ピストル射撃のための筋トレ方法

いわゆる「筋トレ」と聞いた時に思い浮かぶウエイトトレーニングや腕立て伏せは、射撃に適した筋肉を鍛えるのには、あまり向いていない方法なのだとか。

精密射撃では、「銃は筋肉で支えるのではなく、骨で支える」というのが、真髄というか秘訣みたいなものです。銃を構えて身体全体の力を抜いた時に、自然に銃口がターゲットの方を向くようにするのが基本であり、ターゲットとは違う方を向いてしまった銃を力を入れてターゲットに向けるのは「良くない撃ち方」です。

ならば、「精密射撃では筋力は全く必要ないのか」というと、さすがにそんなことはありません。身体を安定して直立させるためには腰回りからお腹にかけての筋肉(表面じゃなく奥の方にある筋肉。「体幹」とか呼ばれてるもの)が必要です。またピストル射撃では、銃を支えるためにはどうしても肩から背中にかけての筋肉の力を使う必要があります。

そこで今回は、「ピストル射撃のために必要な筋肉を鍛えるための、筋トレ方法」をお伝えしたいと思います。参考にしたのは、USA Shootingのライブラリーにあった下記PDFです。

アイソメトリック・トレーニングとピストル射撃
(ISOMETRIC TRAINING & PISTOL SHOOTING)

ここに書かれている内容と、実際に自分で1ヶ月ほど試してみたうえでわかってきた、どんな効果があるのか、気をつけるべきことは何かといったことも合わせて紹介していきます。

ピストル射撃を始めたばかりの人だと、普段は全く使うことのない筋肉を使わなければならないため、射撃姿勢をとってみても全く銃が支えられない、または銃がすぐにプルプル震えてしまってほとんど狙いが付けられないといった状態になりがちです。

射撃に必要な筋肉はどうやって鍛えられるのでしょうか。ただひたすら撃ち続けるというのも一つの方法だと思います。実際、自分もそうやって少しずつ銃を安定して何度も構えられるようになってきましたから。

筋トレをすることで、もっと手っ取り早く「ピストル射撃」に必要な筋肉を作る方法というのもあるのではないか? 今は世界の情報が容易く手に入る時代となりました。試行錯誤で、今になって考えてみれば明らかに悪影響しかなかったような筋トレに勤しんでいたこともあった昔と違って、「実際に効果があり、悪影響も少ない方法」を最初から試すことができます。それが本エントリーで紹介する「USA Shooting式のアイソメトリック・トレーニング」です。

「アイソメトリック・トレーニング」というのは、筋肉を伸ばしたり縮めたりせず、同じ長さで止めたまま行う筋トレのことです。いわゆる「筋トレ」と言われた時に真っ先に思い浮かぶ、腕立て伏せとか、ダンベルを上げ下げしたりとか、マシンを使ったウエイトトレーニングとか、ああいったものとは異なるものです。筋トレの種類とかそれぞれの効能だとか利点・欠点とかについては、詳しいことは割愛します。とりあえず、「射撃用の筋トレは、アイソメトリック・トレーニングが基本になる」ということだけ把握すればOKです。

「アイソメトリック・トレーニング」で検索すれば、いろいろなトレーニング方法があるということがわかりますが、USA Shootingで紹介されていたのは「ピストル射撃のためのトレーニングなのだから、ピストル射撃をしている時の姿勢でトレーニングする」というものです。ただし、照準状態――銃を真横に構えている時だけでなく、斜め下45°に下ろした時、そしてその間を3分割した、合計4箇所でトレーニングを行います。
 

ピストル射撃のための筋トレ方法。普通に銃を横に構えた状態と、斜め下45°に下ろした状態、そしてその間の2箇所の合わせて4箇所で、アイソメトリック・トレーニングを行います。

射撃姿勢をとったままで、「固定された横向きの棒」に銃を全力で押し付けます。上方向に全力で10秒、30秒のインターバルを置いて次は下向きに10秒。さらに左右にもそれぞれ10秒ずつ行います。「固定された棒」はドアノブでも棚でもなんでも構いません。なんならこのトレーニング用に自作の固定具を作ってしまうのもいいでしょう。
 

イラストでは普通にAPS-3を使っていますが、本番の試合で使う銃を傷めたくないという場合は、手持ちの安いエアガンを使ってもいいでしょう。別に競技銃の形をしていなければダメってわけでもありません。エアガンが手元に無い場合、手首を柱に押し付けるだけでも十分にトレーニングになります。

上向き・下向き・右・左と4回。インターバルを合わせると2分半くらいかかると思います。それを合計4箇所で行いますから12分ほど。そしてここからが重要なのですが、普段ピストルを撃ってる方の手だけでなく、逆側の腕でも同じことを一通り行います。右利きの人は左腕でも「4回×4箇所」を行います。全部終わるのに、だいたい30分くらいといったところでしょうか。

注意点はいくつかあります。箇条書きにしてみましょう。

  1. 全力(100%)で押し付けること。ここで手を抜いては意味がありません。とにかく全力で、柱をへし折ってやるくらいの気持ちで押し付けます(壊れても良い安いエアガンを使うのはそれが理由でもあります)。
  2. 左右両方で行うこと。全力で押し付けると、身体のあちこちで「パキン」とか骨がずれるみたいな音がします。逆側で同じ向きに力を入れることで戻ります。右だけ、左だけだと身体のバランスが崩れるみたいです。
  3. 少なくても次の日には普通に銃を撃つ練習をすること。筋トレの結果、微妙なバランスとか体内感覚みたいなものがズレるようです。撃たないままほっておくと銃は止まるどころか余計に揺れるようになります。

特に最後の、「ちゃんと銃を撃つ練習もすること」ってのは大事です。このトレーニングですが、一通りこなすと身体の奥のほうからズーンと疲れます。そりゃもう、丸一日ピストルを撃った後みたいな、とてつもない疲労感があります。なので、なんとなく気持ち的に「すごくいっぱい練習した」感がするので、「もう今日は撃たなくてもいっか」みたいな気持ちになりがちなのです。

また、ここ大事ですが、即効性があるトレーニングではありません。この筋トレをした直後あるいは次の日くらいは、ほぼ確実に、スコアは落ちると思います。だから、例えば「明日が本番」とかそういう時にこの筋トレをやってはいけません。

元ネタのPDFには、「2週間もすれば効果が出てくる」と書いてあります。普段から身体を鍛えているアスリートな人だと、2日おきとかそういうペースで筋トレできるのでしょう、効果が出るのもそんな短期間でOKなのかもしれませんが、アスリート体質ではない一般人だとせいぜい週に1回か2回が限界です。そのせいか、「お、確かに試合の後半になっても疲労で銃が止まらなくなるってことがなくなってきた」と実感できるようになったのは、トレーニングを始めてから1ヶ月くらい経ってからでした。
 

となりのヤングジャンプにて連載中の射撃部4コマ、「ライフル・イズ・ビューティフル」の中でも、アイソメトリック・トレーニングをする様子が(回想シーンで)ちらっと登場しました。身体を横向きにして腕で支える、「サイドブリッジ」と呼ばれるトレーニングなのだそうです。実際にやってみるとなかなかにキツいのですが、「見た目の体育会っぽくなさ」はいかんともしがたいですね。

筋トレで銃を止めるのは無理。重要なのはやっぱり照準とトリガー。

「ピストルを片手で持って狙いを付けて撃つなんてのは、生まれて初めて」という人の場合、最初は銃が止まるどころかプルプル震えて狙いを付けるのもままならないなんてことも多いでしょう。そんな状態で無理して本番と同じ立射姿勢で撃ち続けると、「サイトが10点を通るタイミングを見計らって勢いでトリガーを引く」という、あまり良くないクセが身についてしまうことがあります。

まず最初は立射姿勢ではなく、椅子に座り、銃を高さを合わせた台の上に置いて撃つ練習から始めるべきです。そうして「正しい照準のつけ方、正しいトリガーの引き方」を身につけてから、ようやく立射姿勢の練習に移るというのが、王道のやり方になります。「筋力不足で銃が止まらない」→「じゃあ筋トレだ!」と短絡的に筋トレしまくるのではなく、もっと大事な「正しい照準と正しいトリガー」をシッカリと練習しましょう。

筋トレすれば銃がピタリと止まるかというと、そんなことはありません。どれだけ上級者でも、ある程度の範囲内で銃はゆらゆらと揺れます。その揺れる範囲を少しだけ小さくしてくれる、そしてその小さい揺れを試合の最初から最後まで維持し続けてくれる、筋トレはそういった効果はありますが、銃を止めてくれるものではないのです。揺れが止まらないまま、その揺れが小さく収束していくその時に、勇気を持ってトリガーを引いて弾を撃ち、それを的の中心に当てるために必要なのは、やっぱり「正しい照準と正しいトリガー」なのです。


これまで書いた射撃入門記事や、受講した射撃講習会・メンタルトレーニング講座で得た知識などをまとめて、「ピストル射撃入門」としてKDP(Amazonの電子書籍)として販売しています。

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ピストル講習会・プレート編 ~3秒射・速射の技術や理論と練習方法について~

池上ヒロシ

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