Q.APS初めたばかりです。銃を持つ手が止まらず、良い点が出ません。今週末のAPSの公式記録会で良い成績を出すためには、なにをしたら良いでしょうか?
A.無茶を言わないで下さい!
きちんとした基礎なしに自己流で身につけた技術というのは、どこかで行き詰まって伸び悩んだり、最終的に大成するにしても物凄く時間がかかったりするものです。射撃に限らずどんなスポーツでも、いやそれどころかスポーツに限らずほぼありとあらゆることにおいても同じことでしょう。
そして、「きちんと基礎から身に着けていく」という手順を踏むというのは、一見すると遠回りに見えるし、なかなか成果がでてこないものだというのも共通しています。「手っ取り早く成果を出したい」というのと、「基礎から技術を身に着ける」というのは、多くの場合とても相性が悪いというか、対立することが多いのです。
私が射撃を初めた頃は、ピストル射撃を基礎から教えてくれる人も書籍も存在しませんでしたので、否応なしに自己流であーでもないこーでもないと試行錯誤するしかありませんでした。その後インターネットが発達し、日本にいながらにして世界各国の射撃情報が写真入りでいくらでも手に入るようになり、日ラからは「オリンピック・ピストル・シューティング」なんてピストル射撃専門の教本なんてものまで発売され(今は絶版)、ずいぶんと情報が簡単に手に入るようになりました。
今になって、改めてそういった情報を見なおしてみると、自分が射撃を初めたころの試行錯誤については、「ずいぶんと遠回りをしたものだなあ……」と改めて思います。最初から教本に書いてあるように、順を追って基礎から練習していれば、無駄にせずにすんだ期間は数年分にはなるんじゃないかと思うくらいです。
そういったわけで、私は「手っ取り早く点数を出す手法」よりは、「今は成果に結びつかなくても、将来的には絶対にプラスになる練習方法」を薦めるタチなので、一般の方々の「こういう症状に悩まされているのだけれど、それを解決するにはどうしたらよいのでしょうか?」みたいな即効性を求める質問には上手い回答ができず、嫌われてしまうことも多いのです。
「銃が揺れている状態でタイミングでトリガーを引く」というのは良くない傾向です。「タイミング撃ち」なんて固有名詞で呼ばれることもあるくらいの悪癖の一つです。
けれど、銃をピッタリ止めるなんてことは無理です。どんな上級者だって、射撃解析装置を使って銃口の揺れを見れば、トリガーを引くその寸前まで銃はゆらゆらと揺れ動いています(もちろん揺れの大きさは格段に小さいものではありますが)。銃が揺れ動く中で、うまい具合に10点に収束して止まっていくその時にトリガーを引く。そのこと自体は間違いではありません。ただ、それは「銃が止まるタイミングに合わせてトリガーをうりゃっと引く」という意味ではないのです。
タイミングを合わせてトリガーを引く「タイミング撃ち」をすると、トリガーを引いた瞬間に銃が大きく動いてしまいます。当然、弾はまともに飛びません。特に(実銃に比べ)弾速が遅いAPSの場合はズレが大きくなります。
だから、まずは「トリガーを引いても銃を動かさない」技術を先に身に着ける必要があるのです。そういう「正しいトリガーの引き方」が身についていれば、照準が10点に入りそうなときにトリガーを引く「タイミング撃ち」に近い撃ち方をしてもそれほど大きく外れることはありません。そのうちに少しずつ銃を構える技術も上がってきて揺れは小さくなり、また「照準が10点に収束して止まる」感覚もわかってくるようになりますが、それはまだ先の話になります。まずはトリガーです。
「正しいトリガーの引き方」を身に着けるためには、銃をいきなり手に持って立射で撃ち始めるのではなく、銃を台の上とか枕の上などに置いて、銃を楽に止めた状態で撃つ練習が必要です。また、標的をおかずに(あるいは真っ白な標的を置いて)、サイトだけを見てそれが動かないようにトリガーを引けるように練習するのも大事です。依託射撃で確実に10点を何発でも連続して撃てるようになってはじめて、本番の競技と同じように「銃を手に持って、立って撃つ」という練習に移行するべきです。
ですが、依託射撃の練習を今からやっても今週末には間に合いません。本番では依託射撃なんか許されていないのですから。本番と違う撃ち方での練習をしても、本番での点数アップには繋がりません。「基礎から身に着ける練習は、即効性に欠ける」というのはそういう意味です。
「なら、どうすりゃいいんだよ!」って言われそうですね。結論から言ってしまえば、「一週間かそこらで劇的に上手くなる魔法の練習方法なんか存在しない」っていう、身も蓋もない話になってしまいます。たとえば今週末に本番が迫ってるのだけれどどうしようというのでしたら、「今週末は『本番』の雰囲気を感じるための予行演習と割りきって、スコアは気にしないで楽しんでください。ちゃんとした基礎からの練習は今週末に向けてではなく、もっと先の『本番』を目指して頑張りましょう」ということになるのでしょうか。