前回の記事で、興東電子製の新ビームピストルの外観や機構、使ってみた上での感想を簡単に紹介した。勢い厳しいことばかりの内容になってしまった感はあるが、全体的に見れば限られた価格内でエアピストルの代替となる拳銃型のレーザー発信機を作る、という難しい要求になんとかして答えようと頑張った製品だということがヒシヒシと感じられるものになっている。
[2020/02/24追記]ビームピストルのトリガーチューニングを始めて、いくつかの製造時期があたらしいビームピストルを手掛けたところ、この記事を書く際に参考にした初期ロットのものと比べていくつかの点で改良されたものになっていました。記事内で修正が必要な箇所がいくつかありましたので追記/訂正を行いました。
今回、APS練習会に来ていた方に(けっこう無理言って)撃ってもらって得た皆さんの感想を聞いてみると、照準点の軌跡を表示したり記録したりする機能は確かに必須のものだったということがわかる。自分一人で撃ってるとそうでもないのだが、他の人に撃ってもらうと、「大勢の人たちの射撃技術向上」のためにはとても大きな役割を果たすのだ。競技者本人よりもむしろ指導者のための機能、と表現するとわかりやすいだろうか。
マルゼンのデジタルカメラピストルには、撃発前後の照準点の軌跡を表示する機能が無かったのが、DP後継機種選定に負けた理由と聞いたことがある。追加しようと思えばできるが、そうすると日ラの出した「販売価格は、標的と本体のセットで8万円以内」という基準を満たせなかった……みたいなニュアンスの話を、昨年のAPS公式での体験会においてマルゼンの方から伝え聞いた。
一方、興東電子のビームピストルは軌跡表示の機能は備えているが、価格は銃本体なら8万円だが標的とセットだと15万円と、大幅にオーバーしたものになってしまっている。価格は基準内だが機能は満たせなかったマルゼン、機能は満たしているが価格は大幅にオーバーした興東電子、どちらを選ぶかという判断を迫られた結果、日ラは後者を選んだということになるのだろう。
日本ライフル射撃協会「DP後継機種選定基準について」2013.12.24
上記PDFにもあるとおり、条件の一つに「引き金を引くことによりシアーを開放する形式であること」というものがある。旧型の(キセノンランプ式の)ビームピストルやビームライフルのように、電気スイッチをポチッと押すタイプのものはNGということだ。これは、旧式のビームを撃ったことがあって、かつ実銃のエアピストルやエアライフルも撃ったことがある人なら「そりゃそうだ、そうじゃなきゃダメだろ」とすぐに納得してもらえることと思う。同じ銃の形をしていて、同じ位置に付いているトリガーを引いても、ビームライフルやビームピストルはまるで撃った感触が違う、「全くの別物」に近いものだったからだ。
日ラの基準に応えるために、興東電子の新ビームピストルは実銃のエアピストルに使われているのとよく似た感じのメカニカルトリガーが組み込まれている。コッキングしてストライカーを後退させ、引き金を引くことでシアが外れてストライカーが前進して「カチン」と衝撃が発生、その衝撃をセンサーが感知して「今、撃発があった」ということを標的に伝え、その時点で銃口が指し示していた場所を着弾点としてPC画面上に表示し記録するというもの。上手く作れば、それこそエアピストルと全く変わらない感覚で射撃することができる、エアピストルの完璧な代替となりうるものになるはずなのだが……。
基本的な部品構成をみた範囲ではとりたてて問題などなさそうに見えた興東電子のビームピストルだが、実際には(少なくても今回手にして試してみたものについては)「どうにもツメが甘い」ものだった。やたらと長い1stステージではガリガリゴリゴリと何かに擦れる感触があり、それが終わるとグニーッっと引っ張るような2ndステージがあって、それを引き切るとようやくシアがカチンと落ちる。
1stステージのガリガリ感については、すぐに原因がわかったので簡単な方法で解消できたが(先日の記事参照)、それ以外の「1stステージの長さ」「2ndステージの違和感」については、機構的な問題で解消することができなかった……正確に書くと、トリガープルだけならいくつかのネジを回すだけでほぼ解消できる。調整機能だけでかなり高いレベルのトリガープルを実現できるのだが、電気的な問題によってそれをすると「撃てなくなる(反応しなくなる)」という問題が生じてしまうのである。
競技銃に求められるトリガーの条件はいろいろあるけれど、ここでは「2ndステージを引く時の、トリガートラベルの短さ」に注目する。いわゆる「切れの良さ」というやつだ。トリガーの引きはじめはまず軽いトリガープルで、ある程度まで引いたところでコツンと何かにあたって重くなる。軽いところが「1stステージ」、重くなってからが「2ndステージ」となる。2ndステージからは、トリガーはほとんど動かすことなくシアが切れるのが理想だ。
新ビームピストルのトリガーメカニズムでは、このページ上部にあるGIFアニメーションを見るとわかるとおり、1stステージが終わり2ndステージに差し掛かるところで、トリガーアセンブリーとシアB(水色のパーツ。仮称)が一点ではなく複数の点(面)で触れ合う形になる。そのため1stステージと2ndステージの境界が曖昧になってしまって、じわじわとシアに力が加わっていくような感触が生じてしまう。
[2020/02/24追記]製造時期が新しいビームピストルでは、「1stステージのガリガリ感」については極薄の金属製シムをトリガーベースの左右に挟むことで解決を図っていました。また、「1stステージの長さを調整できなくしている電気的な問題」についてはトリガーベースに埋め込まれた磁石の位置を厳密に調整することで解消されていました。
※図ではわかりやすくするためにコッキングした状態で調整を行っているが、本当はストローク調整はコッキングしていない状態で行うべきだと思う。
今回お借りした新ビームピストルにはソフトの説明書やインストール方法が書かれたマニュアルは付属していたが、銃そのものの説明書は付属しない。なんでも現在製作中とのことだ。そのため調整方法については、実際の製品を見て動かしながら確認したものになる。
1stステージのストロークを調節するためのネジが、トリガー後方にある。そのイモネジを締めこんでいくと、トリガーアセンブリーがシアBに当たるタイミングが早くなり、1stステージのストロークが短くなるばかりでなく、トリガーアセンブリーとシアBの接触が「面」から「点」になるため、2ndステージに入るときのアヤフヤな感触もほぼ消えてくれる。
※もちろん、単純に1stステージのストロークを短くするだけではトリガープルが軽くなりすぎて規定を下回ってしまう。ルールで定められた「500g以上」という基準にするためには、1stステージ・2ndステージの重さを(ストロークが減った分を補う形で)重くしてやる必要がある。
しかしその調整をしてしまうと、トリガーを引いてもレーザーがビームピストルから照射されず、軌跡も表示されなければ着弾点も表示されないという状態になってしまう。安全上と電池消費量の節約のため、「トリガーをある程度引く」ことでレーザーの照射が始まる仕組みになっているのだが、その「ある程度」の量がかなり大きめに取ってあるため、1stステージのストローク量を調整範囲ほぼ目一杯に長くとらないとレーザーが照射されず、撃つことができないのだ。
レーザー照射開始タイミングは、おそらくトリガーアセンブリー前方と銃本体の間に何らかのスイッチがあるものと思われるのだけれど、単純な接触スイッチのようなものは見当たらない。磁石かなにかを使ったシステムになっているのかもしれない。前述のとおりマニュアルが付属しないので(付属していたとしても書かれていたかどうかは疑問だが)、その部分の調整方法はわからない。単に「不具合」として修理に出せば、治って戻ってくるのなら話は早いのだけれど……。
[2020/02/24追記]レーザー照射開始タイミングについて。トリガーベースに仕込まれたネオジム磁石の位置によってトリガーの動き始めを検出する仕組みになっていました。磁石の位置が悪いとトリガーをかなりの距離動かさないと(1stステージを長くしないと)レーザーが照射されないという問題が生じます。製造時期が新しい製品ではかなり厳密に磁石位置を調整した上で接着剤で固定してあり、この問題は生じないような対処が施されているみたいです。
1stステージのプルとストローク、2ndステージのプルとストロークを、それぞれ完全に独立した形で別個に調整することができる点、シアに使われている材質も(実際に見た感触から想像するに)ワイヤー放電加工で作られた硬質で精度の高いものになっている点。もちろんトリガーの前後位置の調整も可能と、競技ピストルのトリガーに求められる条件はほぼ全て完璧に満たしている。
なのに、実際にトリガーを引いて撃ってみたときの感触は、「ううん?」と疑問を感じるものになってしまう。細かい部品の形状だとか配置だとか電子機構との兼ね合いだとか、あとは軸にスプリングピンを使うなどコストダウンが図られている影響だとか、いろいろ理由はあるのかもしれない。
たかが3つか4つの金属部品がリンクして動くというただそれだけの単純な機構でも、競技銃の世界では「少しでも良いフィーリング」を目指して何十年も切磋琢磨が続けられているわけで、それを「その手のものを初めて作る電子機器メーカー」が簡単に同レベルのものを製品化できると考えるほうが、考えてみれば無茶な話なのかもしれない。だが、これらはいくらでも改善ができる部分でもある。
特に、「1stステージのストロークをほぼ限界まで大きくとらないとレーザー照射のスイッチが入らない」なんてのは、単純にスイッチの選定や設定を変更するだけで済む話のはず。それだけでもかなりのレベルに改善できるのだから、「ビームピストルは、ツメの甘い粗悪品」と考えるより、「まだまだ改善の余地がある、伸びしろのある将来楽しみな製品」と前向きに考える方向で行きたいものだ。