妨げになっているとジュリーが判断した場合、その選手には、状況により、警告、減点、失格が与えられる。
競技中に、サイトにスプレーしたり炎で煤をつけたりする行為は、「他の選手の邪魔/妨げ」とみなされる可能性が高いんじゃないでしょうか。(ポルトガル・リスボン)
→その照明を消してもらえば済む話では? もしくは、射座に傘を設置してしまうとか。(スコッツデール・アリゾナ州)
→オススメされた通り、ろうそくの火を当てて煤を付けてみるという方法を試してみました。リアサイトは完璧に真っ黒になりました。
けど、ルールでは「明るさ」は規定されていても、「光源の位置」については何も書かれてないってのは、言っちゃ悪いですがちょっとマヌケですね。ライフルシューターなら、リアサイトは光源よりずっと後ろに位置する形になるので何の問題もないんでしょうけれど。
もちろん、パルディニーとかステイヤーLP10みたいなリアサイト(訳者注:後ろに傾斜が付いてるタイプってことですね)なら問題ありません。上から照らされる光はいっさいサイトに当たらないので、どんなに明るくても真っ黒のままです。(ドイツ)
許される最小:300ルクス
推奨される最小:500ルクス
決勝レンジでの最小:1000ルクス
新しいレンジを作る際の推奨:1500ルクス程度
これらの測定値は地表から1mの高さでの計測によるものなので、実際に銃を構えた時のサイトの高さではもっと明るくなります。(イギリス・ライスリップ)
→それは興味深い……。これからは射場に照度計を持っていくことにします。
けど私自身の好みで言うなら、射座は暗い方が撃ちやすくないですか? なぜ射座が明るくなきゃダメなんでしょう?(スコッツデール・アリゾナ州)
→>射座は暗い方が撃ちやすい
それは十分にありえます。サイトを使って照準を行うのに必要なのは、サイトそのものがよく見えていることじゃなく、そのシルエットがよく見えていることですから。
射座を明るくしろってルールで定められているのは射手のためじゃありません。TVカメラのためです(^^;)。(イギリス・ライスリップ)
射場の明るさって、ほんとうにまちまちです。富山の福光射撃場(10m)みたいに足元も見えないくらいに真っ暗にしてる射場もあれば、石巻の宮城県ライフル射撃場みたいに部屋の中だっていうのにサングラスが欲しくなるくらいに明るいところもあったりします。
状況に合わせて各種フィルターを駆使するなどして、最適な環境に近づけようとする努力も、ある程度より上のスコアを目指そうとするのなら必要になってくるのでしょう。フィルターやらアイリスシャッターやらをゴテゴテとつけた射撃眼鏡を身に着けるのは、「なんか道具に頼らないとまともに撃てないみたいで嫌だ」って嫌がる人もいるそうです。それはそれで一つの価値観なのかもしれません。
けれど、お金をだして道具を手に入れて、その道具のおかげで点が上がる、つまり「スコアを金で買える」のなら、買えるだけ買っておいたほうがいいです。なぜなら、そうすれば「ダメだった時の言い訳」を減らせるからです。大人になると、そういう「ダメなときの言い訳」を事前にたくさん用意しておくクセみたいのが身についてしまいます。けれど、それじゃやっぱり上には行けないんじゃないかと思います。やれることは全部やる、それでダメだったら、そりゃ自分がダメだっただけで、他に言い訳は無い――そういう状況に自分を置きたいものです。