ノーベルアームズ・SURE HIT MRS 先取りレビュー


満を持して登場するノーベルアームズの超小型ドットサイト、「SURE HIT MRS」。最高級の証である「SURE HIT」の名前は伊達じゃない。

指先でつまめるくらいの超小型のドットサイト。重さは50gそこそこしかなくて、スコープの上に亀の子で乗っけたり、ハンドガードの斜め上に装着して近距離用のサイトとして使ったり、ハンドガンのスライド上に固定したりと、いろんな使い方をされている。

超小型ドットサイトの元祖的存在といったらDOCTORサイトになるのだろうけれど、日本でホンモノを買おうと思ったら5~7万円くらいが吹っ飛んでいくDOCTORサイトは、よっぽどのお大臣さんでもなければ手が出ない高嶺の花。多くの人はレプリカ品や、形・大きさが似ている別メーカーの製品のほうが第一候補になるだろう。
 

これがDOCTORサイト。写真は三進小銃器製作所さんのWebサイトより引用……ちなみに三進さんは、「もっとも初期のドットサイト」にほぼ近い骨董品まで店内にフツーに展示してあったりする凄いお店である。

高品質・お手頃価格の光学照準器を数多くラインナップに揃えてくれていることで定評のあるノーベルアームズからも、「DOCTORサイトっぽい」超小型ドットサイトはいくつか発売されてきた。最初に出たのがTINY DOT。小型サイトにありがちなレンズの歪みがほぼ皆無という品質の高さは今でも根強いファンが多いが、外部からスイッチを使ってドットのON/OFFをしたり、明るさの調節をしたりすることができないというのがちょっとネックだった(光学センサーが付いていて、カバーを外すと自動でONとなり、あとは外部の明るさに合わせて自動調光する仕組み)。

TINY DOTが一度絶版となり、次に発売されたのがTM DOT。デジタルスイッチを装備していることや、別売りのACOGタイプの4倍スコープに付属するアダプターを使って「亀の子マウント」が手軽にできることなど利点も多かったが、レンズのクリアさがTINY DOTに比べると一歩劣っているように感じること、レンズ枠が妙に分厚くて視界が遮られがちだったことなどから、「前のほうが良かった……」というユーザーの声も聞かれ、一度はTINY DOTが復活していたこともある。
 

左:TINY DOT、右:TM DOT。両方とも価格を考えれば十分以上に優れたドットサイトなのだが、「一長一短」なところがあり、なかなか万人に薦められる理想のサイトとはいかなかった。

扱いやすく信頼性の高いデジタルスイッチ、クリアで歪みのないレンズ、視界を遮らない薄いレンズ枠。あと、できれば軽くて頑丈ならば言うことなし。これだけの条件を満たす理想の超小型ドットサイトは出てこないものなのだろうか……。

「もったいぶるな」って声が聞こえてきそうだ。そのとおり、ついに発売されるのだ。それも、ノーベルアームズが「これぞ」と自信のある高級ラインにしかつけない「SURE HIT」ブランドで。今までの「ここが、もうちょとこうだったら……」と思ってしまうちょっとした不満点が解消されているのは当然として、さらにその上を行く「こんな小さいサイトに、ここまでやるのか」と恐れ入ってしまうハイクオリティのドットサイト、それが「SURE HIT MRS」である。
 

SURE HIT MRS
本体サイズ:48×35.9×26mm
重量:60g
使用電池:CR2032
価格(予価):¥23,800(税抜)
発売時期:2016年5月~6月を予定

●その他のスペック
輝度セッティング:デジタルスイッチN1,N2,3~11 ※8時間後自動OFF
電池寿命:輝度設定#6で6千時間/#3~5(暗闇)で25万時間/N1/N2(ナイトビジョンモード)で50万時間
マウントベース:ピカティニー規格
本体材質:アルミ引抜材6061A
耐衝撃:600G・3000発対応
耐水:5~30℃/50cm/30分

小型軽量、マウント一体型のスタイル

重量は、マウント込みで60g。本体、マウントともに6061アルミ製。
電池交換は、本体側面にあるキャップを外して、横から差し込むようにして行う。電池消費量は極めて少なく、屋内でドットが明るく見えるくらいの明るさでつけっぱなしにしても数千時間は保つという(操作をしないと8時間で自動消灯する)。
2本のボルトを外すことで、マウントと本体を分割できる。電池や電子基板類は本体内に完全収納されているので、この状態でも防水性能は失われない。
マウントを外して本体のみにすると、こんなにコンパクトになる。重量はわずか38g、100円玉で8枚、500円玉なら5枚といったところだ。ブローバックガスガンのスライド上とかに取り付けても、この軽さならほとんど作動に影響しないはず。

高機能なデジタルスイッチ

本体左側面に、「▲▼」とモールドされたプッシュボタンがある。消灯している状態でこのスイッチ(上下どちらでもOK)を押すとドットが点灯し、「▲」を押すと明るく、「▼」を押すと暗くなる。「▼」を1秒押しっぱなしにすると消灯。消灯する直前の明るさを本体が記憶するので、次にボタンを押したときはその明るさで点灯する。

明るさは全部で11段階だが、一番暗い「N1、N2」は真っ暗な部屋で目を凝らしても点灯しているのが見えないくらいに暗い。光を増幅するナイトビジョンを使っている時のためのモードとのことだ。「3~5」が暗い屋内用で、明るい部屋や屋外で使えるのは「6~11」なので、日常の明るさの範囲内に限定すれば6段階ということになる。

細かい部分に高品質が見える

「水深50cmで30分の防水」が謳われており、実際に電池ケースのフタなどはパッキンなどで念入りな防水措置が施されている。一般的な基準と違うので単純には比較できないが、「ちょっとくらい水がバシャバシャかかっても大丈夫」という、いわゆる防水スマホなどと同程度の防水機能と考えればOKのようだ。

驚いたのが、ありとあらゆる部分のネジ穴にヘリサート加工がされていたことだ。アルミにスチール製のボルトを直接ねじ込むと耐久性に不安がでる、それも上下左右の調節のために何度も締めたり緩めたりを繰り返すとなるとなおさら……というわけで、ボルトとこすれ合う部分がステンレススチールになるこの加工は物凄い効果があるはずだ。

ここで、「ヘリサートって何?」という疑問を持たれた方のために、次ページで解説。ちょっと長めになるけれど、細かい技術解説めいた長文は読みたくないという方はすぐに飛ばせるようになっているのでご安心を。

ネジ部分は全てヘリサート加工済で高耐久性・高精度

※この項目は読まずに飛ばす

ネジというのは、ギザギザが付いた棒状の「おねじ」を、それにサイズが対応した穴である「めねじ」にねじ込むことで部品同士を結合させたりするもの。「おねじ」はたいていの場合は鉄またはステンレス製のものが使われる一方で、「めねじ」はその機械部品がどんな素材で作られているのかによって変わってくる。ドットサイトやスコープは基本的にほぼ全てがアルミニウム製なので、当然「めねじ」もアルミ製となる。

アルミは、鉄よりも柔らかい。だからアルミに「めねじ」を切って鉄製の「おねじ」を直接ねじ込むと、どうしても「めねじ」の方が負けてしまい、削れたりすり減ったりしてしまう。あまり強い力で締め付けることもできない(どうしても強い力で締め付けたい場合は、貫通穴を開けて反対側にナットを持ってきて両側から締め付ける形にするしかない)。
 

本来、柔らかい素材に直接ネジ留めするというのは、耐久性のことを考えるとあまりよろしくない設計方法ではある。強く締め付けたいのならば、柔らかい素材にネジを切るのではなく、ナットを使って両側から締め付ける方法を取るべき。だがこの方法だと反対側に出っ張りができてしまうので、場合によってはいろいろと不都合も出てくるし、「反対側」が奥まった場所だったり箱の内部だったりすると、組み立てや分解にも不都合が出てくる。
ここで登場するのがヘリサートだ。「めねじ」を作る素材に、まず最初に「おねじ」よりも大きめのネジを切って、そこに断面が角となったコイルスプリング状の部品を挿入する。「おねじ」をその内側にねじ込むことで、素材と「おねじ」でコイルスプリングを挟み込むような形となる。コイルスプリングは硬いステンレススチールでできているので、硬い鉄でできた「おねじ」と柔らかいアルミ素材が直接擦れあわずに済むこと、ネジを締め付ける力が全体に分散されるのでより強い結合が得られることなど、数多くの利点がある。
赤い部分が挿入されたヘリサート。アルミに直接めねじを切るより、ずっと強度も耐久性も高くなる。ちなみに「ヘリサート」というのは固有の商品名(ホチキスとかセロテープとかと同じ)なので、一般名称としては「ヘリカルコイル・インサート」みたいな呼び方が正式らしいのだが、ほとんどの場合はヘリサートで通じるので本記事でもそれで通させていただくことにする。

ヘリサートの利点として挙げられる特長としては、下記のようなものがある。

  • POINT1 強いめねじをつくる
  • POINT2 耐久性のあるねじ結合ができる
  • POINT3 簡潔なデザインができる
  • POINT4 理想的な応力分布になり、繰り返し荷重によく耐え、疲れ限度を増大させることができる

これを見ると、まさに「アルミで作られた光学照準器の、上下左右の調節ネジや、マウントへの取り付けクランプ締め付け箇所などの、頻繁にネジを締めたり緩めたりする場所」に使う上ではまさにうってつけの特長がある技術だということがわかる。

なぜ、従来のドットサイトでは、アルミに直接ネジ切りされている製品がほとんどだったのか? 単純に「コストの問題」として片付けることもできるけれども、それ以上に、「ドットサイトはあくまでおおまかな照準の目安を付けるためのもので、あまり細かい上下左右の調整を頻繁に行うものではない」という一般的な認識があったから、というのも大きいのではと思う。

つまり、逆に言えば「SURE HIT MRS」は、初めてスコープサイトと同等に、細かいゼロイン調整を行うことを前提とした意欲作である、という見方もできるのではないだろうか。

ドットの見え方

銃を構えてサイトを覗いた状態で、銃を左右に振って複数のターゲットに次々に狙いを付ける……というような使い方をしても、動かすときに風景がウネウネと動くなんてことがないのが凄い。ちなみにこれを読んでる方で、もし手持ちに小型ドットサイトがあるのなら、実際に試してみることをオススメする。よっぽど質の良い(値段が高い)ドットサイトでないかぎり、まず確実に凄いウネウネするんでビックリするんじゃないかと思う。
 

レンズは小さいが、見える像に歪みはほとんどない。

明るさ調節範囲は既に書いたとおり全部で11段階だが、一番下の2段階(N1、N2)は肉眼ではまず見えないナイトビジョンモード、その上の3段階(3~5)は真っ暗な屋内用の極めて暗いモードとなっている。実際に明るい室内や屋外で使い物になるのは6~11の6段階と考えて構わないだろう。ドットサイズは、精密射撃からゲームユースまで幅広く対応する3MOA。大きすぎず、小さすぎずといった感じだ。
 

一番明るくした状態(11)から、順番に「▼」を一回ずつ押して、同じカメラ設定で写真を続けて撮影したもの。「6」あたりから、ドットが点灯しているのかいないのか目を凝らさないとわからないくらいに暗くなるが、これは射撃場のような明るい場所じゃなく、ほぼ真っ暗な部屋の中などで使用することを前提としたモード。カメラの特性上、「ある程度以上に明るいものは、同じ明るさに見えてしまう」という現象があるため「11」と「10」はほとんど変わりが無いように見えるが実は最大の「11」はかなりの明るさだ。

ゼロイン手順

本体後部のLEDが収納されている部分の上部にあるネジで上下(エレベーション)調整、右側面にあるネジで左右(ウインデージ)調整というのは、まあわざわざ説明書を読まなくても直感的にわかると思う。ただし気をつけたいのは、背面(射手に向いている面)にある2本のネジ。これは射撃の衝撃でLEDが動いたりしないようにガッチリとロックするためのもので、上下左右調節を行う時には必ず事前に緩めておく必要がある。
 

本体後部にある2本のネジ(左写真で、赤矢印で示したもの)がロッキングスクリュウ。上下左右の調節を行う時には、まずこの2本のネジを緩める(外す必要はない)。
上下(エレベーション)の調節は、発光ユニット上部にあるネジを回して行う。ネジを締め付ける方向(時計回り)に回すとドットが下に、緩める方向(反時計回り)に回すと上に移動する。
左右(ウインデージ)の調整。締め付ける方向(時計回り)に回すとドットが左、緩める方向(反時計回り)に回すと右に移動する。上下左右の調節が終わったら、再び2本のロッキングスクリュウを締め付けてLEDを固定すれば完了だ。
調整範囲は、マニュアルによると「60MOA以上」となっている。具体的に言うと、10m先では直径175mmの円くらいが調整範囲となるという意味だ。A4の紙に大きな円をぐるりと描くと、だいたいそのくらいの大きさになる。MOAは角度の単位なので、20m先だとこの2倍、30mだと3倍の大きさになる……念のため。

かなり広い調整範囲を持つMRSだけれど、当たり前の話だが調整範囲を超えて無理に調整ネジを回そうとすると故障の原因になる。メーカーさんに聞くと「壊れた」として持ち込まれる製品のうちかなりの率が、調整範囲を超えて無理にネジやダイヤルを回そうとしたことによる故障なのだとか。

ネジがこれ以上回らないところまで回したら、それ以上は無理に回さない。せっかく買ったドットサイト、無理な使い方をして壊してしまわないように気をつけよう。

値段以上に高品質

一番最初に書いたとおり、SURE HIT MRSの現時点での予定価格は23,800円となっている。正直に書いてしまうと、なかなかお高いお値段である。

ノーベルアームズの他のドットサイトの値段をあらためて確認してみると……。人気のCOMBAT T1が17,500円、デジタルスイッチ採用の軽量オープンドットであるCOMBAT 80が6,800円(これはいくらなんでも破格すぎると思うけれども)、最高級ラインのSURE HITシリーズの「ACCURA」ですら18,500円ということを考えると、「ノーベルアームズ製にしては、けっこうするなあ」というイメージになる。見た目も、ごつくてでかくていかにも高そうなACCURAに比べるとずっと小さいし。

ただ、ここまで読んでくれた方ならわかってもらえると思うのだけれど、この値段は高いどころかむしろ逆で、「破格の安さ」と言ってしまっても言いすぎじゃないほど、MRSのクオリティは高い。想像だけれど、これを実際に作っている工場って、普段は十万円オーバーとか、もしかすると数十万円するような有名メーカーのフラッグシップモデルを作ってるようなところなんじゃないだろうか。……まあ、これについては流石に超がつくトップシークレットってことで、なんとか聞き出そうとおだてたりすかしたりカマをかけたりしても絶対に教えてくれない。製品をあちこちひっくりかえしてよく見て、細かい作りから類推するしかないのだ。

発売時期は、最初に書いたとおり来月(5月)から再来月(6月)にかけてを予定しているとのこと。この記事には掲載していないけれど、ラバー製の本体カバーや調整用のドライバー、わかりやすいマニュアルも付属する。「今買いたいものがあってもとりあえず我慢して、コレを買うためのお金をとっておく」くらいのことをしてもいいんじゃないか、ってくらいの期待の新製品だ。

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池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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