昨日、いつも使っている体育館にある射撃場で管理のバイトをしました。ビームライフルの日だったのですが、射撃を始めて間もないという方、全く初めてという方などが数人いらっしゃいまして(非常に珍しいことだそうです。いつもは来ても一人か多くて二人)、ニーリングロールに載せたりテーブル委託などで射撃を楽しんでいました。
が、そこで問題が発生。お客さんが多かった関係で「いつも使っているライフル」を使えなかった方が、初めて使うライフルでサイトが合っていないということでサイト調整を始めたところ、いくら動かしてもサイトが合わないドツボ状態に陥ってしまったのです。
ビームライフルは貸し銃を使います。もちろん競技銃なのでサイトについてはエアライフルと同等(相当に古いものではありますが)のマイクロサイトがついていて精密な上下左右の調整ができます。が、基本的にお客さんにはサイトを動かすことを許可していない射場が多いと思います。なぜならそれを許可すると、とんでもないところまでサイトを動かされてしまうことがしばしばだからです。
自分の銃を持っていなくても、射撃場備え付けの銃を借りて本格的な競技射撃ができる「ビームライフル」。ビームライフル公開日にはいろんな年齢層の人が訪れます。競技用なので精密な調整ができるサイトがついていますが、お客さんには基本的にサイト調整を禁止していることがほとんどです。(写真はイメージ:
R25の目黒区ライフルの紹介記事より引用)
下に当たる、サイトをUPの方向(ドイツ表記だから「T」の方向)に回す、行き過ぎる、逆に回す、行き過ぎる(あるいは全然たりない)、もっと多く回す、さらに外れる……これを繰り返していくうちに、中心を狙っても0点しか出ないような極端なところまでサイトが移動してしまい、どうしようもなくなって泣きつかれる……みたいなことが頻発するのです。今回も、あわやそういう状態になりかけたということです。
銃を借りてニーリングロールに乗せて撃って(レスト射撃)、かなりとんでもないところにサイトを動かしてることを確認、何発か撃ちながら調整してようやく「ちゃんと狙えばとりあえず10点は出る」ところまで戻してお返ししました。上下に数十クリック、左右にも10クリックくらいは動かさないとならなかったでしょうか。
初心者の方に限らず、「サイトを動かすと、思ったよりも着弾点が大きく移動してしまう」ということはしばしば起こります。以前、APS非公式サイトの質問掲示板にも「クリック半分だけ動かしたいのだけれど」という質問がUPされていたことがありました(その質問に対する「勝手に連動企画」での当サイトの回答はこちら)が、それも「1クリック動かしただけなのに、弾が当たる場所が大きく変動する」という経験をしたからこその質問だと思います。
なぜ、サイトを動かすと、サイトが機能として持つ移動量よりも大きな着弾位置の変化が起きるのでしょう? 実はそれこそが射撃の真髄というか、「人間という動物が持つなんとも言えないいい加減さ」の現れだったりするようです。そこについてディスカッションされている、興味深いトピックがTargetTalkにありましたので、抜粋して意訳してみました。
クリックについての質問
引用元:TargetTalk–Question about “clicking”
- フォーラムの皆さんに質問があります。
10mエアピストルを撃ってる時によくあるのですが、着弾点が少し高めに集まってるなーと思ってエレベーションをDOWNの方に少し動かすと、今度は低めに集まってしまいます。
これはどういうことでしょう?(ボリビア・サンタクルス)
→着弾点がどのくらい高いか、あるいは低いかがわからないとはっきりしたことは言えません。撃ってからターゲットを確認する前に、自分でどこらへんに当たったかを予想(コール)して、その予想と実際に弾が当たった場所を比較してみましょう。(イギリス・ロイスリップ)
→数発撃っただけの着弾をサイトでいちいち追っかけるというのはダメです。
ターゲットの後ろに、もう一枚ターゲットをピッタリ重ねた状態で何十発も撃ってください(当然、表にある見えている方のターゲットは適宜交換しつつ)。その状態で20~30発を撃って、後ろ側に置いてあったターゲットを見ましょう。その上で必要があるようなら、そこで初めてサイト調整を行うのです。(スコッツデール・アリゾナ州)
→一般的に、競技用のエアピストルは1クリックでスコアリングの1/3量を移動するように調整されています。もしあなたが1発撃っただけの着弾を見てサイトのズレを判断できるというのなら、あなたはこのフォーラムにいる誰よりも優れたシューターであると言えるでしょう。(マサチューセッツ州)
- ピストルのサイトを調整するときの極意として、私が教えられたことがあります。
「1クリック回したあと、逆に1クリック回す」
OK、わかってます、なにを馬鹿なと言いたいのでしょう、私も正直そう思います……が、実際それでちゃんとサイト調整ができることがしばしばあるのです。
もしこの方法でもうまく調整できない場合、1クリックだけ回して(今度は戻さないで)、それで着弾がどう移動するか確認してください。(国籍不明)
訳者注:この部分だけをお読みになった方の中には、これはサイトの歯車の機構的な問題――バックラッシなど――によって、「一方向に回した後、反対方向に回す」という工程がサイトを微妙に調整することになるのでは、と判断されてしまう方がいらっしゃるかと思いますが、それは誤解です。この人が言いたいのは、サイトは元通りの場所に戻っている、つまり調整なんかされていないのに、「サイトを動かす」という行動を射手が取ることによって結果的に着弾点が移動する不思議現象が起きるということです。
- 「脳内クリック」という現象があるのです。
こんな実験(ブラインドテスト)を行ったことがあります。
1)まず、何人かでエアピストルを撃ち、着弾点をセンターに合わせます。
2)次に、射手全員で銃を握ったまま上を向きます。射手が銃を見ていない状態で、他人がサイトを動かします。どの方向に何クリック動かしたかは射手には秘密のままです。
3)その状態で撃つと、サイトを動かしたのと同じ方向に着弾点がズレます。
ここまでは予想が付きますね。面白いのはここからです。
4)サイトを動かす方向を射手に秘密にせず、どの方向に何クリック動かしたかをちゃんと教えます。しかし実際には、サイトを動かした後、同じだけ逆方向にもクリックを回し、元の位置に戻しておきます。
5)その状態で撃たせると、着弾点は射手に教えたのと同じ方向にずれるのです。サイトは元通りの位置に戻してあるにも関わらずです。
●サイト調整をするときのルール
2クリックが必要です。1クリックは銃に、1クリックは頭のなかに。(ミネソタ州)
→>脳内クリックのブラインドテスト
非常に興味深いです!
そのテストについて、今までどこかに書いたり出版したりしたことってあります?(国籍不明)
→よくやってくれました!
皆さん、このスレッドのことは良く覚えておきましょう。きっと射撃に役立ちます!(国籍不明)
→ジム・オーウェンズが、大口径軍用ライフル射撃競技においてのサイト調整の極意として、同じような理論を紹介していました。自分のWebサイトで自身のサイト調整理論をまとめた「The Big Lie」という本を販売しています。(アメリカ・ニュージャージー州)
※ジム・オーウェンズの公式サイト(音楽が流れるので音量注意)
いかがですか。思い当たるフシのある方も多いんじゃないでしょうか。
私なんか、元スレッド読んでる時は「あー、あるあるあるある!」って超納得しながら読んでました。脳内クリック(元の言葉を直訳すると「あなたの頭の中だけのクリック」みたいな感じ)なんてのも、実際に経験がある人も多いでしょう。
試射中に、物凄くタイトなグルーピングが10点にギリギリかからない真下の9点あたりに集まってて、実際に撃ってる時の感覚が「ど真ん中行った!……あれ、なんで下に?」じゃなくて「あ、ちょっとだけ下撃った!……案の定。」だったりする場合、「おまじない」としてサイトを1クリックだけUP方向に回したりすることがあります。「なんとなく、ちょっと下に撃っちゃう感覚」を無理に矯正しようとするととんでもない大外しをする、かといってそのまま撃つと得点を大幅に損する、そんなときに「とりあえずサイトは動かしたよ」って既成事実を作ることで自分の脳内を納得させると、何故か「なんとなく下を撃っちゃう感覚」がスッと消えて真っ直ぐ撃てるようになったりするんですよね。
「ほんのちょっと10点センターからズレたところに、物凄くタイトなグルーピングをしている」って状況はしばしばあります。「あっちょっとだけ外した」という射撃が連続して、案の定そっちに外れてる場合、サイトを動かしてしまうのは少し躊躇します。そんなときは、「おまじない」として1クリックだけ動かしたりするのです。